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グランツ王国の終焉  作者: アザレア
第一章 グランツ王国
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第五話 犠牲

「裏切りです!」

 部屋に入るなりそう叫んだのは、補給部隊の総指揮を執るハイレンだった。

 額に汗をにじませて、荒い呼吸を整えようと努めている。幾分落ち着きを取り戻したハイレンが語ったのはさらに、シュタールを更に追い詰めるものだった。家臣たちの中に反乱軍に加担するものが出てきたというのだ。やはり、その全ては戦争のことを知らない者たちだった。

 戦争のことを知らない国民たちから見れば、自分は兵を私欲のために使う愚かな王なのだろう。しかし、だからと言って戦争のことを国民に伝える気にはなれなかった。それに、いまさら本当は戦争が起こっていたのだと伝えたところで、醜い言い訳をしているようにしか思えないだろう。

 私が反乱軍と戦うことを選び、国の重臣たちすべてが処罰され権力を奪われる。それこそが最も避けるべき結末だ。戦争を知るもの全てが国政から遠ざけられれば、どうなるかは言わずもがなだろう。

 わずかな逡巡のうち、シュタールは言う。

「国民を集めろ」

 短い言葉に、ハイレンは目を見開く。こちらを見据える決意のこもった瞳を見て、重々しく頷いた。




 広場に集められた国民は、固唾を飲んで王が出てくるだろう場所を見据えていた。これから何が起こるのかと、誰もが不安に思っている。王への謀反を計画した矢先のことだ。兵の行った先について弁明しようとでもいうのだろうか。それとも、謀反を企んだとして、誰か見せしめとして殺されてしまうのか。

 国の重臣の中にも、国民に賛同してくれた者もいた。自分たちも、兵の行方には疑問を持っていた。王の手前、追及できなかった自分を恥じる、どうか協力させてくれと泣きながら懇願していた。その様子に、自分たちは王への疑念をより確かなものとした。まさか、自分たちに賛同したことがばれてしまい、彼が見せしめとされてしまうのだろうか。

 集まった国民の中には口汚く王を罵倒するものもいた。王の強欲のために犠牲になった父親を思い泣き叫ぶものもいた。彼らに共通していたのは、確かな王への憎悪であった。

 扉で隔てられた向こう側の声を聞きながら、シュタールは自分の間違いを悔いていた。やはり、自分は王の器ではなかったのだと。偉大なる父の背中を追いかけて、父の様に国民の幸福を一番に願い国を治めてきた。いや、きたつもりだった。結果として、自分は間違ってしまった。

 反乱という最も分かりやすい形で、国民は自分を評価した。自分たちの家族が、王の暴挙により奪われたのだと思った時、いったい何を思ったのだろうか。怒りに身を震わせたのだろう。家族を思い涙を流したのだろう。

 それが何よりも辛かった。平和なこの国に、そのような感情を溢れさせてしまったことが。

 一度きつく目をつむり、ゆっくりと開く。

 扉を押し開き、国民の前に姿をさらした。

 瞬間に、飛んでくる大量の罵倒。それら全てを受け止めながら、王は叫んだ。

「すべては私が独断で行ったことだ! 男たちを鉱山へ送り、私腹を肥やした! まさかお前たちにばれるとは思っていなかった! しかし、私ほど王にふさわしい人間はいないだろう!」

 国民の憎悪を、全て受け入れる。それをさらに助長する。自分一人を討つことで彼らが悪意を捨て去れるように。心の中で、父に謝る。あなたの様に偉大な王になれなかった。あなたの国を、自分の手で守ることが出来なくなってしまった。

「嘘をついていたことは謝ろう! だが、私を殺したとして、誰が王となる! いないだろう! 王にふさわしい人間は! だ……」

 それ以上、言葉は紡がれることはなくシュタール王は赤く染まった。銃口を王に向けていたのはやはり、タウリスが報告してきた五人のうちの一人だった。

 後は頼む、自分の守れなかった国を守ってくれと最後に小さく心の内で呟くと、そのまま眠りについた。





 シュタールは、立派な王になりたかった。誰よりも父を尊敬し、その後を継げることを何より誇りに思っていた。父は死の間際に、シュタールに泣いて謝った。お前に辛い役目を任せてしまうことになると言った。王とは、時に非道にならなければならないのだと父は言った。そんな父にシュタールは胸を張って答えたのだ。大丈夫だ、と。自分は何も失わない強い国を作って見せると言った。隣国の軍隊が、国境を超えることは絶対にないのだと、悠々と語って見せると、父はまた泣いた。お前は、頭がいい。政治をよく理解し、兵法にも秀でている。全てを一人で理解してしまうから、心配なのだと。優しいお前が、王にならなければならないなんてと、最後にシュタールの頬を撫でて、眠りについた。

 沢山の兵を死なせた。

 沢山の国民を悲しませた。

 果たして自分は、父と同じ場所に旅立てるのだろうか。


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