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第80話 夜明けの輝き

 ジョンのSF“救世者セイヴァー”が巨人の腕を駆けて行き(しばら)くして、巨人の本体付近に太陽のような火球が発生、巨人は唐突に自身の頭の周囲に無数に生やした腕で巨大な籠を編み込み“救世者”を捕獲してから、コリブ湖教国側湖岸への巨人の攻撃が止む。

 湖岸のSFからなおも放たれる砲撃を、巨人は腕を動かして防ぎはしているものの反撃さえ止んでいた。


「撃ち方止め! 巨人の動きがない。様子を見る。全隊、隊長騎はセンサーを全力稼働、巨人の動きを注視!」


 アーネストは巨人の動きが消極的となったのを機に、効果を挙げていなかった弾薬の消費を抑える為、神殿騎士団の攻撃を停止させ、一般騎に較べセンサーの増強されている各隊隊長騎へと巨人への観測を命じる。

 アーネスト達の見据える先、巨人に大した動きはなく、神殿騎士団以外の狩猟団や傭兵団のSFが散発的に放つ砲撃を防ぐのみでただ時間ばかりが(いたずら)に過ぎていく。そして夜を迎え、空が暁に染まる頃、空間を歪める何かが巨人の腕が編み上げた籠を内から突き破り、空の彼方へと消えて行った。

 アーネスト達の視線の先で巨人が頭を覆う腕で編んだ籠から粒子となり、見る間に崩れ落ち始めた。

 コリブ湖に輝く分子機械粒子が雪のように舞い落ちる中、脱力した人型の影、“救世者”が、砕け散り行く巨人の残骸を追い越して湖面へと落下してゆく。

 何処からともなく飛来した数枚の三角形の金属板が“救世者”の周囲を飛び回り、舞い落ちる分子機械群を操作、球状の膜を形成し内部の機体を保護、落下の衝撃を吸収し着水させると来たときと同じ様に何処かへと去っていった。

 湖面に仰向けに降りた“救世者”に湖岸に居合わせた者達から歓声が上がる。


「静まれ! 騎士団コリブ湖詰め所の輸送艦は無事か? ならばこちらへ船を廻せ。直ちにあの機体を回収する!」


 アーネストは周囲でざわめく神殿騎士達を一喝、湖面に浮かぶSFを回収する為、壊された格納庫の奥で辛うじて姿を保っていた一艘の神殿騎士団所有のSF輸送艦を操艦に長けた騎士団員に廻させる。


『マイヤー卿、わたしだけでもご一緒させて戴いてもよろしいでしょうか?』


 暫く経ち、神殿騎士騎の機体を降り、従騎士を伴い、目の前に廻されて来たSF輸送艦に乗り込もうと、艦側舷に下ろされたタラップに足を掛けたアーネストの背中に、ガードナー私設狩猟団SF部隊長エリステラ・ミランダ=ガードナーの声が掛かる。アーネストは足を戻して振り返り声を飛ばしてきたSFを見上げた。


「──ジョンは、あの機体のパイロットは貴女の部下になるのだったね? よろしい、貴女だけならば乗船を許可しよう。機体を降りてから輸送艦に乗り込んでくれ」


『ありがとうございます! アーネスト騎士団長!』


 喜色の浮かんだ少女の声が返り、少女の機体(テスタメント)がその場に片膝立ちの待機姿勢を取る。頭部ユニットが肩上の装甲毎に前方へと倒れ、バックパックが下方へスライド。コクピットハッチが露出した。その扉の内から現れた肢体の曲線も露わなパイロットスーツの美少女に周囲からの視線が集まる。

 アーネストは自分付きの従騎士(スクワイア)の少年に目配せし、彼から渡されたコートを少女に手渡した。


「あら、ありがとうございます」


 にっこりと笑顔で受け取ってコートの袖に腕を通し、厚手の布地に身体を隠したエリステラに周囲の男性陣から悲嘆の声が漏れる。その声に不思議そうな顔で周囲を見回して、エリステラは首を傾げた。


「あら、あの……皆さん、どうかされました?」


「ガードナー殿、さあ、こちらへ」


 アーネストは周囲の男共を黙殺し、きょろきょろしているエリステラをエスコート、少女を連れ輸送艦から下ろされたタラップを昇って行く。


「あの……よろしいのでしょうか?」


「気にしなくても全く構わないぞ。放っておけよ、あんなバカ共……。──こっちだ、真っ直ぐ艦橋(ブリッジ)まで昇ってくれ、狭くて済まないがね」


 後ろを気にするエリステラに、素に戻ったアーネストは毒吐き気味に言い、艦内へと少女を先導して歩く。狭い艦内通路を過ぎ、艦橋の狭い扉を潜り抜けた。


「ようこそ、ガードナー私設狩猟団SF部隊隊長殿! 我が艦の船員一同、貴女を歓迎します。小官がこの艦の艦長ブリッグスであります。短い間でありますがお見知り置き下さい!」


「エリステラ嬢、貴女方の勇名は聞き及んでおります。後でサインください!」


「あ、おま、ずりぃ。オ、オレ、オレにもサインを! 貰えたら家宝にします!」


 艦橋詰めの一人がバカを言い出すと、一人また一人とバカが感染していく。アーネストは眉間に皺を寄せ、頭が痛そうに眉間を揉むと船員達ににっこりと毒を吐いた。


「艦長以下、ここにいる船員全員。今後半年の間、教国全支部の男子トイレ清掃を命じる。舐めても大丈夫なように掃除しろよ? 実際に舐めて貰うからな?」


「……な、団長殿それは、貴様等、貴様等なんということをしてくれやがった!」


 アーネストの言葉に顔を真っ青にしたブリッグスが、恨みがましく船員達(馬鹿者共)を睨み付ける。


「艦長、それから船員共! 一度だけ、貴様等に挽回のチャンスをやろう。お前らくっせえトイレ清掃、嫌だよな? なら、どうすればいいか、解るな? 無駄口は叩くな、動け!」


謹聴いたしました(yes,your )団長閣下!(majesty)


先程までのふざけた様子がなりを潜め、船員全員が自身の仕事に邁進し始めた。エリステラは唯一人、その場の雰囲気から置いてきぼりにされ、ぽかんとしていた。SF輸送艦はコリブ湖を滑らかに進み、湖面に浮かぶ“救世者”の下へ向かい水上を走る。

 やがて、レーダー員が“救世者”への最接近を報告した。


「艦長! 団長閣下! 目標SFとの最接近しました。水上作業腕(アーム)展開可能範囲内に補足。あのSFの出迎えをされる方は甲板へお願いします!」


「報告御苦労、良かったな? 罰清掃は取り止めだ。喜べよ? ──ガードナー嬢と俺は甲板に出て、アイツを出迎える。艦は作業終了までこの地点に固定、俺から別命あるまで船員は待機しろ! 勿論、緊急時は艦長の命令を優先でな。ガードナー嬢、行くぞ。甲板はこっちだ」


「は、はいっ! あ、待ってください。マイヤー卿!」


 エリステラは艦橋詰めの船員達に一礼、さっさと先を歩き出したアーネストを追い掛け、艦内通路を駆け出して行く。

 照明に照らされる艦内通路を進み、甲板から覗く朝日に灼かれ、薄暗い艦内通路との光量の差にエリステラはしばし眼が眩んだ。甲板作業員達がアーネストを見付け、彼に敬礼を贈っている。

 アーネストが敬礼を返すと、頭を下げて作業に戻った彼らの操る二本の水上作業腕の先に付いた巻き揚げ機(ウィンチ)が湖上からゆっくりと“救世者”を引き揚げていく。

 左腕のみ銀色のエリステラの知る“救世者”が、右腕に何かを大切そうに抱えたまま引き揚げられ、甲板上に載せられた。

 広いSF輸送艦の甲板上にSF、“救世者”が片膝立ちの待機姿勢で静かに座っている。そのSFに駆け寄ったエリステラは以前、少年から教わっていたコードを“救世者”の脚の点検用操作盤(コンソール)を開いて入力、“救世者(セイヴァー)の頭部ユニットが首の付け根部分から前方に倒れ、バックパックが下方へスライドしコクピットハッチが露出、開放された。同時に右手が脱力して開き、中に護られていた存在が姿を現した。

 

次回、9/20更新予定

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