第24話 ダーナ教国にて1 ハリスン親娘
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あれから入国審査検問所に戻ったジョンは、神殿騎士団員ハリスの口添えもあり、アンディと共に観光目的として、なんとか入国を許可された。
今、ジョンはSFを降り、アンディ、ハリスと共に北から南へ向かいダーナ大神殿へ続く大路を歩いている。
入国時に戦闘兵器であるSFは、大神殿からの通達により神殿騎士団機と一部の例外を除き、都市外壁内での運用は通常、即犯罪行為と見做される為、南西北の三方門を入って直ぐに用意された神殿騎士団所有の駐機場に預けられる規則となっている。
現在、北方門、西方門は閉鎖されている為、南方門の駐機場では入国者のSFは到底収まりきらず、入国審査済の証明書替わりの白い磁性繊維帯を通常は左肩(セイヴァーは右肩)に付け、神殿騎士機の先導によることで外壁内を移動する事が許されていた。
トゥアハ・ディ・ダナーン主教国は、同心円上に四つの壁により区分けされている。円の中心から近い順に、中央に建立されているダーナ大神殿のみを囲む第一守護壁、教団上層部を含む上流階級の居住区を囲む第二街壁、中層階級居住区と商業区を囲む第三街壁、下層階級居住区と神殿騎士団の施設、農場を囲む都市外壁からなり、大神殿から四方に十字の大路が真っ直ぐに延びている。
この都市国家その物が、トゥアハ・ディ・ダナーン主母神教の象徴である巨大なケルト十字を象っていた。
ジョンが入国した時は既に南方門と西方門の駐機場はいっぱいになっていた為、ハリスの先導により北方門の駐機場まで移動する事になった。
移動が出来るといっても、外部のSFが許されているのは第三街壁と都市外壁の間の歩行移動のみで、大路を通っての近道や、ランドローラーを使用しての滑走は許されていなかった。もし破れば、同行の神殿騎士機による攻撃が待っている。
北方門の駐機場にジョンとアンディはそれぞれの乗機を預け、ハリスは駐機場に併設されている神殿騎士団の格納庫へSFを納め、彼は元々北方門側に家があるという事で三人一緒に歩き出した。
随分と遠回りしてからの徒歩での移動に、第三街壁のはるか手前でアンディがぼやいた。
「あん時、お前が飛び出さなけりゃ、西方門側が空いていたかも知んねえのによ」
「もう、僕が悪かったってば、アンディさん。そろそろ機嫌、直してよ」
ハリスが見かねて口を挟む。
「アンディどの、その子は私を手助けしてくれたのだ。それぐらいで彼を勘弁しては貰えんか。私の四阿で好ければこの近くだ。今夜の宿として使ってくれて構わん。どうだろうか?」
アンディはガリガリと頭を掻くと、ハリスを見た。
「あんた、神殿騎士って事は坊さんだろう。坊主にゃ、死んだ時以外は世話になるなってのが、俺の爺の遺言でね。好意はありがたいが、遠慮する。ここらにゃ、安宿もあんだろうさ」
そういうとアンディは、ジョン達二人から分かれ大路から小路へ入って行く。その背中にジョンは声を掛ける。
「アンディさん、どこに行くのさ!」
アンディは背中越しにジョンへ手を振り、答えた。
「何処でも良いだろ? どうせ他人だ。何か用なら俺の連絡先は知ってるだろ、ジョンよ」
アンディは小路に消え、その場に立ち止まり見送るジョンの肩をハリスは優しく叩き、言葉を掛ける。
「アンディどのは残念だが、ジョン君、君は私の家に招待されてくれるかい? 彼の連絡先は知っているのだろう? 後で連絡すればいいのだよ」
「そうですね、すみませんハリスさん。ご厄介になっても良いでしょうか?」
ジョンはハリスに向き直り、厚かましいかと思いながらハリスの提案に乗った。ハリスは二度頷き、口を開いた。
「私の娘も、夕飯を用意して待っている筈だからね。あ、そういえば、家に連絡入れるのを忘れていたな。まあ、大丈夫だろう。ほら、ジョン君こっちだ」
ハリスはジョンを先導して歩き出した。神殿騎士団員なのに、ハリスは下層階級居住区に住んでいる。ジョンは疑問に思ったが、口にはせず、ハリスと話しながら歩く。その途中、元々は第二街壁なるものはなかったらしい事をハリスから教えられた。
都市外壁や第三街壁、第一守護壁は石のように見えるが遥かに強靭で、少しの傷くらいなら勝手に直ってしまう不思議な構造材で出来ているが、第二街壁のみはどうもただの石材で出来ていて、傷を付ける事さえ、教団から禁止されており、設置されている場所にはいくつか住居の土台らしきものの跡が見つかっているとの事だった。
その後も、ジョンに対するハリスによるトゥアハ・ディ・ダナーン主教国の蘊蓄混じりの解説は続いた。
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トゥアハ・ディ・ダナーン主教国、ネミディア領北部、中央よりの平原に存在する都市国家。
南方には連邦首都が有り、西に主母神教の伝説の大樹林“ケルヌンノス・ヘルシニア”と接し、東にコリブ湖というこれもまた伝説の巨大湖がある。
主母神ダーナを祀る人類領域の主流宗教トゥアハ・ディ・ダナーン主母神教の総本山、ダーナ大神殿を都市の中央に配し、楽園ティル・ナ・ノーグへの入り口が在るとされ、聖地として認定もされており、信仰に篤いものは大陸全土から集まってくる。
近年は5年前のフォモールの侵攻から逃れてきた連邦の国内難民が増え、都市の外に築かれてしまったスラム化した難民キャンプが問題になって来ている。
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「ただいま、帰ったよ、ダナ!」
ジョンがハリスに招待されたのは、神殿騎士団員の物とは思えない様なこじんまりとした家だった。
無造作にドアを開け、ハリスは家中に届く大声で帰宅を知らせた。
家の奥から、パタパタと軽い足音を立て、14、5歳くらいの活発そうな少女が姿を見せた。
「お帰りなさい、父さん。って、へ、お客さま?」
瞳がちな目を真ん丸に開き、少女ダナ父親に後ろにジョンを見つけた。
「はじめまして、ジョン=ドゥです。ハリスさんに誘われました」
キッとダナは父親を睨むと、その胸倉を掴み家の中を連れて行く。少女が小さな声で父親に抗議している。
「……前から言ってるでしょ! お客さん呼ぶなら、事前に連絡してって! 普通の夕ご飯、それも父さんとあたしの分しか用意してないわよ! どうするつもりなの、父さん!」
ダナのヒートアップに従い大きくなって行く声で、内容は少年に丸分かりになってしまっている。
いたたまれなくなったジョンは、家の中へ声を掛けた。
「ご迷惑を掛ける気はないので、拙いなら、お暇しますけれど?」
ジョンがそう口にすると、ハリスン親子はジョンに駆け寄り、家の中に少年を引っ張り込んだ。
「逃がさないわよ! 良いから、キミはもてなされなさい!」
「そうだぞ、ジョン君! ダナの言う通りだ! 大人しくもてなされて行きなさい!」
遠慮するジョンに、変なスイッチの入ったハリスン親子がくっ付いて、可笑しなテンションで口々に言う。
ダナなど初対面のジョンに、今にも口付けてしまいそうなほどだ。
「ちかっ、近いですよ! 分かった! 分かりましたから、はなれて、もてなされますから! 僕、もてなされますから!」




