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第69話 教国防衛戦1 抱く疑念

 出陣式は一機のSFを注視するジョンの前に、拍子抜けするほどに何事もなくしめやかに行われる。

 トゥアハ・ディ・ダナーン主母神教、教母アドラスティアが、彼女自身を模したような女性的なシルエットをした専用SFの手のひらの上に立ち、その姿を現してから出陣式は始まった。

 神殿前広場に立ち並んだ幾つものSFとその間を埋めるように教国の民衆が列を連ね。人々の口から教国とダーナ主教、そして、教母と神殿騎士団を讃え、大きな歓声が上がる。視界に映るその様子をよそにコクピットの中、少年は一人物思いに耽っていた。


(僕は何故、あなたに撃たれたのかな、アンディさん? ──何処か変わってしまったのかな。自身が死ぬ目に遭ったのに、どうして僕はこんなに何も感じていない? ……それからヌァザも、君によると、僕は怪我や病気では死なないらしいけど、さ。どうしようもなく僕が終わるといった割には、死が奪われる程度じゃ、とてもじゃ無いけど終わりとは思えないよ? こうして、僕の考えている事もまた、量子機械を通して君に伝わっているのかな?)


『……ジョン……ジョン! 寝ているのかい、ジョンっ!』


「……あ」


 思考の海に沈んでいたジョンは、自身の名を神王機構から何度も呼ばれ、気がつくと間抜けな声が少年の喉を抜けて出る。


『出陣式は終わったよ。ガードナー私設狩猟団は西方門から出撃だろう? 皆、動き始めているぞ』


 神王機構に言われ、少年は右の人差し指で頬を掻き、コントロールグリップへ指を絡めた。


「ごめんごめん、じゃ、僕らもいこうか」


 ジョンがセイヴァ-を西方門に向かって歩かせ始めると、神王機構が少年に忠告を発する。


『直ぐ様に戦闘とは行かないだろうが、“CLOIDHEAM(クラウ・) SOLAIS(ソラス)”は多用しないようにね。量子機械(クァンタムマシン)侵食(インベイド)率は上がらない方がいい。少しでも長く、君は君で在るべきだ』


「──使い時には躊躇はしないつもりだよ。それにまあ、こうして他にも武装は有るしね」


 ジョンは“銀色の左腕(アガートラム)”で左腰に吊した高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)を叩いて見せた。


『ジョン、その騎剣だけど、一度、“銀色の左腕”に持たせてみてくれ』


「駆動は駄目だよ。ほら、こんな感じで良いの?」


 ジョンは神王機構の望むまま、歩きながら左腰に吊した騎剣の柄を左手で逆手に握って抜き放ち、手の中で回し順手に構えて見せた。


『ああ、それで良い。……ではこのまま、高周波振動騎剣の材質及び構造を解析、分解再構成開始』


 高周波振動騎剣が“銀色の左腕”の掌に分解され吸収されていく。それを見て少年は自機の制御装置に思わず怒鳴る。


「ああっ、こらッ、何やってんのさ、神王機構(ヌァザ)ッ!?」


『怒鳴らなくても良いだろう? ほら、再構成されるよ?』


 神王機構の言葉のままに、“銀色の左腕”に吸い込まれたのを逆再生するように、先程までと細部の違った高周波振動騎剣が切っ先から出現し始めた。水晶状の材質で再構成されたその剣には、折り畳み式騎剣のような分割線が片刃の剣身に走っている。


『前に折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を再構成しただろう? その時のデータを流用してみたんだ。差し詰め折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)といった所かな? 刃の材質は振動が完全に同期されてるから折り畳まれた状態でも駆動可能だ。片刃の剣だから折り畳み方は少し違うよ。峰側に折れるだけの簡単な二つ折りだけどね。……ほら、西方門に到着だ』


 ガードナー私設狩猟団の機体を目に留め、ジョンは機体をそちらへ近付けてた。セイヴァ-の姿を見留、エリステラが機体を寄せて来た。レナやジェスタもそれぞれに少年に声を掛けて来る。


『ジョンさん! 遅れていたようですが、……どうかされましたか?』


『──ふふ、ワタシからは何も無いわ。ま、余り遅れないでね? この娘達が騒ぐから』


『遅いわよ、ジョン! あたし達は兎も角、エリスは待たせないでよね!』


『レナ、わたしは構いませんよ?』


 さっそく噛み付いて来るレナにエリステラはのほほんと首を傾げる。


「エリス、レナ、ジェスタもごめん。これから気を付けるよ。それからエリス、なんでもないんだ。ちょっと考え事をしちゃっててさ」


『そうだ、遅れた事に私は関係無い、のだ。……ちょっと武装を改造したりとかしか、やっていないのだし』


 三人に少年は素直に頭を下げる。神王機構も何か言っているがジョンは黙殺している。そこへエリステラから真面目な声が掛けられた。


『皆さん、そろそろ西方門が開放される時間です。戦闘準備はどうですか?』


『エリス隊長、レナ機戦闘準備良しだよ!』


『ジェスタ機も戦闘準備完了よ」


「ジョン機、戦闘準備完了。あ、そう言えば、今回、ミックは居ないんだね?」


 ジョンが辺りを見回して言うと、エリステラから答えが返った。


『ミックさんでしたら、今回は神殿騎士団と一緒に南方門に行っている筈ですよ。さ、今はお仕事です! ジョンさんは前衛遊撃を、レナは前衛、ジェスタさんはわたしの直援をお願いします。わたしはいつもの後方狙撃ですでは各員戦闘展開、門が開いたら同時に教国を覆う障壁が解除されるそうです。その際、外のフォモールが雪崩れ込んで来ると思われます。門前に展開したわたし達はこれを討ちます。総員、西方門を照準、発砲準備!』


 エリステラが言葉を止め、暫くして、教母の声が通信機から流れた。


『西方門門前に展開された方々、只今より西方門を解放します。同時に防護障壁も消失されますので、お気をつけ下さい。ご健闘をお祈り致します』


 教母の声が終えると同時に、西方門が大きさからは信じられない小さな音を立て、左右に開き都市外壁に引き込まれていく。門前に殺到し、突進を繰り返していた無数のフォモール・ポーン種が文字通り教国に雪崩込んできた。門前に展開したSFから弾丸が飛び、それを受けて飛び込んだ先頭のフォモールその場にが崩れ落ちる。


『射撃開始! 方向に気を付ければ狙う必要もありません、皆さん、撃ってくださあい!』


 エリステラの気の抜ける号令が耳に入るより早く、レナ機の“複合型銃(マルチプルガン)砲発射装置(ランチャーユニット)”の三連箱型銃身(ボックスバレル)が高速回転を始め、大型の弾丸を吐き出し始めた。塊のように飛んだ弾丸に当たったフォモールは全身を千々に引き千切られて元がどんな姿だったかなど(うかが)い知れようも無い。見る間に幾つもその身を砕かれたフォモールの死骸が溶け崩れる前に山と積まれた。その隣で短機関銃(サブマシンガン)を両手で構え、撃っていたジョンがレナへ文句を付ける。


「レナ、あの死骸の山! 邪魔だよあれ!」


『し、仕方無いでしょう! 撃ってたら出来ちゃったんだから!』


 喚くレナを無視して、ジョンは隊長の少女を呼ぶ。


「時間が惜しいエリス!」


『はいっ! レナは接近するフォモールをそのまま牽制、ジョンさんとジェスタさんは観測をお願いします。射線が会えばフォモールはあの山諸共、わたしの銃が撃ち抜きます』


 エリステラは元気よくジョンに返事を返し、ジョンとジェスタは少女の指示に従い、機体のレーダー波を交差させ、後続のフォモールの存在を浮き上がらせる。両機からデータを受け取ったエリステラは射線を確定、“雷霆(サンダーボルト)”からその名の如き雷鳴の轟きと共に放たれた超高速の弾丸がフォモールの死骸の山を貫いて、その背後から突進するフォモール達までをも撃ち抜いた。


『さあ、まだ序盤戦ですよ! 皆さん、気を引き締めて往きましょうね!』


 エリステラは硝煙を上げる“雷霆”の銃身を振り上げて、部隊を鼓舞した。少女の言葉通り、第二次防衛戦はまだまだ始まったばかりだ。

次回、8/29更新予定

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