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第43話 北の地にて蠢く/小さな友への祈り

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

ブクマしてくださった皆さんありがとうございます。

 その日、人類領域大陸北辺に広がる針葉樹林帯にて、ネミディア連邦軍フォモール侵奪州南部州境監視部隊に所属する第一二小隊は東部と南部の二つの州境監視部隊の設立原因となった五年前それよりも小規模ながら、フォモールの大きな群れの州境を越えての侵攻を確認した。


「既に皆、概要は知っているだろうが、フォモールの南侵が確認された」


 州境南端から南東へ数km先に展開中の監視拠点、仮設部隊本部作戦会議室にて、フォモールの侵攻を確認した小隊の報告より数分後、交代休養中の隊員を含め、仮設本部に詰める全ての人員が作戦会議に召集され、淡々とした部隊長の声が室内に響いた。

 広大なフォモール侵奪州を監視するには少な過ぎる人数ではあったが、部隊の目的は州境を越境するフォモールの監視であり、殲滅ではなかった。

 その証拠にこの仮設本部で運用されているSCOUT(スカウト)=FRAME(フレーム)は連邦軍最新鋭機のARGUMENT(アーギュメント)を二機と、その一世代前のELEMENT(エレメント)が四機の計六機のみであり、何とか軍本部に予算をつけて貰い購入した国内産DSFのVANGUARD(ヴァンガード)の六機でお茶を濁している有り様で、全部で一五ある監視小隊の全隊にはどうやっても行き渡らないのだった。

 それでも会議室のあちらこちらから、フォモールの群れへの早期攻撃開始を求める声が隊員たちから上がる。


「部隊長殿、攻撃の許可を!」


「このまま手を拱いて事態を放置すれば、五年前の二の舞となります! 隊長殿ご決断を!」


「私の故郷は五年前から州境の向こう側です。目と鼻の先に帰る事が出来ずにいるのです! ここから南に住む人々に私と同じ、そんな思いはさせたくありません!」


 首都に詰める連邦軍中枢から見れば閑職といえる二つの州境監視部隊だが、所属する隊員たちの士気は連邦軍主力部隊と比べても驚く程に高く、その職務の持つ意味を中央の軍事官僚などよりも余程正しく理解している。

 部隊長にしてみても、隊員たちの出す即時攻撃開始の意見には内心で賛成している。しかし、観測されている現状の戦力比でさえ、隊員たちに死んでこいと命令を下すようなものでしかなかった。ましてやフォモールの群れには、まだまだ後続がある事など疑いようも無い。

 隊員たちの言う事にも一理有り、確かにフォモールを見送ってしまえば、(いたずら)に連邦国民を傷つけ虐げる事になるのも目に見えていた。

 南部州境監視部隊隊長は、藁にも縋る思いで東部州境監視部隊隊長に連絡を取る。さほど時間は掛からず東部、南部の州境監視部隊は協力してこの事態に両部隊の全戦力により対処する事が決まった。

 南侵するフォモール達を追う州境監視混成部隊。

 それから数時間後、東部、南部を問わず北辺の州境監視部隊からの連絡が途絶えた。

 ネミディア連邦政府には州境監視部隊からフォモールの大群の南侵について報告はされたのだが、受け取った情報局の職員は愚かにも誤報として報告書をゴミ箱に捨て、その数十分後にはシュレッダーに掛けられていた。

 その間もフォモールの軍勢は何故かゆっくりと中央平原を目指し、しかし、着実に歩みを進めていた。

 魔獣の軍勢の先頭には、今までに確認されていなかった巨大な異形のフォモールが悠然と歩んでいく。

 眼前を遮る全てのモノをなぎ倒して。

 侵攻方向から目標と思われる中央平原、連邦首都では今日も市民達は何も知らず、危機感の無いまま、いつも通りの詰まらない日常を謳歌している。





 教国に戻る道すがら、ジョンはセイヴァーの通信機を起動し樹林都市ガードナーへの通信を開始した。

 エリステラに言われた事を守り、アクセルへの連絡を取ろうとして。


『こちら樹林都市ガードナー所属、ガードナー私設狩猟団団本拠(ハウス)で有ります。貴官の所属、姓名、通信の目的をお願いします』


 画面に映る何やら見覚えの無い若い男性に堅い声で応答され、ジョンは通信機の前で首を捻った。


「ガードナー私設狩猟団客分(ゲスト)、ジョン=ドゥです。

前SF部隊長ダン=マクドナルの遺児アクセル=マクドナルへの私信です。アクセルを出してください」


『──貴官の所属、姓名は確認した。しかしながら、私信での通信の利用は認められない。以上、通信を終える』


 向こう側から一方的に通信が途絶され、少年はポカンとした顔でコンソールを見つめた。気を取り直し、ジョンはもう一度通信機を起動し同じように通信を開始した。


『こちら樹林都市ガードナー所属、ガードナー私設狩猟団団本拠(ハウス)で有ります。貴官の所属、姓名、通信の目的をお願いします』


「ガードナー私設狩猟団客分(ゲスト)、ジョン=ドゥです。整備班技師長ダスティン=オコナー氏をお願いします。なお、秘匿任務に関する為、貴方に開示する必要性は有りません」


 先程と同じ男性の姿が映り、堅い声が聞こえジョンは再度、自身の所属と姓名、それから先程とは目的を替えて応えた。


『──貴官の所属、姓名は確認した。しかし、秘匿任務とは何か? 説明を求め……あだっ、……技師長殿、いきなり何を!? のわあああああ!!』


 何やら通信機の向こう側が静まり、先程の声の主が居なくなった。


『おう、悪いな坊主! ウチの新人が馬鹿やってやがった! ……それで俺に用か?』


 ダスティンが通信機の向こうで主導権を取ったらしく、相変わらず威勢のいいこえがコクピットに響いた。その背後には呻き声が聞こえている。


「親方、オルソンさん発見しましたよ。何か教国から神敵に指定されていて、身を隠していました。もし良ければ、伝言を預かりますよ?」


『は、あの馬鹿野郎が、しかし、元気にやってやがるんだろう? じゃ、一言だけな。『俺も持っている。師匠の願いだ、叶えてやってくれ』だ。頼むな坊主』


 ダスティンの告げた伝言の内容に、ジョンは強い衝撃を受けた。


「それって……親方も手帳を持っていたの? ドクさんは自分だけだって!?」


『ああ、今はドクって名乗ってやがったのか、師匠の呼び名だぜソレ。あの日、奴が師匠の家から去った後さ、俺も師匠が残した手帳を見つけてたのさ。最初から二冊遺されていたんだ。まああの頃、アイツは独り身だったし、その時にはもう、ベルティンと嫁がいた俺には家族を捨てては行けなかった。そういうこったな。師匠不孝な弟子は俺の方さ』


 ダスティンは自嘲して平然とした声で嘯いた。


「じゃあ、伝言預かったからね。必ず伝えるから!」


『ああ、頼むな坊主。他には何か無いのか?』


 いつになく優しい声で老技師長は少年に思いを託し、ジョンは続くダスティンの問い掛けに忘れそうになっていた小さな友人へと通信するつもりだった事を告げた。


『おお、アクセルのチビか? 今日も格納庫に潜り込んでやがったな。ちと待ってろ。連れて来るからな! おら、延びてんじゃねえよレビン。邪魔だぜおい』


 ダスティンが通信機の向こうから去る気配を感じ、何も返らない通信にジョンは急速に不安に駆られた。


『ほら向こうはジョンの坊主だぜ。言いてえ事あんだろ?』


『……ジョンにい?』


 どれほど経っただろうか、緊張に縮こまる身体を解そうとしたその時、ダスティンに促された小さな友人の声がセイヴァーのコクピットに響いた。


「うん、僕だよ、アクセル。エリスに会ってさ、君に通信してくれって言われたんだ。ごめん。今まで君の事を放って置いて」


『おれのほうこそ、ごめんなさい。とうちゃんのお葬式のとき、おれジョンにいにひどいこといった。ジョンにいがとうちゃんをころしたんじゃなかったのに。えっとだから、ごめんなさいジョンにい』


 ジョンは首を横に振りアクセルへ返す。


「君は謝らなくて良いんだよ。直接に手を下した訳じゃ無くても、ダン隊長が死んだ原因は僕にあるんだから。それは間違い無いことなんだから」


 ジョンは悔恨の念を抱いて消え去りそうな声でアクセルへ答えると、小さな友人は癇癪を起こしたように泣き出した。


『……やだ、ジョンにい、やだ、やだよ。おれもういわないから。どっかいっちゃやだ。ジョンにい』


「何処にも行かないよ、アクセル。僕らはずっと友達だから……」


『ひっぐ、うん。っく、おれ、ゆるすよジョンにい。ともだちだから、おれ、ジョンにいのともだちだから』


「嬉しいなあ。助けが欲しくなったら、何時でも呼んでね? 空を飛んででも、君を助けに行くから」


 少年は小さな友人に誓う。

 祈るような想いで。

 いつか、アクセルの身にそんな事が起きないことを願いながら。

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