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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
最後の戦い篇
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ソニア対アリス 3

 天より飛来したエルフの武器は、剣、槍、斧、弓、盾、鎧など、合わせて48もの武器。一斉に襲い来ると思っていたアリスが身構えた時、それらは中空でピタリと制止した。「いくよ、アリス」という声を聞き、上空から視線を戻したその刹那、ソニアは既に間合いにいた。

 鋭い太刀風が腕の付け根の辺りをかすめていく。

 迫りくる敵などバイズで弾けばよいのだが、アリスは地を蹴って後方へ飛んだ。目前に迫ったソニアと剣の輝きを見て、瞬時に危険と判断したのである。

 戦っていた相手が数秒前とはまるで別人のような力を供え、空にはいつ襲い来るやも知れない武器たちが未だ浮遊している。こうした突然の戦況の変化は、戦士の心を不安で満たす。並の者であればたちまち呑まれてしまうのだが、ヴァーミリオンに感情の大半を封じられているアリスは、冷静に思考することができた。


 後方へ飛ぶその最中、手にした剣にバイズを込め、ソニアの胸めがけて放った。それは一矢の如く、真直ぐに飛ぶ必殺の刺突である。

 鋭利な刃先が空を切った。ソニアはその場から忽として消えていたのだ。

 アリスは迷うことなく空を見た。

 剣が放たれた直後、ソニアはファルクスの剣と共に空へ舞いあがっていた。これをしっかりと両眼で捕らえていたアリスが、追撃のため放った剣を上空へ向けようとした時。奇妙な音が耳に届いた。

ギリギリと弓の弦がしなるような音が、上空にいるソニアから聞こえてくるのだ。

 異音に首を傾げていたアリスが、ハッとしてすぐさま剣を手元に手繰り寄せた。攻撃を放とうとしていた武器を、防御に切り替えなければならないほどの脅威を感じ取ったためである。アリスが剣を掴むその瞬間、ソニアの準備が整った。


 上空から剣を構え、突撃する。ソニアが取ったのは、戦術もなく単純な猛進であるが、その速度は電光の如くであり、威力は砲弾をも凌駕していた。これをアリスは真正面から受け止めたため、再び鋭い戛然の音が響き、両者は刃で交わった。

 全身をバイズで覆っていたアリスですら、この突撃を受け止めるのは容易ではなかった。剣が十字に組み合って尚、突撃の勢いは止まらない。足に踏ん張りを利かせるも、ズズズ、と押されに押される。

「うくッ」とアリスの喉元から苦悶の声が漏れたのは、当初の立ち位置より五メートルほど押された時である。


「えいッ」


 空気をつんざく叫びと共に、ソニアが剣を切り返した。

 が、切り返したはずのアリスの剣は、ファルクスの剣と未だ噛み合っている。ここで剣を弾かれ隙を見せれば即座に斬られる。そうはいかない、という二人の意地の張り合いであった。切り返しに次ぐ切り返し、その応酬が幾度となく繰り返され、とうとう二人の剣は同時にパッと離れた。

 互いの剣の先が天へ向く。青一色の晴れ渡った空。雲が優雅に流れ、陽の光も優しかった。その秒――僅か一秒ほどであったが、戦場の音は消え、静寂が訪れた。


「おおお!」


「・・・・・・ッ!」


 ソニアの声が静寂を破った。

 次の瞬間、白刃が相打った。

 その打ち合いはこれまでと異なり、凄まじい刃のぶつかり合いとなった。互いに全力で剣を振り、それは極みへと達した。いつしか、全く、常人の目で捕らえることが不可能となったのである。

 互いに一歩も動かず、はったと睨み合っている。ここまでは誰しもが見ることが可能であるが、二人の間にできた空間で何が行われているのかわからないのだ。高速に達した剣の打ち合いとは、凄まじい風、鉄の打ち合う音、いくつもの火花、それのみが確認できるのだ。


 永遠に続くと思われた打ち合いを制したのはアリスであった。

 ガキン、とひときわ高く鋭い音がした後、ソニアの体が剣ごと弾かれた。

 上体を逸らせたソニアは隙だらけ。アリスが狙うのは正中線、心臓を目掛けての突きが放たれた時、上空から一本の剣が飛来した。

 その剣はソニアとアリスの間に割って入るかのように、ズンと地面に突き刺さる。アリスの刺突は、それに阻止されてしまった。

 次いで飛んできたのは斧と槍であった。

 二つの武器は弾丸の如き速さで襲い来る。その軌道を瞬時に見極めたアリスはバイズで破壊しようと手をかざす。武器の破壊など小枝を折るよりも容易いはずであったが。


「っ!?」


 斧と槍はアリスのバイズを突破し、同時にアリスに襲い掛かった。

天より飛来した武器は二人の偉大なエルフが鍛えたものである。いかにエルレンディアのバイズといえど、容易に破壊することは適わないのだ。

やむ無し、剣で弾くしかない。

アリスの、このような瞬時の判断は、見事である。

驚愕するも怯まず、体を固めず、即座に次の判断ができる、その気概は称賛に値する。

ほぼ同時に突撃してきた武器であるが、“突き”に特化した槍が僅かに抜きん出ている。

それを冷静に見てとったアリスは、最初に突きだしてきた槍を横凪ぎに払い、ついで振り下ろされた斧を、斬鉄の気合いをもって真っ向から叩き斬った。

武器二つに対し、戛然は一つ。ほぼ同時の、神速の斬撃であった。

弾かれた武器はしかし、グイっと向きを変えて再びアリスに襲いかかった。武器はいかに弾かれようとも、破壊されない限りは攻撃をやめないのだ。

二本はぴったりとアリスに張り付いた。

斬れど躱せど、いつまでも纏わりついてくる。やがて地面に刺さっていた剣までも、それに加わった。相手は意思持つ武器であり、人ではない。これでは呼吸を図ることができない。たまらなくなったアリスが態勢を立て直すため、地を蹴って空へ浮かぶと。既に三つの弓が狙いを定めていた。


 その弓は闇の森で育った木から作られ、弦は優れた術者である、女エルフの金糸でできていた。大地が育んだ霊的な力と、エルフの持つ力が混じる魔法の弓。弓矢でありながら、矢は不要であった。弦を引けば空気中の光が束ねられ、矢へと模られていくためだ。

放たれた三本の矢がアリスの手足を狙って放たれた。それと同時に、剣と斧と槍もまた襲い掛かる。

 アリスが手を(かざ)した先は襲い来る武器たちではない。とある建物の壁であった。

 一階から二階までの壁面が瞬時に剥ぎ取られ、そのままアリスの前に、盾となるべく移動した。矢も剣も、全てこの壁にぐさりと突き刺さった瞬間、アリスは壁ごと遥か遠方へ吹き飛ばした。バイズで破壊できなくとも、このように応用を利かせれば問題はない。

 そう判断した時――


「おかえしだよ」


 輝くファルクスの剣を持つソニアが目の前にいた。

 剣の刃を立てず、フルスイング。バイズの防御を容易く破り、アリスの腹部にめり込んだ。


 先刻のソニアと同様、今度はアリスが吹き飛ばされ、建物の壁に穴をあけることとなった。


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