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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
ソニア篇
36/170

夢 2

こちらは表現を規制させていただいております。


【ノクターンノベルズ】の「皇女の猫【解放版】」に完全な形で掲載しておりますので、そちらをご覧ください。


ソニアの過去編になります。

前回に引き続き、文の書き方を変えております。次回からは普通に戻ります。

 レガール大陸の大国ヴェルガ。東と北の国境沿いにある農村で私は生まれた。

 決して裕福な家庭ではなかったから、パパもママも私といるより麦畑でお仕事をしている時間が多かった。

 

 一歳の頃だったかな、記憶はあいまい。まだお手伝いができない私は畑の脇でゆりかごに入れてもらって、そこからパパとママのお仕事をじーっと見たり、飽きたらスヤスヤ眠ったりしてた。

 

 ふと、足元に何かごつごつした感触。何かと思って見ると、指輪ほどの大きさの金属製の輪が二つ。二つの輪は繋ぎ合わさっている。

最近、パパはこれにご執心。私と遊ぶより、この輪をどうやって外すかに夢中。きっとお昼ごはんの後で遊ぶために、私のゆりかごに入れておいたんだ。


 この二つの輪を外しちゃえば、私と遊んでくれる。そう思って手に取った。

キン、と鳴って輪はすぐに外れた。なんだ、とっても簡単。

 

 戻って来たパパとママに外した輪を見せたら目を丸くしてた。その日の夜、家に帰った後でパパが同じような輪を五つも持ってきた。キン、キン、キン、とリズムよく輪を外す度にパパとママは目をぱちくり、口はあんぐり。輪を外すより、それを見るのが面白い。

 

 天才だ! だって。そんな大げさな。

 

 でもパパとママに抱かれた私はご満悦で、きゃっきゃとはしゃいだ。

 

 どんなものでも一度目にすれば構造が頭に流れ込んでくる。川が流れるのも、お日様の光で麦が育つのも全部、構造があるんだ。私にはそれがわかる。自然が創り出すものに比べれば、人が作り出すものの構造なんて簡単に読み解ける。


 七歳。学校に行く年になった。楽しいことがあると思ってたけど、どの問題もすらすら解けるからあんまり面白くなかったなー。


 担任の先生は神職に就いた後、学者さんになったっていう変わり者だった。その先生がやたらに私を絶賛。


「信じられない。ソニア、今君が解いたのは連続体力学の流体力学である一部、空気力学に関する方程式だ・・・・・・どこでそんな」


「先生が今読んだ本に書いてある通りだよ、真似しただけ」

「理解したのか? 君はその年で飛行機でも作ろうと言うのかい?」

「うーん、飛行機よりお菓子の方が作りたい」

「まさか、君は――エルダールの血を継ぐものでは」

「えるだーるってなに?」

「月と太陽が生まれる前に地上で光となっていた存在・・・・・・エルフだよ」


 エルフだって。美と創作の神、世界の恩恵を受け、あらゆる生命の中で優れた資質を持つ種族。何千年も前に生きていた人たちで、その存在は伝説から神話になっている。今は飛行機が空を飛び、船が海を渡る時代。そんな時に神話を持ち出すなんて変な先生。


 先生は何度も家に来て私の進学を勧めた。私の才能はこの村で埋もれるべきじゃない、なんてね。パパとママは困り顔。だって家には私が進学するためのお金がないから。


「ソニアにはエルフの資質が見受けられる。今や伝説の存在で、目に見えない記憶の存在だが、不死である彼らの魂が人と結びつくことがある。もしかしたらソニアは――とにかく小学校だけで終わるにはあまりにも」


 先生が話すとパパとママもどんどん眉が下がっていっちゃう。


「ねえ先生」


 だから言ったんだ。


「私は勉強とかより麦を育てる方が好きなの。だからもういいの」


 学者さんになるより、家の手伝いをする方が大事。

 本心だった。ここにいるのがいいんだって。


 私は一人だった。


 ある時、こんなことがあった。学校のベンチでうたた寝してたら、急にバケツの水をかけられたことがある。びっくりして起きたら目の前には秀才のお嬢様。


『いい気なもんね、私みたいに必死に勉強するのは時間の無駄ってわけ?』


 この過激な秀才ちゃんは頭がすごくいい。私の次にだけど。

 私がテストでいい点とって、先生に褒められると秀才ちゃんは凄く怒ってしまうのでした。だからって、真冬に水かけるのは勘弁してほしかったよ。


 友達と遊ぶとき、頭を使うゲームに混ぜてもらえない。ソニアちゃんには誰も勝てないから、だって。だから私はチェスの遊び方を知らない。覚えようとも思わない。


 十歳の時だったかな、国境警備の騎士が冗談半分で私に剣を教えてくれたことがあった。好きに打ち込んでいい、と言われたから手に取った木剣で騎士に挑み、打ち負かした。小娘に負けたって、騎士さんのプライドはボロボロ。それから友達は誰も私を遊びに誘ってくれなくなった。


 だから私は一人。

私が一人なのは、私にも責任がある。

これでパパやママとまで離れるのは嫌だったから、家業を継ぐって決めたんだ。


「本当に君はそれでいいのか?」


 先生は残念そうに言うけど、私は今の生活が好きなんだけどな。


「なら西の森、ファルゴンの森へ行ってみないか。あそこにはエルフが鍛えたとされる聖剣がある。この数世紀、誰一人としてその剣を手にできずにいるが君なら」


 伝説の剣の話は私も知ってる。この村からすぐ近くにある森の話。でも、そんなものに興味ないよ。


「やだ、行かない。私はここで大好きな麦を育てられればそれでいいもん」


 そう、それでいいんだ。

 そう思ってた――



 その日の夜、国境を超えた隣国の盗賊たちが村を襲った。

 国境沿いではこういった争いがよく起こる。銃や剣で武装した盗賊たちは国境警備の騎士様達を殺し、村まで押し寄せてきて家々に火を放った。


 私たち家族は命からがら逃げだして森の中に身を隠した。森は逃げてきた村の人たちで溢れてた。自分たちの家が燃えているのを、黙って見ているしかなかった。


 逃げ切れなかった人たちの悲鳴が火の中から聞こえてくる。けど、誰も助けにいけない。


 この森から出れば即座に略奪者たちの刃の餌食になっちゃうから。農耕で暮らしを立てている人たちだ。戦いとは無縁の生活を送ってきた。これまで築き上げてきたものが全く無に帰したことを知って、無念さに歯噛みをするしかない。ここでことの顛末を見届けるしかなかったんだ。


 子供たちの泣く声、大人たちの嘆く声が暗闇を満たしていた。皆の悲しい声が鋭い痛みになって、私の胸を突き刺した。


その中で――


 おいで


 声が聞こえた。


 おいで、おいで、こっちへおいで


 確かに聞こえた。私は発作的に立ち上がって、声のする方へ歩いた。


 西の森、ファルゴン。光のエルフが闇のウルクを討ち取った森。

 何万年も前、ここでウルクの王がエルフの鍛えた剣に突き刺された。剣はウルクの体を貫いて尚勢い衰えず、そのまま大木に突き刺さった。ウルクの王は断末魔と共に絶命し、泡のように消え去った。闇を貫いた剣は今も大木に刺さったまま。何人もこの剣に触れること叶わず、選ばれしものでなければ試行さえも拒む。聖剣は未だ森の奥で静かな気を纏って眠りについている。


 それがこの村の伝説。


 おいで、おいで


 草木をかき分けて進んだ先に一本の大木。そこに一本のロングソードが刺さっている。


 ふわりとした風が吹いて、森の葉が揺れる音がした。黒い雲が流れ、白い光が空から差し込んで剣を照らしている。剣は月光を浴びて刃を煌かせている。


 さあ、おいで


 わお。熟練の騎士はその力量から剣に憑かれるとか言うけど、私は違う意味で憑かれちゃったみたい。剣の声が聞こえるなんておかしいもの。


 この剣は村で力自慢の男たちが必死に力んでも、剣先が僅かに差し込まれただけのロングソードを大木から引き抜けなかったらしいけど、私なら抜けるっていうの?


 見れば見るほど綺麗な剣。エルフの造形は全て比類なき美しさって聞いてたけど、刃の輝きに吸い込まれそう。畏怖、崇敬、そして賛美。そんな感情が混じって、胸の内をたゆたう。


 唇を噛む。


「私と戦ってくれる?」


 右手をかざしたその刹那、剣はカッと光って跳ね起き、木から飛び出した。飛来するロングソードの柄が的確に手に収まった。


 エルフの技術で作られた鋭利な刃、そこに悪の滅びを願う文字が刻み込まれている。赤と銀の鋼の刀身、柄は滑らかな木であしらわれている。刃は時の影響を受けてなくて、錆一つなかった。なんて美しい剣、それに羽みたいに軽い。


 その瞬間、色んなものが体に流れ込んできた。


 土、水、風、空、星。誰かの記憶が私のものと結びつく。私はどんなものでも触れれば構造が分かる、それはこの剣でも同じみたい。


「あはは、変なの。初めましてなのに――あなたの使い方がわかる」


 じっと剣を見つめていたら、刃に女の人が映っていた。私かと思ったら、ちょっと違う。満足げに微笑んでいるのは誰だろう?


 ファルクスの剣。剣がそう名乗った。

 

 私は剣を手に、村へ走った。

 気づいた大人たちが後ろから叫ぶ。


 危ない! やめろ! 戻りなさい!

 

 うんうん、私も危ないと思うよ。でも、誰かが傷つくのは嫌だから。私にやれることがあるなら、やってみようと思うから。

 

 三人の盗賊が気づいて、剣を持ってこっちに走ってくる。よかった、銃で撃たれたらどうしようかと思ってたから。ああ、パパにママ、泣かないで。銃で撃たれるよりマシなんだ。背後で見ていた村人たちの絶叫が聞こえる。んー、私も無理だとは思うけど、やれるところまでやってみる。

 

 三人の剣が迫る。胸元への突き、頭上からの振り下ろし、右から左への横なぎ。私は剣をパッと上へ振り上げて、三人の間を駆け抜けた。足を止めて振り返ったら、三人はふらふらと左右に数回揺れて、仲よくどうと横倒れになった。

 

 これを見ていた二人の盗賊が剣を振りかざしてこっちへ来る。銃の使い方知らないのかな? それとも仲間を子供にやられて火がついちゃった? でも、これはチャンス。間合いに入ってもう一度、剣を振り上げた。軽く跳ね上げただけで盗賊たちの剣は跳ね飛ばされ、胸を突き飛ばされた。

 

 できる! 私はこの村を救える! そう思ったら鬱積した若き血潮が沸き上がった、って感じでね。北へ南へ、走って走って今度は東から西への大立ち回り。

 

 援軍の騎士様達も駆けつけてくれて、なんとか村は全壊せず、略奪もそこそこで済んだ。

 こうして村を救った少女は皆に愛されて、大好きな麦を作りながらパパママと平和に暮らしました。

 

 ――とはならず。


「此度の活躍、驚愕を禁じ得ない。皇国の騎士になるべき者とお見受けした」


 偉い騎士のおじさんが私を見て言った。


 困ったな、そんなつもりなかったんだけど。私はのんびりまったり、皆と暮らしていければそれでいいんだけどね。


 でも私、聖剣抜いちゃったし。騎士になる資格があるとかなんとか。うーん、よくわかんないけど、この剣のおかげで村を救えたし。

 それに、誰かがヴェルガを守らないと今日みたいなことが起こるって思ったから。だから止めるパパとママにごめんなさいして騎士になってしまいました。


 みんな笑顔で暮らせる国。ヴェルガにはそういう国になってほしい、私はそういう国で暮らしたい。この力はそのために使おうって思ったんだ。


 強くなろうって決めた。そのために修行も一生懸命やったよ。

 それでみんなに嫌われるなんて思ってもみなかった。私って何にも学んでないなあ、なんて思う。

 

 クリステル様は「ソニアは夢中になるあまり周りが見えていない時があります」って注意してくれたけどその通り。あの方は人をよく見てる。皆のプライドをズダズタに引き裂いて、私一人が抜きんでて強くなるって良くないことだよね。

 

 私って自分のことしか考えてなかったし、そんな人間は嫌われて当然だから。

 

 それでもさ、私はちゃんと護れたよ。

 

 ピアちゃん。

 

 私から離れない、たった一人の女の子。

 

 皆の笑顔のために戦おうと思ったけど、今はピアちゃんの笑顔のために戦いたいな。心境の変化ってやつ? 夢って変わるんだね。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私は薄暗い寝室で、ピアちゃんの頭を撫でながら昔を思い出している。

 妙に目が冴えて眠れなかったから、ピアちゃんの寝顔を見てにまにましてる。まだ夜明けまで時間はあるから、たっぷり堪能できそう。


 この子には笑っていてほしいから、ディートハルトが私にしたことを知られるわけにはいかない。知ったらきっと凄く悲しんじゃう。


 絶対大切にするから、いつまでも私の傍にいてね。ぎゅっと抱きしめちゃえ。あはは、あったかい。


おまけ


ルリ「お前がママになるんだよ!」


クリステル「め」


ルリ「!?」


クリステル「お母さんにそんな口の聞き方はいけませんよ」なでなで


ルリ「ママー!」


ルリ編読み返してみて思いました。要約するとこんな感じですね。

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