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第59話 撤退戦3 少女の望んだ力/ある決闘の果て

「──う、起きな。レナ。おいっ」


「……う……うぅん……、はっ! あたし眠っちゃってた!?」


 誰かの呼び掛けと肩を揺すられる動きに待機室(キャビン)のソファに転がって眠っていたレナは目を覚ました。勢い良く上体を跳ね起こし少女は周囲を見回しそうとするも、それを遮る様に少年の声が掛けられた。


「よう、目が覚めたか?」


 そこに居たのは雑務傭兵(バイプレーヤー)の少年ミック=マイヤーだった。


「……あ、あんたミック!? 何でガードナー(あたしたち)搬送車(キャリア)に!?」


 寝起きのレナの問いに、ミックは肩を竦めて返す。


「ベルティンさんだったか? ガードナーの整備班の人。その人にレナ、あんたを呼んでこいって頼まれたんだ。オレはもともと、お嬢さんに整備班の護衛って事で置いてかれたんだがな? なのに、ハリスンのおっさんが何故だか張り切ってて、ポーン種の一体もこっちにゃ通さねえときてるし。暇してた俺に雑用が回って来たのさ」


 待機室の扉を開いてミックは外を指差し、レナを(いざなった。


「腕を無くしてきたお前の機体、すげぇ事になってんぜ? もう目ぇ覚めただろ? ほら、行きな!」


 少年の声に背中を押され、レナは自身の機体へと懸架整備台(ハンガーベッド)の裏側から近付いて行った。

 整備台の足元で整備班の人達と顔を突きつけ合わせていたベルティンがレナに気付き、少女に手招きをした。

 レナは小走りに副技師長の下に急いだ。


「ちったあ、休めたか? その顔をみる限りは十分に休めたみたいだな? 振り返ってみろ、お前のテスタメントだ」


 少女は言われるまま振り返り、懸架整備台に載せられた自身の機体を見上げた。


「──ベル兄? 右腕は分かるけど、……あの左腕は一体何なの? まさか、今の状況を忘れて暴走したんじゃないわよね?」


 レナの視線の先、見慣れた自機の両腕が違う形になっていた。右肩は良い。少女自身が換えてくれと言った装備が付いているのだから、だが、左腕のアレは何だろうか。鈍色に輝く剥き出しの骨格(フレーム)に三本爪の生えたアレはいったい何なのか、少女は副技師長に詰め寄った。


「落ち着け、左腕のあれはテスタメントで“複合型銃(マルチプルガン)砲発射装置(ランチャーユニット)”を安定射撃するための簡易保持(シンプルリテンション)(アーム)だよ。レナが両腕とも大破させてるからな。

 もともと、テスタメントじゃあ、右肩の複合型銃砲発射装置を抑えないと、まともに撃てやしないんだぜ。ジョンのセイヴァーはそのままで撃てたがな。レナのテスタメント、左右どちらかの腕がまともなら、こんな不格好な腕、つけなくても良かったのによ」


「……うぅ、悪かったわよ。それで、ベル兄、もう行けるの?」


 副技師長の青年はレナに対して頷いて見せ、但し、と続けた。


「複合型銃砲発射装置を撃つときは、簡易保持腕で機関部を抑えるのは忘れんな。回転式機関砲(ガトリングガン)形態(モード)でも、擲弾発射砲(グレネードランチャー)形態(モード)でもだ。テスタメントは最悪反動でバラバラになる」


 真剣なベルティンの眼差しにレナもしっかりと頷いて答えた。


「簡易保持腕は分かったけどさ。その腕の外側に付いてる細長い箱は何なの?」


 レナは簡易保持腕の上腕部に付いた見慣れない箱を指差した。


「秘密兵器だ! って……じょ、冗談だよ。展開すれば盾になるだけのもんだ。丈夫に作ってはいるが簡易保持腕は装甲も何もないからなぁ」


「じゃあ、あたし行くよ!」


 レナは懸架整備台の搭乗用昇降機に駆けていった。

 少女は乗り慣れたコクピットに滑り込み、機体制御システムを起動、ベルティンが手を加えた火器管制システムを一瞥し、機体を懸架整備台から起き上がらせた。


「みんなどいてね、レナ=カヤハラ、テスタメント出るよ!」


 脚部機動装輪(ランドローラー)を展開したレナのテスタメントが走り出そうとすると、水を指すように通信が入り、少年傭兵の顔が映し出された。


『ああ、俺もついて行くからな。そのデカい機関砲の弾薬運べって、俺のヴァンガードにしこたま載せられてんだわ』


 ミックの飄々とした物言いにレナは顔をしかめ、頭を振って切り換えると自身のSFを発進させた。


「ちゃんと、付いて来なさいよ。少しでも遅れたら置いて行くからね!」


『へいへい、あ、戦闘は頼むぜ? そっちの弾薬だけで積載量限界なんだわ』


 のんきにもそう言って、ミックはレナ機を追って走った。





 アレックスの駆るセルティクロス・ディムナは、距離をとったルーク種ベン・ブルベンを相手に攻め(あぐ)んでいた。

 ディムナは手の中の可変式機械弓(マクリーン)を大剣形態から洋弓銃(ガストラフェテス)形態へ変形させ、本体下部の箱型の弾倉(カートリッジ)を大盾に格納していた予備と交換した。炸薬鋼矢は既に撃ち尽くし、残っているのは通常の鋼矢のみだ。

 鰐の姿を残す巨剣を構え直したベン・ブルベンがアレックスの機体に下半身を構成する猪の頭部を向ける。大した助走もなく、トップスピードで突進を始めたルーク種に、アレックスは脚部機動装輪(ランドローラー)で相対速度を合わせて後退、ディムナは可変式機械弓で猪の頭部や脚元を狙い鋼矢を連射、装填した鋼矢を粗方撃ち尽くすと可変式機械弓を突撃槍形態へ変型させて後退を止め、ベン・ブルベンの左脇を掠め突き抜けた。

 ベン・ブルベンは突撃する脚を止めず、高速で後退を続けるディムナを追い、縦横に巨剣を翻して自身を目掛け撃ち込まれる鋼矢を迎撃、折り弾いて進む。身を翻し突撃を始めたディムナに、ルーク種は横合いから巨剣を叩きつけんと振るい。アレックスは左腕の大盾の表面に刃を滑らせてルーク種の巨剣を受け流し、返すように可変式機械弓の刃を突き出した。

 猪とは思えない瞬時の横への跳躍でベン・ブルベンはアレックスの刃を回避、ディムナの背面に駆け込み、右腕のみで保持した巨剣を、腕を一杯に伸ばし真っ直ぐに突き入れる。ベン・ブルベンの腕が元の副腕を思わせて伸長し、ディムナが急速に振り返りルーク種に向け直そうとした大盾を弾き飛ばし、弧を描いて宙を流れた巨剣が遠心力を得て、ディムナの胴を薙がんと高速で振り抜かれた。


「──ぐぅ!? 面妖な!! 所詮はフォモールと言うことか!?」


 手の中の可変式機械弓を突撃槍形態から大剣形態に一瞬で変型、両手で可変式機械弓のグリップを握り締め、アレックスはベン・ブルベンの斬撃に打ち合わせた。ディムナの肩部装甲に内蔵されたスラスターを開放、両腕の出力を上げる事で魔猪の伸腕の一撃をやっと防いで退けた。

 神殿騎士団長騎が己の攻撃を防いだことに拘泥せず、ベン・ブルベンは左腕を天に伸ばす。

 ベン・ブルベンとアレックスの間に割り入る事をせず、他の神殿騎士団騎と争っていたフォモールの内、ビショップ種、ナイト種、ポーン種がそれぞれ数匹ベン・ブルベンに襲い掛かった。

 ルーク種の背中に取り憑いた二羽のビショップ種はルーク種に取り込まれ、その人型の背に二門の砲を象った。ポーン種はベン・ブルベンの下半身の猪に喰まれ、ルーク種の体表に刻まれた傷を再生させる。ナイト種は一体は猪の胴を覆う装甲に、もう一体は左腕を覆う盾へと変じていた。


『我、汝蹂躙』


 ベン・ブルベンの盾の端から突き出された左手に、更に一羽のビショップ種が舞い降り、ルーク種は新たな弩を手に入れる。

 そして、言葉通りの蹂躙が始まった。

 隙を見せたルーク種にアレックスの操るディムナは手の中の(つるぎ)一振りを頼りに、機体に備わる全ての推進器を全開に敵の巨体へと斬り込んでいく。


「──馬鹿な!?」


 ルーク種は左腕の振り払い一つでアレックスの斬撃を弾き、がら空きのディムナの胴体に肩から伸びる砲身を向けて連続射撃、なぶる為にわざと直撃を避け、地面を転がったSFに、弩から放った短矢で獲物の四肢を撃ち貫き、大地に縫い付け固定した。

 次いで放たれた右腕の巨剣がセルティクロス・ディムナを、縫い付けた地面毎に両断する。

 最早、そのSFに操り手の意思は無く、ルーク種が駄目押しの様に抉り突き立てた巨剣は、神殿騎士団団長の墓石の様に映った。

次回、8/9更新予定

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