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第49話 フォモール南侵1 決闘の副団長騎

お読みいただいてありがとうございます。

「おう、なんだお節介野郎(ブズィバディ)、お前か?」


 声を掛けられた時、ドクはガレージで何時もの様に作業をしていた。フォモールの侵攻方向に自らの居を構えるこの難民キャンプが存在される事が神殿騎士団を通じて教国から公表され、神殿騎士団の迎撃部隊が出撃し、この難民キャンプから住民が殆どいなくなった次の日も変わらずに。


「何だ? 忙しくなるから弾薬の補給か?」


 背を向け作業を止めぬまま、ドクは声を掛けてきたアンディに返した。。


「いや、悪いんだがよ。──死んでくれ……」


 アンディは何時も通りの気怠そうな口調で告げ、背後からオルソンの身体に刃渡りの長いナイフを突き刺した。この難民キャンプの中で子供でも買える程度の安く大量生産される凶器を。パイロットグローブを着けていて柄には指紋も残ってはいない。


「……てめ、……なに……を!?」


 ゆっくりと前のめりに倒れてゆくオルソンにアンディは悔恨の滲む声で話し掛けた。


「──もう用済みなんだ……悪いがね。あんたのことは嫌いじゃなかったぜ。ゆっくり眠ってくれよ? 安煙草で悪いが最期に一服するといい」


 アンディは赤く火の着いた紙巻き煙草をドクの傍に投げ、その場を後にした。

 人気(ひとけ)の少なくなった通りをアンディが去り、しばらくしてドクのガレージから火の手が上がり、その主人と共に真実は炎の中に消え去った。





 空と陸の区別無く、見渡す限りの景色全てがフォモールの群れに塗り潰されていた。

 フォモールの最前には今までに確認された事のない巨大な一体、ルーク種と推測される者が悠然と進んでいる。

 それは猪の四肢で地を蹴り、人型の上半身を騎士鎧で包み、長大な長柄の武器を手にしていた。

 それは巨大な猪の背中から人型の上半身が生えた姿をしており、猪の身体にも鋭い牙を持つ頭があり、人型の身体にも猪を模した兜を着けた頭があった。その背から数本の触手状の副腕が外套(マント)の様に垂れている。

 何かに気づいたのか魔猪のルーク種は手にした斧槍(ハルバード)を天に掲げ振り下ろした。指示を受け、フォモールが暴走したかの様にスピードを上げる。

 背後からフォモール・ルークを追い越して、無数のポーン種が、数多のナイト種が、幾多のビショップ種が速度を上げ駆け出した。少数毎に隊列を組み進んで行くフォモール達は、まるで一つの意思の下に完璧に統制された軍隊を思わせた。

 鋼色の獣達の軍勢が土煙を上げ、ネミディア中央平原を南に向かい疾走を続ける。

 フォモールの大群がさほど進まぬうちに距離を取り姿を隠した全身鎧の騎士を思わせる揃いのSCOUT(スカウト)FRAME(フレーム)の戦闘部隊によって南方から撃ち込まれる砲弾と銃弾に、特にポーン種はなす術なく倒されフォモールの軍勢の先頭は足留めを余儀なくされた。

 アーネストは低木や丈の長い雑草の生えた丘の上に伏せる愛機セルティクロス・オディナの内部から僚機に指示を出していた。

 今、オディナは何時ものディルムッドを分割して双剣として左右腰部に装備し、銃口から硝煙を上げる神殿騎士団仕様のケルト十字が意匠化された突撃銃(アサルトライフル)を手にしていた。

 僚機のSF達も、今は通常時の近接戦用の装備ではなく、フォモール殲滅を目的に円と十字を重ねたケルト十字が刻まれた銃器や砲など遠距離攻撃用の装備を主としていた。


「まだ、頭は上げるな! 第一陣装填! 伏せ撃ちの出来る今の内に出来るだけ打撃を与えよ! 観測手は上空を警戒、ビショップ種には第一陣の擲弾発射砲以外の者が対処する。第二陣用意! 撃てっ!」


 アーネストの号令と共に、携行した数少ない擲弾発射砲(グレネードランチャー)運用を目的に分割した隊の攻撃が再び始まった。

 アーネストは自身も手の中の突撃銃を放ち、まるで数の減った様子の無い敵陣へ、上空のフォモール・ビショップや地をゆく他種のフォモールへと弾丸を撃ち込んでいく。やがて、フォモールの群れと隊の距離が詰まり始めた。


「擲弾発射砲装備の者以外は砲身が焼き付くまで撃て! 銃撃を加えつつ、奴等との距離を取るぞ! 事前設定の地点まで後退開始!」


 アーネストの指示に、迎撃部隊の隊員達は攻撃の手を緩めずフォモールの前に姿を表し、後退を始めた。


『貴様、我が敵!』


 アーネストへと何者かから通信が入り、巨大な半月形の影がセルティクロス・オディナを覆った。轟風が唸りSFでは保持すら出来ない巨大な斧刃を備えた斧槍が風を纏って襲いかかった。


「総員、速やかに撤退せよ! 撃てる者は撃ち尽くせ!! 本国にルーク種と思われる存在を疾く、疾く伝えろ! 散開して走れ!!」


 隊員達に指示を送りながら、斧槍の初撃の打ち下ろしをアーネストはオディナの機体表面に掠めさせながら避け、戻す動きで斧刃の逆側に生えた鶴嘴(ピック)を撃ち込まれるのを手にした突撃銃を犠牲にして回避、隊員からの銃撃の合間に後退し双剣(ディルムッド)を両手に構える。

 いつの間にか猪のルーク種の巨体が目の前に存在していた。


『我、決闘所望!!』


「受けざるをえないじゃないか。ああ、受けよう! だが、決着が付くまで、他の者へは手出しを控えて貰おうか?」


『是、弱者不要!!』


 ルーク種が雄叫びを上げ、フォモールの大群は進軍を止め、ルーク種とアーネストのセルティクロス・オディナを中心に大きく円上に広がり中央の二体に無数の視線が送られた。


「聞こえていたな、隊員諸君! 疾く教国へと帰りたまえ! 知性を示したこのフォモール・ルーク種の存在を、ここにいるフォモールの規模を、見覚え、伝えろ! 我らが未来が為に!! トゥアハ・ディ・ダナーン主教国神殿騎士団副団長、アーネスト=マイヤー参る!!」


 アーネストのオディナは可変式双剣“ディルムッド”を連結し、ランドローラーを展開し構えた。


『我、環境保全分子機械群体(フォモール)中位戦闘個体(ルーク種)魔猪、ベン・ブルベン也!!』


 ルーク種、個体名ベン・ブルベンは巨大な斧槍(ハルバード)を頭上で回転させ、ピタリと静止させ構えた。

 神殿騎士団のSF達は副団長騎へと敬礼を送り、後方に未練を残しながら、その場を去って行った。

 オディナ以外の全てのSFが去るとフォモールは輪を閉じ、鋼色の獣達によるコロセウムがその場に形成された。


「フォモールの貴殿にこんな事を言う事になるとは思わなかったが、我が隊の撤退への協力を感謝する」


 アーネストはベン・ブルベンと干戈を交え、切り結びながら感謝を告げた。


『決闘、我所望。対決者、願望履行、当然』


 轟風を纏って斧槍が斜めに振り下ろされ、オディナは襲い来る斧刃に飛び乗り、脚部機動装輪(ランドローラー)で長柄を走り連結槍(ディルムッド)を突き入れた。

 ベン・ブルベンの背中の副腕が空中に走り、その先に生えた鋭利な爪が連結槍の刃を迎撃し互いに弾かれた。

 姿勢を崩す寸前に連結槍を分割、双剣と変え副腕の一本を斬り飛ばし、オディナは着地した。

 それを狙っていたのか、ベン・ブルベンは斧槍を大きく振り回し長柄でオディナを払い打った。

 オディナは双剣を挟み状に構え、厚みの在る背で受けたがベン・ブルベンの膂力に大きく跳ね飛ばされた。


「受け止めるのは不味いのは分かってはいたが。……これほどとはな」


 力任せのただの一撃に悲鳴を上げ始めた機体に、アーネストは思わずぼやいた。


「だが、まだ負けてはいない!」


 気を取り直し、アーネストは軋む機体を起こし、双剣ディルムッドを構え、ベン・ブルベンに向かって脚部機動装輪で駆け出した。

 ベン・ブルベンは油断無くアーネストが起きるのを待ち、斧槍を構え、起き上がったオディナへと猪の四肢で突撃を始めた。

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