第40話 憂国志士団襲撃2 狩猟団、 対峙す
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加速を始めた大型のトレーラーが、破裂した後部タイヤにより片側後部のみに急激な減速をかけられ轟音と共に横転する。
エリステラは憂国志士団の側に自身の齎した惨状を無視して、長距離狙撃銃“雷霆”の銃身を折り畳み、二脚銃架を衝角形態に変形させ、ジェスタとレナのSFの背を追った。
『──やっぱり、DSFって非力ね。ガードナーの旧型SFより、馬力が無いなんて、残念ね? それから、練度の低い自分達を恨みなさい』
味方への誤射を恐れてか、左肩に装備する折り畳み式騎剣を抜き放ち、斬り掛かってきたDSFと高周波振動騎剣を用いて切り結び、コントロールグリップを通して機体から返って来る何時もより遥かに軽い手応えにジェスタはつまらなそうに独り言ちて、自機の膂力で押し込むと敵ヴァンガードが掴む騎剣毎その腕を両断し、返す刃で残った片腕を機体の肩から斬り飛ばして、次の獲物を探しに行く。
『ジェス姉、はやっ! あたしも負けてらんないわ!』
ジェスタが相手方のDSFをあっさりと一蹴するのを横目に捉え、レナは奮起し自身のSFを走らせた。敵方に唯一残ったSFを目指して。
エレメントは街道を行く車両のどれかの護衛らしきSFと熱戦を繰り広げていた。当人同士には熱戦であろうが、あちらが叩けばこちらも叩くといったその姿は、レナの瞳には出来の悪いターン制ゲームをしているようにしか見えなかった。
『──ぇ、なに、これ? この人達、遊んでるのかな?』
レナは思わず呟き、タイミングを見計らうと二機のSFの間へとインターセプトし、憂国志士団のエレメントの右肩を右手の高周波振動騎剣で斬り裂いて、通り過ぎ様に相手の左肩を左手の突撃銃でバースト射撃しその場を駆け抜けた。
『この程度なら、直ぐに終わるよね?』
呆然として立ち尽くす憂国志士団と護衛らしき二機のSFを後目に一言呟き、レナはジェスタと同じように次なる憂国志士団のDSFを目指して行く。そこへレナとジェスタへエリステラからの通信が届いた。
「トレーラーの足留め完了しました。レナ、ジェスタさんそちらに合流しますね」
エリステラは僚機の援護の為、戦闘行為により舞い上がった土埃の中へテスタメントを躍らせる。通り過ぎ様に時折、目にした憂国志士団や護衛らしきもののDSFとSFの残骸と、そこに手持ち無沙汰に立ち尽くすSF達に声を掛けつつ走った。
「戦闘力を奪ったなら、そのまま彼らの監視をお願いします。人手が有るならば拘束を。相手は犯罪者といえども、その状態からの殺害は連邦法に違反しますのでお気をつけて」
いっそ、穏やかなエリステラの声に毒気を抜かれ、双方のパイロット達はぽかんとした顔で少女の機体を見送った。その中にはエリステラの背に知らず敬礼を送るパイロット達が少なからず存在していた。
巨大なサンダーボルトは、これを装備しているだけでエリステラ機の可搬重量一杯な為、他の武装は装備不能となる。狩猟団の副技師長がサンダーボルトに近接戦闘機構を付与したのも当然といえた。
戦場に飛び込んできたエリステラ機目掛け、遠目から連続的な火線が伸ばされる。敵ヴァンガードからの短機関銃による射撃だ。
エリステラは脚部機動装輪で機体を加速し、自機を蛇行させて走らせる。襲い来る塊となった弾丸を掠める様に避け、硝煙を上げる短機関銃を持つDSFに肉薄して、槍の様に構えたサンダーボルトの衝角でその手の銃を打ち払い、半歩前に踏み込むとヴァンガードの右肩を突き込みながら杭打ちして撃ち砕いた。衝撃にDSFは回転しながら吹き飛び。エリステラは飛ばされたDSFを追い、敵機の左腕肘関節に衝角を突き入れてマニュピレータの可動を不能にした。
レーダーを確認したエリステラは視線を上げ、周囲を見渡した。
付近に一体ずつ僚機とDSFの反応がある。少女はその味方へ通信した。
「レナ! ご無事でしたか?」
両腕と脚部を損傷したDSFの前に仁王立ちするテスタメントからエリステラへ通信が返された。
『や、エリス! コイツら歯応え無いよ。エリスは怪我してない?』
「はい、わたしも無傷です。レナ、ジェスタさんはどちら?」
『ん、あっちだよ!』
レナ機の右手にある高周波振動騎剣で示された方向では、ジェスタ機が残り数機のヴァンガードを相手にまとめて蹂躙していた。
『ほらほら、キミ、左手がお留守よ? そっちのアンタは機動が雑すぎ、──それから、テメエは敵前逃亡してんじゃねえよ!!』
敵の攻撃を避けながら、テスタメントの外部スピーカーから響くお姉口調の青年のアドバイスと共に放たれる攻撃に、憂国志士団とやらのDSFは一体、また一体と倒れて行く。
最後に残った三機の内の一機が踵を返し、その場から逃走しようとすると、ジェスタは声を荒げて突撃銃でそのDSFの脚部を撃ち抜いた。ヴァンガードは前のめりに倒れ、何度も前転し地面を転がって残っていた腕部を在らぬ方向に折り曲げて止まった。
その場に残っていた最後の二機のDSFはジェスタの行為に戦慄を憶えたか、その場で武装解除し機体の両手を上げてジェスタに見せた。
『赦されるとか、思ってんじゃねえよボケ共!』
自分勝手なソイツらの遣り口に、ジェスタ機から放たれた弾丸が最後の二機のDSFを撃ち抜いた。
両肩と片足に銃創を穿たれて崩れ落ちる憂国志士団のヴァンガード、抵抗力を失った彼らへとジェスタ機はゆっくり近づき銀光一閃、精確に装甲のみを切り裂いてコクピットの内側、パイロット達の眼前に高周波振動する刃を閃かせた。
通り過ぎた明確過ぎる殺意に片側のパイロットは白目を剥いて気絶し、もう片側のパイロットは恐怖にガチガチと歯を打ち鳴らしながら股間を濡らし、大の大人が情けなく号泣した。
「ジェスタさん……、やりすぎです!!」
『お嬢……、見てたの? 大丈夫、殺してはいないわよ」
戦闘は既に終了し半時間、憂国志士団の構成員達はSFやDSFに乗っていた者は機体から降ろされて、間に合わせの縄で縛られて一カ所にまとめられている。その周囲を護衛任務のSF乗り達や狩猟団のSF部隊が機体で取り囲んでいた。
彼らへと注意を払うジェスタへとレナは心配そうな声で問い掛ける。
『……ジェス姉、どうしたの?』
『なんでもないわ。あ、ほら、やっと都市警備が来たみたいよ?』
レナの心配そうな問い掛けを遮ってジェスタはそれを示した。
連邦首都のほうからやってきた大型のトレーラーを連れた四機一組の都市警備の小隊は、憂国志士団の構成員を自分達の車両に積み込み、犯罪に使われた機体にビーコン付きの特殊な磁性金属帯を貼ると街道脇に移動させ、さっさと首都に戻って行った。
被害に遭った面々には当たり障りの無い遣り取りを二、三言交わしただけだった。
「これは……、ひどいですね」
『すごいね、やる気、ゼロより無いみたい』
『きな臭いわね。お嬢、レナ首都に入ったら。これまで以上に気を付けましょう』
都市警備から遅れて、教国方面から神殿騎士団の小隊が雑務傭兵を連れやって来た。
その中には狩猟団の面々の見覚えのある片腕のSFが、見覚えのないDSF一機を連れていた。




