アヤメとクリステル
ぐっちゃぐちゃになっている原文を修正しながら投稿しております。
おかしな文章、わけのわからない単語などあれば気づき次第訂正していきます。
山までは馬で移動した。姫と同じ馬車に乗ることは許されないので、馬に乗って並走する。
入山前から疲労が溜まってしまった。あの後も持っていく荷物のことで口論になった。
入山には必要最低限のものだけと口添えをしてくれた師がいなければ、争いは終焉を迎えなかったに違いない。
「女は身を着飾ることに猛進する、ある種のモノノケだ。山にいる奴らより性質が悪い」
誰にも聞かれないように毒づいた。
やがて聖域とされる山に辿り着いた。光はなく静寂と霧のみで作られた世界は、地で蠢く邪悪な者達の隠れ蓑にもなっている。馬が一度だけ嘶くと、来た道を全力で戻って行った。
目前の光景が理解を超えていたため、人への忠義を放棄したのである。これで馬を連れて入山することはできなくなった。
屈強と言われたヴェルガの護衛達もクリステル様と共に震えあがっていた。桜花を侵略するという他国の信念を挫くには、この霊山は効果的なのではないかと思った。
「姫様」
私は怯えているクリステル様を真直ぐに見据えた。
「参りましょう。これより先は私がお護りいたします」
凛然とした声が効いたようで、それから先は私が何を言おうとヴェルガの護衛達は口出しをしなくなった。
「あなた達はこの荷物を持ち帰ってほしい。山に入るのに装飾の類は不要だ。いいですね? 電子機器はこの山で役に立たないが、通信機だけは持っていく。ここにいる間は使えないが、下山の際はこれで連絡を取る」
頷くと護衛達は足早にその場から去っていく。ここからが正念場である、と私は静かな闘志を燃やした。シュタインのこともあったが、今は無理矢理と言った具合に忘れることにした。これは大切な任務なのだ。
身分低く、才のない小娘を拾ってくれた軍には感謝している。恩に報いるべく任を全うしてきたが、思うような結果は残せず、挙句の果てには忌み嫌われてどの隊にも属せない身の上となってしまった。
恥辱を背負って生き長らえるより、名誉ある死を遂げたかったがそれも敵わず、新たな任が下るのをただ待つだけの薄っぺらな日々。
忠臣でありたい。私の働きで少しでも多くの人が救われるなら、運命に翻弄されることもなくなる。
彼らの笑顔で、抱えていた疑問は跡形もなく霧散する。そんな日が来ることが夢だった。機会を与えてほしいと願って止まない時に、師は私を指名し、今回の任務をまかせてくれた。
絶対に失敗はできない。私を信じてくれた師のため、病に苦しむ姫のため、そして私自身のために。
軍に属す兵士らしからぬ逃げ腰な馬には感謝している。生命の危機を覚えたとはいえ、他国の要人の前で背中を晒して逃走するなど身内の恥に他ならないが、荷物を減らせたのは大いに助かった。とは言っても、二人分の荷物が重いことには変わりなかった。
「あの、重くない?」
歩き始めてからしばらくすると、半歩後ろを歩く姫が申し訳なさそうに言った。
「お気になさらず、慣れております」
柔らかい笑顔を心掛けながら言う。
「でも――」
姫は一声漏らすと、寂しそうに俯いた。それから私達の会話はなかった。
天候は飛び切りの笑顔を振りまくようになった。霧は晴れ、雲の切れ間から射す陽柱も増していく。草花がそよ風に揺れ、旅人を後押しするような声援を送ってくれる。
思ったよりも足の速い姫に安心する。しかし宮廷育ちの人間が、天候の移り変わりの激しい山に、一週間以上いることは体力的にも厳しいだろう。本日中に超えておきたい谷はまだ先にある。
山を一つ越えた所で、シェルターを作る準備に取り掛かる。
「まだ陽は沈んでいないのに」
「それでいいのです。日が沈む前に準備をしなければ間に合いませんので」
「ねえ、私にできることはない?」
黙々と寝床を作る準備をしていると、手伝わせてほしいと言われた。ただ見ているだけでは忍びない、というわけではないだろう。皇室で育ったのだから、誰かの手を借りる日々だったはず。これは好奇心だと思った。
「ならば、かまどを作るための石を集めていただけませんか? 両手で持つほどの大きさが好ましいです。集めたら積み上げて下さい」
比較的、容易な課題を与えることにする。嬉しそうに頷くと、クリステル様はすぐに作業に取り掛かった。通算八回。積み上げた石が崩壊した回数である。
「ごめんなさい。うまくできなくて」
「お気になさらず。石を集めていただいただけで、随分と助かりました」
しょんぼりと項垂れる姫の髪に、赤い夕陽が溶け込んでいた。
「姫様」
「はい?」
「私も最初はうまくいきませんでした。こんな簡単なこともできないのかとよく叱られたものです」
僅かばかりでも笑顔が戻ったようだ。上流階級の人々が持つ作り笑いではないことがわかる。屈託のない笑顔を向けてくれたことが少しだけ嬉しく思った。
「駄目だな私。少しでもお手伝いしようと思ったのに。逆に気を使わせちゃって」
「・・・・・・」
「アヤメさん?」
「いえ、なんでもありません」
好奇心ではなく、相手を気遣っての申し出であったことに驚いて茫然としてしまった。軍部の一兵士が、皇室の人間にこのような言葉をかけられることは桜花ではありえない。
威厳を振りかざし、如何なる時も堂々と佇むのが上の人間のすることだと理解している。この人は私の知る上流階級の人間とは少し違うのかもしれない、と火に木をくべながら思った。
夜になると山はガラリと姿を変える。夜行性の動物たちが動き回り、あんなに鳴いていた鳥達は息を潜めている。静寂と冷たい月の光で構成されている夜の山は、人の心を不安で満たす。
「眠れませんか?」
愛刀を肩に、見張りをして数時間。姫の体調に目を光らせていた私は、瞬く炎が姫の白い首筋を漆黒の中で浮き立たせているのをしばし見ていた。そうしていると、横になりながらずっとたき火を見つめたままでいる彼女に不安を覚えた。
最初の内は微かに怯えたような目をしていたが、今は山に蠢くどの闇よりも禍々しい色を瞳に宿している気がしてならなかった。体調が優れないのかもしれない。
必要ならば鞄に入っている薬を摂取させなければと、手元に鞄を引き寄せた時だった。
「この山は恐い。ずっと誰かに見られている気がするの」
かすれた息と共に彼女は言った。
私は傍に移動し、手を握りしめた。体に触れることは禁ずる、という命令だがそれは必要以上の、という意味合いであるということにしておく。
「眠れるまでこうしています。気に病むようなことは起こりません、どうかご安心を」
子供の頃に住んでいた家は、夜になると四方から軋む音が聞こえた。障子を挟んだ廊下で私よりも大きい獣が体を引きずりながら歩いている姿を想像し、余計に自分を怖がらせて眠れなくなった。そんな時は母が眠るまで手を握ってくれた。
誰かが傍にいてくれるとわかるだけで心は落ち着きを取り戻し、穏やかな眠りにつくことができた。
姫の手を握るのは気遣いへの細やかな恩返しと、母が教えてくれた温もりを忘れまいとするためだ。クリステル様は困惑していたようだが、すぐに手を握り返してきた。
「アヤメさんも誰かにこうしてもらったことがあるの?」
「幼少の頃、母に」
「お母様は今、何をしているの?」
「亡くなりました」
母を亡くした後、私を拾ってくれたのは軍部だった。私は人を護るために剣の腕を磨き、生活を送ることができている。
「ごめんなさい」
「お気になさらず」
「私のお母様も天に召されました。ずっと昔に」
たき火が弾け、闇に火の粉が舞った。
「あなたも辛かったでしょうね」
クリステル様は手を放すことなく、そのまま眠りについた。
山に入って二日目。この場所を見つけられたのは幸運と言えるだろう。数キロ先に四足獣の気配を感じた私は、道を外れ迂回することにした。
その先に泉があったのは嬉しい誤算だった。泉の水面のように、姫の目がキラキラと輝いている。
「よろしければ水浴びをされては? この先は私の知る限り体を清める場所はありません」
水浴びは体の汚れを落とすためだけではなく、気力の維持にも効果的だと訓練の際に何度も聞かされた。体力があった所で、精神の平衡を保てなければ生存率は低くなるのだそうだ。
しばらくするとクリステル様が白いタオルを胸元に押し付けて岩陰から現れた。屋敷で初めて見た時からその美貌に目を奪われたものだが、真っ白い肢体を改めて見ると息を呑んでしまった。
幼い頃から病に伏せていると聞いていたので、白糸のような姿を想像していた。しかし、彼女の体は澄み切った潤いを有し、妖艶な輝きに満ちていた。
見る者全ての魂を根こそぎ奪っていくような美貌に、魔のものであると解釈されても仕方がないとさえ思える。
類稀な美貌を有し、皇女である彼女と、一兵士である自分との距離は遠すぎる。あまりにもかけ離れた存在と旅をし、言葉を交わしていることが今更ながら奇妙に思えてきた。
「アヤメさんは?」
「私は見張りをしますので」
「それだと」
「大丈夫です。姫様の後で私も少し体を清めます」
「あの、そうじゃなくて、一緒に――きゃっ!」
岩の苔で足を滑らせた姫の手を慌てて掴んだ。完全に体制を崩していたため、腕を掴むだけでは支えきれず、やむなく体ごと抱きしめることになってしまった。
「姫様! 御怪我は!?」
脳裏に浮かぶのは「皇女を護衛せよ」という絶対の命令。僅かな傷でも負わせるわけにはいかないので必死だった。
一糸纏わぬ姫と目が合った時、初めてとんでもないことになっていることに気づいた。
他者の素肌に触れた経験はこれまでもある。それは同期の女兵士と入浴をする時や、負傷した兵を安全圏まで担いだ時だ。いずれも屈強な兵士の肉体で、姫のような弾力のあるふくよかな体に触れたことはなかった。
同じ人間のはずなのに、こんなにも温かく柔らかい。
「ありがとう。大丈夫だよ」
なまめかしい吐息が頬に触れる。クリステル様が立ち上がろうとした時に、華の茎のように細いその指が私の首筋を撫でた。
「ひゃあっ」
自他ともに認める仏頂面が悲鳴を上げた。指が触れたことよりも自分の出した声に茫然としている内、体制を崩した私はクリステル様と共に泉へ落下した。
結局、二人仲良く水浴びをすることになってしまった。姫は何度も頭を下げて謝罪してきた。体を支えきれず、泉に落としてしまった護衛への咎めはなかった。
桜花では有り得ないことで、本来なら私が謝罪すべきだ。私も姫に謝罪し、共に水浴びをすることにした。
満面の笑みの姫はひと時も視線を逸らさず、私を見つめ続けていた。目上の人間と目を合わせるのは不敬、と言われて育ったので目のやり場に困る。
所属する異形対策猟兵部隊は、人間に害をなすモノノケに対抗するための組織。大戦中は人を相手にしていたが、元はモノノケを倒すための部隊だ。異形の爪や牙で傷だらけになってしまった肌。女子の持つふくよかな肌の張と弾力とは無縁な引き締まった体。とても人前にさらせる体躯ではない。
泉の前で抱きとめた姫の体は違う。両手にはまだ泉の前で抱きとめた感触と熱が僅かに残っていた。小さくて、暖かくて、少し力を加えると壊れてしまいそうなのに、ふっくらと柔らかくて――
自分が何を考えているのか気づき、慌てて首を左右に振った。見下ろすと、昨晩に姫の手を握っていた傷だらけの左手があった。膨れ上がった皮膚に欠けている爪があるみすぼらしい手だ。この貧相な左手で姫の手を握っていたのかと思うと、胸の内がざわついてくる。私は一人で勝手に落ち込み、どの絵画よりも美しい光景に泥を塗っていた。
気持を紛らわせようと、鳥の囀りなどに耳を傾けているといつのまにか姫様が目の前に迫っていた。
「おはなししましょ」
笑顔で私の隣に腰かけていた。
「桜花のこと。あなたのこと、よければ聞かせて」
「いえ、私は――」
「ん~?」
時折、肩が触れ合った。姫は肌の傷を全く気にしていないようだった。姫のすっきりとした美しい体の曲線に、輝きを放つ水滴が肌を滑るようにして流れ落ちた。
「あまり話すのは得意ではありません・・・・・・そもそも姫様の好まれるような話を持ち合わせておりませんし、きっと、満足していただけ、ないかと」
互いの息が頬で感じられるほどに姫様の顔が迫ってきて、言葉を紡ぐのも難しくなった。
いつも私に向けられる視線といえば、嫌悪を露わにした類のものが多く、そういった時は私も意地を張って睨み返したりしたものだが、幼子の持つような曇りない眼で迫られるとどんな顔をしてよいかわからない。
「私を楽しませようとする必要はないよ。アヤメさんのことなら何でもいい、聞かせてくれたら嬉しいな」
その手が私の左手を握った。
「きっとアヤメさんは今までたくさん頑張ってきた。だからこんなにも優しい手をしてるんだ。あなたの話を聞いてみたい」
「あの――」
「綺麗な手だね。私のなんて駄目、ずっと人に迷惑ばかりかけてきた手だもん。誰の役にも立たない、惨めな手だよ」
私はそっと指に力を込める。
「畏れながら、申し上げてもよろしいでしょうか?」
「はい?」
「姫様の手は温かい。この慈愛に満ちたぬくもりが、惨めなものなどと卑下されないでください。真に人を救うことのできる手であると思います」
嬉しかった。そんなふうに私を見てくれる人はいなかったから。
ヴェルガには誰にでも分け隔てなく接する姫様がいるらしい。同僚が持ち込んだ噂話に、そのような皇女がいるはずがないと皆で笑い合ったものだ。
その本人を前に、桜花の伝統や自分の人生を語っている。口下手な私は人と話をすることが苦手だが、懸命に話す努力をした。話している間、姫は慈愛に満ちた表情で私を見ていた。
「あなたのお話、すごく面白かったわ」
クリステル様は木漏れ日を浴びながら、掌で水を救うと空へ放った。真珠のような輝きを見せた水の玉が、私達の頬を流れ落ちる。
この皇女は慈愛で満ちている。容姿はもちろん、精神においても人を引き付ける魅力を有している。任務に私情は挟むまいと思っていたが、このお方を護りたいと心から思った。
「じゃあ、今度は私の話を――」
言いかけて肩に頭を預けてきた。もたれ掛るにしては様子がおかしい。
「姫様?」
肩に手をかけると、意識が途切れていたことがわかった。
「姫様!」
「あ、ごめんなさい。貧血かな、たまになるから」
顔色が悪い。
「もう少し、このままでいたい」
「しかし」
「お願い」
その瞳は名伏しがたい美しさであった。思考が隅に追いやられ、ただただ彼女に目を奪われてしまう。私達は静止したまま、しばらく無言で向き合っていた。
直後、思わぬことが起こった。
ゆっくりと迫る姫を脳が理解できなかった。そのまま蕾のように小さな唇が、私の唇と重なった。驚きのあまり悲鳴も出ない。
やがて体が離れてゆき、姫はゆっくりと息を吐いた。それはほんの数秒の出来事だったが、生涯忘れ得ぬ体験となることは明白だった。
立ち上がった彼女は体を拭き、着ていた服に手を伸ばした。
「姫様」
後姿のままの彼女に声をかける。
「ごめんなさい。忘れてください――これは命令です」
衣服を身に着けた私達は、再び目的地へ向けて歩き始めた。背後からは力のない足音が聞こえる。
姫の体調を気遣わなければならない立場でありながら、しっとりと濡れていた体の感触を思い出すとどうにも気恥ずかしく声をかけづらい。胸の奥の甘い疼きと、任務を全うするという使命感が板挟みとなり心をくすぶり続けた。
「姫様、お体の具合はいかがですか?」
前方を警戒しながら尋ねる。
「大丈夫」
私は声色の変化を見逃さなかった。
「いえ、少し休みましょう。ご無理をされては――」
振り返ると姫の体がビクリと跳ね、視線を外されてしまう。あ、という寂しさを含んだ吐息が思わず漏れてしまった。
「ごめんなさい、本当に、私は、そんなつもりでは」
「姫様!?」
姫は胸を抱えたままよろめいた。三度目の咳に嫌な音が混じり始め、その直後に吐血した。
「姫様!」
崩れる体を慌てて抱きかかえたが、咳をするたびに喉の奥からは黒い血が溢れて止まらなかった。
「今すぐ薬をお持ちします」
ヴェルガのメイド達が持たせてくれた荷を開き、中を覗いて愕然とした。そこに入っていたはずの発作を抑える薬がない。頭が真っ白になった。
「馬鹿な・・・・・・出立前に確認したはず」
尚も咳き込む口にハンカチを添え、背中を優しくさすることしかできない。あんなにも温かかった肌が今は死人のように冷たかった。その手が頬に触れ、唇から血の筋を垂らしながら姫は言った。
「あなたのせいじゃない。もう、私を見ないで。きっと辛い思いをさせてしまう」
死にかけている人間が笑顔で、まだ行動できる人間が蒼白なのでは理屈が通らない。不安で慌てふためいていた私の体を、新鮮な水が染渡るように活力が巡った。
「いいえ。姫様をここで死なせはしません」
姫を一人で残すのは危険だが、一刻を争う事態だった。必ず戻ると約束し、山の中を駆けずり回った。
悪性の病原菌を抑えるもの、体力の活性を促すものと様々な薬草を摘み取り、私はクリステル様の元へ戻った。
「大丈夫だ、これなら必ず効き目がある。何度も山に来て見つけた薬草だ。この薬草は効くとルリもサキも言っていた。大丈夫だ、絶対に大丈夫だ」
既に意識のない姫に向けての言葉ではない。冷静になろうと独話していた。姫を背負い、数キロ先にあるはずの山小屋を目指して走った。そこには薬草を煎じる道具も一通り揃っている。ただ祈りながら、走り続けた。
山小屋で姫様が意識を取り戻したのは、夜もすっかり更けた頃だった。目を開けてくれた時の気持ちは忘れられない。誰もいなければ飛び上がって喜びたい気分だった。
顔色が未だ優れない皇女に私は横になるように勧めたが、僅かな怒気を孕んでいることに気づいた。
「どうして・・・・・・助けたの」
「え?」
「薬がなかったってことは、そういうことなんだよ。みんな私が死ねばいいと思ってるの」
胸の鼓動が背筋まで波打つのを感じた。姫様は濁ったガラス玉のように無機質な目をしていた。私は生唾を飲みこんだ。
姫様が眠っている間に、私はある指令書を見た。
薬を見落としていたのかもしれない、と山小屋に到着してから丹念に鞄の中を探したが、やはり入山前に見た薬箱はなかった。 代わりに桜花国が伝令を行う際に用いる指令書を見つけた。一部の人間しか知りえない点字を指でなぞる。
コウジョハ、ヤマヲオリルコトナシ
読み取った後、しばしその場で固まってしまった。油のようにゆっくりと時間は流れ、やがて怒りが湧いてきた。この場で命を奪えとの指令であり、それは私にとって絶対の命令なのだ。感情に任せて指令書をグシャグシャに丸めた後に気づいた。
「馬鹿な、そんな馬鹿な話があるものかっ!」
口ではそう吐き捨てながら頭はどこか冷静で、思考の片隅で今回の任務の真意を理解した。皇女を殺めることが指令であるなら、私が選ばれたのにも納得がいく。計らずとも私と同行した者は不幸な死を遂げることが多い。
「殺せと言うのか、このお方を私に殺せと」
怒りに震えた私は拳を壁に打ち付けた。
「お師匠様・・・・・・護る為の任務を与えてくれたのではなかったのか、見せてくれた微笑みも、あの胸に響いた言葉も全て偽りだったというのか!」
師は私が姫様を守り抜くことなど期待してはいない。死神の力をもって、命を奪うことを望んでいたのだ。答えを見出した今となっては、此度の任務、冷静に考えればその真意を読むことなど容易かったはずに思える。勝手に浮かれて、一人で息巻いていた自分が情けなく、涙が出るほどに哀れでならなかった。
「私を暗殺せよとの命令があったのではないですか?」
目を覚ましたクリステル様は光のない瞳で告げた。私は肯定も否定もせず、押し黙ってしまった。私でさえあの指令は冷静に受け取れないのに、彼女は全てを肯定するように冷ややかな笑みを浮かべていた。
「この任務は万が一の失敗もないように、優秀な人が選ばれたはず。私は剣を持てないし、銃を撃ったこともない。でも、あなたが腕の立つ戦士であるということはなんとなくわかるよ」
「・・・・・・」
「この山に私と入ったのはあなた一人だもん。きっと誰よりも信頼されて、期待されている身なんでしょうね」
「姫様、お願いです」
「うん、いいよ。あなたになら、いい。私を殺して、喝采を浴びるのがあなたならいいよ」
「止めてください、それ以上は、どうか」
「さあ、殺して」
私が期待されているのは確かである。しかしそれは私の追い求める理想とは程遠いものだった。一度任務に就けば敵であろうと味方であろうと、見境なしに死をまき散らす死神か何かと思われているだけだ。皆が私を腫物のように扱う。食事に毒を盛るなどの露骨な悪意を向けられたこともある。
英雄として蝶よ花よと愛でてほしいわけではない。こんな私でも、誰かを救うことができるのだと証明したい。ずっとそれが夢だった。
「できません」
「どうしたの? ためらう必要なんてないんだよ?」
「できません」
「ならこのまま二人で山を下りる? そんなことをすればあなたも殺されちゃう」
「姫様の気持ちはどこにあるのですか」
「え?」
「姫様はずっと笑顔のままです。先ほど倒れた時も、苦しいはずなのに私に心配を掛けまいと無理に笑って。今だって」
「無理なんてしてない」
「私は人に泥水を掛けられ続ける生き方を知っています。私がそうでしたから」
しばらく互いに見つめ合った。壁の隙間から風が忍び込み、私の髪を弄ぶようにして流れていった。
「感情がない、と師に叱られたことがあります。桜花軍の中では、顔にもう一枚、皮膚を張っている女として有名です。でもそれは誤りだ。私はちゃんと感情を持っている。臆病だから、うまく笑えないだけなんです・・・・・・自分の顔が嫌いです。毎朝毎朝、この顔を見るのに嫌気がさす。同じ顔をしている人はすぐにわかります」
いつしか姫の笑みが消えていた。
「今の姫様は笑っているけれど、とても寂しそうだ。私と同じ顔をしています」
私は姫の言葉が欲しかった。これからしようとしていることは、軍部の物差しで計れば反逆行為と見なされるだろう。しかし、心の深い場所に潜んでいる何かが、このお方を殺めることだけはしてはならないと戒めている。
任務と心の声、二つの感情に葛藤しているのではない。既に答えは出している。後は姫が一言だけ私に言葉をくれるだけで、何を失おうとも突き進む覚悟はあるのだ。
「死にたいのよ」
私を挑発するような笑みだった。
「私を殺して、命令だよ」
小さな唇からこぼれた言葉が、胸に届くとそれは業火となって燃え広がった。そんな寂しくて、悲しいことを言ってほしくない。気付けば姫の両肩を力まかせに握りしめ、そのまま押し倒していた。
「今この瞬間を生きたかった者達がいました! 姫様の言葉は彼らを蔑むものです! あなたの口から先ほどのような言葉は聞きたくありません!」
頬に衝撃が走った。腕の下で目に涙をためた姫が私の頬を叩いた。傷つけるのが目的ではなく、無礼な行動を咎めるためのものだと理解したが、とても軽い姫の平手打ちは私の心を激しく揺さぶった。
「今のは戒めるためのもの。あなたはたった今、死んだんだよ? 私の命令を無視して、軍の命令を無視して、あなたは何に従おうというの! 軍の人間が命を忘れて私情に駆られるなんて。忠義を忘れた軍人は死人と同義、桜花でもそういう教訓はあったはずだよ!」
「かまわない、もう何であろうとかまいません。反逆者でいい、死神と呼ばれてもいい。私が何であろうと、その命令にだけは従えません」
「何も知らないくせに、あなたは私のことなど何もわかってないくせに! どうして全てを捨ててまで、そんなふうに思えるの!」
「確かに知りません、私は姫様ではありませんから・・・・・・何故あなたが私に口づけをしたのかも」
傷口を突かれたような表情が浮かぶのがはっきりわかった。
「あ、あれは。忘れてくださいと命令したのに・・・・・・あれは身勝手な私があなたの気持ちも考えずにやったこと。それでいいじゃない」
ゆっくりと姫を抱え起こし、あの時と同じように目を合わせた。
「姫様のことを知りたいのです」
人間の感情の深淵に潜むもの。自分では取り出すことができないから、そんな気持ちがあることなど気づかない。
気づかせてくれる人と出会えた時、初めて私はこんなにも輝きに満ちた想いを隠し持っていたのだとわかる。
今の私にはそれが理解できる。言葉で説明できるものではなく、理屈抜きに心から滲み出るものなのだ。留まることをしらない思いに当惑しているが、偽りのない透明な感情であることは間違いない。
私はこの感情を信じることにした。
私の熱意が伝わったのか、死ぬ前の独り言と割り切ったのか、やがて姫はこれまでの生い立ちを話してくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
子供の頃から病に侵されていたクリステルは、宮廷はおろか自室を出ることさえ許されなかった。少しの運動で吐血することもあったからだ。
成人まで生きられないだろう、と医師に告げられた夜は枕を握りしめたまま朝を迎えた。僅かでも延命するために、部屋の天井を眺めるだけの日々が続いた。
私はどうして生まれてきたの? そう問いただすと、父はその場で泣き崩れてしまった。それ以来、クリステルは生まれた意味を一人で考えることにした。
この頃からヴェルガの宮廷と軍部は侵略に浮かされていた。軍人上がりの者達が皇室に取り入り、主義者が国を左右する立場になった。他国をより多く吸収し、合併した国が繁栄することはわかりきっていたからだ。敗戦国の人々は奴隷のように扱われ、誇りも文化も根こそぎ搾り取られていった。
クリステルはそのやり方を好きになれなかった。ある式典で祝辞を述べる際、原稿作家の用意してくれた文章を投げ捨て、多くの群衆に問いかけた。
「私達は我が国を文明国と称しています。ヴェルガの一部となった国々を辱めるのは文明国のすることでしょうか? 彼らと共に手を取り合い、心から誇れる国に変わる時なのではないでしょうか。私はヴェルガを愛している、皆さんはどうですか?」
今まで周囲の人間の言うことを、黙って聞いてきたクリステルが初めて意見を口にした。それは未来ある者達への警告。生きることを後悔してほしくないという切なる願いだった。
すぐに壇上から降ろされ、ひどく叱られたが後悔はなかった。自分勝手な言葉だったかもしれないが、懸命に生きた証を残そうと考え続けてきた答えがあの訴えだった。
多くの選択が可能な人々が憎しみ合い、殺し合いをすることは止めてほしい。他にいくらでも選択はあるはずと信じた。
これがいけなかった。
戦争を否定するような言葉はご法度。それを皇女が言ってのけた。国民はクリステルの言葉に揺れた。
誰にでも分け隔てなく接し、余命を宣告されても優しく微笑みかけるクリステルを慕う国民は多い。大部分が彼女の想いに肯定したため、情勢が不安定になり始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「二つ違いの妹がいるの。私よりも合理的な判断ができるようで、お父様たちはアウレリアを私の代わりにするみたい」
国にとって負の因子でしかない姫の厄介払いに、桜花で人知れず亡き者にしようというつもりだ。クリステル様の瞳に秘められた底なしの闇が、部屋を包み込んでいくように思えた。
「ヴェルガでは私の考えに賛同してくれる軍部の方々もいるのでやりにくいのでしょう。だからこの国へ連れてこられたの」
「父君は姫様の帰りを待っておられるのではないでしょうか? それなら――」
「いいえ。お母様が亡くなってから、お父様はすっかり変わってしまった。この命も恐らくは父が」
娘を道具としてしか扱わない父親。何もかもが狂っている。姫の心の深淵には拭えないほどのどす黒い塊が鎮座し、それが目を通して外界に漏れていたのだとようやく理解することができた。
「私はそれを承知でここへ来た。覚悟して、もう何も考えないようにしてたのに」
上品な香りが鼻孔を突くと同時に、やわらかく暖かいものが飛び込んできた。背中に回された手が力なく握られるのを感じた時、姫が私に抱きついてきたのだとわかった。
「あなたと出会って――あとちょっと、あとちょっとだけって。私は自分の気持ちがわからない。あんなことをしてしまうなんて。あなたのことを考えると切なくて、怖くてやりきれなくなる」
姫はそのまま堰を切ったように泣き出した。私は稚児をあやすように、優しく頭を撫で続けるしかなかった。
ただ、姫を助けたい。守り抜きたいという気持ちは確実に高まり、胸の奥で滾って止まなかった。
「姫様は私に出会ったことを後悔なさっていますか?」
ひとしきり泣きじゃくった後に、私は問いかけた。答えることなく、胸元に顔を埋めている姫に続けて言う。
「私は嬉しかった。心からこのお方をお護りしたいと思いました」
「・・・・・・軽蔑していないの? あんなことをされて、自暴自棄な皇女の相手をさせられて」
「そのようなことを思うはずがありません」
言葉では言い表せない想いを伝えたくて、私は許されない行動に出た。その瞬間、小さな悲鳴を聞いた気がする。けれど、こうすることが一番だと思った。
水浴びをした時、姫がくれた慈しみで溢れた笑顔のように。優しい想いを胸に唇を重ねた。
ゆっくりと唇を離すと先ほどまで私の背中へ回されていた姫の手は、胸元で握りしめられ小刻みに震えていた。この場に繋ぎとめるように、このお方をお救いするために、私は姫を抱きしめた。
「何が起ころうとあなたを護る。それを生き様として桜花の花を咲かせます」
初めて出会った時から、私は姫に心を奪われていたのだ。この方には生きていただく、私が守り抜くのだ。しっとりと濡れ始めた姫の手を握りながら思った。
「私が生きることは間違いかもしれない。私は皇女だから、存在するだけでも歴史を左右する立場にいるの。もし世界を変えるようなことになれば――」
「あなたが笑顔で暮らせる日々が間違いであると私には思えませんが」
きょとんとした表情の後、全てが吹っ切れたと言わんばかりにクリステル様は笑った。
「あはは、あなたからは嘘の優しさを感じない。最近はそんな優しさを向けられたことがなかったから、どんな顔をすればいいのか」
「姫様に偽りは申しませんよ」
「・・・・・・名前で呼んでくれない?」
「名前ですか?」
「命令じゃなくて、お願い。そうすればもう一度だけ、立ち上がろうと思える気がするの」
クリステル様は私の腕から離れると、乱れた髪を整えながら微笑んだ。
「クリステル様」
「はい、アヤメさん」
共に過ごした時が長いほど、理解を深められるとは限らない。時間だけを思えばたった二日の出来事。それでも私は満たされていた。
姫は私の手を握りしめたまま眠った。思わずこちらまで笑ってしまうような安らかな顔をしていた。
三日目。私達は歩き続けた。クリステル様は随分と話すようになった。料理を作ってみたくて、一度だけ忍び込んだ厨房を大破させてしまったこと。楽しみにしていた本の結末を、メイドにバラされてしまったことを話してくれた。私も久しぶりにお腹が痛くなるくらいに笑った。
私の髪を梳きたいと言ってくれたのは、二回目の休憩の時。一度だけ母にしてもらったことがある、とクリステル様は遠い日を思いながら私の髪を撫でた。高価そうな櫛で梳いてくれるので、腰を曲げるのは礼を欠くと思い、私はずっと背筋を伸ばしたままだった。
「最後に外を歩いてみたい、なんて言ったからかな。せめてもの情けに、山奥まで来なければいけない茶番劇を用意してくれたんだろうな」
「クリステル様」
「私、この茶番劇を用意してくれた人に感謝してるんだよ? アヤメさんと会うことができたから」
誰かに髪を梳いてもらうのは初めてだった。母にはしてもらったことがないし、部隊に入ってからはそれどころではなかったから。
整え終えた髪にリボンが結ばれていることに気づいた。
「クリステル様、このような高価な物はいただけません」
「何か形に残したいの。あなたと私がここでこうして過ごした証を」
「しかし、私には何も差し上げられる物が――」
「いいよ」
背中にクリステル様の体温を感じた。
「アヤメさんがいてくれれば何もいらない。一人にしないでね」
「一人にはしませんよ」
「私もあなたを一人にしない」
胸を打つ言葉だ。私もクリステル様のおそばにいられるのなら、何も求めはしない。
四日目、私達は神聖な場所に足を踏み入れた。
「綺麗な泉」
クリステル様と共に訪れたのは神が住むとされる山奥の泉だった。礼を捧げ、手を繋ぎながら泉へと近づく。
「クリステル様、水を手ですくって飲み干してください。一度だけです、それ以上はいけません」
泉の奥底には刀の閃きのように光る鱗を持つ神がいる。敬意を怠れば、長髭の奥にある牙で噛み裂かれてしまうだろう。
「あらゆる病に効くとされる聖泉です。クリステル様のお体も清められるでしょう」
「アヤメさんも飲んでおいたら?」
「いえ、それはできません。神への敬いが失われれば、この泉もただの水になってしまう」
クリステル様は泉の水を口に含め、喉を鳴らして飲みこんだ。
「不思議な味。体が溶けてしまうみたい」
「水が体に行き渡った証拠です」
これで使命は達した。病はすぐに完治するはずだ。私達は再び礼を捧げると泉を後にした。
問題は解決したわけではない。クリステル様を無事に本国まで送り届けなければならない。既に四日経っている。私の帰りが遅れると、クリステル様が生きていることを悟られてしまう。
私達はそのまま飛行場へ急いだ。屋敷や領事館は、クリステル様の帰還を待ち構えている者達がいるはずだ。
私はこれまで命令に背いたことなど一度もない。師も、やってきたヴェルガの要人達も、私を信じ切っていたらしい。道中に検問の類はなく、すんなり飛行場までたどり着くことができた。
到着したのが夜更けということも幸いし、闇に乗じてヴェルガへと発つ飛行機を確保することができた。
クリステル様が桜花に来ていることは極秘。そのことも幸いだった。私達は作り話をでっち上げ、ヴェルガ人のパイロットに飛行を確約させた。
ヴェルガにいるはずの彼女がいきなり自機に乗り込んできたのを見て、パイロットが緊張のあまり卒倒しそうになっていた。操縦に支障が出ないことを祈るのみだ。
「アヤメさん」
機内でクリステル様が私の手を握った。彼女にもわかったらしい。そもそもこれまでがうまく行き過ぎたのだ。遠くから近づいてくる車が見えた。あれは憲兵隊のものだ。
「バレました。クリステル様はこのまま離陸を指示してください、あれは私が相手をします」
「駄目! このまま一緒にヴェルガへ行こう?」
「このまま離陸しても撃ち落とされます。彼らは容赦なく発砲してくる可能性が高い。普通なら桜花が何よりも恐れている国際問題があるので、他国籍の者へ容易な発砲はしません。しかし、裏にはヴェルガの要人達がいる。クリステル様を亡き者とすることで、桜花にも何かしらの恩赦があるはず。あちらも意地があるのでしょう」
「でも、そうしたらあなたが」
「クリステル様」
私は目に涙を浮かべている彼女を優しく抱き寄せた。
「私に会えて嬉しかったですか?」
「うん」
「私と会えないと寂しいですか?」
「うん、うん。当たり前じゃないそんなこと」
「私のことを好きでいてくれますか?」
「うん、大好きだよ。私は今まで生きてきて本当によかったって初めて思えたから」
「そうですか」
うなじに手刀の一撃を加える。私はクリステル様の意識を奪った。これで数時間は目を覚まさないだろう。
「卑怯な質問をしてしまったことをお許しください」
少し反省する。別れるのが辛くて、一人で機を降りるのは寂しかったから。私は操縦室まで足を運び刀でパイロットに指示を下した。
「離陸しろ。桜花の領空を抜け、最速でヴェルガへ向かえ」
混乱したパイロットは顎をガチガチと震わせるだけだ。
「今すぐだ! 斬り殺されたいか貴様!」
クリステル様を乗せた機は無事に離陸した。私はそれを地上で眺めていた。
「どうか御無事で」
最後に口づけをしていただけばよかっただろうか。いや、胸の奥にあの優しい思い出がある。髪にはいただいたリボンが結ばれている。充分だ、寂しくはない。
憲兵の車は私が立ちふさがったことで進行を阻止されていた。私を無視してすり抜けようとした二台の車は背後で仰向けに転がされている。
「桜花の民でありながら反旗を翻したな! 何を考えている!」
憲兵の一人が私に銃を突きつける。
「さあ」
同じように刀の先端を憲兵に向けた。
「私は桜花の民として花を咲かせただけ。狂い咲きですが」
私は誰も殺すつもりはなかった。その時点で結果は見えていた。取り押さえられた私はそのまま牢に入れられた。
鉄の錠で繋がれた私は何度も鞭で打たれた。
それでも一声だって悲鳴をあげてやらなかった。髪のリボンがクリステル様と私の心を結んでくれているようで、苦痛を表せば彼女にも伝わってしまうと思った。