表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/238

第78話 救世者3

 自身の攻撃により巻き起こした爆風に跳ね上げられ、宙を舞う“銀腕の(セイヴァー・)救世者(アガートラム)”のコクピット内部で、少年ジョン=ドゥは慌てた様子もなくコントロールグリップとペダルを操作、巨人の腕を疾走した時から稼働したままの機体背部と臑部の推進器(スラスター)を用いて姿勢を制御、騎剣をカウンターウェイト代わりに振り、体勢を安定させる。未だに燃え続ける二つの火球を後目に、次の足場となる巨人の腕に当たりを着けて、その場から短距離空間転移(ショートジャンプ)、ほんの数mの距離を上に移動、幾つものまぶたを開き無数の眼球を覗かせる肌の上に降り立ち、そのまま巨人の腕を走り出す。巨人の本体は爆発によろめきはしたものの、倒れる事無くその場に踏みとどまっている。“救世者”の放った二発の光弾は巨人の生やした腕に阻まれ、巨人の至近に生み出した火球が体表を灼くもその命までを奪うまでに至らない。

 火球を大きく迂回した眼を開いた指先が“救世者”を、その内のジョンを滅ぼすべく四方から襲い掛かって来る。


「……マズいかな? まあ、やるだけだけどさ!」


『ジョン、六時の方向、(ギムレット)型五、11時の方向から(ハンマー)型三!』


 神王機構が索敵情報を告げる前に、投針(ダート)を放ち、前方の指を牽制、そちらよりスピードの速い錐型へと向き直り、背に触れる寸前にまで迫っていた錐型の指を身に纏った力場フィールドに包んだ折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)の刃を一閃、騎剣を振る動作のまま一回転して元の向きへと向き直り、振り上げた騎剣に引かれるように巨人の腕を踏み切って跳躍、先頭の槌型を左右に両断、残る二指毎に斬り払う。そして、直ぐに追加が寄越された。いつの間にか、二つの火球は消えている。


『接近する順に四時、一時、九時、六時、十時の方向から型混合で六!』


「素直に全方位って言いなよ! 神王機構、“神王晃剣(クラウ・ソラス)”発動準備! “銀色の左腕(アガートラム)”展開! 斬り裂け!」


 回りくどい神王機構の言い方にぼやきながら、少年はグローブに覆われた銀色に輝く左小指の爪へと視線を送り、機体左腕の金属帯を解いて変形させ、“神王晃剣”の発生形態に変え振り抜いた。

 光の奔流が迸り、少年の駆る“救世者”を取り巻いていた巨人の指先が一掃される。巨人の下へと走り出す“救世者”はまたも直ぐ様に周囲を取り囲まれ、そして、翻った極光が再度一掃した。


『ジョン、ハイペース過ぎる。そのままでは君は終わるぞ! 変化に……気付いているだろう?』


「……僕はさ、みんなのため、なんて言葉じゃ動けない。顔も知らない誰かのためじゃ、僕は動こうとすら思えない。僕は僕のため、知り合いになってくれた人たちの顔を曇らせないためになら走り出す。走り出せる! 僕は僕のままで居たい……だから今、僕は走る。あの巨人は存在するだけで僕の知り合いの誰かの顔を曇らせる。──だから、終わらせる──僕の……この手で!!」


『……相対距離残り五千、そろそろ本体と接敵だ。だが、焦るな』


 何を言っても無駄と諦めたのか、神王機構はナビゲータ役に戻り、ジョンは深呼吸を一つ、“救世者”を空中へと躍らせた。跳び出し様に騎剣を一閃、足場にしていた腕を斬り落とした。火球は消えたが影響は未だに残り、気流が乱れその空間にただ存在する事を許容しない。

 巨人が身体に開いた眼ではなく、顔についた眼で“救世者”を捉えた。人型の戦闘機械と遥かに大きな人型の獣との視線が絡む。


「まさか、そのままだなんてね。……ベン・ブルベン!!」


 フォモールは双剣が縦横に刺さる顔を気にした様子もなく、大きく口を開いて“救世者”へと咆哮を上げる。腕部を無くした姿で巨人の頭部へと収まっていたベン・ブルベンが咆哮を上げた次の瞬間、両腕が見る間に伸び出し、その先にはくの字の形の内側に刃のついたククリナイフ状の刃が生えていた。

 空中で短距離空間転移を繰り返し、“救世者”は巨人の指を避け、その頭部を目指す。近くで見ると巨人の胸部は少年の攻撃に焼け爛れ所々黒焦げになり、場所によっては明らかに炭化していた。

 接近する“救世者”へ向けて、ベン・ブルベンは掌替わりの刃を切り離し投擲、瞬時に再生させて恐るべき程の数の刃が飛んでくる。

 回避の為に短距離空間転移を繰り返す度に、ジョンの視界に銀色が入り込んで来るようになる。少年の髪に徐々に金属光沢を持つ銀色の髪の毛が混ざり始めていた。そして、遂に“救世者”は巨人の右肩上に到達する。


「ルーク種、ベン・ブルベン! ここでお前を終わらせる!!」


 眼前に立ち、騎剣を突き付けて言う少年への返答は、大量の刃と巨指の攻撃だ。その場から一歩とて動けぬベン・ブルベンはひたすらに少年のSFへと両腕の刃を振るう。一振りの騎剣では避けようもない攻撃が繰り返されるが、“救世者”は怯むことなくベン・ブルベンの剣を時に払い、時に避け、時に受け止めてみせる。そうして刃を合わせる内に理解する。このルーク種の見事な双剣技が一度だけ手合わせした現神殿騎士団団長の技から生まれたであろう事に……。


「──アーネストさんから、盗んだのか、双剣の操り方を……」


『……人型人形、在有用、我学』


「今度は返事をするとはね? 一体、どういう条件なんだかな」


『ジョン、当たり前だが、機体が囲まれている。周囲を見ろ。いや、これは閉鎖空間が作られようとしているのか!?』


 巨人は無数の腕を竹籠のように幾重にも寄り合わせ自身と少年のSFを外界から隔絶しだす。上空の円を残し巨人の腕が作り出した籠の中、巨人の頭部となっていたベン・ブルベンが二本の脚を巨人の首から引き抜き、一瞬で“救世者”との距離を詰め、両腕の双刃を振り抜いた。ジョンは咄嗟に騎剣を覆う力場を厚くさせ、双の刃の軌道が重なる一点に己の騎剣を割り込ませた。

 甲高い音を立て、“救世者”の騎剣とルーク種の双刃が撃ち合わされ双方共に弾かれる。空中で姿勢を制御したジョンは音さえ立てずに静かに着地、相手方(ベン・ブルベン)へと視線を投げる。

 ルーク種は空間の四方から伸びた腕に掴まれて無理矢理に姿勢を制御され、着地もせずに“救世者”へと襲いかかった。ジョンは右半身となってルーク種の刃を弾いてやり過ごし、フォモールとの交差際に騎剣を滑らせ、ルーク種の左腕を肩から斬り飛ばす。

 悠然と振り返り、“救世者”は前方へとステップ、ルーク種の刃を交い潜りルーク種の胸へと騎剣を突き込んだ。しかし、切っ先はその胸部を貫くことなく寸前に制止する。

 己が胸を貫かれんとしたその瞬間、ルーク種はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、その胸部に取り込んだモノを露出させた。

 丸く半球状の透明な結晶体だう。その内側は得体の知れない液体に満たされ、内部には上部に気溜まりがあり、ポツンと一つ影が浮かんでいた。人の、少女の影だ。“救世者”の切っ先はその少女の姿を見た瞬間に制止され、息を呑みながらバックステップする“救世者”の騎剣をルーク種の刃が切り裂いた。

 ルーク種の胸中で少女は苦しそうにもがき、気溜まりに顔を出しては、呼吸すらままならぬ様子で喘いでいる。


「ダナさん!? そんな、なんで!?」


 その結晶体の内部に入れられていたのはダナ=ハリスン。神殿騎士団従騎士ハリス=ハリスンを父に持つ、教国では一般的な名の、極普通の少女だった。

次回、9/16更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ