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第226話 

「みんな! もしもに備えてやってた練習の通りに逃げるぞ!! こっちだ!!」


 地下ホールの床や壁面を突き破り、蠢き襲い掛かる鋼色の触手に追い立てられ、方々に駆けだそうとする子供達をデューイの一声が制し、双子の片割れである少年は先頭に立って避難通路へと駆け出した。双子の片割れである少女は、突然の展開に茫然としたまま、流されるように子供たちの後ろを追いかけている。宙に浮かぶ掌盾バックラーは子供達の傍をつかず離れず、通路の壁を突き抜けて来る触手の群をその装甲面に受け止めていなし、又は備えた刃翼で斬り裂いて守護していた。

 ジョンは子供達の進路に姿を現す触手を、右手に構える大振りの高周波振動ヴァイブロナイフで斬り捨てながら走っていく。


「デューイ! 入ってきた方とは違うけど、こっちで良いんだね! 地上までの避難経路は!!」


「ああ、街もあんな様子だろ。何かあった時の為に一応、いつでも逃げられるように幾つか避難経路は確認してある。向かってるのはその一つだ。チビ共にだって、散歩がてらに何度か通ってる! 憶えてるよな?」


「うん!」


 アルは元気な声でデューイの問い掛けに応じている。その後ろを走っていたクレア、リタ、ジュナの三人の内、ジュナがデューイに向かって泣きついた。


「ディーにぃ、もうやぁ、ジュナはしるのくるしい」


「あ、わりぃジュナ、抱えるぞ! セラ、お前はクレアを頼む!」


 呆然とついてきていたセラはデューイに促されクリスに近づいて声を掛けた。


「うん、……クレア、こっちおいで。おねえちゃんに抱き着いててね?」


「あい!」


「アル、リタ、お前ら、まだがんばれるか?」


「ぼく、へいきだよ!」


「あたしもー」


「フランク、ユキ! アルとリタがへばったらお前ら頼む!」


「うん」


「わ、わか、まし、た」


 フランクはデューイに頷きを返し、ユキは息も絶え絶えに彼に返事をする。そんな子供達の様子に知らず笑みを浮かべたジョンは、ナイフを持つ右手に力を籠めて襲い来る触手を斬り払い、力強く踏み込んで次の触手に向かって行った。

 通路を塞いでいた触手群を粗方一掃し、汚泥の撒き散らされた通路で息を整えながら、ジョンは高周波振動ヴァイブロナイフを太もものナイフシースに滑り込ませ、後から走って来る子供達へと振り返る。ジョンに追い付いたデューイは、背中に負ったジュナを背負いなおしながら周囲を見回し、壁面に表示された区画を確認した。


「ジョン! もう少しで退避所がある! 出来ればチビ共を休ませたいんだけど、この先は行けそうか?」


「何とも言えないな、今の所、あの触手が出て来る頻度は一定みたいだけど。このままでいくとも限らないしね。でも、みんなを休ませたいって事には僕も同意するよ」


 デューイの後に追い付いてきたセラは無言のままクリスを抱く腕に力を籠め、双子の片割れと部外者の少年の顔を見回している。今にも倒れそうな様子でユキは苦しそうに肩で息をしながら壁に手をついており、フランクはここまでの途上で走れなくなったアルとリタの二人を抱え、静かに幼馴染を気遣っていた。子供達の様子を確認し、ジョンはデューイの意見に賛同する。


「っはぁはぁ、休め、ますか? デューイ、ジョンさん」


「まだ地上までは距離がある。デューイ、退避所に行こう、少しでもみんなを休ませよう」


「いいのか?」


 デューイはジョンへと視線を送り、ジョンはしっかりと頷いて返す。


「流石に無理させるのは、ね。特にユキさんは大変そうだ。僕は退路を確保しておくから、デューイ、君も皆と休んできなよ。じゃ、退避所までの案内を頼む」


 僅かでも休むことが出来ると知り、それまで年上の少年たちに抱かれていた年少の子供達も自身の足で飛び跳ねるように歩き始めた。





 “森妖精の姫君(フェイルノート)”は大型狙撃銃(トリスタン)の銃口を持ち上げて弾丸の尽きた弾倉を排出し、腰部側面装甲(サイドスカート)弾倉架マガジンラックから新たな弾倉を引き出し大型狙撃銃(トリスタン)の機関部に再装填する。地面に撃ち込んだ細剣状姿勢制御アンカーを引き戻し、そのまま発砲することなく、機械肢(アーム)の可動に任せて背部へと可動させた。腰背部に懸架マウントした二振りの試製折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)が二つ折りになっていた片刃の剣身を展開し、左右の腰部側面装甲(サイドスカート)上部に可動させ、待機状態に移行させる。


「少数精鋭のつらい所ですね。後方支援もここまででしょうか、行きますよ“シャーリィ”」


『了解、脚部機動装輪ランドローラー展開』


 “森妖精の姫君(フェイルノート)”の両足の踵部がハイヒールを履いた女性の様に持ち上がり、格納されていた駆動輪が展開された。踵が上がったことで前傾する機体を“森妖精の姫君(フェイルノート)”の機体制御システム(シャーリィ)が自動補正し、倒れ込みそうな機体姿勢を安定させ、丘の上から走行を開始する。

 うなじの辺りで一つに括った蜂蜜色の髪の毛が跳ね上がり、エリステラの視界の端に揺れた。ほどなく、フォモールとの接近警報が操縦席コクピットに鳴り響く。両腕を交差させ左右の腰部側面装甲(サイドスカート)上部から試製折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)を抜き放ち、毛皮の代わりに触手を纏う異形の鋼獣フォモールの間を駆け抜けながら双の刃を走らせた。


「“シャーリィ”、試製折り畳み式(フォールディング)高周波振動騎剣(ヴァイブロソード)再充填、大型狙撃銃(トリスタン)可動、照準」


 腰部側面装甲(サイドスカート)上部に両腕の騎剣を帰還させ、一度の高周波振動斬撃で消費したエネルギーを充填させる。エリステラは脚部機動装輪ランドローラーを用いた走行で、二体以上の鋼獣同士が射線上に重なる位置に機体を移動させ、走行する機体の足を止めることなく一瞬の機会に大型狙撃銃(トリスタン)の銃口から弾丸を解き放った。

 電磁投射砲の一射にて鋼色の触手に覆われた鋼獣数頭が纏めて吹き飛び、地面に汚泥となって飛び散っていく。

 装弾数そのものはあまり多くない大型狙撃銃(トリスタン)の弾倉だが、鋼獣フォモール群に超速の弾丸を撃ち込むことで弾丸そのものの消費数を減少させる効果ももたらしていた。

 “森妖精の姫君(フェイルノート)”はその足を止めることなく、フォモールへの攻撃を加えながら先行する神殿騎士騎とは別の方向から都市廃墟へと接近して行く。


「っ!? 何ですか!? 地震?」


 下から跳ね上げられるような衝撃が機体を通して、エリステラに届いた。それまで足を止めることなく走り続けていた“森妖精の姫君(フェイルノート)”は突然の地揺れに転倒しかけ、足を止めることを余儀なくされてしまう。

 目的の都市廃墟周辺に闊歩していたフォモール全てが、地面から唐突に突き出された鋼色の触手に貫かれ、天高く掲げ上げられた。


「“シャーリィ”、大型狙撃銃(トリスタン)最終攻撃形態ファイナルモード!」


 地面から天に伸びる無数の触手が一つに縒り合わされていき、人型をした巨大な一頭の獣の姿を形成していく。その威容を目にしたエリステラは特殊弾倉を大型狙撃銃トリスタンに装填し、より強大な攻撃を放つべく大型狙撃銃トリスタンを変形させた。

サブタイトルは後で付けます

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