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第57話 撤退戦1 殿を担う 

 軋む身体を折り畳み椅子の背もたれに預け、青年は眼前の少女に問い掛けた。


「そう言えば、あんたはどうやって俺を助けた? 自慢じゃ無いが、割と絶望的な状況だった筈なんだが? ま、よく憶えちゃいないが」


「……どうでもよろしいでしょう、そのような事。(わたくし)が知りたい事はあの子の事のみです」


 青年の対面に座る少女の返答は素っ気なく、何時の間にか取り出したティーセットに淀みない動作で茶を淹れ、ソーサーに載せた紅い液体で満たされたカップを青年の前に差し出しす。


「──フォモールの真っ只中で地面に落ちていた貴方を拾い、あの大きいのの前から退散しただけですわ。少々、やり合いましたけれど」


 カップを差し出すのと同時に何でもないことのように囁かれ、青年の頭が少女の語ったその内容を理解する事には時間が掛かった。


「……ああ、少しずつ思い出した。そうか、奴に剣を突き立てて、圧し潰される寸前にコクピットブロックをパージしたのか? いや、したんだった。そのまま死んだかと思ったが、あんたに助けられていたってわけか……」


 少女はキッと青年を睨むと、その唇から声を発した。


「──それで、何時まで無駄口を叩くつもりですの? 貴方に許したのはあの子の事を話すことだけですわ」


 少女の手の中に忽然と現れた投擲用短剣(スローイングダガー)が青年の喉を狙っていた。


「おっかないな。はいはい、分かっておりますよ。つうか、先にも言ったが俺は大した事は知らんぞ。では──」


 肩を竦めて青年は知っている限りを語り出した。少女は手の中から投擲用短剣を何処かへと仕舞い、姿勢を正して青年の声に耳を傾けた。やがて青年はゆっくりと口を閉じた。


「──って、こんなところだな。悪いがこれ以上は知らん。それで、こんな話で良かったのか?」


 自身の話した内容の不完全さに不安を憶える青年に、少女少女は深く納得した様に頷くと青年に向かいます口を開いた。


「ええ、やっと分かりました。……何故、繋がりを断たれたのか。とても有用なお話でしたわ。只今の情報の礼です。お好きな場所へ送って差し上げます。どちらへ行きたいですか?」


 今までの印象を覆すような笑みを見せ提案する少女に、乾いた笑いをこぼし青年は遠慮なくその提案に乗ることにした。





『ガードナー隊長、貴隊僚機の回収を急ぎたまえ! あのルーク種と思しきフォモールの足留めはこの私が担おう! 誰でもいい、二、三騎はガードナー隊長と正反対側に倒れた機体の回収を手伝え!』


 巨大なルーク種に立ち向かうアレックスのセルティクロス・ディムナを視界にエリステラはサンダーボルトの銃身を折り畳み、杭状の二脚銃架(バイポッド)を前方に展開、レナの元に機体を走らせた。ジェスタ機の元には団長に従った神殿騎士団の数騎が向かっている。SFの集団が踏み入ったからか、遠巻きにしていたフォモール達が阻止せんと動き出す。


「レグナー団長、わたし達ガードナー私設狩猟団SF部隊の為に御助力を感謝致します。──レナ、無事ですか?」


 エリステラのテスタメントは両腕を失ったレナの機体の背に右手を差し伸べて抱き起こし、フォモールの群れから離れ神殿騎士団が確保する一角へ向かう。


『エリス……? あ……ねえ、ジェス姉は!?』


「ちょっと、待って下さいね、レナ──」


 エリステラはレナの問いに返す間もなく、襲い掛かってきたサーバルキャット型のポーン種の狭い額にサンダーボルトの杭打ちで押し止め、至近での一撃で身体毎、その頭を吹き飛ばした。自分達の機体からポーン種が吹き飛び地面を転がるのを見届け、周囲を索敵、次のフォモール達までに距離があるのを確認すると、神殿騎士団の通信から入った報をレナへの問いの答えとして返した。


「……ジェスタさんも無事だそうです。今はわたし達と同じく撤退中。レナ、きついかもしれませんが急ぎますよ! わたしが離脱を援護します! あなたの機体、まだ走れるでしょう、行って下さい!」


 エリステラはレナの機体を後方に押し、サンダーボルトの銃身を展開、弾倉に残る残弾を連射し、レナの為に退路を拓いた。神殿騎士団がそれを補強し撤退する味方を援護している。


『……エリス、ベル兄に応急処置して貰ったら、すぐ戻るからね! 気を付けてね!』


 主でもある親友をその場に残して行くことに葛藤を抱きながら、レナは展開したままの自機の 脚部機動装輪(ランドローラー)を作動させ、エリステラの拓いたフォモール達の間隙へ全速力で機体を走らせた。


「さて、次はジェスタさんの援護ですね」


 エリステラは空になったサンダーボルトの弾倉を最後の予備弾倉と交換し、ジェスタ機が存在する方へ機体を走らせた。





 ルーク種、ベン・ブルベンは立ち塞がる神殿騎士団団長を睨みつけた。


『貴様、我奪敵!!』


「何を言っている? 今はこの私が貴様の敵だ!」


 アレックスは可変式機械弓(マクリーン)を抜き放ち、突撃槍形態に変型させる。弓の大きな洋弓銃(ガストラフェテス)の形状から弓部(リム)が前方へ一八〇°回転し、弦が弓部に引き込まれ前方に閉じ刃を形成、ディムナの握るグリップが本体後部に銃床(ストック)毎起き上がり、閉じた弓部と一直線になった。アレックスの駆るセルティクロス・ディムナは大盾とマクリーンの突撃槍形態を構え、脚部機動装輪(ランドローラー)を展開し、至近のルーク種へ突進する。

 ベン・ブルベンは両腕を失っている事など意に介した様子もなく、人型の腰から繋がる巨猪を走らせ、神殿騎士団団長を迎え撃つ。魔猪は背部から伸びる副腕を束ねて射出、ディムナの構えるマクリーンの刃へ打ち合わせた。

 至近距離での突撃にも、いや、それ故か、双方大した被害もなく、互いの爪牙は弾かれた。

 アレックスはルーク種の脇を過ぎながら、マクリーンを大剣形態に変形、突撃槍の穂先となっている弓の基部が本体に対して九〇°回転、弓部は開いて本体を挟み込むようにグリップ側に一八〇°回転し、グリップ部はそのままに変形を完了する。

 アレックスは機体を回転し、マクリーンの刃は擦れ違い様に後ろから伸ばされたベン・ブルベンの副腕を迎撃、先端に生えた鋭い爪を斬り飛ばした。地面に落ちたルーク種の副腕はうねうねと蠢いて暫くして動きを止め、泥のように溶け崩れ汚れた水溜まりとなる。


「背後を見せど、隙を見せた憶えはないぞ!」


『──ッ!! 我、発暴威!』


 ベン・ブルベンは咆哮を上げ、無数の副腕を中途で千切られた両腕に絡ませた。ルーク種の副腕が溶け混ざり、ベン・ブルベンの両腕が瞬く間に再生した。再生と同時に、その新たな腕には長大な棍が握られている。


「面妖な! だが、再生する程度で、私が臆すると思ったか!!」


 鰐頭のナイト種がアレックスとベン・ブルベンの対峙する場に飛び込んで来た。アレックスのディムナの斬撃がその首を撥ねんと一閃され、それが適う間もなく、ベン・ブルベンの棍がナイト種の頭を貫通、ナイト種の脱力した身体がルーク種の手元に引き寄せられる。


「何の積もりか!?」


 アレックスは叫び、脚部機動装輪で疾走、ルーク種の巨体にマクリーンの斬撃を叩き込んだ。


「──っ、何だとっ!?」


 鰐頭のナイト種はベン・ブルベンの棍に刺されたままズリズリと尻尾まで串刺しになり、四肢が溶け落ち平たく成形され、ルーク種の手の棍は一振りの潰れた刃の巨剣となっていた。

 マクリーンの高速振動する刃はベン・ブルベンの巨剣に遮られ、その表皮にすら傷をつける事さえ叶わなかった。アレックスはその一撃に拘ることなくマクリーンの斬撃を重ねる。ベン・ブルベンは膂力に任せて巨剣を振り回し、アレックスの斬撃を弾いた隙に高い位置から巨剣を打ち下ろした。


「ぬぅっ! ……喰らうかぁっ!」


 アレックスは丹田から声を出して叫び、肩部装甲に内蔵されたものをはじめとする機体の各部の推進器(スラスター)を噴かせ、ベン・ブルベンの打ち下ろしに加速させた大盾(フィン・マックール)を打ち合わせる。

 ベン・ブルベンの斬撃はディムナの大盾の表面に線を刻み込んだが巨剣の刃は大きく弾かれ、巨剣を弾いた勢いのまま、アレックスはルーク種と距離を取り、剣と大盾を構え直し真っ直ぐに前を見据えた。

次回、8/5更新予定

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