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第2話 出逢い、少女エリステラ

「動くな、少しでも動けばこのままコクピットを潰す!」


 片腕のSFから響く凛々しい少年の声に、何も出来ない内にコクピットを押さえられ、さらには脅された少女はSFのコクピットの中、諦念を得た。


(あぁ、これ詰んだ……、わたし死んだ)


 自分の末路を悟り少女は足掻く為、外部スピーカーを作動させ脅迫して来た背後に居るSFのパイロットに返答した。


「あわわ、わかりました。

 動かないですから。

 あのぅ、わたしは武器も捨てた方が善いのでしょうか?」


 少女は返答しながらコントロールグリップ横のキーボードを操作、味方への機密回線を通して文書データを送信した。


『みなさん、ごめんなさい、よくわからないのだけど、ドジを踏んでしまったようです。

 よくわからない機動をする謎の損傷したSFにコクピットを押さえられてしまいました。

 あちらはわたしに動いたら刺すと言っています』


 すぐさま少女の仲間達から返信が帰って来た。


『お嬢によくわからない動きって、ウソでしょ?』


『ウソなんて言わないわ、どうしたらあんな機動ができるのかしらねぇ。SFが空から襲って来たんだから』


『この森の中でか……。

 よし、大人しくしてろお嬢、お前ら、お嬢の居る場所まで急行するぞ

 ──機動装輪(ランドローラー)は使うな、反響して音が響く』


 一方、意図せずのんびりとした声の少女に返答され、まさか相対した搭乗者がこんな少女だと思っていなかった少年は嘆息した。


(はあ、マジか)


 そんな少年の心情に構わず、少女のコクピット内部では、仲間との通信がやり取りされ続けていた。


『お嬢、そいつイケメンかな?』


『顔なんて見えないですよ、SFに乗ってるんですから』


『本当、ドジ踏んだわねぇ。ま、()ぐ殺しにかかる奴じゃないのは救いかしら』


『お前ら、オシャベリはそこまでだ。おいお嬢、音声回線はそのまま開いとけよ』


『みんな、ヒドいです! 誰かぁ、わたしの心配をしてくださぁい』


 少女の操縦席には、およそ緊張感というものがなくなっていた。その時、背後のSFが騎剣を保持するマニュピレータの親指を離し、その指先で地面を指し示す。


「……そうだな、手持ちの得物はロックを掛けて足元に落とせ。後は直ぐ使えないのならそれで良い。

 どうせ味方への回線は開いたままだろうがそれもそのままで良いよ。済んだら機体の両腕を挙げろ」


 少年に図星を指され、少女の頬に汗が伝う。


『あわわ、バレてる、バレてますよぅ! みんな、どうしよう? わたし、どうすればいい?』


『バカお嬢、とりあえず、その兄ちゃんに従っとけ』


『ソイツがその気なら、もうお嬢はヤラレてるハズでしょ。

 言うこと聞いとけば大丈夫じゃない?』


 少年の指示に従い、少女は慌てた動作で右マニュピレータに保持していた突撃銃(アサルトライフル)をロックし、自機の足元へ落とした。

 少女の機体が武装解除し、両腕を挙げさせる。


「聞こえてるだろうが、他の三機ともその場に止まってくれ。大人しくしていれば、こちらはこれ以上は何もしない。

 僕は盗賊かと勘違いしただけだ。ま、もし盗賊なら、このまま潰すが。

 質問するぞ、お前たちはなんだ? 何が目的か答えてくれ」


 脅し気味の低く抑えた少年の声が森に響いた。


『全機その場で制止、こっちには後ろ暗い事なんてねぇんだ。お嬢、答えてやんな』


 問い掛けながら、レーダーを操作し、少年は確認する。

 少女の仲間達は距離を詰めようとはしていないらしい。

 レーダーの反応は動いていない。


「わたし達は狩猟団です。ガードナー私設狩猟団というの。

 目的はですね、フォモールが出たからと、樹林都市行政府からの依頼があり。ここまで狩りに来たのです。

 ちゃんと依頼書も有りますよ。わたし達は、ここに着くまでにポーン種を二体も駆除してるのです。

 えっへん、すごいでしょう! あわわ、えっと、ねぇ、こちらから、あなたに訊いてもいいかしら?」


(狩猟団、か。そんな集団が在るのか。しかし、この娘、ウソが下手そうだ)


 少女の返答に嘘が無いことを悟り、後に続く問い掛けには先んじて、少年は答えた。


「君らの獲物なら、さっき襲われそうになったから僕が駆除した。申し訳ないが、君ら全員、こちらに集まってくれるかい。唐突ですまないが、僕は君達に投降しよう」


 言うが早いか、少年は折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を腰背部に格納しロックすると、機体を片膝を立てる駐機姿勢で座らせ、自機のコクピットを開放した。

 SFの頭部ユニットが圧搾空気の抜ける音を立てながら、首の付け根から胸部側に倒れ、バックパックが下にスライドし、その内部に隠れていたコクピットハッチが開く。

 暗がりから這い出た少年は自らのSF、SAVIOR(セイヴァー)の右肩に立ち、頸椎保護用の首輪状パーツのついたヘッドギアを脱ぎとると、少女の乗るSFに顔を向けた。


「煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。君達、ずいぶん理性的みたいだし、そう非道いことにはならなそうだしね」


 そう言って、彼は両手を挙げた。

 片手にヘッドギアをぶら下げ、その顔に笑顔を浮かべて。

 少年は深く息を吸い込んだ。まるで産まれて初めて呼吸したかのように、外の空気がとても旨かった。


「そちらに参ります。待っていてくださる?」


 目の前のSFのスピーカーから少女の声が響く。

 その場に腰を下ろした少年の目の前で、たったの今まで彼が脅迫していた緑色の機体が、少年の機体に向き合わせて駐機姿勢をとり、片腕を少年の機体の右肩に触れさせ、コクピットを開放した。

 開いたハッチの中から現れたのは、白いパイロットスーツを身に纏った瞳がちな翠瞳の大きな目をした、可愛らしい顔立ちの少女だった。

 ゆるくウェーブのかかった長い金髪を肩の後ろで一つにまとめている。

 年の頃は十五、六歳ほど、年齢不相応に胸元は大きく膨らんでおり、意識せずとも少年の視線がそちらに引き寄せられた。

 少女は器用に自分の機体から腕を伝って少年の機体へ飛び移ると少年の隣に腰を下ろした。

 それを見て、少年は頭を抱えて少女に叫んだ。


「何で降りて来るんだ、アホかキミわ!?」


「あら、あなたがSFから降りて来たから、お話ししたいと思ったのです。

 わたしはエリステラ。エリステラ・ミランダ=ガードナーと申します。

 ガードナー私設狩猟団のSFパイロットをしております。あなた、お名前は?」


 マイペースな少女エリステラの返事に、少年は酷い疲労感を得た。


「はぁ、……ご丁寧にどうも。悪いけれど名前はわからないんだ。

 君の好きなよう、呼んでくれ。

 それから、こんなこと言いたくないが、君みたいな可愛い女の子が、僕みたいな奴の前にホイホイ姿を現すのはどうかと思うよ?」


 ぶすっとした少年の物言いに、エリスはクスクス笑うと、微笑んだ。

 それを見て、訝しげに少年は彼女の顔を眺める。


「まがりなりにも僕は、君を脅迫していたのに、君は僕が怖くないのかい?」


「ええ、怖くないわ。だって、あなたが本当に怖い人だったら、わたしは今頃、こんなにのんびりおしゃべりできてないもの。こんなに近づいても、あなたは何もして来ないなら、怖がる理由は無いでしょう。

 うふふ、それとも、今からエッチなことでもされるのかしら、わたし?」


 冗談めかしてエリスは言い、少年は肩を竦めた。


「君の合意があるなら、それもいいけどね。この場でそんな事したら、君のお仲間に殺されそうだ」


 そう言うと、少年は背後へと視線を送った。

 エリステラは少年につられて後ろに視線を向けながら、少年に訊ねた。


「おしえて、あなたさっき、変な事を言ってたわね。ほんとうに名前がわからないの?」


 少年はエリスの瞳を見詰めて、真摯な表情で彼女に応えた。


「本当だよ、僕は自分の名前がわからない。記憶ってモノが、僕には無いんだ……。ついでに言えば僕にとっては、君が、憶えている限りで世界で初めて話した人だ。

 記憶があるのはほんの数時間前から、その間は、ずっとこのSFに乗っていたんだ。自分でもわからない。部隊ごと襲われていた。僕の機体も攻撃を受けて、僕は攻撃してきたSFに反撃して全力で逃げたようなんだ。けど、記憶は無いのに、レーダーに映る敵味方がどちらかは判っていたよ。こいつの操作法だけは、忘れずに知っていたんだ」


 一旦、口を閉じ少年は自分のSFを拳でコンと叩いた。


「これと同じ色をした機体が、攻撃を受けて爆発するのを見たよ。同時にレーダーの友軍反応が一つ消えていたのも知っていたのさ、友軍機の反応は、最後にはほとんどレーダーから消えていた。

 僕が立ち向かっていたら、誰か一人くらい助けられたのかもしれないね。そういうの全部に背を向けて、僕は逃げた。僕が軍人なら、見つかれば銃殺ものだよね? きっと、記憶の有る無しに関わらず、僕は逃げたのだろうけど」


 罪を告解するような少年を、エリステラは痛ましげに目を伏せ受け止めた。


「わたしには、想像するしかできないけれど、きっと、あなたはごくふつうの男の子なのね。

 目の前で倒れる味方を助けたかった、何も出来ずに逃げ出した自分を赦せない。そう言ってる様に私には聞こえたわ。

 きっと、あなたは自分の記憶が無い事なんかより、誰かの為に何も出来ずにいる事に我慢できない。

 そんな優しい子なのね」


 エリステラは優しく微笑むと少年へ手を伸ばし、子供をあやすように彼の髪を撫でた。

 少年は憮然とした顔で少女を見、照れ隠しするように口を開いた。


「君は、不用心に過ぎるな。下に降りる、手を貸すよ」


 言うが早いか、少年はSFの腕を伝って地面に降り、少女の方へ向き直った。


「あら意外、紳士なのですね。では、お言葉に甘えまして……っきゃん!?」


 嬉しげに微笑んでエリステラは少年のSFの肩から降りようとして、転けた。

 SFの肩から大きく投げ出される少女、その落下点に滑り込んだ少年が、落ちてきたエリステラを抱き止めて胸に庇い、地面に転がって事なきを得た。


「あわわ、なんでコけたのかしら。それはそうと、あなたのおかげで助かりました。ありがとう」


 少年の腕の中、呑気な声でエリステラは少年に感謝を告げた。


「馬鹿か君は!! 一歩間違えれば、死んでたぞ今のは」


 少女を抱き締めたまま、少年は怒鳴った。

 知らず、少年が少女を地面に組み伏せた体勢になっている。

 そこに機体動作音を響かせ、エリステラのものと同型の緑色のSFが三機、集まって来た。

 その内の一機から外部スピーカーを通して、男の声が轟いた。


「ウチのお嬢に何してやがる!! このガキャあ!?」

5/26改稿

2016/6/16改稿


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