第29話 ダーナ教国にて6 夕焼けの街を
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申し訳ないですが、今日はいつもより短いです。
ジョンはダナに持たされたかさばる荷物を抱え、夕陽に照らされる商店街を少女の後に付いて歩く。
視線をやれば、商店街の壁面には昼間には少年は気が付かなかった幾つものホロヴィジョンが浮かび、商品のコマーシャルやニュース映像、バラエティ番組など様々な映像が流されている。
商店の立ち並ぶ通りを行き交う人々は、それらに意識を向けず見るとは無しに通り過ぎて行く。
ジョンはふと抱いた疑問を先を歩くダナに訊ねた。
「何かと、余所の都市では見掛けない物が有るね? ていうか、他の都市と技術レベルが違っていないかな、この街?」
少年の方へ振り返り、ダナはジョンの疑問に答える。
「あたり前だよ、この街は神様達が常若の花園へ旅立つ前から存在するんだから。余所では超文明っていわれてる時代の遺産が殆ど使える状態で遺ってるの。使い方も併せてね」
ジョンは街並みを見渡した。其処には壁面のホロヴィジョンを除いて、一見、石造りに見える建物群が建ち並んでいる。
「その割には、古そうに見える街並みだね?」
「教国の街づくりをしたのも、やっぱり神様達よ、神様達にとっても懐かしさを感じる街づくりをこの街にしたらしいわ。この街の古い建物は、みんな少しぐらい疵が付いても勝手に直っちゃうの。第3区のあたしの家もそうなのよ!」
ジョンは首を傾げ、ダナに新たな疑問を訊いた。
「ごめんダナさん、その第3区とかってどういう事?」
「んー、ジョンくんは知らないか。この街が幾つかの街壁で区切られてるのは、今日、君も実際に見たでしょう?」
ジョンの問い掛けにダナは頷いて、問い返した。
「うん、この街に着いた時も見たし、今日は路面軌道車の窓からも見たよ」
「そうだったね、この街に居住区は三つあるの。第一聖壁から第二街壁までに在るのが第一区、この商店街を含む第二街壁から第三街壁までに在るのが第二区、神殿騎士団の関連施設や農地、あとあたしの家の在る辺りを含む第三街壁から都市街壁までに在る居住区を第3区というの。ぶっちゃけて言うと、大神殿に近い方から上流階級、中流階級、下層階級になるの。農業している人は農場の近くにお家が在ったりして、第三区は居住区っていう程にまとまってはいないけどね」
ダナはあっけらかんとした様子で言い、ジョンは教えられた事に素直に喜んだ。
「良く分かったよ、でも、なんでダナさんは、自分の家が勝手に直るのを知っているのかな?」
ダナは少年に両手を振って否定する。
「え、あ、あたしじゃないよ! アーニーが、えっとアーニーはアーネストっていう幼馴染みのお兄さんね。そいつがやったの!」
「そんな。一所懸命に否定しなくても良いよ。しかも僕相手にさ、ハリスさんじゃないのに」
いつの間にか二人は商店街の路面軌道車乗り場に着いていた。
「もう、良いからジョンくん! 第三区行きの路面軌道車が着てるよ。早く乗ろう」
丁度其処へ入線してきた少女の家に向かう路面軌道車を見て、ダナはジョンを急かした。
†
エリステラは自らの操るSFのコクピット内で、自己嫌悪に陥っていた。
(いくらなんでも、レビンさんに対して言い過ぎてしまいました)
彼女の機体は今、東へ向かう樹林都市の所有する物資輸送車の後方をカバーしている。同部隊のジェスタとレナの機体は、それぞれ輸送車の前方の左右に展開していた。その更に後方に狩猟団のSF搬送車二台が付いて来ている。
大樹林“ケルヌンノス・ヘルシニア”内の大陸樹幹街道を行く今のうちは、往復警備中の森林警備の部隊もよく見かける為、装備している武装を構える必要はなく、ガードナー私設狩猟団のSF各機は腰部接続端子にそれぞれの装備を一時的に懸架している。
『エリスどうしたの。遅れ気味じゃない?』
前方のレナ機から通信が入った。
「あら、スミマセン。少し急ぎますね』
レナに指摘され、少女は自機のスピードをほんの少し早めた。
まだまだ、ネミディア連邦首都は遥か先だった。
†
ハリスン家に続く路地の途中で、ジョンは後ろから声を掛けられた。
「ようっ、ジョン探したぜ! なんだ、着いて早々にデートかよ。なかなかやるね、お前」
名を呼ばれ少年が振り向いた先には、共に教国に来た雑務傭兵の男が居た。数歩先でダナが立ち止まり、ジョンへ振り向いている。
「アンディさん!」
ジョンは傭兵の名を呼び、少年の傍まで駆け寄ってダナはジョンの腕を引いて囁く。
「ね、ジョンくん、あの人誰?」
「アンディさんていう雑務傭兵の人、教国まで、僕はあの人と一緒に来たんだ」
ダナに雑務傭兵の男を紹介し、少年はアンディに話し掛けた。
「アンディさん、デートなんて言ったらダナさんに悪いよ。今日はこの街の案内をして貰っていたんだ。こちらはダナさん、あの時の神殿騎士団員のハリスさんの娘さんだよ」
「ほう、あの坊さんのな。俺はアンディ=オウル、さっきそこのジョンが言った様に雑務傭兵をしている者だ」
ジョンに紹介され、アンディはダナに顔を向け自己紹介をする。ジョンとの会話から、目の前の雑務傭兵が父親を知っている事を知り、ダナは会釈して返した。
「ダナ=ハリスンです。はじめまして」
「ああ、大した付き合いにはならんだろうが、ま、ぼちぼち、よろしく頼むわ」
ひらひらと手を振るとアンディは少女からジョンへ視線を移し、口を開いた。
「あのよ、ジョン。この街にいる間だけで良いんだが、俺の仕事を手伝って貰いてえんだ。頼む」
アンディは少年に両手を合わせて助力を願う。
「そこまでしなくても。僕の方もオルソンさんについて何も判っていないから、アンディさんの仕事を手伝っても構わないよ。でも、そういうのって、何か登録したりしなくちゃじゃない?」
ジョンの言葉に、傍らの少女が肯いた。
「ジョンくんが雑務傭兵協会に登録していないならね。登録してる人の協力者だとしても、一応は届け出ておいた方が良いと思うよ。あたしはそっちには詳しい訳じゃないけど」
アンディは少女の言を肯定して後に続ける。
「そこの嬢ちゃんが言ったので、ほぼ合っているな。だが、ジョンには、協会に登録はしてもらわにゃなんねえ」
「そうなの、アンディさん?」
ジョンとダナ、二人の視線が雑務傭兵に向けられる。
「お前はSFを持ってるが、協力者だとSFの使用許可が取れないからな」
セイヴァーが必要な仕事と聞いて、ジョンは顔を引き締めて、アンディに訊ねた。
「どういう仕事なのか聞いても良い?」
「ああ、勿論だ。真っ当な仕事では在るぜ。この北に在る難民キャンプのSFに乗っての防衛任務だな。期間は明後日から三日間、交代要員も居るらしいから、二十四時間ずっとって訳でもない」
アンディはしっかりと頷いて、ジョンに答える。
「難民キャンプなのに報酬出せるの? 無理やり絞り取るんじゃないよね?」
「そこは心配すんな。難民キャンプから報酬が出る訳じゃないからな、報酬そのものは神殿騎士団から出るようだぜ。表向き、難民キャンプに神殿騎士団の人員は出せないみたいでな。名前は出されていないが騎士団の関係者が出した依頼だって話だな」
そこまで聞いたジョンは納得してアンディの話しを受ける事にした。
「なら、 やっぱり手伝うよ」
「ジョンなら、そういうと思ってたぜ。じゃ、明日の朝にまたここらで待ってるからな」
ジョンの返事を聞いたアンディは少年に手を振り、大通りへと歩いて行った。
それを二人は見送ってダナは少年に声を掛けた。
「ジョンくん、そろそろ行こっか」
「そうだね、ごめんダナさん。待たせちゃって」
ジョンはダナに謝るとハリスン家へと歩を早めた。それからほんの数分後には、二人は少女の家に帰り着いていた。
「ただいま! あれ?」
玄関扉のロックを解除し、ドアを開けようとしてダナは声を漏らした。彼女の手は扉に掛かっている。扉に備え付けられた小さなコンソール画面には内部に誰か戻っている事が表示されていた。
「どうしたのダナさん?」
ジョンへ振り向いて少女は笑った。
「お父さんが先に帰ってるみたい! ただいまー!」




