第42話 緊急依頼2 少女との再会
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前話後半から最後まで差し替えました。
話の大筋に変化はありませんが、主人公の印象はおおきく変わっています。
教国の玄関先といえる場所での憂国志士団との戦闘と、戦闘終了後、追加派遣された神殿騎士団による死亡したパイロットを除く憂国志士団構成員の捕縛は完了し、騎士団の小隊が雑務傭兵を纏め、教国内に戻ろうとしたその時、西の方角に信号弾の発射が確認された。
神殿騎士団隊長仕様騎セルティクロス=フィアナから雑務傭兵のSFやDSFといった機体に呼び掛けられた。
『雑務傭兵の諸君、緊急の追加任務だ。これより、先程西の空に確認された信号弾の発射地点へと調査に向かう。緊急依頼の上、追加任務だ。報酬の増額は確約出来ない。そこに不満のある者は完了証を受け取り、速やかに教国へと戻ってくれ』
『一人で獲物を食い散らかすマナーの悪い奴がいやがったからな。少しでも報酬の足しにせんとな』
『今日は何処ぞの片腕乗り様のおかげで、オレは何も仕事してねえ。動き足りねえからこのまま、神殿騎士団に付いて行くぜ!』
憂国志士団の機体を平らげたジョンに対し、この様にあげつらう傭兵も居たが、その場に集まった雑務傭兵は報酬額の低い緊急依頼を受けるだけあって真面目な性質の者が多く、誰一人欠けず神殿騎士団の調査行に随伴する事になった。
『神殿騎士団の一員として、この場の雑務傭兵諸君の協力に心より感謝する。では、出発する』
騎士団の小隊を先頭に、雑務傭兵達はぞの後ろに着き、通常時は許されないランドローラーの戦闘機動で土煙をあげ、機械の騎士達は一団となり走り出した。
通常規制されている航行速度では一日かかる距離は戦闘機動で大幅に短縮され、教国と連邦首都への分岐点付近の信号弾発射地点に辿り着いた。
既にその場の戦闘行為は終息しており、壊れた機体群が街道の脇に小山を作っていた。
残骸には、磁性金属帯による首都の都市警備のマーキングがされている。
『我らはトゥアハ・ディ・ダナーン主教国、神殿騎士団所属第六壁外警備小隊の者だ。この付近にて信号弾の発射を確認し、隊を連れ訪れた。何方か、状況の解説を願いたい!』
神殿騎士団の隊長は何も持たない自機の手を挙げ、その場に佇む戦闘後と見られる者達に声を掛けた。すると、その中から深緑を機体色の基調に用いたSF、ガードナー私設狩猟団のSFTESTAMENT三機が前に出て来た。真ん中に立つ巨大な狙撃銃を装備した一機からスピーカーを通して優しげな少女の声が響いた。
駐機姿勢をとらせたSF部隊のコクピットハッチを開放し、姿を現した金髪の少女に視線が集まる。
『初めまして樹林都市所属ガードナー私設狩猟団SF部隊隊長、エリステラ・ミランダ=ガードナーと申します』
少女は隊長騎に会釈すると機内に戻った。見目麗しい少女が姿を隠した事に、主に傭兵達から残念そうなため息が漏れた。
『おお、あの樹林都市の誇るガードナーか。御名前から察するに設立者の家系の方か。SF部隊の隊長が貴女の様な女性とは知りませんでしたな。さて脱線してしまったが、この場について説明を願えるだろうか?』
騎士団隊長の現状説明の要請に、エリステラは頷いて口を開いた。
『先程、わたし達は憂国志士団と名乗る武装集団の強奪を目的とした襲撃に遭遇、街道を封鎖され、これをこちらにいる皆さんと協力して撃退したのです。わたしには、そちらの方の言う信号弾の発射に思い当たりはありませんが、道を塞がれ留められていた何れかの車両の方が打ち上げられたのではないでしょうか? それから、こちらを襲撃した憂国志士団の構成員達は全て、あなた方、神殿騎士団のしばらく前に現れた連邦首都の都市警備に連行されて行きました』
『エリステラ嬢、状況説明に感謝する。そちらの話しを伺うに、どうやら我ら教国の目と鼻の先でおきた憂国志士団の襲撃と時を同じくして行われた様だ。まあ、我らの件はこちらの片腕乗り殿という雑務傭兵一人に鎮圧されていたが』
そう言ってセイヴァーを手で示す隊長騎。少年はエリステラにセイヴァーの手を振ってみせる。エリステラはテスタメントをセイヴァーに接近させ、手を伸ばして機体同士を接触させ外部スピーカーをカットし、新たにセイヴァーへの接触回線を開いた。
「ジョンさん! ジョンさん、ジョンさん、ジョンさん!!」
エリステラによって自分の名を連呼され、ジョンの顔は笑みを浮かべて綻んでいる。
「やあ、エリス。そんなに呼ばなくても聞こえているよ。顔を合わせるのは、しばらくぶりだね」
「はいっ! ジョンさんも一緒に来ませんか? これからわたし達は、連邦首都でのお仕事なのですが……」
「出来れば僕もそうしたいけれど、そうも行かないんだ。親方の兄弟弟子の人に課題を貰っちゃってさ。クリア出来るかも解らないけど、やらなきゃいけないから。ごめんね、エリス」
「そうですか、……残念です。ですが、連邦首都と教国は直ぐそばですもの。何時でも連絡して下さいね。わたし、駆けつけますから」
エリステラがジョンにそう告げていると、残るテタメントがもう一機、セイヴァーに近付いてきた。
『お嬢、ジョン! 公衆の面前でいきなり二人して内緒話を始めるんじゃないわよ!』
「あらあら、そうですね。わたし、はしたなかったかしら。ありがとうございます、レナ」
「レナさんか、君もしばらくぶり。エリスとは以前に少し通信で話していたけどね」
『二人とも、周りの皆から変な目で見られてるよ! 注意しなさいよね』
レナは二人に向けて告げ、去り際の数瞬セイヴァーに触れ、「あの時はごめんなさい」一言そう少年に言い残すと戻って行きジェスタの機体と自機を並ばせた。
何故謝られたのか解らずキョトンとする少年に、傍らの少女に声を掛けられた。
「では、わたしも戻ります。そうそうジョンさん、お時間あったらアクセルさんに通信してあげて下さいね」
「アクセルに、うん、わかったよ」
「またお会いしましょう、ジョンさん」
エリステラのSFは名残惜しげに離れ、狩猟団の他の面々に合流し、少年は静かに見送った。
狩猟団のSFが離れて行くと、ミックのヴァンガードが近付いて、ジョンにあの少女との関係を勘ぐって来る。
『ジョン、お前、あの娘とどういう関係なんだよ!? ガードナーって言ってたよな。あのガードナーなのか? 樹林都市の。すっげー、名門じゃんか。さっき、何話してたんだ? なんとか言えって、おい!』
「ミック、キミうるさい。何でも良いでしょ? あの娘とは教国に来る前からの知り合いだよ、それで納得しなよ。ほら僕たちも教国に戻るよ!」
ジョンは少年傭兵を軽くあしらい、教国に戻ろうとしている神殿騎士団を示した。
『おっと、マズい。まあ良いか、戻ろうぜジョン!』
少年達の操作するSFとDSFは肩を並べて凸凹な影を伸ばして元来た道を辿っていった。
それから程なく連邦首都の門をくぐり抜けて、ガードナー私設狩猟団の物資搬送車の護衛任務は無事に完了し、ジョンとミックは神殿騎士団から任務完了証を受領し教国に戻って行った。




