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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
最後の戦い篇
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白いサムライと赤い悪魔

 第七環境地区 東側城門前


 アーバン国の兵士、エアが搭乗するアイオーンが門を破壊してから十分が経過していた。

 ルリ達はすぐさま門を抜け第七環境地区へと足を踏み入れたが、そこで待ち構えていたのはメルリス騎士団達であった。

 攻防のいずれかに特化した能力を持つ騎士たちは、最後の砦となる第七環境地区にて牙を研いでいたのである。重戦車やべルセルク、ワイヴァーンなどを押し退けて進軍してきた反乱軍たちも、メルリス達には敵わないはずであったが。


『アイオーンが先陣をきる。君たちは後ろからついてくればいい』


 このアイオーンという機械兵が救いとなっていた。反乱兵たちの前に立ち、突き進む鋼鉄の兵士は、迫りくる弾丸や魔法を全て弾き返し、その武器で敵を一掃することができた。

 加えて東側にはアヤメ、ルリ、ソニアの三名。いずれも強大な力を持つ戦士である。


「くそっ、はなせ!」


 一人のメルリスが縛り上げられていた。それは縄ではなく、鎖でもなく、緑の香りが立ち込める蔦であった。


「怪我したくないでしょ、そこで寝てれば綺麗な体のままでいられるよ」


 ルリの袖から伸びた蔦がギリッと力を増した。緑の表面から飛び出た針がメルリスの首筋に突き刺さると、「あっ」と悲鳴を上げた後、泡を吐いてその場に倒れ伏した。


「はぁ」


 ため息をついたルリのもとにアヤメとソニアがやってきた。


「ルリ」


「アヤメちゃん、ソニアさん。大方片付いたね」


「ああ」


「ルリちゃん、あのメルリスの子」


「生きてるよ。気を失ってるだけ」


「ありがとう。ルリちゃん優しいね大好き」


 ソニアに抱きしめられたルリは曖昧な表情をしつつ頬を染めた。


「別に。力を温存してるだけだし」


「またまたぁ」


「いいよもう。ほら、とっとと先へ進もう?」


 今や城は目前。ルリの心は逸っていた。

 クリステルを攫ったエルフリーデ。その胸に刀を突き立てるため、この数か月修行を積んできた。その目的がもうすぐ達成されるのだ。そのために力を温存していたのは事実である。なるべく体力を使わず、最小の攻撃で敵が倒れてくれるのならば是非もない。

 ソニアが頭を撫でてくるのを煩わしく思い、手で払いのけようとした時。高らかなに火炎が吹き上げる音が響いた。次に目を向けた瞬間、一機のアイオーンが炎上していた。

 アイオーンは糸を斬られた人形のようにガックリと膝を折って動かなくなった。エンジンが燃えて黒々とした煙が上がっている。


「“炎に抱かれて良き死への旅路を”ってな」


 空から降り立った少女はそうつぶやいた。その少女はソニアと同じメルリスの衣を纏い、その上体全体には赤黒い火炎を纏っている。突然炎上したアイオーンはこの少女の仕業と見て間違いなかった。

 これまでメルリス達や近衛兵団質を怯えさせていたアイオーンの一機を屠った。だが、少女は勝鬨も上げず、悦に入るでもなく、ただ静かに不気味な笑みを浮かべたのみであった。


「レキ」


 ソニアが言った。

 前日の作戦会議で配られた資料の中でルリもその姿を目にしていた。

 クリステルの妹であるアウレリアを護衛している少女。名前はレキ、地獄の炎を自在に操るのだとあった。


「さて、ここで一番やばいのはこの機械じゃねえな――お前らだ」


 レキはルリ達を見た。


「久しぶりだなソニア。てめえには言いたいことが山ほどある」


ソニアは眉をひそめて、首を横に振った。


「ねえレキ。通してくれないかな? 私たち先へ進まないといけないんだ」


「裏切り者が・・・・・・だったらあたしを倒していけよ。エルフの光で地獄の力を抑えてみろ」


 ソニアがファルクスの剣を握るのを見たルリがそれを制した。

 ソニアを制したルリを、レキもまた見つめた。


――この人、厄介だね


 それが正直なルリの感想だった。

 ルリはアヤメとソニアの戦い方を見ていた。第五環境地区からここまで一緒に進んできてわかったが、彼女たちはなるべく敵を殺めないようにしている。人は殺めるよりも倒す方が遥かに難しい。それは敵の力が強ければ強いほどに難しくなる。

 どうやらレキはソニアを殺す気満々のようであるが、ソニアにその気はない。そうなれば重傷を負うか、死ぬか。


 ここまではルリもアヤメ達を見習って、なるべく敵を殺さないように努めてきた。だがそれにも限界があることを知るべきだ。二人の戦士にはそれができない。


「アヤメちゃんとソニアさんは先行って。この人、あたしがやるよ」


「ああ?」


 レキがぎりっと歯を噛みしめる。


「アヤメちゃんはエルフリーデ、ソニアさんはアリスと戦うんでしょ? それならこんなとこで時間を無駄にしちゃだめだよ」


「いや、ここは三人で同時に――」


 言いかけたアヤメを、ルリは目で制してかぶりを振る。


「三人そろって足止め喰らってたら元も子もないよ。だったらあたしがやる」


「ルリちゃん」


「心配ないってば、あたしもエルフリーデと戦いたいんだから。すぐ終わらせていくよ。ね? いいでしょ? やらせてよ」


「・・・・・・アヤメちゃん行こ」


 何事か言いかけたアヤメの手をソニアが掴んだ。


「ソニアさん、さっさとアヤメちゃん連れてって」


「わかった。ありがとうルリちゃん」


「お、おいルリ」


 ソニアは一方の手でアヤメを抱え、もう一方の手でファルクスの剣を空に掲げた。剣は猛烈に眩い光を生み出した。それはレキへの目くらましであった。

 光りが収束し、目が慣れ始めた頃。ソニア達は既に上空へと飛び去った後である。


レキが空へ目を向けていると、ルリはくすりと頬笑む。


「お姉ちゃんたちはあまあまでさ、ここはあたしが相手になるよ」


小刀をくるくると回すルリは言う。

それを見てレキもまた微笑むのだった。


「なんもわかってねえみたいだな。ケツ丸出しで火に飛び込んだのはあいつらの方だ。あの先に誰が待ってるかも知らないで、おめでたいやつらだよ。お前もな」


そういったレキが周囲一体を焼き尽くす勢いの炎を身に纏う。


地獄の炎(ヘル・ファイヤ)。お前は骨も残さねえぞ」


「はぁ。あたしとあなた、相性最悪だね。ソニアさんに任せようと思ってたのに」


ルリはモノノケの力の解放を更に強めた。


「アヤメちゃんもソニアさんも戦場で相手に情けかけちゃうからさ。あなたとは相性最悪。あたしは敵に情けかけたりしないし、そういう意味ではあなたと相性抜群・・・・・・まあボヤいてもしかたないね。やろっか?」


「ボケが、そんな小さい体であたしとやろうなんて思い上がりやがって」


「手足をもぎ取られても、まだ同じことが言えるかな? 楽しみだよ」


二人の戦士はほぼ同時に地を蹴り、ぶつかり合った。

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