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第27話 ダーナ教国にて4 ガードナー私設狩猟団、東へ

大変お待たせしました。

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

ブクマしてくださった皆さんありがとうございます。

ジョンは今、ダーナ大神殿の前に立っている。

 路地裏の店で注文を終えたダナが街の案内の最初に連れてきたのが、この都市国家の中心だった。


「ここが、このトゥアハ・ディ・ダナーンの中心、ダーナ大神殿だよ!」


 ダナは片手を挙げてその建物を指し示し、ジョンに解説する。


「ジョンくんは、ダーナ主教について知ってるかな?」


 ジョンはダナに首を横に振る。


「申し訳ないけど、よく知らない」


 ジョンの答えに訳知り顔で少女は頷く。ダナには、少年を特に責める気は無いようだ。


「残念だけど、ジョンくんみたいに信仰してても詳しくは知らないって人がよその都市には多いんだってね? ダーナ主教はあたしが名前をあやかった主母神ダーナ様を中心にした多神教なの。この世界の始まりにダーナ様は何処からかこの地にやって来たとダーナ教の教典には書かれてるわ。トゥアハ・ディ・ダナーン、つまり、ダーナ神属と呼ばれる神様の眷属を率いてね。

 トゥアハ・ディ・ダナーン主母神教っていうのは、主母神ダーナ様とその眷属神様達の教えってことなの。昔の人達が神様達に教えられた事をまとめたのが教典とダーナ主教の始まりなの。残念だけど、神様達は全て常若の花園、“ティル・ナ・ノーグ”に渡ってしまっているから、もうこの世には居ないの、だから、新しく教典のページも増える事は無いわけね」


 ジョンは少女の説法に感心し、即席の教師に拍手を贈る。それに気を好くしたダナは胸を張って続けた。


「今、話した常若の花園(ティル・ナ・ノーグ)の入り口が、ここ、トゥアハ・ディ・ダナーンの何処かに在るとされているわ。だから、このダーナ大神殿はこの場所に建立されたのよ。

 ……おかしな人はよく、ダーナ大神殿を壊せば、その入り口が出てくるんじゃないかって言うわね。そんな分かりやすい場所に入り口が有ったら、もうずっと前に見つかってるはずなのにね! ジョンくんもそう思うでしょ?」


 途中から変化したダナの剣幕に、ジョンはただただ、頷いて見せる。


「そうよね! うんうん、ジョンくんは分かってるね! あの罰当たり共にジョンくんの爪の垢でも煎じて飲まさなきゃだわ! そうだジョンくん、今日はこれから教母様の説法があるけど、聴いて行く?」


「あ、えー、悪いけど、遠慮していいかな?」


 ジョンは引きつった笑顔をダナに返した。


「えー、何でよぉ。教母様、美人さんだよ。ジョンくんは見たいとは思わない?」


 少年の腕を引きダナはジョンを教母の説法に誘う。どうやら、この少女の方が説法を受けたいようだった。


「うん、思わない。色々と見て回りたいって言ったでしょ。大神殿の中は見てみたいけど、説法なんて聴いてたら時間が幾らあっても足りなくなりそうじゃないか」


「むー、ジョンくんのケチ! 分かったよ、説法聴いてくのは止めとくね。でも、大神殿の中に入って行くのは良いんだよね?」


「うん、見てみたいな、外から見ても凄い大きさだね。この神殿」


 大神殿の中に入る事に少年の了承を得て、先ほどまで口を尖らせていた少女は満面の笑みを浮かべ、掴んだままのジョンの腕を引っ張って白い石のように見える大神殿の門をくぐった。

 大きな扉を通り抜け、最初にジョン達を迎えたのは巨大な円形のエントランスホール。壁面は様々なフレスコ画で彩られ、幾つもの神像が放射状に設けられた5枚の扉の脇に立ち通るものを見据えている。


「真ん中の扉が教母様の説法の聴ける大広間につながっているわ! 残念だけど、今日はこっちね」


 ダナはどんどん進んでいき、ジョンは少女を見失わぬように付いて行く。


「ちょっと、早いよ、ダナさん!」


 声を掛けられ、ダナはやっと振り向いた。


「ん、ジョンくんおそいよ!」


「どんどん進んで行ったのは、ダナさんだよ! で、ここは何なのさ?」


 ジョンは辺りを見回して少女に訊ねる。その室内にはエントランスで見た神像の数々と一際大きな女神の像が安置されていた。ダナは首を傾げてジョンに言った。


「礼拝堂だよ。トゥアハ・ディ・ダナーンの神像で分からなかった? 大広間とここは一般に解放されてるの。ジョンくん、折角だしお祈りして行こうよ、ね!」


 ジョンは仕方ないと思いながら、少女に賛同した。


「そうだね、でも、神様達が見てるけど、僕は正しい祈り方なんて知らないよ」


「ジョンくんは変な事を言うんだねー。ダーナ主教に正しいお祈りの仕方なんてないんだよ。公序良俗に反しない限りどんなお祈りの仕方でも神様達は許してくれるの」


「あー、そうなんだね。じゃ、お祈りして行こう」


「うんっ!」


 ダナはジョンに大きく頷き、少年少女は並んで祈りを捧げた。





 エリステラ達、ガードナー私設狩猟団SF部隊は団本拠(ハウス)に併設された格納庫に集まっていた。


「わたし達、ガードナー私設狩猟団SF部隊は、これから連邦首都へ向け、樹林都市の所有する物資輸送車の護衛任務に就くになりました。何か質問はありますか?」


 エリステラは隊員達を前に背筋を正し新しい任務を告げ、任務内容に関した質問を求めた。彼女の目の 前に並ぶ三人の内、レナとレビンが挙手する。


「はい、はいっ! 質問でーす」


「ガードナー隊長、質問の許可を!」


 エリステラは手を挙げた二人を見回して首を縦に振り、レビンへと質問を促した。


「では、レビンさんから質問をどうぞ」


「はっ! 何故、自分は団本拠にて待機なのでしょうか?」


 エリステラに向け敬礼し、レビンは彼女に問う。


「あなたの機体の用意が出来ていないからです。納得出来ました? わたし達三人が居ない間、レビンさんはシミュレーター訓練を主に訓練をしてください」


 エリステラは格納庫の懸架整備台(ハンガー)に立つ狩猟団のSFをレビンに指し示す。そこに収まるテスタメントの数は三機。正確には外装の取り付けられていない機体がもう一機有るが、物理的なシステムの更新中で直ぐ様の運用は出来ない。


「はっ、レビン=レスター、承知いたしました!」


 エリステラに再度敬礼し、レビンは一歩後ろに下がった。


「ま、頑張ってね。アタシ達の居ない間に狩猟団に要請が有ったら出るのはキミなんだから」


 ジェスタはレビンの肩を叩き激励する。肩を叩かれた青年は猫に睨まれた鼠の様に身体を(こわ)ばらせた。そんな青年の様子をよそにレナはもう一度手を挙げた。


「はい、エリスしつもーん!」


「はい、どうぞレナ」


 エリステラは笑顔でレナに視線を送り、親友からの問い掛けを促す。


「なんで、あたし達が護衛するの? 連邦首都って森林警備(フォレストガード)みたいのある筈だよね?」


「任務内容を伝えられた時にお祖父様から伺ったのですが、都市警備(シティガード)という、レナの言ったその組織は随分と即物的な組織のようで、首都内にばかり目を向けて、利にならない余所の都市の者には冷たい組織だそうです。

 ですが最近、首都近郊にならず者が現れるそうで、樹林都市からの依頼となったようですよ」


 エリステラは、もう一度、立ち並ぶ面々の顔を見回した。


「他に誰か、質問はありますか?」


 視線が合うとジェスタはひらひらと手を振り、レナはエリステラに笑顔を向け、レビンはキリッとしてみせた。レビンの反応にエリステラは苦笑を浮かべる。


「……うん、無いみたいですね。では解散します。準備を終えたら、また明日の朝、こちらに集合して下さい!」


 エリステラの号令に、SF部隊の面々は解散し各々分かれてその場を去って行く。

 エリステラも自室へ戻ろうと格納庫を出て行こうとしたが、その行く手をレビンに遮られた。


「ガードナー隊長! いや、エリスよ、そろそろ自分にお返事を下さい!」


 レビンは彼に全然、似合わない気障ったらしい仕草でエリステラへと以前の返事を求めた。


「……レビンさん、お返事もなにも、わたし、お断りしましたよ。もう一度言いますが、わたしは、あなたと結婚を前提のお付き合いも、結婚もするつもりはありません! それから、あなたに愛称を呼ばれる筋合いもありませんからね」


 エリステラは凍結地獄もかくやという冷たい視線でレビンを見やり、ばっさりと青年の恋情を斬って捨て、灰の様に燃え尽きた青年をその場に残し自室へと去って行った。





 礼拝を終え大神殿を出たジョンとダナの二人は、また路面軌道車(トラム)に揺られ、今度は第二街壁の東側、湖水公園へと向かっていた。

 湖水公園とはその名の通り、ダーナ教国東側の巨大なコリブ湖の湛える水を引き揚げ、噴水や水路に巡らせ広大な親水公園だ。

 水辺では小さな子供たちが流れる水を掛け合って遊び、そこここに立つ屋台から、軽食や飲み物を買って飲食する人達が備え付けられたベンチに座っている。

 それぞれ屋台から好みの飲み物とクレープを購入した二人は、空いていたベンチに並んで座る。腰を落ち着けたダナはジョンの方を向き、徐に口を開いた。


「ジョンくん、コリブ湖の伝承は聞きたいかな?」


 ジョンは苦笑しながら、是と答えた。


「聞きたいな。教えてくださいダナ先生」


 ふざけた口調でジョンはダナに返した。調子に乗って胸を張り、ダナはコリブ湖の伝承を話し始めた。


「ジョンくん、よく聞いててね。コリブ湖の名前はトゥアハ・ディ・ダナーンの一柱、海神マナナン=マクリルに由来するのよ」


 ダナの言葉にジョンは首を捻り、口を挟んだ。


「海神なの? 湖なのに?」


 ダナは口を挟んだジョンの言葉を合いの手代わりに話し続けた。


「そう、海神なのに。この神様は常若の花園、ティル・ナ・ノーグの王とも云われているの。

 大神殿でも話したけど、この教国にはティル・ナ・ノーグ入り口があるって言い伝えがあるわ。なんとなく繋がっているでしょう?」


「……なんだか、本当にティル・ナ・ノーグの入り口がありそうだ」


 少年は少女の話しに感心し、声を漏らした。


「教国の、ダーナ主教の教えは楽しいでしょう?」


 笑いながら、ダナは少年に布教する。


「いや、ダナさんの話し方が上手いんじゃない?」


 ジョンは少女を誉めて躱した。

 

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