第十話 確信と提案
「一体どういうことだ!」
ネーベル王国、王城中の会議室。怒りで顔を真っ赤にしたツェーレが顔を青くしてうなだれるモルトを怒鳴りつけていた。その隣でディーネは予想すらしていなかった事態に、苛立ちを隠せずにいる。
「勝てなかった? ふざけるな、我が国はあのグランツ王国に戦争を仕掛けてしまったんだぞ!」
それがどういうことなのか分かっているのかと、ツェーレはテーブルを強く叩く。その言葉に、二人は体をびくつかせるとおずおずと口を開いた。
「申し訳ありません。私も、まさかグランツの力があれ程だとは思わず……黒きものたちが撃退されてしまうなんて」
爪を噛みながら、そういったディーネの瞳の奥に揺れるのは恐怖ではない。確かな怒りをその瞳の奥に潜ませていた。
「黒きものを再び国境へ向かわせろ! もしも、グランツ王国の方から我が国に攻め込まれれば、ひとたまりもない! 何とかして国境を攻撃し続けるんだ!」
これしか方法はないのだと王は叫ぶがディーネは悔しそうに首を横に振った。
「なりません。この術は、大量の魔力を消費するのです。次から次へと生み出せるものではありませんわ。第一、先ほどグランツへ送った黒きものたちは、私が五年前から、長い時間をかけて一つずつ生み出したものですの。すぐにあれほどたくさんの黒きものたちを作ることはできません」
その言葉に、王は顔を青くする。そして、必死に思考を巡らせた。考えて、考えて、そして苦虫を噛み潰したような顔をしながら、こういった。
「こうなれば、一か八かだ。モルト」
「はっ」
「グランツ王国を取り囲む全ての国に伝えろ」
その日、グランツ王国周辺の国々にネーベル王国から書簡が届いた。停戦協定でも結ぼうというのかと、鼻で笑いながら書簡を読み始めた各国の国王は、その内容を読み、驚愕に目を見開いた。
《グランツ王国に対応しうる力を手に入れた。我がネーベル王国は先日、グランツ王国との国境においてこの兵器を用いて交戦。確かな力を実証している。再び、体制を整えて攻撃すれば、必ずグランツ王国を落とせるであろう。しかし、それが再び国を責められるほどの力をためるには五年の月日がかかる。そこで、グランツ王国を取り囲む国々に協力を願いたい。グランツ王国に勝利した暁には鉱山は均等に分配しよう。これは、犠牲になるであろう我が国の兵士が、貴国らと協力することで少しでも少なくなればと思っての提案である。この提案が受け入れられないのであれば、私はこう宣言しよう。五年後、我がネーベル王国がグランツ王国を滅ぼすことになる》
どの国でも、この提案に乗るべきかどうか議論が重ねられた。そして、結果としてすべての国が事前にそのグランツ王国の脅威となる兵器を確認することを条件に、ツェーレ王の提案を飲んだ。
ここに、前代未聞の大連合軍が結成されたのである。




