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グランツ王国の終焉  作者: アザレア
第一章 グランツ王国
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第四話 二つの戦い

 ある者は、あの悪夢は現実だったのだと金切り声をあげた。

 ある者は、初めて目にする化け物に気が狂った。

 ある者は、あの日を夢だと片付けた自分を恨んだ。




「やっぱり、現実だったんだ! あれは、俺たちの頭がおかしくなったんじゃなくて、本当に化け物があらわれていたんだ! 俺はおかしくない! おかしくなかった! 正常なんだ! 俺は正しい! 正しい! 俺を否定した奴らが間違っていたんだ!」

 喉を引きつらせて叫んだ男は、そのまま正しい! 正しい! と繰り返しながら、黒い影の大群に突っ込んでいく。仲間の奇行を目にした誰かがやめろと叫ぶが男には届かず、空しく消えた。

「お前たちのせいだ! お前たちのせいで、俺は気が狂ったのだと言われた! 分かるか! 五年前の恐怖を知らない新参兵たちに鼻で笑われた俺の屈辱が分かるか! いつもいつも、夜になるとお前たちの顔がちらつくんだ! 瞼の裏に焼き付てはなれない! それで眠れずにいる俺を、またあいつらは馬鹿にする! 戦争で狂った哀れな奴だと、陰でこそこそ噂しやがって!! それも、どれもこれも! 全てお前たちのせいなんだ!」

 男は、銃を乱射しながら黒い影に向かって突進した。放たれた弾丸は、黒い獣の額に、右肩に、足に、羽に、ありとあらゆる場所に吸い込まれて獣を貫く。一度の乱射で十体を超える黒い獣を消し去った。その様子を見て、男は気を良くしたのか、狂ったように高笑いを響かせる。笑いながら、次々に銃を乱射する。放たれる銃弾、消える獣。高揚感が男を包む。憂さ晴らしをするかのように、男は銃を構え続けた。

 そして、さらに黒を消し去ろうとするが、駄目だった。弾丸が、出ない。弾切れにも気づかずに男は黒い獣に狙いを定めている。焦点の定まらない目玉で、幻でも見ているのだろうか。

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあ゛ぁ゛」

 喉が潰れたような声をあげた。男の腹からぼたぼたと鮮血が滴る。目の前にぎょろりと覗いた赤く光る二つの目玉。黒い闇の上に浮かぶそれは異様なきらめきを持っていて、何故か引き付けられる。思わず、唾を飲み込む。

 次の瞬間には、視界全てが闇に包まれていた。




 おかしくなってしまった仲間の最後に、誰もが目を見開き硬直した。

「狼狽えるな! わが軍には圧倒的な兵器がある! 撃て! 撃て――――!」

 恐れるな、と誰かが叫んだ。姿形が、少し人間と違うだけだ! 攻撃が当たれば消える! そうやって五年前もこの化け物を退けたのだ! 戦え! 勝機はある!

 五年前の悪夢を知る者たちが口々に叫んだ。五年前を知らない者たちも、恐怖を押し込めて応戦を始める。鉄の塊が空を飛ぶ。黒い闇を切り裂いて、何とか青空を取り戻そうとする。

 しかし、人間相手の戦いと比べると圧倒的に消耗が激しかった。銃弾も、砲弾も、湯水のように使い続けなければたちまち国境を破られてしまいそうだった。

 今、保管してある分だけでは恐らくもって一か月。いや、それよりも短いかもしれない。ともかく、早く補給部隊を呼ばなくては。それぞれが、自分の持ち場へと走る。相手にするのは化け物だが、戦い方は人間相手と変わらない。しっかりと照準を合わせ、撃つ。自分たちの戦い方は五年前から変わらない。

 戦え! 国のために!







「反乱の中心となっているのは、五人。五人全員が何らかの形で武器の製造にかかわっています。恐らく、大量の武器を用意するのも容易いでしょう。また、国境での戦乱により軍は出払っております。残っているのはほんのわずかな近衛兵のみ。……戦力の差は火を見るよりも明らかかと」

 タウリスにより告げられた言葉に、やはりと思うと同時にどうしようもない恐怖に襲われた。国の民の為だとうたいながらもいざ死を目の前にすると人並みに恐怖するらしい。シュタールは、乾いた笑いを漏らした。

「いよいよ、終わりか」

 自らの死を予見するような物言いをたしなめるようにタウリスは言う。

「王。何をおっしゃっているのですか。反乱は止めなければなりません。……国の民を犠牲にしてでも、止めなければならないのです。第一、貴方が死んでは意味がない! この国をこの先誰が守るというのですか!」

 最後の方はまくしたてる様に、言い募る。感情が高ぶり、普段見せない表情を見せている。珍しいこともあるものだと、シュタールは思う。そして、自分も存外家臣に慕われていたものだと嬉しくもなった。

「タウリス。私は王だ。何を犠牲にしてでも国を守らなければならない。私は今できる最善の選択をしたつもりだ」

 目をつむり、眉をしかめて俯くタウリスにはシュタールの考えなど見透かされているのだろう。その続きを口にすることを拒むかのように、きつく、目をつむっていた。

 シュタールは続ける。

 彼らが憎んでいるのは、非道の王であると。

 私が死んでも、戦争のことを知る人間は残るのだと。

 私が死に、国民の怒りが収まったのなら、また今まで通り戦を隠して戦い続ければいいのだと。

「そうすれば、必ず再び訪れる。あの、平和な日々が。あの大砲が再び飾り物となる日が必ず来るんだ」

 慌ただしく扉を叩かれる。

 王は、静かな声で入室を促した。


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