第30話 ダーナ教国にて7 神殿騎士団副団長アーネスト
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「ただいまー」
「お邪魔します」
玄関先から屋内へ声を掛け、ジョンとダナはハリスン家の居間に向かった。
家主であるハリスが顔を出し、二人を出迎えた。
「ダナ、ジョン君、二人ともお帰り。お、ジョンくんすごい荷物だな。二人で出掛けていたのかい?」
「はい、今日はダナさんにこの街を案内して貰いました。そう言えば、お礼も言ってなかったね。ありがとう、ダナさん」
ハリスへジョンは笑顔で返し、ダナへ礼を伝えた。
「そんなの言わなくてもいいよ、ジョンくん。あたしの荷物持ちしてもらう代わりだったんだし」
「なんだ、ジョン君が持ってる荷物はダナの物か」
少女は父親を見上げ、台所を指差した。
「お父さんも運ぶの手伝ってあげて。あれ全部、食料品だから、台所までね」
「構わないけれど、実は今、来客中なんだ一言、断ってくるよ」
娘の指示に頷いて、ハリスはそう言って居間に戻ろうとした。その場に父親を引き留め、ダナは慌てて問う。
「え、え、それ大丈夫なの、お父さん?」
「一言、言えば大丈夫さ、客と言ってもアーニーだから」
ハリスはそう言ってダナに微笑みかけ、居間に入って行き、ジョン達二人の前に直ぐ戻って来た。
「お待たせ、ジョン君荷物を貰うよ?」
「ありがとうございます。ハリスさん」
ジョンは抱えていた荷物のいくつかをハリスに持って貰い礼を告げた。
ハリスは少年に向けて首を横に振り、ジョンに答える。
「家の娘の手伝いをして貰ったんだ。礼など要らんよ」
少年一人でも抱えられる程度の荷物だ。二人で運べばダナの指示に従い直ぐに台所の収納に片付いた。
何故かジョンも含め、三人揃って急いで居間にとって返す、扉の向こう側から、ソファに座った長身に引き締まった体格で黒髪の北方系人種の青年が三人に蒼い瞳を向けていた。
「や、待たせたね。アーニー」
「大して待ってませんよ、師匠」
「久し振りだね、アーニー!」
「うん久し振り、ダナ。最近、なかなか遊びに来れないで悪かった」
「はじめまして、ジョン=ドゥといいます」
ハリスン親子がアーネストにそれぞれに声を掛け、アーネストと言葉を交わす中、ジョンは一人不思議な気持ちで自己紹介をし頭を下げた。
「やあ、君がジョン君だね? 僕はアーネスト=マイヤー、ハリスさん、師匠の弟子で、ダナの年上の幼馴染みの、神殿騎士団副団長さ」
ジョンに対するアーネストの自己紹介を聞いたダナとハリスは顔を見合わせて笑い出した。
「あははははっ、お、お父さん! あ、アーニーが、ぼ、僕って……」
「……ぶふっ、わ、笑っちゃ、だめだぞっ、ダナ、似合わんがな!」
笑いをかみ殺そうとする親子に、笑われている青年が口を挟んだ。一人、ジョンだけが蚊帳の外に置かれている。
「ちょっと待て、そこの親子! いや、俺も自分でもどうかとは思ったが。そこまで笑うほどかよ! もう良い、口調を変える。それと師匠、本題を忘れてやしませんかよ?」
アーネストは笑ったままのハリスに右手の人差し指を突き付ける。ハリスは深呼吸を繰り返し、自身を落ち着かせようとした。
「……そうだった、ジョン君に聞いておかなきゃならない事があるんだ。ダナ、お茶の用意を頼む。ジョン君、君も座ってくれ」
「……はーい」
ダナは父親の様子に首を傾げ、台所へ小走りに向かった。少女を見送って、ジョンはハリスとアーネストの向かい側に腰を下ろす。
「ジョン君は、オルソン=エルヴィスというSF技師を探しに教国に訪れた。これに偽りはないね?」
「はい、間違いないです。……あの、どういう事何ですか?」
頭の周りに疑問符を浮かべた暢気な顔で少年はハリスの質問に答え、問い返した。
「ジョン君、君はオルソン=エルヴィスがどういう人物か知っているのかい?」
少年に今度はアーネストが問い掛ける。
「今の顔も住んでる所もよくは知りません。僕は樹林都市のガードナー私設狩猟団の技師長のダスティン=オコナーさんに教国に居るらしいと紹介されただけですから。ダスティンさんも二十年前からは会って居ないみたいでしたね」
ジョンは腕を組み、顎に指を当て思い出した事をアーネストに答えた。ジョンの答えに、ハリスとアーネストは顔を見合わせて二人は頷く。
「問題ないだろう? ジョン君は」
「そうですね、師匠。俺の取り越し苦労だったみたいだ」
男性二人が頷き合う姿を前に、ジョンは訳も分からず訊き返した。
「で、これ、一体なんなんですか?」
「君の探している、オルソン=エルヴィスという人物なんだがね。彼については問題がある事が分かったのさ」
ハリスが口にしたその言葉の続きをジョンは二人に訊ねる。
「オルソンさんに何があるんですか?」
「オルソン=エルヴィスはダーナ教国から神敵と定められているんだ。もし、ジョン君がそれを知った上で彼を探していた場合、申し訳ないが、君を拘束させて貰う事になっていた」
自身が拘束されるかもしれなかったと告げられ、少年は一瞬固まり、息を吐いて安堵を漏らした。




