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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
衝突篇
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予期せぬ訪問者

私たちの屋敷に一人の議員がやって来たのは夜のことだった。


「すぐにこの国を離れてください! ヴェルガからの刺客です」


 激しく息づいた議員は流れる汗を拭いもせずに訴える。


「狙いはクリステル様だ! 私たちが囮になります、その間にお逃げください」


 護衛たちが何事かとロビーに集まり始める。

 私も騒ぎを聞きつけてクリステル様の部屋を後にし、ロビーへ来ていた。


「落ち着いてよ、刺客ってほんとに?」


 議員をなだめながらソニアが言う。


「ああ、あれは双子だ。私は用があってローラの家へ行く途中だった、その時に見たんだ」


 この議員、よほど混乱していたと見える。

 ヴェルガの刺客を見て、一直線にここへ来たということは後をつけられたかもしれない。

 私は暗闇に目を凝らす。嗅覚と聴覚をも仄暗い世界へ向けるが、誰もいないようだった。


「双子って」


 ソニアのまなじりが吊り上がっているのを見た。


「す、すまない。恐らくローラはもう――」

「・・・・・・そう」


 他の護衛たちも肝を冷やした様子で、戦う気力を削がれているように思えた。


「ソニア、どうした?」

「うーん・・・・・・双子はちょっとまずい」

「強いのか」

「うん。それと手に負えない、あの子たちは疑り深くて、尋問下手。目をつけられたら無実の人間でも殺されちゃうよ」

「そうか・・・・・・ならやるべきことはわかっているだろう」


 私は議員の肩に手を置き、努めて冷静に言う。


「他の議員は? あと三人いるんだろう?」


「まだ家にいると思うが」


「すぐに全員をここに呼べ」


「な!? なにを言うのだ! それは駄目だ! 双子に尾行されでもしたら――この場所が知れればクリステル様に危険が及ぶ! 我が身可愛さでクリステル様を危険な目に遭わせられない!」


「クリステル様はあなた達が犠牲になることを望まない」


「は、はあ?」


「一命をとして、などと決して望まれてはいない。共に生きることを望むだろう」


「こんな時に何を言っているんだ、犠牲なくして国を取り戻せるものか」


「こんな時だからこそ言っているんだ。あなた達の命を軽々しく扱うことは、あの方への侮辱になる・・・・・・それにそれほどの敵ならばいずれはぶつかることになるだろう。ここで決着をつけておいた方がいい」


「し、しかし――」


「安心しろ、私が始末をつける――アヒム」


 私は護衛隊長を呼ぶ。


「おう、なんだ」


「この屋敷には地下通路があったな」


「そんな設備のいいもんじゃない、ただの洞窟だ」


「小型艇の準備は?」


「ああ、昨日に調達済み。燃料も申し分ない」


「運が良かった、一日遅れていたら大変だったな」


 この屋敷を借りたのはそれが理由だった。大きな屋敷の下には秘密の地下道があり、そこを行けば、切り立つ崖下の洞窟へ行くことができる。洞窟はどの港からも数キロは離れているため、発見されにくく、追跡も躱しやすい。


 そして、そこまで行ければモーター付の小型艇がある。


「至急全議員を招集し、クリステル様と共に地下の洞窟から逃げる。刺客の襲撃があった場合はやむをえない、ここで斬る――どうだ?」


 ソニアとアヒム隊長が頷いた。


「あの双子なら放っておいても議員さんたちを殺して、あと数分でここを嗅ぎ付けるよ。逃げるにしても港は見張られてると思うし・・・・・・アヤメちゃんの言う通りだ、私は賛成」


「そうだな、考えている時間も惜しいぞ」


「ならすぐに動こう、あまり時間がない。必要最低限のものだけ持ってここを発つ」


 議員は頭を下げ、私たちに言った。


「本音を言う――頼む、家族がいるんだ・・・・・・助けてほしい」


「安心しろ」


「まかせて」


 私とソニアが言うと、議員はもう一度頭を下げて家族と他の議員達を呼ぶために走り出した。アヒムの指示で護衛たちも議員全員をこの屋敷へ呼ぶべく迅速に動いた。


「クリステル様でも同じことを言ったと思うな」


 幾人もの男たちが屋敷を離れていくのを見ながらソニアは言う。


「ああ――さて、忙しくなるな。議員達がこの屋敷に集まれば刺客も間違いなくここへ来る」


「世知辛いねー」


「いつの世もな」


 冷えた空気は澄んでいて、空は黒い雲で覆われていた。無機質な夜の空気に真黒な天。


 寂しい夜だ。


 そして危険な夜でもある。


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