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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
ソニア篇
33/170

"もののけ"のアヤメ

こちらは表現を規制させていただいております。


【ノクターンノベルズ】の「皇女の猫【解放版】」に完全な形で掲載しておりますので、そちらをご覧ください。

再びクリステル様と共に部屋に戻った私は自分の感情に絶望して膝を折った。


「わ、私はなんということを」

「アヤメさん大丈夫!?」


 がっくりとうなだれた私の背をクリステル様が撫でてくれた。


「クリステル様の護衛に対し、あのようなふてぶてしい態度をとってしまうなんて」

「ちょっとびっくりしちゃったんだよ、それでだよ。私も抱き着かれた時は驚いてしまったし」

「いえ、いくら驚いたとはいえ礼に反すること」

「そこまで気に病まなくても平気よ、ソニアには私からも言っておくから」


 いつになく激しい口調で自分を責める私をクリステル様はなだめてくれた。

ああ、愛しい人が私のために狼狽している。

 慰めてくれているが、かえってその姿が傷になる。


「私がいけないんだわ、前にソニアに頼んだから」

「頼んだとは?」

「え、えっとね。ソニアは私より年上だから、色々とためになるお話も聞きたくて友人のように接してと頼んだの。ヴェルガでは友人同士で抱きしめ合うのは挨拶みたいなものでね」

「挨拶ですか」


 たとえ挨拶といえど、誰かの手にクリステル様を触れさせたくない。

 だがこれは文化の違いだ。誰にも罪はない。

 罪があるとすれば、腹を立てている私だ。この嫉妬を、恐れ、恥じ、そして頭を抱えた。


「そうだ、ただの挨拶なのに――自らを戒めようとした矢先にこれでは、今後どのような」

「アヤメさんはもう少し自分に優しくしてもいいと思うのだけど」


 ぽつぽつと漏らす私の手を取って彼女は言う。


「あなたが私を大切に思ってくれていること、人に思いやりがあることは知っているわ。だからもう反省するのはやめにしよう?」

「ク、クリステル様」


 彼女は優しい目をしばたたいて、頬を染めた。


「こんなこと思うの不謹慎かもしれないけど。さっきもね、やきもちやいてくれているアヤメさんが可愛くて。それに嬉しかったの」


 ちゅっ、と頬に唇が触れた。


「ありがとう、大事に思ってくれてるんだね」


 全身の筋肉が痺れ、骨が溶けてしまうような感覚に襲われる。自分でも気づかないうちに太腿をすり合わせていた。胸が、下腹が切なくて苦しい。

 私を見つめるクリステル様の瞳に魅力的な光が煌いていて、それに惹かれるように唇を合わせようとした、が。


 接吻の前に訪れる一瞬の沈黙を裂くようにして、通信機のベルが鳴った。

 クリステル様は、はっとしてベッドの横に置いてある通信機に目を向ける。室内では思いのほかベルの音が響く。彼女が反応したのも仕方のないこと。しかし私の視界は動かず、未だクリステル様だけを見ていた。


「アウレリアかな、夕方に連絡をくれるって言っていたから」

 

 クリステル様は申し訳なさそうにこちらを見る。


「どうぞ、出てください」

「すぐ戻るからね」


 クリステル様は立ち上がり、通信機まで駆けていく。


「あっ」


 縋るような声が漏れてしまう。

 両手の温もりが消えた。眩暈を覚えるほどの香りも遠のいていく。クリステル様が行ってしまう。


 名残惜しい、もっと傍にいてもらいたかったのに。先刻、紅茶を楽しんでいた時も口づけをする所だったのに、ソニアが来たためにできなかった。


「はい、もしもし」

『お姉さま、私です』

「アウレリア」

『ソニアは合流しまして?』

「うん、さっきねピアと一緒に――」


 クリステル様は私に背を向ける形でベッドに腰を下ろし、通信機を取る。


 どうして?


 私を見てほしい。二人きりで同じ部屋にいるのに、背を向けてほしくない。

 硬い肉を噛むような歯がゆさ。彼女に対する執念はそのように思われた。

 

 思慮や反省などは業火の前に溶け行く雪の如く消え去り、強烈な願望のみが高まっていく。

 喉はからからに渇き、体はわなわなと震える。私は一歩、また一歩とクリステル様に近づいていく。


『会合はいかがでしたの?』

「うまくいったよ、そろそろ私たちもヴェルガに戻――ひぁっ!」


 背後から彼女の細い腰に手を回し、小さな耳たぶにかじりつく。驚いた彼女はしばし身を硬くした。


『お姉さま? どうかなさいまして?』

「う、ううん。なんでもない」


 うなじにおでこをこすりつけ、甘い香りを吸い込む。香しい少女の体は私を昂らせていく。もう一度耳を甘噛みすると、びくりと震えた。なんて可愛らしい反応だろう。白い耳を唇で弄び、次いで首筋に舌を這わせる。


 困らせるつもりはないのだ。ただ、今だけは私と一緒に。私だけのものになってほしい。


「ひゃんっ!?」

『どうしたんですの、様子がおかしいですわ』

「ごめんね、アウレリ、ア、少し待って」


 ちょっとアヤメさん、小声でそう言ったクリステル様の頬は白暁の空のように淡い桃色に染まっていた。

 華のように清らかな体、心ゆくばかり楽しみたい。振り向いた彼女の頬を抑え、唇を重ね合わせる。



・・・・・・・・・・


※アヤメとクリステルがイチャイチャします。


 【ノクターンノベルズ】の「皇女の猫【解放版】」に完全な形で掲載しておりますので、そちらをご覧ください。


・・・・・・・・・・


「アヤメさんの甘える姿、猫さんみたいだった」

「・・・・・・猫」

 

 クリステル様がなんとなく呟いたその言葉に私は思い出した。

 そういえばかつてルリが言っていた。


『モノノケの力を解放するとね、力が暴走する時があるんだ』


 ため息をついたルリは私にもたれかかって、疲れ切った口調で続けた。


『宿るモノノケによって違いはあるけど、あたしは近くにある植物を元気にさせちゃうんだよね。だから兵舎の周りの雑草は伸び放題、今は秋なのに桜の木は花を咲かせちゃうし』


『解放か、私はその力を持っていないが。一度力を爆発させると、抑え込むのが難しいということだろうか』


『さあねえ、詳しい原因はわからないらしいよ。体の中に眠っているモノノケが外に出ようとしているんだって説もあるみたいだけど』


『私たちは体に化け物を飼っているようなものだからな、妥当な考えだが恐ろしいな』


『もしアヤメちゃんが解放したらさ、反動で発情期の猫みたいになったりして』


『そのような節操のないことになるものか』


『どうかなぁ~、猫の欲求ってすっごく高いって言うよね。ふふっ、普段は冷静なアヤメちゃんが欲情してるところなんて興味あるなぁ』


『そんなことにはならないと言っているだろう。魂の色を汚すような真似はしない』



 私はがばっと起き上がる。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんという、ことだ。



 あの直情的な感情は、まるで炎だった。沸き上がるさまは、風を受けて紅蓮の火を噴き返した炭火の如く。抗えずに呑まれ、全細胞を焼き尽くされた。人の感情で最も下劣な・・・・・・色欲という炎に!


「わかった、クリステル様に触れた者に対して沸き起こっていた妬み。この源はそういうことか。ここ最近、妙に体が疼くと思ってはいたが。ふ、ふふふふふ」

「え、アヤメさん?」

「よ、よりにもよって心に決めた人の前でこのような。おのれ化け猫め、貴様の仕業だったか」


 誇り高い桜花のサムライでありながら、主を守護すると誓った護衛でありながら、盛りのついた猫にまで堕ちるとは。あろうことかクリステル様に襲い掛かるなど万死に値する。


「息が荒いけど平気? 目も定かじゃないような」

「かくなる上は腹を切る、切腹だ」

「ななっ!? 何を言ってるの!?」

「大丈夫です、ただのハラキリですから」

「なんで言い直したの!? 意味同じでしょ!? ぜんぜん大丈夫じゃないよ!」


 愛刀のもとへ向かおうと立ち上がると、真っ青になったクリステル様が腰に縋りついてきた。


「離してください、生き恥を抱えて鼓動を続けようなどとは思いません。クリステル様に襲い掛かり、体を穢してしまった」

「穢れてない! 穢れてないよ! これまで何度も触れ合ったでしょ!」

「色情魔などと死神よりもたちが悪い、化け猫めが地獄へ道連れにしてやる」

「待って、お願いだから」


 クリステル様が尻尾をきゅっと掴んだ。


「んにゃあっ!」


「きゃあっ!」


 意味不明な奇声が口から飛び出し、私もクリステル様も仰天してひっくり返る。


「い、いい、今の声は私が!?」

「ね、猫さんみたいだったね」

「ありえない、まるで生娘のような声をっ・・・・・・っく、おのれ」

「そんなに責めなくても、可愛かったよ?」

「かわっ、可愛い」


 愛しい人に可愛いと言われて、少しほっこりする。


「などと思っている場合ではない、まずはこの尾を切り落とす!」

「駄目だってば!」


 クリステル様は私を離すまいと尻尾を握る力を込める。


「にゃっ、ふにゃっ!? クリステル様、おやめください!」

「駄目! アヤメさんが自分を傷つけないって約束するまで離さないから!」

「んんんん、くぅううう」


 尻尾を握られると力が入らない。非力な彼女の腕一本で動きを封じられてしまった。再び胸が切なくなって花弁が疼き始めた。


 私はコロコロと喉を鳴らして丸くなる。


「お、お願いです、またクリステル様を襲ってしまう」

「そんな真剣な眼差しで言わないで」


 クリステル様はぽっと頬を染める。


「あのね、私はアヤメさんになら少しくらい乱暴にされても」


 ムラッ、と何かが沸き起こり、私は完全に思考能力を無くして彼女に飛びついた。


「きゃっ」

「あぁ、また・・・・・・あんなに愛しいことを言うから」

「ふふっ、困った猫さんだね」


 彼女はかぷっと私の鎖骨を噛む。甘い痛みが電流の如く全身に行きわたった。

 私は彼女の首筋に顔を埋め、尻尾はピタリと彼女の足に合わせたまま目を閉じる。落ち着く、いっそのこと体が一つになってしまえばいいのになどと思う。


 こうして私たちは再び肌を重ね合った。


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