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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
最後の戦い篇
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ルリ対レキ 3

 レキは息を呑んだ。


 突然、目の前で人が消えた。直前に見せた笑顔と意味深な台詞から、少女が自らの意思で消えたのは明らかであった。

 レキは先刻まで少女が存在していた場所まで駆け寄った。

 その地点には緑の残り香がうっすらと漂うのみで、気配を感じ取ることはできない。足元には主を失った着物が落ちている。踏んでみたが、ただ着物の感触があるだけだった。


――透明になったわけじゃない、縮小したってわけでもなさそうだ。どこへ行きやがった


 敵の気配は完全に消えた。

 今やどこから攻撃が来るのか全く予想できない。

 レキはこれまでにないほどの炎を身に纏い、急襲に備える。


「っは、はは」


 ここでレキに笑みが零れた。

 これは本人が意図したものではなく、自然と浮き上がってきた感情である。

 口端を歪め、割れた唇からは白い歯を覗かせている。その笑みは、獲物を前に牙を見せる、獣の顔と同じであった。

 笑みではない。最大の力を放出し、臨戦態勢へと入ったレキは牙を見せたのだ。

 彼女の中には不安と恐れが存在している。それは自分の身を案じてのことではない。

 こうしている間にアンジェリカの身に何か起きてしまうのでは、という懸念のためである。こんなところで時間を浪費している暇はない。一刻も早く障害を薙ぎ払い、アンジェリカの元へ行かなければならない。


「逃げたわけじゃねえんだろ?」


 問いかけに応えはなかった。


「姿は見えなくても、てめえが本気になったのはなんとなくわかる・・・・・・いいぜ、いつでも来な。あたしの本気も見せてやる」

 

 レキの声をルリは聞いていた。

 地中深く、おおよそ人が想像しえない地の底までルリは降下している。

 ルリが行ったのは禁じ手とされている力、第二段階の解放であった。


 第二段階の解放。宿るモノノケに、()()近づくことができるため、その力は第一段階とは比べ物にならない。

代償として、人としての意識は遠退いていく。長時間続けた場合は記憶を失い、モノノケへと転身したまま戻れなくなる者が多い危険な力である。

 かつてアヤメは無意識のうちにこれを行い、巨大な怪猫へと変貌した。曖昧な感覚のままで暴れまわり、消えかけた意識の中、かろうじて人間の姿を取り戻している。一歩間違えれば、元には戻れなかっただろう。


力の反動の恐ろしさを、ルリは理解している。

これまで何度か試したことはあるが、一瞬で意識を失いかけた。

第二段階の解放をしつつ、意識を保つことは可能なのか? 修行はそこから始まった。


結論からいえばそれは可能であった。

天姫の指示を受けて習得した霊力。これこそ、全ての力の要。

体はモノノケの姿になろうとも、意思は決して離さない。体全体に霊力を纏えば、こうしたことも可能なのだ。


 ルリの第二段階の解放の力。それは大地に取り込まれることにより、周囲一帯の植物と完全に同化することがである。ルリの力を吸い取った植物たちは、力を数倍に引き上げることができる。


凄まじい力であるが故、消耗も激しくなる。

 かといって少しでも気を抜けば霊力が解け、たちまち体が大地に染みわたって元に戻れなくなってしまう。



かなりの集中力を必要とする上に、疲労も伴う。

短期決戦に持ち込まなければ、潰れるのは自分の方である。

それ故に、植物をいかに効率よく操れるかで勝敗は別れてくる。


『引っ張られるでないぞ』


 第二段階の解放から元に戻れなくなることを引っ張られる、と天姫は言っていた。その声を思い出しながら、ルリは意識を集中させている。


――大丈夫、ちゃんと準備してきた



 この戦いの前日。


 アヤメとソニアがカラ=リースの峠よりヴァーミリオンの光を見ていた時、ルリは第二段階の解放をして大地に潜っていた。

 この大陸の緑と意思疎通を済ませるためである。

 地の底でルリは学んだ。桜花の緑たちと何が違うのか、この大陸でどのようにして緑は発達してきたのか。緑に敬意を示し、ただじっと声を聞き続けた。心を通わせ、歴史を学んだ。


 ルリがこのようにしたのは理由がある。

 

 彼女の力があれば、緑を操ることは可能である。しかし、植物にも意思はある。ただ無作為に鞭打たれて働くのと、信頼のおける者に付き従うのでは、あらゆる面で差が生じるのだ。だからこそルリは緑の声を聞き、信頼を育んでいた。


「なっ!?」


 地上ではレキが驚愕していた。

 何の前触れもなく、立っていた地面に穴ができ、下に落ちそうになった。火炎の力で浮かび上がり、離れたところに着地しようとすると、やはりその大地にも穴が開く。


「あいつかっ!?」


 レキが空へ舞いあがった次の瞬間、それらは一斉に穴から飛び出してきた。


「なんだこりゃ、なんで地面からこんなのが出てくるんだ」


 目を丸くする。

 このヴェルガ城は太古の巨石が散乱するジュガン平野に建っている。決して山や森の中に在るわけではない。しかし、今や大地からは無数の根が溢れ出てくる。根は巨人をも拘束できるほどの大きさであり、獲物を求めて大地を這いまわっていた。やがてレキのことを嗅ぎ取った根は、空に浮かぶ標的目掛けて一斉に襲い掛かった。


「大きさが変わっただけでやることは同じかよ。所詮は草だろうが」


 レキの両手から放たれた火炎が、根を包み込む。

 一瞬で炭になることを予想していたレキであったが、次の瞬間に彼女が見たのは、炎を弾き飛ばして迫る根であった。それは鎌首をもたげた蛇のようにしなり、ビュンと空気を斬り裂いてレキの体を打った。弾き飛ばされたレキは大地に打ち付けられ、思わず苦痛の声を上げる。


「な、なんだ、どうなってやがる」


 辛うじて立ち上がった途端、喉の奥から鉄錆の味が上ってきた。


「っが、がふっ」


 手で口を拭うと、真っ赤な液体が付着した。口から血を吐いたのは、随分と久しぶりのことだった。


「・・・・・・」


 血に見入っていると再び大地に穴が開き、そこから飛び出した根にレキの体は拘束される。


「ック、クククク」


 最初は呆気に取られていたレキであるが、やがてはこのような笑みを再び漏らした。


「おもしれぇ、これがてめえのとっておきかよ。ちょこまか逃げ回ったり、ちまちま隠れたりムカつく奴だ。決めた――てめえは地上へ連れ出してから()で殺す」



【おまけ】


☆主人公別、反応の違い


◼️シチュ

女の子の理由により、今夜は××ができなくなってしまったと恋人に断られたとき。



アヤメ


あからさまにしょんぼり。きちんと相手を気遣うが、どこからどう見てもしょんぼり。猫耳が出ていたらスコティッシュフォールドみたいになる。バレバレですけど? 相手が心の広い人でないとこの子とは無理



ソニア


笑顔でにっこり。そっかそっか、体大丈夫? じゃあのんびりしよう、的な対応をし、なんやかんやで憂鬱な気分も吹き飛ばしてくれる。誰より紳士的。弱点なしかこいつ。そういうカリスマ性に嫉妬してしまう人はこの子とは無理



アリス


あからさまにふてくされる。イライラしているため声をかけずらくなる。数分すると落着き、自分の態度の悪さを謝罪しようとするが、謝る切っ掛けがなかなか掴めずチラ見してくる。どうして君は誰より面倒くさいのか。この子も相手が心の広い人でないと無理

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