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第36話 難民キャンプのSF技師3

今回から隔日更新です。

 ドクのガレージに向けて走るブレイザー、酒を呷ったアンディの操作するその肩の上から振り落とされない様、ジョンはブレイザーの肩部装甲表面に打ち付けられている装備固定用のフックに手首を通して掴まっている。

 コクピット内のアンディは外部スピーカーを使い、少年にのみ聞こえる程度の声で話し掛けた。


『……お前、俺の事を信用し過ぎだぜ。憶えてろ、あまり俺を信用すんな』


 ジョンは走行時の風圧で聞こえなかった様で、コクピットの中のアンディに怒鳴った。


「ええっ! 聞こえないよ!? 」


『……しっかり掴まってろって言っただけだ!』 


 アンディは誤魔化すように言い、ブレイザーを加速させた。肩の上で少年が何かわめいていた。


「うわっ、ちょっ!」


 それから程なく、少年と傭兵はドクのガレージの前に戻って来ていた。

 停止したブレイザーの肩の上から飛び降りるようにジョンは駆け出し、入り口のパネルカーテンを押し開いて、ガレージの内部に押し入った。

 奥から現れた見知らぬ少年に怒鳴られながらジョンは押し止められた。


「いったいなんだ、テメエ!! ここぁ、ドクの工房だぜ! 横暴は赦さねえ!! っ、テメエは!?」


 ジョンの顔を見て息を呑む少年。そんな相手の動揺など構わずにジョンは少年に怒鳴り返した。


「横暴ってなんだよ! 僕はそのドクさんに話す事が有るだけだ!」


「元気だねぇ、お前ら」


 少年二人が角を突き合わせじゃれ合う傍を、アンディは懐かしいものを見る目で眺め通り過ぎ奥へと入って行く。

 片腕のSFの前で中腰で黙々と作業している人影に声を掛けた。


「おい、ドク! 度々悪いが聞いて貰いたい事がある」


 ドクは自身に掛けられた声に振り向き、のっそりと立ち上がると口喧嘩の様相を呈してきた少年二人を横目で眺め、傭兵に対して口を開く。


「……なんだ、お節介野郎(ブズィバディ)


「よ、さっきぶりだな。おい、ジョン、そんなの放ってこっち来い! ドク、アンタに用があんのは俺じゃ無くて、あの小僧だよ」


 アンディに呼ばれジョンは、なおも邪魔する少年の肩を極め引き摺って傭兵と技師の傍に走って来た。折れない程度には手加減している。


「いぎ、な、この! 細っこいのに、なんて馬鹿力だ」


 引き摺られながら、少年はジョンに悪態を吐く。ジョンはそちらをまるっきり無視してアンディに話し掛けた。


「アンディさん、この五月蝿いのどうにかしてくれない?」


「お前が離しゃ良い。不意打ちだって受けねえだろ、その程度の相手じゃよ」


「そうなんだけどさ、まあいいや、アンディさんに感謝してね」


 ジョンは少年の肩を叩いて解き放ち、ドクとアンディに向き直った。少年はうずくまり自分自身の肩を押さえてジョンを睨んでいる。


「僕のセイヴァーに変な事してないよね、ドクさん?」


「そんな事ぁしねえ、例え小僧が気に入らなかろうが仕事に手を抜いたりはしねえよ。ましてや、小細工なんてな。師匠の教えだ」


 ドクの言葉を聞いて、ジョンは笑みを浮かべ、腰のポーチから一通の封筒を出し、ドクに渡した。それを後目にアンディはガレージの中に適当に座れる場所を見繕い腰掛けると、携帯用小型水筒(スキットル)を取り出し我関せずと一人、改めて呑みだした。


「ダスティン親方みたいな事を言うんだね、ドクさん? あなたが本人か判らないけど。ガードナー私設狩猟団の技師長、ダスティン親方からの紹介状。僕はあなたがその人だと思うからドクさんに」


 気の抜けた表情をして、両手でジョンに渡された封筒を受け取るドク。


「……やはり、バレてやがったか。懐かしい奴の名を。で、俺はどうなるんだ。神殿に連れて行かれるのか?」


「テメエ!!」


 ドクの言葉尻を耳にして少年が跳ね起き、意味も解らずジョンに飛び交った。

 ジョンは冷静に殴りかかる少年の腕を取り、足を払い地面に組み伏せ、キョトンとした顔で首を傾げてドクに訊ね返した。

 

「なんの話ですか? 僕は自分のSFを直して貰いたいだけです。……無くなった片腕も含めて」


「少し時間を貰う。こいつを読ませろ。そいつも離してくれ、一応、俺の客だ」


 そう言い残しドクは整備台(ハンガー)脇の情報端末の置いてある事務机に歩いて行った。残されたジョンは少年を再度解放し、話し掛けた。


「君、名前は? 僕はジョン=ドゥ。ドクさんに修理を頼みに来ただけ」


「テメエの名前なんざ聞いてねえよ」


 少年は警戒心の強い犬の様に唸り、ジョンに反発する。


「アハハハ、威勢が良いな。ドクさんは客って言ってたけど、君もSFに乗るの?」


「……あんなバカ高いもんに乗れる訳ねぇだろ。お前と違ってな、片腕乗り(ワンアームド)


 少年はジョンを睨み付け、ジョンを彼の知らぬ字名で呼んだ。

ジョンは自分の事を呼ばれたとは思えず、少年に聞き返した。


「片腕乗りって何? 確かに僕は片腕のSFに乗ってるけど」


 ジョンの反応が少年が思っていたものと違っていたらしく、ガシガシと頭を掻くと、ジョンに怒鳴る。


「そうだよ、お前の事だよ! なんで知らねえんだ。協会に戻ってねえ、お前?」


「協会が、何か関係あるの? 心当たりは無いよ、僕は」


 少年はジョンの態度に溜め息を吐き、ジョンに対して説明を始めた。


「あのな、アソコで飲んだくれているお節介野郎(ブズィバディ)みたいに、字名を付けられるってのはすげー事何だよ!」


 ジョンは少年に茶々を入れる。


「カッコ悪くない? “お節介野郎”とか」


「カッコ良いじゃんか!! 字名だぜ、何人もの雑務傭兵(バイプレーヤー)から認められた証明なんだぞ!! ただ、依頼をこなしても貰えねえの!! 勝手に名乗るダセエ奴もいねえ訳じゃねえけどよ。お前の“片腕乗り(ワンアームド)”ってのは雑務傭兵達から贈られたホンモノ何だよ」


 ヒートアップしてきた少年に、ジョンは冷水を浴びせる様に感想を漏らした。


「やっぱりカッコ悪いよ?」


「だから、お前はよぉ!! ちげーんだよ、字名を貰ったってことがかっけーんだよ、解れ!!」


 ジョンと少年が傍目に仲の良さそうなやり取りを交わす中、紹介状を読み終えたドクがジョンの下にゆっくり歩み寄って来た。

 ガレージを見回しドクは、アンディが寝転けているのを見つけて、一瞬、情けないものを見た表情をし、顔を引き締めてジョンに向き直った。


「坊主、お前の機体、完全修復を引き受けよう。ダスティン(あのバカ)の紹介でもあるしな」


「本当ですか!? ドクさん」


 ドクの言葉にジョンは満面の笑みを浮かべる。しかし、それに水を差す様にドクは言葉を続けた。


「だが一つだけ、条件がある。

 あるものを俺の替わりに探してくれ、期限は求めない。

 それを探すのに、お前の機体はきっと欠かせまい」 

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