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第31話 難民キャンプ防衛戦1 雑務傭兵登録

大変遅れましたが更新します。

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

ブクマしてくださった皆さんありがとうございます。

 ジョンの駆るセイヴァーは、見知らぬ雑務傭兵達の操る三機のDSFと対峙していた。周囲には難民キャンプの住人達を始めとする野次馬達が遠巻きに輪を作っている。

 少年の味方であるアンディは機体共々別方面におり、こちらでの騒動に気が付いていなかった。


「どうした、片腕! 掛かって来ないのか? オイ、てめえ等、銃撃は無しだ。ただでさえ片腕のSFだ。これ以上価値が下がるからな!」


「わかってらあ」


「へへっ、了解、了解」


 目の前に並ぶヴァンガード、その中央の機体に乗るパイロットから外部スピーカーを通してジョンに声を掛けられた。周りの二機がその場に手にしていた銃を落とした。


「なんでこんな事をしなくちゃならないんですか!? 僕には争う気なんてないですよ!」


 ジョンもセイヴァーの外部スピーカーを起動し言い返した。その間にセイヴァーとの距離を詰めた、三機のDSFが(やじり)の様な三角の陣形で迫ってくる。


「俺達が勝ったらその片腕のSFを売っ払って、有効活用してやるって言ってんだろうが!」


 少年が名を知らぬ三機のリーダーらしきパイロットはヴァンガードの左肩の折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を抜き放ちセイヴァーへ接近して来る。リーダーに倣う様に後方の二機のヴァンガードも折り畳み式騎剣を展開した。


「一方的な! 僕のセイヴァーを、なんであんた達に売り払われなきゃならないんだ!」


 ジョンはセイヴァーのランドローラーを展開、円を描く軌道で自機を疾走させ、DSF達の振るう刃の間を縫うようにして避けて見せ、そのまま傭兵達の背後へとセイヴァーは駆け抜けた。


「まだ諦めないの?」


 ジョンは自身は一切の攻撃をせず、対峙したDSF達を翻弄して見せた。

 野次馬達からDSFの傭兵達に嘲りの野次が飛んだ。どうやらいつの間にか賭けが成立していたのか、ジョンの目の前にいる傭兵達の勝利に賭けた野次馬達から負けそうになっているDSFの集団に発破が掛けられている。


「っふざけやがってぇ! もう手加減なんざしねえ、ぶっ壊してやる!」


 傭兵達のリーダーは叫び、何も考えていないかの様に騎剣を振り翳しセイヴァーに斬り掛かった。

 ジョンはゆったりとして見える動作で腰背部から自機の折り畳み式騎剣を抜き放つと、迫り来るDSFを去なし、その剣を弾き飛ばした。DSFの機体の脆弱性が露呈し剣を弾き飛ばされた衝撃で、騎剣を保持していた機体のマニュピレータが折れ砕けている。


「これ以上やるなら、次はコクピットも狙うよ?」


 傭兵達のリーダーに騎剣を突き付け、淡々としたジョンの言葉に、目の前も傭兵達だけでなく、取り囲んだ野次馬達まで全てが色を無くし押し黙った。

 

(なんでこんなことになったんだ?)


 ジョンは見知らぬ人々の真ん中で三日前の出来事を思い返した。





 三日前、少年が神殿騎士団の二人と言葉を交わした次の朝、ジョンはアンディと約束した通り、路地で待ち合わせたアンディと教国第三区に設けられた雑務傭兵(バイプレーヤーズ)協会(アソシエーション)のダーナ教国支部へと訪れていた。

 雑然として薄汚れた、場末の安酒場の様な建物だと思っていたジョンの想像はその建物に裏切られた。


「ほー、こんな風なんだ? 雑務傭兵協会って」


 白く清潔感の漂う建物を前に少年は呟く。中に入ると更にお役所然としている。


「始めて此処に来る奴は、みんな銀行か何かと間違えやがるぜ。

雑務傭兵風情が、とか言う奴もいるな。負け惜しみみたいにな。傭兵登録はあそこの窓口だ」


 アンディは少年に見える様、指差して場所を教える。傭兵の男が指し示した窓口にジョンは小走りに向かった。協会内にはそれなりに盛況で、傭兵らしき人々の姿が多数あった。


「いらっしゃいませ! 雑務傭兵(バイプレーヤーズ)協会(アソシエーション)トゥアハ・ディ・ダナーン主教国、第三居住区支部へようこそ! どのようなご用件でしょうか?」


 はきはきとした口調で受付嬢が少年を出迎えた。その様子にジョンは少し気圧されながらも、自身の用件を受付嬢に告げた。



「雑務傭兵として、登録したいんですが」


 少年の周囲の傭兵達が耳をそばだてているのにアンディは気付いた。


「はい、ご登録ですね! 身分証のご提示をお願いします!」


 ジョンは認識票(ドッグタグ)を受付嬢に差し出す。受付嬢はハンディスキャナで認識票のデータを読み取り、彼女の傍らのディスプレイに情報が表示される。


「お名前はジョン=ドゥさん、経歴にあのガードナー私設狩猟団の客分(ゲスト)をされていたと、少し前に起きた衛星都市“キャンプ” での戦闘経験もありですか。所持SFは聞いた事が無いですがセイヴァーという機体が有り、と」


 画面に視線を這わせ、受付嬢が少年の情報を読み込んでいく。やがて一つ頷くと、ジョンへと向き直った。


「ジョンさん、本当に雑務傭兵としての登録をしていただけますか?」


「はい、アンディさんの手伝いを約束しているので」


「アンディ? アンディ=オウルですか。あら、お節介な(ブズィバディ)アンディ居たのね?」


 いつの間にかジョンの背後に立っていたアンディが物騒な視線を受付嬢に送る。受付嬢は涼しい顔で受け流した。


「コイツはこの街にいる間だけの期間限定だ。確か、出来た筈だよな?」


「えー、そうなの? そりゃ出来るけど、……アンディそんな目で私を睨まない! はいはい、ジョンさんは期間限定の契約ね。しかも、滞在期間限定と、はい、登録完了です! では規約書あげるから読んでね? ジョンさん」


 そうして、期間限定での雑務傭兵として登録は完了。規約書を渡されただけで、解説がなかったのには面食らったが、アンディにジョンが聞いた事によると、基本的には読まなくても問題ないような事しか書いていないらしかった。

 アンディの難民キャンプ防衛任務の受領証に協力傭兵としてジョンの名を加えて協会を後にした。

 何名かの粘り着く様な視線がジョンに向けられていた。

 少年の回想は続く、トゥアハ・ディ・ダナーン北の難民キャンプ防衛任務一日目、ジョンはアンディと共に任務を遂行する他の雑務傭兵達との顔合わせをしていた。

 居並ぶ傭兵達へアンディから紹介され、ジョンは自身の名を告げ会釈した。

 その場に居る傭兵達の内訳は、圧倒的に安価なDSFに乗る者が多く、DSFに比較して高級で高性能なSFを所持している者はジョンとアンディを含め、ほんの少数しか存在していなかった。

 ただでさえ目立つSFパイロットである年若いジョンに、勝手に皮算用した不躾な視線が傭兵達の並ぶあちこちから注がれた。


「コイツは登録したてだが、腕の方は俺が保証する。この任務の間は俺の相棒だ、おかしなことは考えるなよ!」


 アンディは少年に注がれる不躾な視線を牽制する様にそう言い放ったが、その場に少数しか居ないSFパイロットで有ることに加えて、雑務傭兵としてそれなりに名の知られたアンディの庇護化にあると少年は傭兵達に印象付けられただけに終わってしまう。

 更にジョンの乗るSF、セイヴァーの隻腕の姿を見て傭兵達の勘違いが加速された。

 それから日が暮れ任務の都合上、SFとDSFを均等配置する為、アンディとジョンの配置が離されたその晩に、少年と同じ班に分けられたDSFを操る三人の傭兵達に、ジョンは意味の分からない絡まれ方をした。


「どうせお前、お節介野郎(ブズィバディ)に囲って貰ってるだけなんだろ? 片腕だろうとSFだ。売り方次第で良い値が付くぜ。どうせお前にゃ身の丈に合ってねえんだ、俺達に噛ませろよ」


「何の話ですか、僕はこのSFを手放す気なんて無い」


 傭兵達はアンディの言葉など気にはせず、彼の何時ものお節介からジョンは庇われているだけの背伸びした仔犬だとしか思われていなかった。

 ジョンはきっぱりと断り、不真面目な傭兵達から離れ、決められた守備範囲のギリギリへとセイヴァーを移動させた。


「判ってんだぜ。お前、弱えんだろ、機体の片腕を無くすくらいだ。お節介野郎が居なきゃ、なんも出来ねえくらいになぁ!」


 その場を離れるセイヴァーの背に、傭兵から嘲りを含んだ声が浴びせられた。その場はそれで終わり防衛戦闘も発生せず、その次の日にこうして同じ傭兵達から絡まれたのだった。

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