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第65話 光の天蓋

 神殿騎士団がトゥアハ・ディ・ダナーン主教国北方門に展開した本陣に戻り、それから暫くしてアーネストがガードナー私設狩猟団と共に教国に帰還した。

 状況から暫定で副団長から繰り上がり、暫定ながら団長位に就任した彼の指示により、神殿騎士団は生き残った傭兵団や狩猟団の部隊を再編成させ、都市門を閉鎖して教国内に籠城する事を決定、SFやそれを駆る彼等の後方支援員達の大量の車両群がトゥアハ・ディ・ダナーン主教国の都市外壁の内側へ一斉に退避を始めた。背後に閃光が疾り、フォモールの姿が一掃され、しかしそれも束の間、光が途切れると急速にフォモールの軍勢が再生していった。

 最後のSFが北方門を潜り抜けると、直ぐ様に教国全ての都市外門が閉ざされた。

 今、アーネストは一人、外門傍の神殿騎士団施設からセルティクロス・フィアナの予備機を受領後、神殿騎士団の車両を用いて教国中央の大神殿へと大路を急いでいる。


「神殿騎士団副団長アーネスト=マイヤーから大神殿へ、至急、教母様への面会許可を頂きたい!」


 アーネストは大路を疾走しながら教団の専用回線を通じ、音声通話で大神殿へ打診、珍しい事に教母アドラスティアから直々に返信された。


『数日ぶりですわね、マイヤー卿、貴方の無事の帰還をうれしく思います。レグナー卿の事は残念でありました。現時点を以て略式ではありますが、(わたくし)、教母アドラスティアの名において、マイヤー卿、貴方を団長位に任命します。この通信は記録されていて、実効性を持ちます。面会の件、了承しましたわ。神殿へいらしたら、私の執務室へ直接お越しなさい。神殿詰めの者達には周知して置きます。その際に改めて団長位の任命を行いましょう』


「は! では、私はそちらへ急ぎます。しばしお待ちを! 失礼いたします」


 アーネストは教母へ口頭で礼を返し、住民達はフォモール襲撃に際して、各居住区別に振り分けられた地下避難所(シェルター)に消えており、人気(ひとけ)の無いトゥアハ・ディ・ダナーンの大路を走った。それからさほどの時間を掛けず、青年は大神殿へと辿り着く。規定の駐車場へ車両を納め、アーネストは大神殿へと駆け込むと教母アドラスティアの執務室へと急いだ。アーネストの姿を認めた大神殿詰めの神官達が彼に道を開きながら頭を垂れている。

 大理石調に設えられた廊下を走るような早足で通り抜け、樫に見えるよう設えられた扉の前に足を止めた。

 扉脇の壁面が小さく開き、ガラス状のパネルが露出、アーネストは小さな赤いランプの点るパネルへ視線を向ける。数瞬後、生体認証をパスしてランプの色が緑に変わり、ガチャリと音を立て扉のロックが解除された。青年は扉を四度ノックし、室内へ入室の許可を請う。


「お入りなさい。アーネスト=マイヤー」


「──失礼いたします」


 柔らかな女声に入室を許され、アーネストは音もなく開かれた扉の前に室内に敬礼、教母の執務室へ足を踏み入れた。

 其処には執務机に座る教母と、その他に十五、六歳の年頃に見える一人の年若い尼僧が(はべ)ってていた。入室して来たアーネストに向き直り、深く御辞儀している。


「待っておりましたわ、アーネスト=マイヤー卿。ではアリア=ウィーバー侍祭、貴方にはこの度のマイヤー卿の神殿騎士団団長位の任命における立会人を頼みます」


 アリアと呼ばれた女性侍祭は教母の顔を見上げ、驚いた様子で慌てている。


「ふえ……わ、わたくしがでありますか、教母様?」


 ここまで大神殿内を通り抜け、抱いていた疑問をアーネストは教母に問い掛けた。


「失礼、御前に口を挟む事をお許しください。大神殿内に他の高位司祭の方々の姿が見えませんでしたが、どうされたのですか?」


「此度のフォモール襲撃に際し、教国を棄て親族連れで逃げ出そうとした者が多数居りましたので大半はそのまま見逃しましたよ。その際に目に余る幾人かの者達は私の手で一族毎粛清しました。後の害悪でしかありませんから。今、大神殿内に詰める中で私以外での最高位は彼女、アリア=ウィーバー侍祭のみです。この騒動が収束した後に逃亡した彼等がこの街に帰って来ても居場所が無くなるように色々と動いてしまうつもりです」


 教母はアーネストに視線を向け、特に大した事では無いようにどう考えても問題だろう事を告げた。顔を強ばらせるアーネストに、教母は首を傾げ、アリアは恐縮した様に小さな身体を更に縮こまらせた。


「では、通信に続いて略式ではありますが、侍祭アリア=ウィーバーを立会人とする事で形式は整っています。これより、アーネスト=マイヤー卿の神殿騎士団団長位の任命式を行います。──アリア、貴方が緊張する必要はありません。貴方はただ、最後まで見ていればよいのですよ」


「は……はい、教母様」


 それから、アーネストの任命式は事務的に進められ、思いの外、あっさりと終了し、教母は新たな神殿騎士団団長に問い掛けた。


「では、アーネスト神殿騎士団団長。麾下の副団長にはどなたを推薦されますか? 異例ではありますが、私としては従騎士ハリス=ハリスンをお勧めします」


 教母はニコリともせず口元を隠してアーネストにそう言い、言われた青年は大きく目を見開く。


「……教母様は、我が師、従騎士ハリス=ハリスンをご存知なのでありますか? ただの一人の従騎士を」


 アーネストの問い返しに、教母は静かに頷いた。


「──ええ、存じ上げております。かの鉄槌の騎士は本来ならば、その数多の功績により上級騎士として、先程、私から貴方が任命された地位となっていても可笑しく無い方です。ですが、この地を棄てた者達により、教国第三区出身者という事で槍玉に挙げられ、今の今まで、従騎士という身分を強いられて来たのです。まあ、主犯は此度の件で、既に私に粛清されましたが」


 教母は作り物めいた美しい(かんばせ)に、話しに似合わぬ穏やかな笑みを浮かべた。


「アリア、貴方は退出を、教団運営部に此方を届けて来て下さいね」


 教母は執務机から先程までの任命式を記録した記録媒体を取り出すとアリアに手渡した。


「は……はいっ! 教母様、団長様、御前を失礼いたします」


 アリアはアーネストと教母に丁寧に頭を下げると執務室を足早に去っていった。教母はアーネストに視線を向けた。


「アーネスト卿、本題に入りましょう。現状ですと教国の防衛についてでしょうけれど」


 アーネストは教母に頭を下げる。


「察して頂いておられる通り、都市防衛についてご相談したく……」


「アーネスト卿、この教国がマナナン・マクリル神に由来する遺物である事を知っていますか?」


 教母は問い掛け、自ら否定するように(かぶり)を振り言葉を続けた。


「──いえ、詮無い事を口にしました。本来、前任者から伝えられる事をです。レグナー卿が戦死された以上、伝えられる筈もありませんでした。この教国はマナナン・マクリル神の遺物、“鎮波号(ウェイブスイーパー)”その物です。いえ、地下区画を含めた教国全てが本来の“鎮波号”なのですよ。そして、航宙艦である“鎮波号”には宇宙塵(スペースデブリ)を防ぐ為の機構が存在するのです」


 アーネストと教母の語り合いから、教国の都市外壁沿いに光波障壁が張り巡らされ、フォモールの侵攻が教国の都市外壁に食い止められた。しかし、教国側には根本的な解決方もないまま、籠もった教国都市内でフォモールへの反抗の為の準備が進められた。

 フォモール達は何故か教国とは目と鼻の先の連邦首都へは目もくれず、ひたすらに教国へと愚直な攻撃を繰り返していた。

次回、更新8/21更新予定



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