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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
最後の戦い篇
135/170

アリスの戦い

アリスの精神世界のお話になります

「っく!?」


 熱い、熱い熱い熱い。

 胸が苦しくて息ができない。こんなに口を開けて息を吸い込んでいるのに、まるで肺に届かない。溺れる、胸を焼くこの熱い空気に、体が呑み込まれてしまう。


 やめてよ、もう。

 どうして邪魔をするの?

 せっかく、また人を好きになれたのに。

 アウレリアと生きていこうって決めたのに。

 その望みは叶わないの? どうして、どうしてよ――


『マリア』


 気づくと、私はあの刑務所の中にいた。

 屈辱を味わい続けたあの小さな部屋に立っていた。

 部屋は何もかもあの頃のまま。()えた臭いがするし、狭くて薄汚い。小さな四角い窓から見える空は、しょっちゅう灰色の雲で覆われていた。寝心地の悪いベッドから、よく空を見ていた。


 そうちょうどあんな風に。


 そのベッドには私が腰かけていた。


 ここに来たばかりの十二歳の頃の私。


 金色だった髪の色が抜け、灰色になってしまった。温めれば元の色に戻るかもしれないなんて思って、ずっと手で髪を撫でていた。そんな無駄なことを、ずっと続けていたのだと思い出した。

 目の前にいる幼い私は髪を撫で続けていたけど、やがて諦めて泣き出してしまった。


『マリア、マリア』


 何度も呟いて、涙で腫れた目元を擦っている。

 私は生唾を呑み込んで思わず後ずさった。と、踵が壁に触れて音を立ててしまった。

 それに反応した、幼い私がこちらを見た。

 驚いたようで泣きはらした目を大きく広げだが、すぐに眉をひそめた。


『あなた』


 ベッドを下りて、こちらへ歩いてくる。

 私は動けない。


『マリアのためにずっと頑張ってきたんじゃなかったの?』


 小さな手が私の手を痛いくらいに掴む。

 力があれば握りつぶしてやるのに、と。そんな目をしながら。


『マリアのためならなんだってするって、そう思ってたのに。どうしてあんな、小さな女の子なんか選ぶの』


「女の子って、アウレリアのこと?」


『そうよ! これじゃマリアがかわいそう』


 うぅ、としゃくりあげながら、幼い私が私を睨む。

 わかっている。アウレリアを選んだということは、マリアを裏切るということだ。

 そんなことわかりきった上で、私はアウレリアを選んだ。


「マリアのために、そう思って生きてきた。何人も殺したわ・・・・・・それでいいと思ってた。目的のためなら仕方ないって、人間なら誰でもそうだって。憎かったわ、人間すべてが憎かった」


『それでいいのよ、憎いと思えるその心が私たちの力』


「違うのよ」


『なにがよ!』


「私、アウレリアを好きになったのよ。この私が人を好きになるなんて。だから、憎むばかりが人じゃないって、もう一度だけ信じて生きてみようって思えたの」


『なにを言ってるの?』


「それを解らせてくれたあの子と、生きていきたい」


 幼い手のひらが力を帯びた。

 十二歳の私の目は、悲痛に歪められた。


『ムリだわ』


「ムリ?」


『私たちはここで黒く染められたのよ。泥水が一滴でも落ちたワインは、もうワインではなくて泥水なの。もう二度と、元のように生きるなんてできっこないんだわ』


 握られていた手が離されると、視界が暗転した。驚いて身を引くと、背後にいた誰かにぶつかった。そして振り返る間もなく、細い腕が伸びてきて私の首に巻き付く。


「うぐっ!」


 いつもなら裸締めされるくらいわけないのに。今の私にはこれを振りほどく力が残っていない。


『うふ、愚かね』


 力が底をついた私を嘲笑う吐息が耳元にふりかかる。


「誰!?」


『泣き虫の私とは交代よ。今度は私と話をしましょう』


「あんたも」


『そう、私はお前。さっきの小さな女の子も私であり、お前だったものよ』


 エルフリーデから力をもらったばかりの私。銀色の髪と、翡翠色の瞳、そして闇の力を得て、アリスとなったあの日の私。

 背後にいるもう一人の自分の腕が万力の如く首を締め付け、とても振りほどくことができない。これほどの力を持っていながら、花にでも話しかけるみたいに声色を使っているのが不気味だ。獲物を前に牙を見せる私は、いつもこんな声で話していたのか。


「過去の自分なんかに用はない」


『まあそう言わないで、少し話をしていきなさいなフェリシア』


「フェリシアですって」


『お前はもうアリスではなく、負け犬のフェリシアよ』


 ぎゅうっと力を込められ、思わず「あぐっ!」と苦痛の声が漏れた。

 私の声を聞いて、背後にいる私は満足そうな吐息を漏らす。


『バイズも失い、こんな拘束からすら逃れられないなんてね――お笑いじゃないの』


「私は――」


『私は!・・・・・・私はかつて躍らされる道化だった。時代のうねりという汚らわしい舞台の上、来る日も来る日も泣きながら踊り、存在しない神の息吹を願いながら、いくつもの夜を超えていった』


 過去を語る私は、どこか恫喝めいた暗い声を発している。

 ふいに首の拘束が解けたと同時、背中を蹴られた私は血だまりに倒れ込んだ。その血は地面に転がっていた数名の男たちのもの。頭が破裂していたり、体が半分に割けていたり、ほとんど原形をとどめていない死体もある。


 ここは刑務所の中庭だ。目の前で死んでいるのは、初めてバイズを使って殺した男たち。


『口にするのも汚らわしい連中――こんな奴らが世の中にはまだ溢れかえっている。神に祈りを捧げ、救いを求める善人が虐げられる。今も世界のどこかで起こり続けている。

今日もどこかで、フェリシアやマリアのように虐げられている人がいるんだわ。マリアは――マリアは男達に嬲られ、苦しみに苦しんで死んでいった。感染症対策だとか言って死体は布にくるまれて燃やされた! マリアはこの世に欠片も残さず灰にされたわ!

どうして彼女がこんな目に遭わなければならなかったの? 全能の神がいるのなら、どうして助けてくれなかったの! なぜなら、神は外側ではなく、私の内側に宿っていたから。神である私が、力に気づけなかったからよ』


 私は私に抱かれ、血だまりの中からすくい上げられた。


『今は全てを理解している。この世の全てを正せるのは私とエルフリーデにしかできない。思い出しなさい。なんのためにこの力を得たの? マリアのためだけじゃない。間違った世界を正しくするためだったでしょ? あの皇女と一緒にいて、世界は今よりもよくなるの?』


「・・・・・・わかってる、よくわかってるわ。全てを変えることのできる神の力。それを使うことこそが世界救済に最も近いものだってことも。けど」


『けど?』


「力で強引に変えるのではなく、中から人の心を変える。それが人の強さだと思い知ったの。あの子は私を変えてくれた。人間の中に強さを見た――それを教えてくれた子に力を貸してあげたい。人間は正しく進めるかもしれない、良き指導者が導けば」


『・・・・・・耳を疑うわ。お前はもう、私ではないのね』


 そっと、抱きしめられた。締め付けるわけでもなく、本当に、羽に包まれるように、そっと。


『思い出しなさい。闇を、闇の力を』


「闇は捨てた」そう言いたいのに、過去の私に抱きしめられると、意識が朦朧としてきた。

まるで、力が奪われるような、そんな感覚――


『フェリシアがきちんと元に戻るまで離さない。全てが終わるまで、ずっとここにいなさい。忘れないで、この星の人類を滅ぼし、再び平和な世界を作ることが私たちの最初の願いよ』



皇女の猫 主人公 [精神攻撃耐性ランキング]



第一位:アヤメ


☆精神は誰よりも強め。鋼のメンタル。なぜなら主人公どから!(どん)

ただし、クリステルが絡むと良くも悪くもひっくり返る可能性を秘めている。


第二位:ソニア


☆精神かなり強め。主人公の中で唯一の光属性であり、この話の良心。光のエルフは伊達じゃない。どのような状況下であっても、何が正しくて何が間違いかを見極められるできる子。百人のっても大丈夫!


第三位:アリス


☆まるでダメ。幼少期のトラウマのため、非常に不安定。障子紙程度の精神力。サディストであるが、だからこそ打たれ弱い。容易くつけこまれ、操られるという失態を犯す。ほんまつっかえ!


と、設定ノートをさらけ出してみました。


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