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第28話 ダーナ教国にて5 オルソンの名

またまた遅れました。

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

ブクマしてくださった皆さんありがとうございます。

 少女は静かに街の東側へと視線をやり、ジョンへの講釈を続ける。


「コリブ湖のお話の続きをするね。

 実は、コリブ湖の南の半分、いや、えっと三分の一だったかな。とにかく、コリブ湖の連邦首都の方は汽水域になっているの。ジョンくんは汽水域って知ってる?」


 ダナの問い掛けに、知っている言葉だったが自信が持てずジョンは首を横に振って答えた。


「教えてくれる。ダナさん」


「汽水域っていうのは、淡水と海水が混ざり合っている水域のことね。つまり、コリブ湖はどこかで海と繋がっているのよ! 海神マナナン=マクリル様はいろんな宝物を持っていて、その持ち物の一つに鎮波号ウェイブ・スウィーパーっていう名前の船があって、その船で外海とそこのコリブ湖を往復していたという伝説があるの。あと、えーと、何だったかなぁ? ごめん、ジョンくん続き忘れちゃったわ」


 ダナは東のコリブ湖を指差し、ゆっくりと南へ動かす。


「そうそう、その鎮波号は空を飛んだっていう説もあるよ。そう言えば、最近もどこだかの都市で飛空機械の研究をしてるらしいね。

 さっき商店街のホロニュースで流れてたよ。何回失敗したら気が済むんだろうね。空を飛ぶ機械が生まれるとフォモールの大群がやって来て擦り潰していく。ずっと、昔から繰り返されてるらしいのに。何年か前、教国の北側の難民キャンプが出来る原因になったフォモールの侵攻も、本当はその研究がされていたんじゃないかって言う人もいるね」


 ダナは急にベンチから立ち上がった。いつの間にか食べ終わったのか、空の容器を持っている。ベンチの傍に設置されているゴミ分解機(ディスポーザー)ポッドへ入れた。


「ほら、ジョンくん。そろそろ行こう」


「そうだね、分かった」


 ダナに倣いジョンも同じようにゴミを捨て、ジョンはこんな物、他の都市では見なかったなと思いながら、少女の背中を追いかけて行く。





 暗く深い場所で、“それ”は胎動した。

 世界中の誰にも解らない言葉で、それは聞こえるモノのない声を漏らした。

 唄う様な幽かな声が響き、瞬間、空間が揺らいだ。

 世界に存在する大都市一つが消し飛ぶ程のエネルギーが“それ”を中心に弾ける。

 “それ”は身動ぎ、弾けたエネルギーが収束していき。“それ”の前にエネルギーが球体状に渦を巻き纏まって行く。

 そこへ“それ”が意識を向けると周囲に漂う無数のナニカが球体状のエネルギーの中へ流れ込んでいく。

 やがて、エネルギー渦は何かの姿を象り始めた。

 生まれ出でた存在は“それ”に頭を垂れ、身を翻し駆けて行った。

 “それ”は静かに身を横たえた。





 神殿騎士団、南方門詰め所にて従騎士ハリスは年若い上司と共に、SFシミュレーターを使っての模擬戦を行っていた。

 神殿騎士団の保有するシミュレーターには神殿騎士騎について、スタンドアローン化されたストレージに可能な限り精密なデータが登録されている。

 今、ハリスが相対するは神殿騎士団副団長、アーネスト=マイヤーの駆る神殿騎士副団長専用騎CELTICROS(セルティクロス)UADUIBHNE(オディナ)だ。

 神殿騎士騎らしくケルト十字の意匠は随所に施されているが、軽量高機動化され高速戦闘を得意とし、DIARMUID(ディルムッド)という銘の、双剣形態とその柄尻を繋いだ連結槍の二形態とる武器を持つ機体であり、重量武器の長柄の戦棍(ロングポールメイス)を振るうハリスが苦手とする相手だった。

 円盾(ラウンドシールド)を構え、ハリスは待ちの姿勢で臨む。

 機動力に差が有る為、ハリス機が無造作に繰り出す攻撃は悉く去なされ躱されてしまう。

 セルティクルスの、いや全てのSFの駆動系は、電気伸縮性を持つ導電性高分子ナノチューブを()り合わせた繊維を束ねた疑似筋繊維(ファルスマッスル)アクチュエータとサーボモーターの複合型となっている。

 機体骨格(メインフレーム)の間接部にサーボモーターが配置され、その周囲と機体骨格を人体の筋配置を模して疑似筋繊維アクチュエータに覆われ、その外側に装甲が配される構造だ。それらサーボモーターと疑似筋繊維アクチュエータは、どちらが主でどちらが従ということなく相互に補完し合い、神殿騎士団のシミュレーターは完璧に再現している。

 高速接近したオディナの連結槍での斬撃を円盾で去なし、ハリス機の右腕サーボモーターが唸り、アクチュエータが剛力を発揮して戦棍が高速で振るわれた。

 アーネストは自騎(オディナ)を後ろへと一歩退かせ、機体に届く寸前で、ハリスの打撃を回避、連結を解き双剣へ分割させ、もう一度、ハリス騎へと踏み込んだ。戦棍を振るった勢いでハリス機の上体は未だ慣性に泳いでしまっている。従騎士は円盾でオディナの双剣の片方は何とか防いだが、左側の剣がハリス騎に突き付けられた。


「一本、です。ハリスン従騎士」


 ハリスの目の前の通信機から、爽やかさを感じさせる声が響いた。


「ありがとうございました。完敗です、副団長殿。私の得物は重量武器ゆえ、どうしても機体が慣性に流されてしまいますな」


 ハリスはアーネストに自らの敗因を告げた。アーネストは笑みを含んだ声でハリスに返した。


「ご謙遜を、騎体が同条件の上、同系統の武器では私の方が負けますよ。師匠」


「……アーニー、誰が聴いているか判らない場所で、その呼び方はよせ」


 声を低くして、ハリスはアーネストに答え、釘を差した。


「構いはしません。俺にとって、師匠と呼べるのは貴方だけです」


 ハリスはアーネストが副団長に就任する数年前、近所に住んでいた幼いアーネストに暇を見ては訓練を付けていた。

 生身での戦闘術、SFの操縦法など神殿騎士団に入団する為に必要な技術、読み書きや計算等の全てを。

 今や、アーネストは副団長に、ハリスは昇進出来ぬまま従騎士と身分は逆転し隔絶していたが、それでも若い副団長は壮年の従騎士を慕っていた。

 よくハリスの家にも通っていたので、アーネストはダナとも面識が有り、ダナにとって彼は年上の幼馴染みの様な存在だった。

 シミュレーターを降りてからも二人に会話は続いた。


「最近、師匠のお宅にお邪魔していませんが、ダナは元気ですか?」


「何だ、アーニーは家の娘にご執心か?」


 冗談めかして言う従騎士を副団長は睨み付けた。


「おい、そんな目で睨むな、冗談だよ。あの子は元気さ、有り余るくらいにな。最近はダーナ主教の教典についての勉強にはまっているみたいだが」


 肩を竦めて言うハリスは、先ほどシミュレーターの中でアーネストに自分の言った言葉を忘れているようだった。


「もし、これから時間が有るなら家に遊びに来ないか、アーニー? 今は一人私の客がいるが」


「よろしければ、是非! それで、客人はどういった人物ですか?」


アーネストは嬉しげにハリスの提案に乗り、ハリスの家にいるというジョンについて質問した。


「ああ、ジョン君というダナと同年代の少年でな。SFパイロットだ。歳に見合わず素直な奴だよ。オルソンというSF技師を探しに来たそうだ」


 ハリスの口から出たその名前にアーネストは過剰に反応する。


「オルソン……、もしや、オルソン=エルヴィスですか!?」


「あの子はそう言っていたな。何だ、知り合いかアーニー?」


 ハリスはジョンから聞いたオルソンのフルネームを思い出し、アーネストに答えた。


「お忘れですか、師匠! オルソン=エルヴィスとは神敵指定されている人物ですよ。なぜ、その少年はオルソンを?」


「機体の修理を頼みに来たらしいが。ジョン君の機体は隻腕でな、オルソン某の同門のSF技師から紹介されたらしいぞ」


 アーネストは師匠の前で、顎に手を当ててしばし考え、ハリスに視線を向けて言った。


「兎に角、一度その少年と話しをさせて下さい」


 アーネストの瞳は静かに凪いでいた。

 

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