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第32話 難民キャンプ防衛戦2 夜に舞う翅

今日も大変遅れすみません。

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

ブクマしてくださった皆さんありがとうございます。

『ジョン、フォモールだ。どうやらフォモールを見て逃げ出した奴等がいてな。そいつ等の守備範囲から、そっち方向に数匹抜けられた! 俺も追うがこっちにも来ていてな。すまんが、対処を頼む!」


 不意にアンディから通信が入り、ジョンは目の前の片腕の壊れたDSFから剣を引き、背を向けた。傭兵達のヴァンガードが背面の接続端子(ハードポイント)からそれぞれの銃器を装備しセイヴァーの背中に銃口を向ける。


「……仕事の時間だよ。お遊びはおしまい。片腕のSFだって闘える。あんたのDSFだって、砲台代わりにはなるだろう?」


 少年の声が夜の平原に響き、舌打ちした傭兵達の乗るDSFの銃口がセイヴァーから外され、フォモールが来るとされる方向に向けられた。彼等を遠巻きに観戦していた野次馬達は三々五々に難民キャンプへと駆け出していた。

 ジョンはそれらを一顧だにせず、セイヴァーのランドローラーをを戦闘機動、最大戦速で駆けさせる。

 少年の前に姿を現したのはレイヨウ型の数頭のポーン種達、頭部に生えた様々な形の一対の角をこちらに向け、走る勢いをそのままに突進して来る。

 それを見て、ジョンは手にしたままの折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を前方に向け、迫り来るポーン種の先頭個体へセイヴァーを突進させた。交錯の瞬間、少年は自機を一歩外へ動かして軸をずらし、無防備な延髄へ斬撃を見舞う。

 先頭のオリックス型のポーン種の首は斬り飛ばされ、首なしの胴体は走りながら溶け崩れた。

 二番手のインパラ型のポーン種へはセイヴァーの攻撃が間に合わない。しかし、セイヴァーの脇を通り過ぎた先で三機のDSFからの銃撃を受け崩れ落ちている。

 数頭のポーン種をジョン達が撃退すると、今度は一羽のモルフォ蝶型ビショップ種が飛来した。

 爆薬状の鱗粉を振り撒き空を舞う鋼色のモルフォ蝶に、セイヴァーは遠距離攻撃手段を持ず、ジョンには打つ手がなかった。

 空から降るフォモールの鱗粉が、先頭に立ちランドローラーで蛇行を描き走行するセイヴァーの周囲に爆炎を上げる。

 後方から傭兵達のDSF三体により断続的に放たれる銃撃さえ、蝶型フォモールの翅から落ち漂う鱗粉状爆薬に触れて起こる小規模爆発に遮られ、モルフォ蝶の体表面にさえ届かない。

 ジョンは対抗手段を求め、ビショップから注意を逸らさずに周囲を見回す。

 地表を駆けずる片腕のSFに、上空のモルフォ蝶は何ら痛痒を感じず、より多くの人間の集う難民キャンプ、更にはその先の教国へと進路を向けた。


「アイツ、街に向かってる、牽制で良い! 街へ行かさない様に弾幕を!」


 ジョンはビショップの行く先に街明かりを見て、傭兵達に叫んだ。


『やってるってんだよ! クソ、鱗粉で弾が通らねえ!』


『来るな、来るな、来るなっ! この先に行かせるかよ!』


『火力が足りねぇ! こんな豆鉄砲じゃ、どうにもならん!』


 フォモールに銃撃を集中させ、DSFの傭兵達が口々にジョンに叫び返す。ジョンはゆっくりと舞い飛ぶ蝶を追い掛けた。


『こっちゃ片付いた。ジョン、お前らの方はどうだ?』


 少年がセイヴァーを旋回させた所へ、彼方のアンディから撃退完了の報告が入る。


「ダメ! ポーン種は撃退したけど、厄介なビショップ種がいる! そいつの特性で銃撃が届かないんだ!」


 焦りを消せぬまま、ジョンは通信機に叫び返した。土煙を上げて、蝶型のビショップ種の前に回り込んだ。


『俺もそちらの向かっている! なんとか保たせろ!』


 アンディが通信機の向こうで言い放つ中、少年はセイヴァーを走らせ、その場から距離を取り、助走を付け自機の唯一の武装である折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を天のビショップ種へ投げつけた。


『バカ、何やってやがる!』


『てめえの武器を投げ捨てんな!』


 唯一の武器を自分から投げ放ったジョンは傭兵達から抗議を受けた。空を切り裂き騎剣はフォモールに向かって飛び、質量の違いからか、先程から続く傭兵達の銃弾よりも奥まで鱗粉の壁に入り込んだ。しかし、やはり鱗粉の爆発に弾かれ、回転しながらあらぬ方向に飛ばされ地面に突き刺さった。しかし、蝶型のビショップ種は認識を改めたのかセイヴァーに向き直る。

 それを良いことに、ジョンは都市方面から離れた位置に突き刺さった自身の騎剣を取りに機体を走らせ、フォモールはセイヴァーを追い、高空を飛び、ジョンを目掛け鱗粉を降らした。

 傭兵達も周囲に爆炎の上がるセイヴァーとそれを引き起こすモルフォ蝶型のビショップを追い掛けてくる。ジョンに片腕を破壊された一機はもたついているが、それぞれに装備した銃の弾倉を交換し、三機のDSFの走行軌道を交差させ上空へと銃撃を重ねる。


『あー、ちくしょう!当たんねえ!』


「無理はしないで! 奴は僕を追って来てる。近づき過ぎれば爆発に飲まれるぞ!」


 傭兵達の中からか突出して来た片腕のDSFにジョンは叫び、彼を取り残す様にセイヴァーの速度を上げた。


『こんな火に……!』


 傭兵はそれでもジョンを追い速度を上げ、寸前にセイヴァーの躱した爆炎の中に片腕の機体は自分から飛び込んで炎に巻かれ、そこへ降って来たフォモールの鱗粉状爆薬を浴びて爆散した。

 

「……あ、ぅあ、あああああああああああああああ!!」


 自分に絡んできた傭兵の最期を見て、ジョンは棒立ちになったセイヴァーのコクピットの中に叫んだ。

 少年の叫びと同期してセイヴァーの機体内の隠蔽化装置(ブラックボックス)が目を覚ます。


〔Extra system “Balor's fragment” stand by. - Ex effect “Balor's Shroud” spread over〕


 システムメッセージが流れる中、モルフォ蝶の鱗粉状爆薬がセイヴァーの全身に降り注ぎ、刹那の後、少年は先に爆散したDSFに乗る傭兵の様に爆炎に飲み込まれた。


『な……!?』


『アイツら、犬死にを……』


 残された二人の傭兵が声を漏らし、爆炎を見詰める。

 視線の先、セイヴァーを飲み込んだ爆炎が内側から弾け、片腕のSFが手にする爆圧に歪んだ騎剣の刃に収束、無造作に振り抜かれた炎の剣閃が上空のモルフォ蝶を両断し、ビショップは爆発し、鱗粉状爆薬に燃え移り、上空に広がった炎が一瞬、真昼の様に地上を照らした。

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