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第73話 教国防衛戦5 殉教者

 ハリスとルーク種の周囲には、まるでエアポケットのような空間が開いている。己が手足のように操る神殿騎士騎(セルティクロス)が振るう長柄の鎖分銅(ロングポールフレイル)と、ルーク種ががむしゃらに振り回す斧槍(ハルバード)に巻き込まれる事を恐れ、味方のSFや敵対するフォモールすら近寄って来ない為だ。

 ルーク種の周囲を脚部機動装輪ランドローラーで無秩序に円を描くように走り、長柄を縦横に振り二つのケルト十字を組み合わせた形状の鎖分銅(フレイル)を操り、敵対者へと叩き付けバックステップ、そのまま機動装輪で後退、従騎士を狙ったルーク種の振るう斧槍(ハルバード)の攻撃を機体に掠らせもしない。


「失敗したなぁ……格好付けて盾打撃(シールドバッシュ)とかするんじゃなかったよ! 左腕全体の関節にガタがきてる。とっさに円盾(ラウンドシールド)を使えるのも、後一度くらいかな? 出来るだけ避けないと、か。しんどい話だね」


 コクピット内に嘯いてハリスは機体操作に専念する。長柄を繰り、分銅の鎖を縮め、戦棍打撃部(メイスヘッド)を長柄に固定、手の中で柄を滑らせ、長柄の端を握り締めルーク種の振り下ろす斧槍を迎撃、巨大な斧刃を打って斬撃を反らした。

 ルーク種の手に繋がる巨大な(なまくら)が舗装された路面にめり込み、ルーク種の膂力で大地が穿ち起こされる。

 ハリスは打撃の(のち)、振り抜いた戦棍の慣性に流される機体をそのままに回転させ、ルーク種に向き直った。次いで再度、打撃部(メイスヘッド)の固定を解除、遠心力に乗せ鎖分銅(フレイル)を射出した。

 神殿騎士騎(セルティクロス)の手元から勢い良く飛び出した質量物が、ルーク種の既に潰れていた兜を打ち抜いて、急速にハリスの操る長柄に引き戻される。


『ぐるるる、ちょこまかウルざい、じんげんじネ!』


 一方的に打撃を見舞われ続けたルーク種は地団駄を踏む小さな子供のようにハリスに喚いた。


「捕まえられないのは、お前さんが色々と足りないからさ。言われるまま死ぬ奴はいないよ? だから、私はお前に死ねとか言わないでおく」


 手元に引き戻し鎖を格納して戦棍に戻し、従騎士はルーク種の脇に回り込み、通り過ぎ様に斧槍を持たない左腕に戦棍を叩き込んだ。接触の瞬間、ハリスの長柄の戦棍(ロングポールメイス)の打撃部が高速で回転しルーク種の左腕を抉り千切る。


「随分と(もろ)い。本当にルーク種なのか? 話に聞いている個体の様に再生もしない、か……まあ、もろにあの斧槍を喰らってはどんな機体も一溜まりも無いだろうけれど」


 腕をもがれたルーク種に機体を向け直し、ハリスは愛用の得物を構え直した。ルーク種は滅茶苦茶に斧槍を振り回す。


「コイツは……アーニーや団長殿がやられる様な相手じゃ無いな。遣り会えば遣り会うほど、コイツがルーク種というのも怪しい気がして来る」


 従騎士が脇に視線を逸らすと、他のSFが此方を遠巻きにしながら、ポーン種やナイト種と争っている。南側、連邦首都の北面に展開している連邦軍はこうして戦闘状況が観測できるであろうに、未だ、教国側の戦力に手を貸そうともしていなかった。


「……連邦首都は相変わらず、か。政治の世界だかなんだか知らないが、此方が亡くなれば次は其方が被害を受けるだけだろうになぁ」


 ハリスは意識を切り替え、迫って来た斧槍を滅茶苦茶に振り回し迫り来る“ルーク種?”の攻撃を回避して上半身の騎士と下半身の猪の間に回転する戦棍を叩き付けた。

 ベン・ブルベンの因子を植え付けられルーク種と良く似た姿に変異融合していた猿人型のナイト種は危機感を抱き、下半身を融合させていた猪型のポーン種数体の融合体の背から足を引き抜いて飛び上がろうとしたが果たせずに、ハリス騎の戦棍にその身に纏う騎士甲冑を粉々に打ち砕かれた。

 その甲冑の中身に目を見張るハリス、従騎士はそのまま打ち砕いた甲冑の内側へ、ルーク種と思われていたフォモールの胴体に戦棍を叩き込んだ。


「やはり偽者だったか! 見た目を本物そっくりに擬装し、戦闘力も準じてはいるとはね! まあ、とっととくたばればいいさ!」


 セルティクロスの振り抜いた回転する打撃部がフォモールの胴を抉り両断した。そのフォモールの主体は人型にあったのか、猪型の下半身はその姿を幾つもの獣の姿に変えて倒れ、元から死んでいたかのように急速に溶け崩れて行った。

 ルーク種と思われていた個体を神殿騎士騎が打ち倒した姿を見て教国側の戦力は勢いづき、残されたフォモールの多数を占めるポーン種や、遥かに数少ないナイト種を駆逐していった。

 南方門での戦闘が終わり掛けた頃、やっとジョンとジェスタの駆る二機のSFがその場へと姿を現した。





 ジョンとジェスタの去った東方門の外、教国の東に広がるコリブ湖の湖底からベン・ブルベンは浮上し、一度通った同じ道を進み始めた。

 ベン・ブルベンは湖底にて己が身に纏った装備と変化させていたナイト種を元の獣人型に戻しながら自身の因子を埋め込み、湖底で休眠状態に陥っていた環境保全分子機械(フォモールナノマシン)群を覚醒させて纏わせて自身と同じ姿に改造、自らの開いた門の内へと侵攻させ、その個体とジョンとジェスタとを戦闘させていたのだ。

 同様に調整した個体数体を教国の門を攻撃する配下のフォモール群に紛れ込ませた。戦闘能力の点でもベン・ブルベン自身には劣るが肉薄する程度に調整してあったのだ。

 その証拠に南方門ではハリスを除き、神殿騎士団の守備隊は壊滅している。

 無言のままベン・ブルベンは、東方門をくぐり抜け、路上に投げ捨てられた元から自身の物だった斧槍を拾い上げる。そのままゆっくりと第三街壁の大路を閉ざす門扉に向かい、猪頭を粒子砲として咆哮を上げた。ルーク種の獣の頭から帯電した分子機械群が大量に吐き出され、門扉へと突き刺さった。

 じりじりと融解していく門扉、それが再生を始める前に手にした斧槍の刃を繰り返し叩き付けた。巨大な斧刃の伝える衝撃に門扉がひしゃげ、亀裂が入っていく。

 しかし、ベン・ブルベンの思うようには門扉は破壊されず、既に徐々に再生を始めていた。遮二無二、斧槍を振り回し、門扉へと叩き付けるベン・ブルベンの背に女の声が掛けられた。


「力任せでは、この艦を破壊する事はできません。そろそろ、思い知りましたか?」


 振り返ったベン・ブルベンの背後にいたのは一機のSF、“nameless No.02”にして、表の顔が教母アドラスティアである女が何に掴まるでもなく肩に立つ、トゥアハ・ディ・ダナーン主教国教母専用SFの姿だった。

 女性的な印象を与える優美なシルエットのそのSFは武装らしき物を全く装備していなかった。教母の衣装を模したらしく同じ形状の三角形のパーツが連なり両下腕部から教母の纏う長衣の袖のような形状を為している。

 その三角形のパーツは機体全身の至る所に配され、連なり或いは重なって機体の印象をその肩に立つ教母の纏う長衣のように見せていた。


「人気のないこの場でしか見せる事の出来ない、(わたくし)の機体の能力を味わわせてあげましょう。余所では味わえませんわよ? “the() MARTYRマーター”愚かなルーク種をこの街から排除なさい」


 ベン・ブルベンを指差した教母の命と共に、“the() MARTYRマーター”の全身に配された三角形のパーツが機体から分離、変形して機体の周囲を浮揚、鋭角の先端からブレードを延伸、ルーク種目掛けて襲い掛かった。

次回、9/6更新予定



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