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第52話 フォモール南侵4 ガードナー私設狩猟団、奮戦

 フォモールの第一波を粗方片付け終わり、アレックスは自騎に搭載された指揮管制支援システム(システム・フィンタン)にフォモールとの戦闘開始から今までの戦況分析を命じた。視覚情報で解っている事も多いが、客観的な情報として分析結果を表示させる。

 その間にも先程と同じ様に、危険に陥った味方にはセルティクロス・ディムナが構える可変式機械弓(マクリーン)から鋼矢ボルトが飛び、彼等を危地から救っていた。


「む、中央と左翼は兎も角、右翼の動きが微妙に鈍い。──だが、何故だ? この、わざとらしくワンテンポ遅らせているような戦況は? しかし、何か事を起こすまでは静観するしかないか」


 フィンタンの解析した情報に、アレックスは首を捻る。

 神殿騎士団を中核として構成される中央と、狩猟団などの志願兵から構成される左翼が競い合うような様相であるのに対し。傭兵団を中心に構成された右翼のみ、周囲の状況を見て足並みを揃えているかのように戦闘を進めていた。


「そろそろ(フォモール)の第二波が戦域に突入してくるか。──戦域に立つ我が方の全ての者に告げる! 諸君の活躍により敵の第一波は撃滅された。だが,第二波の到達までそう間は無い、弾薬の補給など、直ちに行い次の戦闘に備えよ! 第二波からはビショップ種の投入が予測される。相手は巨大質量のミサイルのような物だ、各自、対空攻撃手段の準備を怠るな!」


 騎士団直下の索敵部隊から送られてきたレーダー情報を元にアレックスは周囲に勧告し、自身に視線が集まる中、可変式機械弓の空になった通常弾倉を、展開状態の大盾(フィン・マックール)の内側から取り出した(やじり)に炸薬を封入した伸縮式爆裂鋼矢(ボルト)の弾倉に交換した。

 中央に配されたアレックス麾下の神殿騎士団員達は団長の指示に従い、大半が装備していた近接武装からケルト十字を象嵌された銃火器へと一斉に持ち替えている。

 その最前列、従騎士ハリス=ハリスンは自身のセルティクロスの周囲に山と積まれた、ポーン種を始めとするフォモールの撲殺体が溶け崩れ出す事を確認し、ケルト十字二つを片方のみ90°回転させ十字に組み合わせた打撃部をもつ長柄の戦棍(ロングポールメイス)の打撃部を固定するロックを解除、打撃部から柄の内側に繋がる長い鋼鎖を引き出しながら重い音を立てて地面に落下した。得物を鎖分銅(フレイル)に変え、自騎に長柄の端を握らせる。これが射撃を好まないハリスの対空攻撃手段であった。


「この形態で振るうのは久しいね。まあ、アーニーにも破られなかったんだけど」


 遠巻きにする自らの所属する部隊の者達は誰も聞いていない事を知りながらハリスは呟き、弟子である副団長を破ったフォモールの存在を想い、静かに闘志を滾らせた。

 轟風を纏った合金製の分銅が空を裂いて炸裂する。

 第二波の先頭を飛び、遥か彼方から自軍中央陣に突撃した燕型のビショップ種が目的を果たせずに空中で弾け飛んだ。同時にその体内の液化爆薬が打撃の衝撃で引火し、爆炎の華が咲いた。


「隊長殿、本陣へ連絡を。フォモールの第二波、もう来ております。そうそう、我が騎への接近はお止め下さい。獣諸共砕いてしまいますゆえ」


『馬鹿者、頼まれても近づかんわ! ──本陣への連絡は了解した。貴様はそのままフォモール共を殲滅しろ!』


「命令、拝領しました。従騎士ハリス=ハリスン参ります。隊の方々は我が騎への援護をお願い致す!!」


 ハリスが所属部隊の隊長へ通信するも、隊長からはけんもほろろに返され、苦笑を漏らして敵へと立ち向かう。

 それを始めとして,ポーン種とナイト種からなる地上戦力を置き去りにした数限りない鳥型のビショップ種が、遥か彼方から猛スピードで飛来し、教国守護に展開中の軍勢へと吶喊を始めた。

 人の操る人形が放つ幾つもの火線が空中に爆炎の華を咲かせるが、それすら交い潜ったビショップ種が少なくとも一体以上の機体を巻き込んで爆発し、とうとう教国側に被害が出始めた。

 中央陣の最前線ではハリスの駆るたった一騎の神殿騎士騎セルティクロスが振るう鎖分銅(フレイル)に打ち砕かれ、跳ね飛ばされて空中に爆発する。

 ハリス機の背後に並んだ数機の神殿騎士騎(セルティクロス)が張る弾幕に、中央を狙いつつもハリス機を避けた巨鳥達の大半は撃ち落とされている。

 異変が起きたのはその直後、ビショップ種が鳥型のそれから昆虫型のそれに変わってからだった。

 鳥型のビショップ種と違い、昆虫型のビショップ種では単純に特攻する物はなくなり、蜻蛉型など迎撃の弾丸をその場でホバリングして躱し、直後に上下左右に滑るように移動、停止状態から一瞬で最高速度に乗り特攻して来る。

 蝶型は空中を遊弋(ゆうよく)し、爆薬状の鱗粉を撒き散らし、SFやDSFから放たれた弾丸を無差別に空中で爆発させ無効化させている。

そんな存在達が戦場の空を覆い始めた。

 左翼、ガードナー私設狩猟団の受け持つ区画にも鳥型が減り、昆虫型が表れだした。

 ジェスタは戦闘開始前にミックから聞いていた話を思い出し、数歩後ろのDSFのパイロットに確認した。


『あれがジョン君が苦労してたって奴ね? ミック君』


『そうっす、ジェスタの姐さん!』


 それを聞き、自機左手の回転式機械鞭(スクリューウィップ)を腰背部の接続端子(ハードポイント)に留めていた短機関銃(サブマシンガン)と変更し空に撃っていたレナは、通信機越しに呆れた声を出した。


『なんであのバカ、ビショップ種相手に折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)しか、持って行ってないのよ!? 遠回しな自殺志願者だったの、アイツ!?』


 エリステラは部隊員の軽口を無視して、サンダーボルトで蜻蛉型と蝶型を狙撃していた。


「──わたし、蜻蛉型とは相性が悪いみたいです。連発すれば落とせるみたいですが。蝶型は逆にサンダーボルトが特に有効ですね。鱗粉が反応して爆発するまでの間に蝶型の本体に着弾してますから」


 少女が言葉を紡ぐ間に彼方に二度の爆発が起こり、周囲を飛んでいたビショップ種数匹がその爆炎に呑まれて誘爆、一瞬、その空域にぽっかりとフォモールのいない穴が出来た。


『エリス、なにやってんの!?』


「はい、わたしのサンダーボルトが通用するのかやってみました! なんだか大丈夫そうですね!」


 空から一瞬フォモールの姿が消えたのを見て、驚きの声を出したレナへ、エリステラは自慢気に大きな胸を張り得意気にして見せた。


「ですが、追加が来ましたよ。ここからが本番です。レナは今まで通りにわたしのカバーと、それに優先して蜻蛉型へ攻撃を、ジェスタさんも今まで通り前衛遊撃を、但し今までより敵の物量は多くなります。ミックさんは上空のビショップ種に牽制、落とせれば落として下さい! わたしはナイト種と蝶型への狙撃をします!」


 言ってエリステラ機が指差した方向には、ポーン種とナイト種の第一波を数倍する規模の群れが走り寄って来ていた。


「皆さん、予備弾倉はきらせていませんか?」


『ジェスタ機、問題ないわ』


『レナ機、特に問題なーし』


『……へ、あ、あー、ミック機、同じくだ』


「よろしい皆さん、……はい、ではフォモール第二波本隊に向け、戦闘開始です!」


 エリステラの号令にガードナー私設狩猟団はフォモールの第二波に対しての行動を開始した。

 ジェスタ機は地上のポーン種とナイト種の集団への距離が有るには自身の判断で上空への攻撃に参加し、レナ機は片手に装備した短機関銃で弾幕を張り蜻蛉型だろうとビショップ種に接近を許さない。

 フォモールの第二波本隊との戦闘は序盤、人間達に有利に推移していた。

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