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第84話 再度、樹林都市へ

 教国を後にして数日、ガードナー私設狩猟団は大陸樹幹街道を一路西へ、車両の群に揺られ樹林都市を目指して直進する。そろそろ辺りは夕闇に包まれ、衛星都市“エント”の街門が見えてきた。

 SF搬送車(キャリア)人員待機室(キャビン)にジョンの姿はあった。そこに少女達の姿は無く、同乗しているのは、ガードナー私設狩猟団SF部隊所属の女言葉を使う美青年、ジェスタ=ハロウィンだけだった。少女達は非常時の為、コクピット待機中となっている。


「……で、どうなったのかしら?」


 ジェスタは声を潜め、ジョンの耳元に囁き問い掛ける。少年は首を傾げた。


「いったい何の事さ?」

 

「いやねえ、とぼけちゃって。勿論、お嬢とのことよ!」


 下世話に笑って青年は言い放ち、ジョンは腕を組み記憶を漁る振りをした。


「別に何もないよ。あ……でも」


「あ、やっぱり何かあったわね! 白状しなさい」


 言い淀んだ少年の肩を掴んで青年は覆い被さるようにしながら言った。


「……ええと、その、エリスから告白された。けど……それだけだよ? 別に他に特には……」


 そう言って横に首を振ったジョンに、隣りに座り直したジェスタが微笑ましそうに笑い掛ける。少年は青年の浮かべる笑顔に不思議そうな顔をした。


「ジェスタ、どうかしたの?」


「うん、いや、青春だなあ、とな」


 不思議そうな顔で問う少年に、青年は目を細め男言葉で返していた。


「あ、男言葉だ」


「良いだろ? 俺が男言葉(こっち)で話したってさ。ジョン、お前さんも俺がカマじゃねえのは知ってんだしよ」


 指を指して指摘するジョンに、ジェスタは自嘲気味に答え、少年は頷いて青年に肯定を返した。


「まあ、そうだけどさ。ジェスタがそっち系じゃないって知らない人って、流石に狩猟団には居なそうだよね?」


「ああ、そうだな。別に隠しちゃいねえし」


 ジョンの疑問に青年は軽く頷く。


「たまには男言葉で話さねえとな。オネエ言葉ばっかだと忘れそうだしよ」


 青年と会話を交わしながら、ジョンは以前から抱いていた疑問を口に出していた。


「そう言えばさ、聞いてもいいかな?」


「ん、何をだ? 言ってみ?」


 ジェスタは笑みを向け、少年に言葉の先を促す。青年に促され、少年は済まなそうに口を開いた。


「訊いて良いか解らないけど……あのさ、ジェスタはなんでオネエ言葉で話すの? あ、答え辛いなら別に答えなくて良いよ?」


「なんだ、そんな事か……構わねえよ。ま、暇だしな。ちょいとお兄さんの昔話だ。耳をかっぽじって聴けよ? 大した話じゃねえが」


 おどけた様子で少年に向かって大袈裟に手を広げ、ジェスタは自身の昔語りを始めた。





 昔の話だ。つっても十年前の事だがな。一人のSF乗りが居た。名前をジェスタ=ハロウィン。そう、お前と今現在話しているこの俺さ。当時はガードナー所属の今の謙虚な俺と違ってな? 吹けば飛ぶような雑務傭兵(バイプレーヤー)だった。だが、自分で言うのもなんだが、SFやDSFの操縦技術は当時から卓越していたわけだ。良くも悪くもそれがいけなかったんだろうな。一芸がある以上、傭兵としては仕事に事欠かなかったぜ。

 雑務傭兵を始めて一、二年、今のお前と同じ歳の頃さ。俺は、ガードナー(うち)までとは言えないが、当時それなりに名の知れていた狩猟団に引き抜かれた。入団して最初の一年は無難に役割をこなしていたんだ。だが三年、四年と経つ内に俺は増長し、その狩猟団内で孤立していった。だが俺はその頃には団のエースになっていた。団長は俺を切りたくても切れなくてな。さぞかし臍を噛んでいたんだろうさ。その一方、俺は遣りたいようにやっていた。今にして思うと、まあ酷いものだったな。自分の乗るSFは団の資金で特別製、団に居ためぼしい女には片っ端から手を付けていた。そしたらまあ、団が崩壊した。ある夜の事さ、情婦ばかりか娘まで俺に手をつけられていた事に気付いた団長が銃を手に俺の使っていた部屋に押し入って来た。自分の娘と情婦を撃ち殺した後で。

 いくら銃を使おうが現役のSF乗りの俺と、過去はどうあれ事務仕事にかまけていた団長とでは勝負にならなかったよ。簡単に俺に取り押さえられ、銃を奪われた団長は俺の奪った銃の銃身を咥えると俺の指を押し込んだ。

 呆気なかった。軽い音がして、頭から血を流して団長が死んで、俺は何故だか、その後直ぐに団本拠に踏み込んで来た官憲に捕らえられ、そのまま殺人者と疑われ、狩猟団の存在した都市を追われた。

 使っていた口座は凍結され、団所有のSFは置いて来ざるをえず、無一文で。また、俺は雑務傭兵に逆戻りさ。まあ、殆ど自業自得なんだが。言い訳していいなら、誘って来たのは全部、女達の方からだったんだぜ。ほいほいその誘いに乗ったのは俺の方だけどよ。まあこの(ツラ)が悪いんだろうが。

 それから、俺は大陸中を放浪した。黙っていようが女が寄って来るから、避ける為に女言葉で話すようにして、四、五年前かこのガードナー私設狩猟団の門を潜るまでな。





「……とま、こんな所かね……何か疑問は有るか? 今なら何でも話してやるぞ」


 目を閉じ吹っ切る様に笑うと、ジェスタは少年に視線を向ける。ジョンは青年へ真っ直ぐに視線を返す。


「……あのさ、ジェスタはその人達の事、どう思っていたのかな?」


「んー、当時は好きだったぜ? でも、現在(いま)深く考えると違うな。性欲が満たせるならどうでも良かった。そんな所だろうさ。当時は俺も青少年だったんだぜ」


 少年の真っ直ぐな質問にジェスタは真剣な眼差しで答えた。


「そっか……でも、じゃあ、辛かったね。ジェスタ」


「…………そうだな。辛かったのか、俺。だけどそれ言われたの二度目だぜ。ガードナーに入団する時、アーヴィングの爺さんにも同じような事を言われたよ」


 ジョンの言葉にふむふむと頷いた青年は、ニヤリと笑い少年にガードナー私設狩猟団団長から同様の指摘をされた事を明かした。

 不意に緊急警報が人員待機室(キャビン)内に鳴り響く。ジェスタは立ち上がろうとしたジョンを制して、立ち上がると壁面のコンソールを操作、運転席へ通信を開いた。


「こちら人員待機室のジェスタ。状況をお願い?」


 運転席に座るベルティンから即座に返事が来た。


「おう、ベルティンだ。ポーン種が二体出やがった。コクピット待機のお嬢とレナが出張っている。まあ、直ぐに終わるだろうさ。だが、何かあったらお前らも出てくれ」


 ジョンは振り返ったジェスタに頷き、青年は了承した旨をベルティンに伝える。


「ワタシもジョンも準備OKよ! コクピットに移るから、何かあったら呼んで頂戴」


「ああ、とりあえず搬送車(クルマ)はここで停止させる。レーダーに何か感知したら伝えるぜ」


「ええ、じゃ頼むわね?」


 ジェスタはジョンに人員待機室の扉を指差した。


「ほら、ジョン行きましょ。コクピット待機に任務変更ね」


「うん、行こう!」


 二人は人員待機室を後に、それぞれのSFのコクピットへ向かう。


『お待ちしておりました。ご主人様(ミロード)。“銀腕の(セイヴァー・)救世者アガートラム”全システムを起動します』


 少年を機体内に納めた“救世者セイヴァー”が瞬時に完全駆動状態に入る。ジョンは完全同期まではせず、自らの出番が来ないで無事に終わることを願った。ジェスタ機から通信が入った。


『ジョン、さっきの話は忘れてね。少なくとも、あの娘達はしないで欲しいわ。お願いね!』


 一方的にそう言って青年は通信を切り、ジョンは夕焼け空に視線を向けた。

 



次回、9/28更新予定

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