第23話 教国入国前 従騎士ハリス
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ジョンは愕然として、係官へ聞き返した。
「いないんですか、オルソンさん、本当に?」
係官は再度、端末を覗きジョンに向かって言う。
「やはり、申し訳ないですが、住民データに存在していませんね」
係官が口を閉じたと同時に、検問所の向かって右側に立っていた神殿騎士のSFが脚部機動装輪を展開し、検問待ちの列の後ろへと走っていった。
右手にケルト十字二つを片方のみそのまま90°回転させ十字に組み合わせた打撃部をもつ長柄の戦棍を、左手に円盾を装備し、他に射撃装備は持っていないようだ。
神殿騎士機の動きにつられ、少年が列の後ろを振り返ると全高5mのネミディア連邦製のSFの簡易模倣量産機デミ・スカウト=フレーム(略称DSF)、機体名“VANGUARD”という左肩に折り畳み式騎剣を装備しているのが特徴のそれが数機、ジョンのいる検問所へと向かい連邦首都側から突っ込んできていた。
簡易模倣機とはいえ、腕部はSFと同サイズでSF用の武装を装備可能だ。実際、DSFの各機はSF用の銃火器で武装しており、格納機能はないが機動装輪を標準装備している為、走破スピードは速い。
「ちょっと、行って来ます!」
ジョンはそれらが武装していたのを見て取り、駆け出した。
「へ、ドゥさん何を! 待って下さい、ドゥさん!」
係官が何か言っていたが構わないで、ジョンは駐機姿勢のセイヴァーへ走り寄ると、目を見張る様なバランス感覚で右腕を駆け上り、露出されている機体頸部後方のコクピットに搭乗した。
ハーネスを留めながら起動コードを入力する。
〔SCOUTーFRAME control operation system - all system restart - 〕
視界にいつもの起動メッセージが表示され、セイヴァーが目覚め起き上がる。神殿騎士騎を追い戦闘機動の全速力で片腕の機体が疾走した。
明らかに機体重量の軽いジョンのSFは、さほど時間を掛けずに先行したセルティクロスに追いついた。
DSF達の仲間と思ったか、神殿騎士騎のパイロットはジョンに対して身構える。
ジョンはセイヴァーの外部スピーカーを起動した。
「僕はジョン、ジョン=ドゥです。そこの神殿騎士の人、お手伝いします!」
自己紹介して攻撃してこないジョンに対して、警戒を緩めたか神殿騎士も外部スピーカーで返してくる。
『私はトゥアハ・ディ・ダナーン主教国神殿騎士団、南方外門守備隊所属従騎士ハリス=ハリスンだ。手伝ってくれるというのは正直、有り難いがその片腕の機体で大丈夫なのか? それから、間違ってもこちらに攻撃してくれるな。一時的とはいえ味方してくれる者を、私は打ち据えたくはない』
ハリスの声は野太く力強いが、あまり若くはないように少年には聞こえた。
「加勢しに来たんです。ハリスさんに攻撃なんてしませんよ。じゃ、先行します!」
ジョンはハリスに答え、自らのSFをより加速させた。揺らぐ青焔が如き色のSFが、巡礼者の列を射線上から離すように舗装面から離れて回り込み、DSFの一群へ走り寄る。片腕の、しかも、無手の機体が寄ってくるのをカモと見たか、ジョンを狙っての銃撃が開始された。
ジョンは折り畳み式騎剣を掌盾形態で装備、危険な弾道の物のみを弾き、それ以外を避け敵機へ近付いて行く。
ジョンは陽動に徹するつもりでいた。目論見通りにヴァンガードを操る者たちは攻撃の当たらないジョンのセイヴァーに集中してしまっている。
ハリスのセルティクロスは脚部機動装輪を格納し、背後からDSFヴァンガードへ潜み寄った。ジョンはハリスが自分の意図を読み取ってくれたのを悟り、突撃銃をフルオートで撃ち尽くした一機に接近、掌盾形態から騎剣形態に折り畳み式騎剣を変形させ、突撃銃を持つ敵機の右腕を切り飛ばした。
ハリスのセルティクロスは円盾で敵機の放つ短機関銃の弾丸を機体に届くものは弾き、それ以外は無視し戦棍を振り抜いてヴァンガードの腕部を短機関銃ごと破壊した。ジョンもハリスも無力化したDSFを盾にして回るように動き、ヴァンガード達は味方への誤射を畏れて、積極的には攻撃が出来なくされている。それから数分の内にDSFは鎮圧され、後からやって来た隊長機や他の神殿騎士団員により、パイロット達は全員が捕縛された。
ジョンは駐機姿勢で停止させたセイヴァーを降り、セルティクロスに近付いていく。
少年の目の前にセルティクロスから降りてきたのは中年の男性だった。ジョンに握手を求めて来る。
「協力感謝する。私がハリス=ハリスンだ。君が……、ジョン=ドゥ君か? 参ったな、娘と同年代の少年に助けられるとは」
ジョンは首を横に振り、ハリスに答える。
「いえ、僕は邪魔してしまったみたいです。ハリスさん一人でも、あの程度なら無力化出来たでしょう?」
「君は私を随分と買い被ってくれるな、君こそ片腕の機体であそこまでやるとはな。先ほども言ったが協力に感謝する。込み入った事かも知れないが、教国へは何をしに?」
ハリスはジョンに感謝を告げて頭を下げ、質問した。
「人を捜しに、オルソン=エルヴィスさんていうSF技師の方なんですが、ハリスさん知りませんか?」
「いや、申し訳ないが私には判らん。だが、どうするね? もし、時間が取れるなら観光でもして行くと良い、教国は綺麗な都市であり、遺構だからね」
ハリスは済まなそうに答え、ジョンを観光に誘う。
その時、教国の方からSFが一機こちらに向かって走って来る。アンディのブレイザーだ、ハリスが身構えるのをジョンが止めた。
「大丈夫。僕の知っている機体です。心配して来てくれたのかも」
ジョンの前でブレイザーは停止し、アンディが降りてきた。
「ジョン! おま、お前なぁ……はあ、何やってんだよ」
開口一番、アンディは呆れた声を出し、ジョンは暢気に答える。
「や、アンディさん、入国審査終わったの? あ、僕はどうなったんだろ」
「お前をを連れ戻して来いってな。ジョンを担当した係官に頼まれたんだよ。それまで、俺も入国禁止だとよ。ほら、行くぜ」
アンディはジョンの頭を軽く叩き、自分に付いて来る様に促した。そこへハリスが口を挟んだ。
「待ってくれ、君達。私も一緒に行こう。少しは便宜が図れるかもしれん」
しばらくして、三機のSFが列んで教国へと戻って行った。




