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第6話 衛星都市“キャンプ”1

“おうさま”


“おうさま”


“おうさま”


“おうさまねてる”


“おうさま”


“おうさま”


“またあそぼ”


“おうさまあそぼ”


“おうさまさっきはすくなかった?”


“おうさまさっきはたりなかった?”


“こんどはもっとたくさん”


“こんどはもっとおおぜい”


“おうさまあそぼ”


“おうさまおきて”


“ねたままはにせもの”


“にせもの”


“にせものはしんじゃえ”


“おうさまおきて”


“おきないとたべちゃうぞ”





 暗がりの一室、一組の男女が言葉を交わしている。


「よいのですか、あれらを放って置いても。暴走を始めているようですが? 08(ゼロエイト)のいる付近、あの衛星都市は事後には何も残らないことでしょう」


「構わぬよ、高々衛星都市一つ、人口にしても精々数千だ。万にも届かぬ。我らには何の痛痒ともならぬさ。それに、我は知りたいのだ。あれが真物と成るか、贋作のまま果てるだけか、見届けるには、その程度の犠牲もいよう。いや、いささか足りぬやもしれぬ」


 淡々と、小なりとはいえ、都市一つを滅ぼす事を認めた男は、女には、珍しく高揚しているように見えた。


「あなたは随分と08(あれ)を買っているのですね。あの娘(07)が執着しているのは、まだ解りますけれど」


 言われて、男はふんと鼻で笑い、女に返した。


「達成するならば、だがな。出来ねば早々に、次のNo.の出番が早まるだけだ。その07(ゼロセヴン)はどうしている。調整は万全であろうな?」


 女は頷いて、報告する。

 

「そちらは問題無く。むしろ、今すぐ出させろと騒いでおりますわ。07はいつでも出せます」


「では、準備を終わらせるよう伝えろ。これが上首尾に終わるならば、その時があ奴の出番だ。 では、ゆるりと観戦しよう。変わるか戻るか、進むのか、それとも、果てるのかを」





「……うぅ、ぐうぁっ、はぁはぁっ」


 寝台の上で少年は、うなされて目を覚ました。

 何か夢を見ていたようだが、どんな夢かは思い出せなかった。

 こうして、キャンプに着いて三日目の朝を、少年は最悪の気分で迎えた。

 三日前、狩猟団のSF搬送車(キャリア)に合流し機体を搭載してから三十分ほどで、街道脇に拓かれたキャンプの街門をくぐり抜け、少年は街の中にいた。

 狩猟団が街の中、郊外に借りているガレージに着くと、少年は機体を降ろされ、エリステラやダン以外の他の二人のパイロット達と一緒に、安ホテルに放り込まれた。

 それから二日間、連絡が無いままホテルに待機させられていた。

 少年は(おもむろ)にベッドの上に身体を起こし、声を漏らして一つ伸びをした。


「食堂、行こ」


 備え付けの洗面台で顔を洗い、身仕度を整えると少年は与えられた部屋を出た。





「そういえば、聞きたかったんだ。フォモールって、あんな数で現れるものなのかい?」


 朝食の塩を振った目玉焼き(オーバーイージ)をフォークのみで器用に切り、グリーンサラダやロールパンと一緒にパクつきながら、少年は目の前に座る相手に訊ねた。


「あんなのはそうはないわね。十年はこの仕事(SFパイロット)してるけど、一昨日を除けば、ワタシが一番多く相手したのって、一度に二十匹くらいよ。それに、あの変な現れ方にしても、この目で見ているけれど、あんなの同業者に話したら鼻で笑われるわね」


 長身の美青年(ジェスタ=ハロウィン)の口からオネェ口調の言葉が飛び出す様に、食堂に居合わせて彼を盗み見ていた女性陣から愕然とした声が漏れる。

 そんな周囲の様子には慣れているのか目もくれず、ジェスタは少年との会話を続ける。


「そうそう少年、君、本当にあの名前にする気? 縁起でもないわよ、ジョン=ドゥ(身元不明遺体)なんて?」


 少年はジェスタに笑顔で頷いて返した。


「いいよ、こういう名前の人だって、まったくいないわけじゃないだろうしさ。それに実際、僕は身元不明(ジョン・ドゥ)で、判っているのは名無し(nameless)だけの、何処かの誰か(ジョン・ドゥ)なんだ。もし、僕がどうにかなっても分かりやすいだろうし」


 ジェスタは茶化す様な表情をした少年の額を小突き、窘める。


「そういう冗談、あの娘(エリステラ)の前では言わないで。あの娘どうしてか、君の事を大分気に入ってるようだから。名前は君本人が納得しているなら良いわ。OK、少年はジョン、ね」


 少年、ジョンは食事の手を止めると、自分の額に手を当て、ジェスタに肯定を返した。


「彼女に関しては、分かったよ」


 ジョンの返事に笑みを返し、ジェスタはその時を思い返して言った。


「でも驚いたわ、ホテルのフロントで宿帳にいきなりJohn=Doe(ジョン=ドゥ)なんて書くんだもの。フロントの彼、あの時、ジョン君を二度見してたわよ」


「そうだった? 気づかなかったな。あ、レナさんの姿、見えないけれど彼女は?」


 ジョンは食事を再開し、ジェスタに訊いた。

 ジェスタは食後のコーヒーを一口含み答えた。


「レナはエリステラ(お嬢)の所よ、彼女は本来、お嬢の小間使い(メイド)だから。パイロットをしてるのも、門前の小僧だったお嬢がやりたがったからで、お供のレナも一緒にやっているわけね。

 それに……、ああ、これは話してなかったわね。でも、詳しくはレナに訊きなさい。これ以上は、あの娘のプライベートの問題だわ」


「機会があれば、そうしてみるよ。で、彼女たちは?」


 ジェスタははぐらかすように、ジョンに訊ねた。


「ジョン君はあの娘達の事、どう思った? ああ、第一印象の事よ」


 ジョンは少女の顔を思い浮かべ、笑顔で答えた。


「うん? 可愛いと思ったよ、どこがとは言わないけど、大きいし」


「ジョン少年が思春期のバカ丸出しな子で、お姉さん嬉しいわ。話は変わるけれど、少年はワタシ達、狩猟団の運営費がどこから出てるか不思議じゃない?」


「確かに疑問だったよ、フォモールって売れる様なもの採れないようだし。でも、それ何の関係が有るのさ?」


 ジェスタは目を閉じ、うんうんと頷くとジョンに答えを教えた。


「関係は大有りよ、まあ、よそはよそでまた違うけれど、ガードナー私設狩猟団(ウ   チ)はスポンサー収入で運営費を賄っているの。ここまでは解ったかしら?」


 ジョンはジェスタに頷きを返す。


「OK、続けるわ。まあ、何せこの国じゃ、お嬢の曾爺さまは独立の立役者、国民からの扱いは大英雄なわけね。

 祖父で団長のアーヴィング翁だって、民衆の為、狩猟団を私財を投げ打って設立する美談の持ち主なわけよ? 

 それだけでも、富豪からかなりの運営資金を集めてるわね。加えて、英雄の令孫エリステラ嬢、別にあの子は歌って踊れるとかじゃないけど、大抵、にこやかに笑ってるわよね。あ、ワタシは好きよあの娘の歌。巧くないけど味があるわ。にこやかで可愛いらしい、SFパイロットでもある英雄の孫娘、たまに勘違いする阿呆もでるけど、そんな娘に手を握られて、狩猟団の応援を頼まれて断る人間は、まあ殆どいないわね。狩猟団の目的自体は、応援する側にも利になるものだしね。あの娘達はスポンサー達へ挨拶まわりに行っているのよ。

 で、まあ、その中でも大口のスポンサーが一人、この街に居るの。これが、さっき言った勘違い野郎でもあってね。大事なお嬢に何かあっても嫌じゃない? この街では暗黙の了解で、街ぐるみでお嬢をそいつから匿う事になってるのよ。街の住民はこっちの味方だから、本当はどうとでもなるけれど、今日はお嬢、そいつに会わないとならなくて、レナは護衛を兼ねてついているのよ。レナはレナでお嬢について廻っている内に、人気が出ちゃったのだけども」


 ジェスタは言い終えると、冷えたコーヒーを飲み干した。


「へえ、じゃ、狩猟団の仕事なんだね。大変そうだなぁ。そうだ、僕の機体のついてさ、お兄さん何か聞いてない?」


 頭をフルフルと横に振ってジェスタは返す。


「そっちは何も。でもそろそろ、連絡が来るんじゃないかしら? 親方の事だしね」


「仕方無い、部屋に戻るか。ジェスタ、何かあったら呼んでよ」


 ジョンはそう言うと、ジェスタに手を振り部屋へ戻った。


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