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皇女の猫【抑制版】  作者: WAKA
展開篇
117/170

アリスとエルフリーデ 2

 アリスにはマリアを蘇らせるという切実な願いがあった。

 その願いは、新たな世界の創造を目論むエルフリーデに協力することで達成される。共にヴァーミリオンの力を解き放てば、思うままの世を創ることができるのだ。

光と闇、本来は敵対するはずの二人のエルレンディアが手を組んだのは、互いに利害が一致したためである。


 マリアへの想いが強いことを知っていたエルフリーデは、アリスが考えを変えることなどあり得ないと思っていた。これまでアリスはどんな命令も受け入れ、何人もの人間を殺してきた。それはマリアへの想いが極みに達しているからこそである。

 真の目的、もう一度マリアと会うため。命令の否定は、即ちマリアを否定することになる。

 アリスにそんなことができるはずがない。


「がっ、がふっ」


 壁に叩き付けられたアリスは、無残に地を這いながら吐血した。

 カツン、カツン、と大理石の床を鳴らして歩くのはエルフリーデ。

 明眸(めいぼう)とは、罪を生むものであるのか。

 皇女であるアウレリアを篭絡(ろうらく)するはずであったアリスが、いつしかアウレリアの美貌に深く心酔し、魅入られてしまった。


 その果てに、計画の中止を訴え出るなんて。


「お願いよエルフリーデ、私はアウレリアと一緒にいたい」

「アリス」


 驚嘆よりも怒りが湧きおこり、アリスを吹き飛ばした。

 血を吐きながら立ち上がるアリスには抵抗する力も残っていないようである。

 人を愛し、闇の力を失い始めている今のアリスはただの人間と同じ。


「あなたがそんなことじゃ、ヴァーミリオンが起動できない。マリアには会えないわよ?」

「・・・・・・それでも、それでもいいのよ。もう誰かを恨んだり、殺したりするのは疲れたの」

「信じられないわ、これまでしてきたことを水の泡にするつもり?」


 少し戸惑いを見せたアリスだが、思い切って言ってのけた。


「私は死んだ人間が見える、けどマリアはあれから一度だって私に姿を見せてくれないの――それがどうしてなのかずっと考えていたわ。アウレリアと一緒にいて、温かい感情に触れて分かったの。マリアは今の私を否定している、手を血で染める生き方は駄目だって。だから会いに来てくれないんだわ」

「あなたね」

「それに」

「なに?」

「私にはもうアウレリアを殺せない」


 それは明らかな恋の告白。

 力がないはずのアリスの瞳が輝いている。それは闇のエルレンディアが持つには、危険すぎる光であった。


 エルフリーデの胸中に天姫の言葉が蘇る。


 愛を持つ人は強い。


 脅威と認識していなかった皇女が、自分の片腕を骨抜きにしてしまうなど誰が予想しえただろうか。


「この愚か者!」


 エルフリーデは力の限り叫んだ。

 怒りである。

 ヴァーミリオンを手に入れさえすれば、全て事は思い通りに運ぶと思っていたが、こんなところで足を取られてしまうとは。


「今更計画の中止はないわ。私はね――」

「エルフリーデ、わかって」

「私はお前が許せない」


 瞬間。

 エルフリーデが手をかざすと、宙に浮いていたヴァーミリオンが輝いた。そこから硬貨ほどの欠片がはじけ飛び、アリスの額に直撃した。


「あっ! っく、ああああ!」


 弓で射られたかのように顔をのけ反らせたアリスから、悲鳴が上がる。


「ヴァーミリオンがあれば全て思い通りよ。アリス、あなたを闇のエルレンディアに戻してあげるわ」


 アリスの額に埋め込まれたヴァーミリオンの欠片が輝く度、アリスは頭を抱えて床の上を転げ回った。


「抵抗しない方が楽よ? 全てを忘れ、感情に実を委ねなさい」

「やめっ! やめて! ぐあああ!」

 


 さあアリス、元のあなたに戻るの


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