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第26話 ダーナ教国にて3 教国案内、或いは荷物持ち

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

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6/7追記

 ノックを三回、室内から返事が返り、エリステラは入室した。


「お祖父様、何のご用でしょうか?」


 エリステラは朝の支度を終え早々に、祖父アーヴィングの部屋に呼び出された。

 アーヴィングは皺の刻まれた顔を笑みに変え、エリステラを自室へと迎え入れた。


「やあ、エリス、朝早くから悪いね。早めに君に伝えておこうと思ってね」


「……なんのお話しですか、お祖父様?」


 アーヴィングは頭の上に疑問符を浮かべたような顔をした孫娘にとりあえずはと着席を勧めた。


「まずは座りなさい、エリス。本題はこれから話すからね」


「わかりました」


 少女は祖父の対面側のソファに行儀よく座り、彼が話し出すのを待った。

 アーヴィングは小さく咳払いを一つ、(おもむろ)に口を開いた。


「君達、ガードナー私設狩猟団SF部隊には、ネミディア連邦首都へと出向して貰う。

 君達が頑張ってくれたお陰で、この樹林都市周辺でのフォモールの目撃例は大分減った。後は、森林警備(フォレストガード)だけで十分に現状は保たせられるだろうからね」


 アーヴィングはそこで一度言葉を切り、エリステラは神妙な顔で頷いた。


「出向の目的は、何時もの挨拶まわりがまず一つ。実は君が隊長に就任後、表に出て来ないと五月蝿い奴らが居ってな。うん、エリスの嫌いな彼らさ。いやもちろん、それはメインじゃないよ。最近、首都周辺で暴れ回るならず者が居るそうで、其奴等から樹林都市から出る物資輸送の車両を警護して欲しいのさ」


「何故、わたし達にそんなお話が? 首都には森林警備と同系統の都市警備(シティガード)が在るはずですよね?」


 エリステラはアーヴィングに疑問を挟み、祖父は孫娘に頷き答える。


「連邦首都の都市警備は、連邦首都の都市外には我関せずで、余所の都市の者が襲われても、金にならない者には何もしようとせんらしい。食品輸送車などが入らなければ、自分達がひもじい思いをするだろうにねぇ。済まないが、行って来てくれるかな、エリス?」


「はい、ガードナー私設狩猟団SF部隊隊長として、任務を拝命します!」


「エリステラ隊長、貴部隊の当地への無事の帰還を祈る!」


 エリステラは祖父へふざけた素振りの笑顔で敬礼をし、アーヴィングも孫娘へ気取った調子で返し、祖父と孫娘は二人和やかに笑い合った。


「……そういえば」


 ふと、思い出したように、エリステラが声を漏らした。アーヴィングは視線を向け続きを促した。


「あの、補充人員のレビンさんの機体の件なのですが」


「ダスティンには聞いていないのかな? 死蔵していたパーツ取り用の機体を彼が乗れるよう改装中らしいよ。だがまあ、彼は留守番だね。ダンの乗っていた機体は流石に、乗れる様には出来なかったらしいんだ」


 エリステラは祖父の答えに、知らず安堵の溜息を漏らした。


「エリスは彼が苦手かい? ジョン君と違って」


 少女は数日前のレビンとの間におきた出来事を思い出し、寒気を感じたのか自分の肩を抱き、何時も絶やさぬ笑みがぎこちない物になった。


「……良く分からない男性にいきなりプロポーズされても、困惑するだけですよ。レビンさんには正直に言って引くだけです」


「僕はエリスが幸せになれるなら、誰が相手でもいいのだけれどね」


 アーヴィングは孫娘に優しい視線を送り、そう言った。





 団本拠、SF格納庫内でダスティンとベルティンは、鋼材の山を前に意見を交わしていた。


「これどうすんだ、親父。やっぱり、アレすんのか?」


「おうよ、ベルは何か案はねえか? 今回はお前の作りてぇのでいくかな」


 ダスティンはそう言って息子であるベルティンに丸投げした。ベルティンも彼は彼で顔を輝かせ、勢い込んで提案する。


「じゃあよ、こんなんどうよ! 前から考えていたんだが」


 ベルティン作業着から携帯端末を取り出し、それに記憶させていた秘蔵の自作設計図を父親に見せた。

 その設計図を見て、ダスティンは唸った。


「これ、大丈夫なのか? 強度が明らかに足りなくねえか?」


「そこんとこは計算済みだ。心配なし!」


 自信満々にベルティンは宣言する。


「じゃこれで行くか、ベル? 念の為、もう一度、強度計算はしとけ、使い手に負担を負わせないようにな」


「ああ、分かってるさ、ちゃんとやっておく。活躍して貰いてぇし」


 ダスティンの注意に技師の青年はしっかりと頷いた。こうしたやり取りを経て、彼らの趣味による兵器開発は進んでいく。





「ジョンくん、今日は何か予定はあるの?」


 ハリスン家の朝食の席でジョンは、一緒に食事をとっていたダナから話し掛けられた。

 ハリスは既に出勤している。


「特にはないよ、この街には初めて来たから、色々と見て回りたいと思うくらいだね」


 ジョンが言うとダナは嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「じゃあ、あたしが街の案内してあげるから、お買い物の荷物持ちしてよ」


 ジョンはダナに頷く。


「荷物持ちくらいなら構わない。街の案内は頼むよ。でも、ダナさん、何の買い物?」


「ジョンくん、食べ終わったら食器は洗浄機に入れといてね。今日は日持ちする食料品が安い日だから、その買い溜めよ。すっごく、重いわね」


 二人共が朝食を食べ終わるとダナはジョンに指示し、彼の問いに答えて自室に姿を消した。


「お待たせ、ジョンくん。すぐ行く?」


 しばらくしてダイニングに戻って来たダナは薄く化粧をしているようだった。


「うん、ダナさんは準備OKね。僕はまあ、このままで悪いけれど、行こうか?」


「よし、行こう!」


 ダナは小さく拳を振り上げ、ジョンに応えた。

 二人一緒にハリスン家を出る。ダナは玄関に施錠して少し先で待つジョンの背中を追った。

 ハリスン家に続く小路を出て大路へ、まずは第三街壁内へ向かう路面軌道車(トラム)の乗り場へ向かう。

 路面軌道車はトゥアハ・ディ・ダナーン主教国の国民の主要交通機関だ。

 第二、第三街壁内の環状路の内にさらに円を描いてレールが敷かれ、四方に延びる大路で中心のダーナ大神殿の傍まで続いている。

 ジョンは初めての乗り物に目をキラキラとさせていた。ダナはジョンの様子に呆れて笑みを浮かべた。


「そんなに喜ぶ乗り物じゃないよ、ジョンくん。 あたし達、教国の国民が日常的に使う足なんだし、今日の移動はずっとこれだよ?」


「そうかもしれないけど、僕は初めて見るし。知らない乗り物はなんかテンション上がる!」


 興奮気味のジョンはダナへ嬉しそうに告げ、二人は停留所に止まる路面軌道車に乗り込んでいく。

 トラムに揺られる事ほんの数分、二人は第三街壁内の商業区に着いた。

 商業区入り口の停留所で降りた二人は、ダナの先導で人波に活気づいた商店街を歩く。


「最後にまたここに来るからね! 今は通り抜けるだけ」


 ダナはジョンに顔だけ向けて言う。


「え、最後に回るんじゃ駄目なの、ダナさん?」


「ちょっと、先に注文しとかないといけない商品が有るの。それでこっちに来たの。ジョンくんに荷物持ちを頼んだのは、お店にも配送は頼めるけど別にお金が掛かるからだよ。あ、ジョンくんこっちね!」


 ダナはさっさと脇の路地へ入って行く。ジョンは早足で少女の後を追った。

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