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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
最後の戦い篇
151/170

中間 二人のエルフ 2

 ソニアが空へ手を掲げたのとほぼ同時刻。


 古のエルフの森、アルダ。

 小川の辺に建てられた小屋にいる二人のエルフ。揃って椅子に腰かけ、窓から青い空を見上げていた。


「もう始まった頃かな」


 銀髪のエルフ、イリスがぽつりとそんなことを言った。

 一方で金髪のエルフ、スウェンはボザボザになった髪をかきながら、「始まってるだろうね」と言った。


「教えられることは全部教えてあげたよね?」


「うん」


「ソニアだって初めて会った頃よりは見違えるほど強くなったし」


「うん」


「あ、でも――」


「ねえイリス」


「え?」


「考えても仕方ないでしょ。あいつを信じなさいよ」


「う、うん」


「だいたい。そんなに心配なら一緒についていってあげればよかったでしょ」


「ひどい、私がここから出れないの知ってるくせに」


「ふん、気持ちの問題でしょ」


 不安げな声を漏らしてばかりのイリスを煩わしそうに見つめ、スウェンは席を立った。


『私は私のやり方で勝つ。行ってくるね』


 眩しい笑顔で言ったソニアの顔が思い出される。あの姿には思わず見入ってしまった。エルフとして光りの力を高めたと感じることができた。

これほどの力を感じたのは、フィンデル以来だ。

 フィンデルは最強のエルフだった。そのフィンデルとほぼ同じ力を感じる。今のこいつなら誰にも負けない。

 ソニアを見送った時はそう思いもしたが、物事には“まさかの事態”がつきものである。フィンデルもそのようにして現世を去ってしまった。ソニアまでそうなってしまっては。


「私たちがここでうだうだ考えても仕方ないわよ」


スウェンは自らに言い聞かせるように呟く。そして、ワインのしまってある戸棚を開けた。

 とりあえずアルコールを流し込んで、不安な気持ちを鎮めたかった。


「やられないよね、ソニアは」


 イリスが言った。その言葉に胸が冷えたスウェンが思わず振り返る。

 俯いたイリスは視線だけをスウェンに送っていた。彼女もまた、不安でたまらないのだろう。


「やっぱり、教えてあげるべきだったか」


「・・・・・・私もそう思う」


 二人は無言で床下を見た。

 この床下には秘密の工房があった。

 そこにはこれまで二人が鍛えてきた、あらゆる武器と鎧が収納されている。


「一つでも多くの武器、貸してあげればよかったね」


「何度も話し合ったでしょ。ここに来た時のソニアはファルクスの剣と完全に同調できてなかった。そんな時に他の武器と同調する修行なんてできないわよ。剣と同調するのだってそれなりに時間かかるんだし」


「せめてもう少し時間があれば」


「まったくよ。フィンデルですら二年かかった剣との同調を二か月で覚えたいだなんて無茶言って。まあ、実際できたんだからすごいんだけど」


「案外、他の武器とも早く同調できたかも」


「いくらなんでもそれはないわ。いいのよイリス、私たちは精いっぱいやったわ。地下のこと黙ってたのも、あいつに集中させるためだったんだし」


「でも、秘密にしてたのは。精いっぱいじゃないかも」


「・・・・・・イリス」


 しゅん、と落ち込んだイリスの髪をスウェンは撫でてやる。


「確かに、思い返せばまだまだやれることがあったかもしれない。でも、今はソニアを信じようよ」


「うん」


「浮かない顔しないの。ねえびっくりじゃない? 外の世界にエルフの血を継ぐ者がいて、私たちの所へ来てくれたのよ。それもフィンデルの剣を持って」


「うん、驚いた」


「一緒にいたのはほんの数か月だったけど、あいつのこと好きになっちゃった」


「私も」


「資質と技術、どれをとっても文句なし。同族として誇れるもの。あいつは誰にも負けないわよ」


 そうスウェンが言った時、異変が起きた。

 床が震え始め、次いで机やソファが音を立てて跳ねる。


「なによ地震!?」


「地震なんて、もう二百年くらい起きてない」


「そんなこと言ったって、現にこうして――ちょっと待って」


 外を見てみると、木も風も穏やかである。揺れているのはこの小屋のみであった。


「ちょっ、まさかこれって、ぎゃひっ!」


「スウェン!?」


 床の板を破って何かが飛び出した。それはスウェンの顎にアッパーカットを決め、そのままの勢いで天井を破っていった。


「いたっ、たたた」


「スウェン! どうしよう、スウェン大丈夫?」


「だだ、大丈夫、大丈夫だから肩持って揺らさないで、脳が揺れるって」


「あっ、危ない!」


 イリスがスウェンを抱きかかえて飛んだと同時、またしても床下から何かが飛び出した。それは先ほどと同じように天井を抜いて、空の彼方へ飛んでいく。二人は呆然と見ていたが、すぐに顔を真っ青にして小屋から飛び出した。次から次へと、床下から何かが飛び出していくのだ。


「ねえあれって、私たちの武器」


 イリスが空を指さす。

 既に何十という武器の数々が空へ舞いあがり、揃って同じ方向へ飛び去っていく。


「クソッ、クソ! やられた! あいつ、地下に気づいてた! 私たちに気づかれないうちに、武器に唾つけてたんだよ。あれはソニアが呼んでるんだ!」


「そんな、いくらなんでもあんなにたくさん・・・・・・まさか、剣との同調はとっくに終わってて、それ以外の武器と同調してたから二か月かかったってこと?」


「信じられない、ははは、信じられないよ」


 あまりのことに二人は引き笑いであった。


「私たちに隠し事して、家を壊して、あまつさえ顎に一発くれるとは――なんて恥知らずな、エルフの風上にも風下にも置けない。あんな奴に力を貸してやるんじゃなかった」


「えぇ、スウェンさっきまでソニアのこと」


「覚えてなさいよソニアーーーー!!!」



・・・・・・・・・・



数々の武器は音速の壁を超え、大気を突破してソニアの元へ急行した。


アルダから飛び立って僅か1分、既にヴェルガ城上空に到達。もはや光速に近かった。これなどは天姫の移動術、神足通を遥かに凌駕している。


ヴェルガ城内にいる多くの者が、青空の中、チカチカと点滅する無数の物体を視認していた。空を飛ぶ鉄製の武器が日光に反射しているのだが、知らぬ者達にとっては真昼に浮き出た星屑のように映った。


武器はソニアとの距離をぐんぐんと縮める。ついにアリスも上空から迫り来るそれらに気づいた。


アリスは思わず上空に目を向けていたが、真の驚異となるのは迫り来るエルフの武器ではない。

目の前にいるソニアである。


この時、ソニアの中に眠っていたエルダールの力が覚醒していた。


ズズ、と両耳が鋭利なものへと変化していく。赤い髪も、翡翠色の瞳も、常とは違う輝きを帯びていく。在りし日のエルフの姿、そのものである。


数々の修羅場を抜け、エルフの元で学び、自らの意思で進むべき道を見いだした。もはや、昔日のソニアの面影はなかった。



「いくよ、アリス」


ソニアが言った瞬間、合計48の武器が到着し上空を埋め尽くした。



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