第72話 教国防衛戦4 死の舞踊
高速で東方門へ向かい去るジョンとジェスタの機体を見送り、エリステラは通信機を起動、大神殿内のトゥアハ・ディ・ダナーン教国都市管制に連絡する。
「こちらガードナー私設狩猟団SF部隊隊長エリステラ・ミランダ=ガードナーです! 緊急事態の為、ガードナー所属のSF二機が東方門へ急行中、これより、残る二機も続きます! はぁ!? っ……分かりました。南方門へ向かいます……」
レナのテスタメントがエリステラの機体へ近付き声を掛けて来た。
『エリス! あたし達も東方門へ向かうの?』
「……いいえ、わたし達は南方門へ向かいます。神殿騎士団の主力が抑える北方門はまだしも、南方門は押され気味だそうです。──それから……東方門の警報は誤報じゃないかと……」
少女の口から都市管制の答えを聞き、レナは不満気な声を上げる。
『えええ!? なにそれ!? この状況であの警報が誤報だなんて思えないよ? この街の都市管制はなに考えてるのかしら』
「……東方門に何もなければ、お二人のどちらかから連絡が入るでしょう。レナ、南方門へ向かいます、良いですね?」
『……分かったわ、隊長の指示に従います』
エリステラは機体を少年達の消えた道へ向け、脚部機動装輪を起動し疾走を始めた。少し遅れレナの機体が付いて来る。環状道路から南方門への大路に折れ、二機のテスタメントは並んで疾走して行った。西方門前にいた他の狩猟団や傭兵団の者達も二人の後を追い掛けて行く。やがて、少女達の視界に開放された南方門が入って来た。
「──これは……!?」
『なによ……これ!?』
少女達の目に映ったのは破壊された南方門の門扉と壊滅状態の南方門守備隊、それを為したと思われる巨大なフォモール。そして、その存在と対峙し、相争う一騎の神殿騎士騎の姿だった。
教国南方門の門前を円形に覆うフォモールの群れ、その先の連邦首都の手前にはネミディア連邦軍首都駐留部隊所属のSF部隊が首都防衛に展開していた。しかし、フォモールが自分達に襲ってこない事をいいことに連邦軍から教国を覆うフォモール群への攻撃は行われてれていなかった。
「……レナ! あの方を援護します! あなたは牽制を!」
『うん! ……ジェス姉、ジョン、早く来てよね?』
二人の少女の操る妖精の騎士から放たれた二種類の弾丸が、猪を模した兜に副団長騎の双剣を角の様に生やしたフォモール・ルーク種の胴体へ突き刺さった。
『ガードナーに続いて攻撃しろ! 嬢ちゃん達に手柄が穫られんぞ!』
『あの大将首を落とせ! 奴を落とせばフォモールとて瓦解する筈だ!』
少女達の機体の後から現れた西方門に展開していた他の狩猟団や傭兵団が到着、ルーク種に向かって攻撃を開始した。
他のSFから攻撃が始まったのを知り、エリステラは射撃を止めレナを伴って長柄の戦棍を手にした神殿騎士騎に近付いて行った。
「大丈夫ですか!? レナ、牽制してください。其方の方も一度退きます、良いですね?」
エリステラが声を掛け神殿騎士騎に後退を促すが、それはセルティクロスのパイロットに拒否される。
『……いいや、駄目だよ。──何より私が納得していない。さあ、ルーク種の君? 続けようじゃあないか!』
神殿騎士騎を駆るハリスは、自機の右手に掴んだ長柄の戦棍をルーク種に突き付けた。ルーク種は敵手が戦意を失っていないとみるや、斧槍を振りかざし、下半身の巨猪で突進を開始した。それを視認したエリステラはレナと共に突進の進路上から退避した。ただ一騎、セルティクロスのみがその場に佇んでいる。
『神殿騎士団南方門守備隊はここにありと、貴様に思い知らせてくれる!』
ハリスはルーク種の突進の勢いを載せた斧槍を左腕の円盾で迎撃、巨大な刃が接触する瞬間に合わせて機体をその場に跳躍させ、斧刃に盾で打撃、ルーク種の攻撃の勢いを利用して後方に飛び退き、ハリスの飛び退き様に長柄の戦棍の打撃部の固定を解除、掬い揚げるように長柄を振り抜いた。
鎖の尾を伸ばしながら分銅となって戦棍の打撃部が飛び、ルーク種の頭部を顎下から打ち抜いた。猪を模した兜を副団長騎の双剣毎粉砕され上半身を仰け反らすルーク種。その光景にハリスは不満気に眉を顰めた。
『お前、団長を殺したルーク種じゃ無いな? アーニーの双剣はこの程度で壊れるような代物じゃあ、ないぞ!』
ハリスは宙空で脚部機動装輪を展開、着地と同時に稼働させ停止する事無く前進し、振り上げた長柄を振り下ろし、ルーク種に追撃を加える。ルーク種は潰れた頭で可笑しな声を上げる。
『ゲガガガガ、オデ、るーくジュべん・ぶるべん。ちがワナイ。イゲ、オまえら』
セルティクロスとルーク種を遠巻きにしていたフォモール達がルーク種の指示に門前へ一斉に群がり始めた。ルーク種の突進を避けて離れていたエリステラは長距離狙撃銃“雷霆”の銃身を展開、距離の有る内にポーン種やナイト種へ狙撃を開始した。レナ機は彼女の機体の前に立ち、右肩の“複合型銃砲発射装置”から弾丸をばら撒いてエリステラ機にフォモール達を近付かせない。群がり始めた他種のフォモールの迎撃に他の狩猟団や傭兵団も参戦し、南方門の門前は乱戦の様相を呈し始めた。その中心では鎖分銅を振り回すセルティクロスと斧槍を振り回すルーク種が踊るように争い合っている。
乱戦開始からどれくらい経っただろうか、交戦中のエリステラ機へ東方門へ向かったジェスタ機からの通信が入った。
『あ、お嬢? ジョン君のお陰でこっちは片付いたわ。後続が無いか確認してそちらに合流しようと思うけど、何処に行けばいいのかしら?』
「──ジェスタさんですか? 至急、此方に合流して下さい! わたし達は現在、南方門にて交戦中、此方にもルーク種が!」
女言葉の青年にエリステラは切羽詰まった声を返した。その間に忍び寄ったフォモールに銃身を折り畳んだ“雷霆”の前方へ展開した二脚銃架の衝角形態を押し当て杭打ち、同時に脚部機動装輪を起動、忍び寄った一体とその後ろにいたフォモールを巻き込んで貫き、発射された弾丸が纏めて砕いた。
「レナ、装填は完了しましたか?」
『あ、うん、もうちょい、ごめんね、エリス』
今の発砲で空になった弾倉を排出、腰に付けた予備弾倉に交換した。
「なるべく、早くお願いしますね!」
少女は言う間に接近して来たポーン種を蹴り飛ばし、踏みつけると“雷霆”の二脚銃架を押し当て、地面に向け杭打ちする。その最中に少女の機体に飛びかかったポーン種が横合いからの一塊の弾丸に撃たれ砕かれた。
『お待たせ、エリス! ありがとうね!』
レナ機の参戦で少女達の周囲のフォモールが短時間の内に駆逐されていく。ハリスの駆る神殿騎士騎とルーク種の争いはその間にも続いていた。鎖分銅と斧槍の応酬に周囲のSFもフォモールも手出し出来ぬまま、彼らの死の舞踊は終わる様子を見せなかった。
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