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第53話 フォモール南侵5 獣を利する者

 序盤は一進一退、人間側有利に推移していた戦況は、対処を間違えた右翼中枢を担う傭兵団の壊滅から崩壊を始めた。きっかけは対ビショップ種、空から襲い来る液化爆薬を体内に満載した、この自律誘導弾群をどうにか出来ねば、教国防衛に展開中の部隊に限らず、人類側は元から積んでしまうだけだった。

 それが起こる直前、中央陣では戦域全体の情報から、指揮管制支援システムが最適と推測される攻撃手段、陣形を神殿騎士団(セルティクロス)団長騎(・オディナ)から、戦場の全機体、全部隊毎に提案した。


「今送ったのは貴殿らに最適と思われる意見提案だ。従う従わないに関わらず頭に留め置け。──中央陣、神殿騎士団に告げる。各自、疾く我が命じた陣形をとり、速やかに敵を撃滅せよ!!」


 神殿騎士団員は団長の号令の下、有機的に陣形を変更、フォモールに対し、それぞれに提案された攻撃方法を進んで選択し痛烈な打撃を与え始めた。

 後方に並ぶ神殿騎士団騎(セルティクロス)がケルト十字を象嵌された無反動砲(リコイルレスキャノン)長距離狙撃銃(スナイパーライフル)で空中の厄介者を排除し始めるのを横目に、ハリスは自身に来た指示が今まで通りに最前列でフォモール相手に地上戦を行え、というそれだけだった事を笑った。


「団長閣下の、いや、団長騎の指揮管制支(システム・)援システム(フィンタン)の命令なのかね? 単純過ぎて疑わしいくらいだな!」


 ハリスは自らが鎖分銅(フレイル)打撃部(ヘッド)を振り回して出来た円形の空間に立ち、上空から襲ってくるビショップ種諸共、地上を駆け寄るポーン種とナイト種までもを薙払い、打ち砕いていく。鋼鎖の間隙へと滑り込んだフォモールには左腕の円盾(ラウンドシールド)で打ち払い、体勢を崩させ鎖分銅が落ち、従騎士は自騎に触れさせない。

 左翼では地上、空中への攻撃でフォモールを次々に撃破するガードナー私設狩猟団の手法を真似、中央から送られた意見とも合致していた為、周囲の部隊は軽く無い被害を受けながらも戦果をあげ始め安定していた。

 右翼では殆どの傭兵団は自らの経験に固執し、中央から提案された意見を無視、ビショップ種が鳥型のみだった時まではなんとかなっていたが、昆虫型、特に他のビショップ種を守る蝶型が現れた瞬間、それまで維持された戦線が破綻し、蜻蛉型による超機動飛行の特攻に完全に止めを刺された。


「──ッ、愚かな!!」


 中央、左翼が健闘している中、右翼の中央で起こった連続する爆発にアレックスは思わず舌打ちした。


「前衛、後衛から右翼を支えられる部隊を選出! 直ちに右翼に回せ!」


 アレックスはフィンタンに命じて部隊選出を丸投げし、指揮管制支援システムは中央陣右翼側の数部隊へ、右翼に回るようアレックスの名において命じた。


「我等が神殿騎士団の勇者達よ! 討たれた右翼に送る仲間の為、移動を助け、援護せよ!! ──む、なんだ奴らは!?」


 右翼はほぼ壊滅状態、神殿騎士団から右翼へと部隊が移動するその最中、戦場の更に南西から味方識別のされない(スカウト・)(フレーム)(デミ・)(スカウト・)(フレーム)併せて三十機程からなる武装集団が現れた。


「奴らは敵だ! 警戒を怠るな!!」


 アレックスはそのSFを視認した瞬間に、フィンタンを通じて味方機体の全てに警告を発した。

 それはフィル・ボルグ帝政国製SF、“REVENGERリヴェンジャー”、頭部の兜飾りを含み全高9m弱、帝軍の二世代前の制式採用騎。刺々しい全身甲冑(フルプレート)を纏った黒騎士を思わせる造型、両肩に前後に可動可能な可動腕式(フレキシブルアーム)防盾シールドを装備し、その内側の接続端子(ハードポイント)に、左側には折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を、右側には対人用小口径機関砲(マシンキャノン)を装備している。

 フィル・ボルグに於いてSFとは士分以上の身分でなければ搭乗を許されない騎士の鎧にして、乗馬とも呼べる存在であり、フィル・ボルグ帝王より下賜される剣にして、忠誠を示すフィル・ボルグ貴族の証だった。その“リヴェンジャ-”に引き連れられ現れたDSFもまた、フィル・ボルグ製で、“TALION(タリオン)”という。基本装備として右腕の肩に簡易型の可動腕式(フレキシブルアーム)防盾シールドを装備し、左肩にマニュピレータは無く代わりに対人用小口径機関砲(マシンキャノン)を装備している。この機体の主目的が対フォモールではなく対人用であるため、SF用の装備を使用すれば一応の対フォモール戦も可能だが、その場合、左肩の対人用小口径機関砲はデッドウェイトにしかならない物だった。集団の先頭に立つ“リヴェンジャ-”から、フォモールとの戦闘継続中の神殿騎士団を始めとする者達への宣言が行われた。


『我等は憂国(ジェニウン・)志士団(パトリオティズム)! これよりトゥアハ・ディ・ダナーン教国と名乗る邪教の巣窟をフィル・ボルグ帝王の名に於いて断罪する!!』


「──愚か者共が、最早、我等に取り繕う事さえ忘れたかっ!!」


 アレックスは憂国志(フィル・ボルグ)士団(の走狗)に唸り、即座にシステム・フィンタンに現状視認出来る範囲内での憂国志士団の規模からの戦場に与える影響を分析演算させる。

 システムが導き出した演算結果は、憂国志士団そのものは味方に敵しえず、しかし、フォモールとの戦闘においては戦線維持さえままならなくさせるというものだった。


「あの愚か者共には構うな! フォモールの軍勢を最優先とせよ! 状況によってはこの場を退き、教国の街壁に籠もり盾とする! 加えて命じる、生存を優先せよ! 生き残れ!!」


 アレックスは大盾を通常形態へと戻し、フィンタンを停止させた。可変式機械弓(マクリーン)を構え問答無用に走狗へと向けて、炸裂鋼矢(ボルト)を撃ち込んだ。





(──あれ、僕は……?)


 自らの全てが浮遊感に包まれて、少年は瞳を開いた。


『やあ、目が覚めたかい?』


(……? ……声……)


『無理は駄目だよ。大分終わったけど、君はまだ改造中だからね? 後は馴染むのを待つだけだがね』


 良く分からない存在が放ったその言葉に、少年は目を見開いた。


「──どうなったんだ、僕は……」


 少年には自分で放った声が、まるで自身の声とは思えなかった。何時の間にか少年の身長は伸び、明らかにそれまでより成長していた。


『ある意味、君はどうにもなってはいないかな? まあ、どうしようもなく改変されているというのも、間違いではないけれど。おはよう、ダーナ(トゥアハ・ディ)神族(・ダナーン)(すえ)にしてフォモールの王に連なる者、約束の御子の演者、あ、消された元の名前が良いかな? それとも、いろんな人から呼ばれた名前の方が良いかな?』


「──なら、ジョンで良い。何処かの誰か(ジョン・ドゥ)、それが僕が決めた僕の名だから!」


『おお、元気がでたな! だが、まだ君の機体が改変中なのさ。もうしばらく待っていてくれ。後一日かそこらだから。それまで、強制的に眠って貰うよ。機体の最終調整が終わったら起こすからさ。もう一度名乗るけど、僕は神王機構(システムヌァザ)、君の一部であり、君を人外に変えた者。世界の終わりに訪れる終わりの獣に終わりをもたらすモノ、そして……』


 そして、神王機構は少年ジョン・ドゥに告げた。


『……どうしようもなく、君を壊すモノ』


「……そうか」


『……そうなんだ。そろそろ眠らせるよ。詳しくは目覚めた後で』


 神王機構の言葉と共に、ジョンの意識は柔らかな眠りに沈んで行った。

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