戦いの終わり 1
反乱から数週間後
第七環境地区 特別病棟
「あー、くそ」
ベッドの上のレキが不満の声を上げた。
最悪の数週間だった。疲労と痛みに悶え続けた。昼も夜もほとんど眠って過ごして安静にしているのに、ちっとも傷が治らなかった。
地獄の炎に耐える体なのに、エルフリーデに開けられた腹の風穴がまったく回復しない。
ジッとしていると体は回復するのだろうが心のもやもやは濃くなっていく。気を紛らわそうと寝返りをうつと、恐ろしほどの痛みが全身を突き抜けた。
「あくっ! てててっ」
お腹を押さえたレキが体を縮こまらせ、目じりに涙を浮かべる。
「レキちゃん、寝てないと治らないよ」
隣のベッドで寝ているアンジェリカが心配そうに言う。
「だったら髪を撫でて子守唄でも歌ってくれ」
「あ、うん。待ってね――いっ!」
動こうとしたアンジェリカの顔が強張る。
「なっ! バカ冗談だ」
「じゃあ看護婦さん呼んでくるから」
「それもいい。いいからお前こそ寝てろ。また傷が開いちまうぞ」
「レキちゃんも。私たち包帯グルグル巻きなんだから、じっとしてよ? ね?」
「っけ。ジッとしてなきゃいけないなんて面白くねえ」
レキはアンジェリカに背を向けて瞳を閉じた。
アンジェリカは頭も腕も、体も包帯だらけだ。すぐ横を向けばその痛々しい姿が視界に入る。
綺麗だった少女の柔肌に傷が残ってしまったことが、レキは悔しかった。アンジェリカを襲った者はもちろん許せないが、それを阻止できなかった自分の力不足にも苛立ちを覚える。
桜花のサムライ、エルフリーデ、日に二度も敗北してしまった。能力にかまけて訓練を積んでこなかったことが今になって悔やまれる。
「レキちゃん」
「ん?」
「ごめんね、アンジェ。レキちゃんの傷治せなくて」
アンジェリカの口からとても悲しい声が漏れた。慌てて寝返りをうってみると、表情が歪み始めている。
レキの首筋に冷たいものがサッと走り抜けた。注意していたつもりなのに、苛立ちの混じった声をアンジェリカに向けてしまっていただろうか。
「そんなこと言うな。アンジェリカは何も悪くねえ、あたしが――」
アンジェリカは酷い傷を負い、数日前まで昏睡していた。
今は起きて話すことができるが、以前のような力を使えるまでには回復していないのだ。
持っていた力が使えない歯がゆさは、レキが一番痛感している。
「あたしがもっとちゃんと、お前を護れてればこんなことにならなかった」
そう口に出したことで、レキの心が再び折れた。ボフン、と枕に顔を押し付け、あらん限りの叫び声を上げたい気分だった。
「強くなりてえ。何があってもアンジェリカを護れるくらい」
「アンジェも、レキちゃんを護りたい。ずっと、レキちゃんに頼ってばっかりだったから・・・・・・アンジェがもっと強ければ、クリステル様も」
そこからは二人とも話さなかった。
天井に設置された換気扇と、時計の針の音がしばらく流れているだけだった。
と、遠くの方で民衆の歓声が聞こえた。
その声は歓喜の声で、誰かが称えられているのだとすぐにわかった。
「そういえば、今日だったよな」
「うん、今日だね」
二人は歓声のする方へ耳を傾けた。