第224話 異形
元クェーサル連合王国北西部、人類領域大陸中央山脈の南東側の中央山脈を源流とする大きな運河に面した麓に、その廃墟と化した都市は存在している。
破壊しつくされたといった様相の都市廃墟を遠く眺める森林に面した小高い丘の上に二機のSFの姿があった。エリステラの機体“森妖精の姫君”とハリスの乗機“神殿騎士騎改”は森林から切り出した枝や葉で簡易的なバリケードを設置して擬装し、都市廃墟周辺に点在する幾つものフォモール群の動静を注視していた。
ジョンが小柄な操縦者と共に庁舎廃墟に入り込んで一晩、夜行性の獣の姿をしたフォモール達の襲撃も無く夜が明け、“森妖精の姫君”の機体制御システムが発した警戒警報が、気を緩めていたエリステラの耳を打つ。
部隊間通信で接続されていた為に、“森妖精の姫君”の隣で片膝を着いていた“神殿騎士騎改”もほぼ同時に警戒警報を受け、ハリスンに操作されて起き上がった。
『エリステラくん、都市廃墟に向かってフォモールが方々からやって来たよ。とりあえずこの丘に近い群れは私が殲滅するから。君はジョン君の居る庁舎跡に接近しようとする群を中心に牽制を』
通信回線よりそう言い放ち、ハリスンは“神殿騎士騎改”の機体背部にマウントしていた戦棍を右の機腕で掴み取らせ構えると、踵部に展開した脚部機動装輪を全開に丘を迂回しながら駆け降り、最接近したフォモールの群に襲いかかっていく。
「あ、ハリスンさん!? もう。“シャーリィ”、“森妖精の姫君”起動、大型専用狙撃銃セット、姿勢固定アンカー射出、大型専用狙撃銃、銃身展開、高出力射撃形態へ」
『Yes My Mistress』
“森妖精の姫君”はその場に起き上がり、機体右肩部に可動肢により接続され、背面に移動していた大型電磁投射砲が機体の右腋下を通り移動し、銃口を前面に向けた。大型電磁投射砲の銃把と補助銃把が機関部の左右側面に展開、女性型SFの細い指がしっかりと握り込み、腰部側面装甲に内蔵された細剣状の姿勢固定用アンカーが地面に向かって射出される。
電磁投射砲である“TRISTAN”の装甲に覆われた水鳥の嘴くちばしを思わせる漏斗状の細長い銃身が展開し、機関部に内蔵されたリア・ファル反応炉から発した高出力の電流が銃身に充填され、展開された銃身の細い空間の間に幾筋もの電光が迸った。
「左肩部、センサーユニット展開、戦場地形測距開始。大型の個体を優先に行政庁舎廃墟及び味方機に接近するフォモールへの狙撃を開始します」
スズランの花を思わせる半球状の形状をした“森妖精の姫君”の左肩部装甲の防盾が展開、内蔵されたセンサーユニットが露出し、大型電磁投射砲に搭載されたセンサーユニットと連携し、詳細な情報が操縦者へと提示され始める。
†
駆け出した“神殿騎士騎改”は戦棍を鎖分銅と化して打撃部を早々に射出、鎖に繋がれたまま飛翔し、回転する打撃部をバッファロー型ポーン種の群の先頭を走る大型個体の頭部目掛け、横合いから叩き付ける。高速回転するケルト十字型の打撃部を撃ち込まれ、バッファロー型の頭部が爆裂、走り続ける四足を縺れさせ倒れた。先頭の個体が急に倒れたがために、後続の個体もそれに巻き込まれ、走り続けた勢いのままに転がり倒れる。戦棍のグリップに内蔵された給鎖装置が打撃部に繋がる特殊合金鎖を急速で巻き戻し、戦棍を機体背部へとマウントすると、腰部左右に装備した剣の柄杖の武装、連結杖を両手に掴み取り、下腿部装甲側面を展開し、装甲内に収納された刃状放熱板と接続、高出力溶断鉈形態を成し、地面に倒れてもたつき、為す術の無いバッファロー型ポーン種達を斬りつけて回り、一刀の下に止めを刺して行った。
「っ!? 新手か!!」
最後のバッファロー型ポーン種に高出力溶断鉈を叩きつけた“神殿騎士騎改”目掛け、針状の飛翔体が襲い掛かる。左前腕の丸盾を翳して機体の急所を庇い、右腕に掴んだ高出力溶断鉈を振り回し、針状の飛翔体を払い除けながらハリス騎は自機に襲い来る飛翔体の射線から逃れた。
払い落され地面に落ちた飛翔体を見ると、それは針ではなく、瞳も無く身体の柔軟さも無い、乱杭歯を生やす口のみを備えた硬直した異形の蛇の姿をしている。それを目にした衝撃も抜けぬまま、ハリスンはそれが放たれた元へ視線を送っていた。
「なんだこの鋼獣は!?」
ハリスンが目にしたのは、幾つかの生物の特徴を持ち、生物としての合理性も無いままに粘土細工の様に捏ね混ぜたようなあり得ざる姿としか言えぬ大型鋼獣だ。
馬の体に鬣を生やし、その身に生える獣毛は全てが口しか持たぬ蛇となっている。類人猿の両腕が瞳が収まるべき場所から生えており、その手の甲側には肩まで並んで幾つもの瞳が開いていた。前肢はネコ科の猛獣を思わせ、後肢は大型鳥類の蹴爪を備えたそれであり、そのフォモールの姿はまさに名状しがたい、おぞましいとしか言えぬものだった。
機体のセンサーが告げる反応は通常のポーン種のものと同等、より脅威と言えるナイト種や、故国にて目にしたルーク種のものでもない、その事実を根拠にハリスンは、その異形のフォモールが対処不可能な存在ではないのだと自身に言い聞かせて機体の操作に集中、“神殿騎士騎改”は両腕に携えた高出力溶断鉈を構え直す。
馬体に生やした蛇毛が逆立ち、頭部から生えた猿の手が両の拳を握り込んだ。先程の攻撃と同じものと予想したハリスンは、機体の踏み込みと同時に両肩部装甲に内蔵された可動式推進器を全開に作動、鋼獣の射線から跳び出すと左手に携えた高出力溶断鉈の接続を解除し、赤熱する刃状放熱板を回転を加えて投げ放った。
蛇毛を放った鋼獣は身動きの出来ぬまま、投げ付けられた刃状放熱板を右の猿の手を犠牲にして受け止めようとするが、赤熱する刃状放熱板の勢いを消しきれず、鋼獣は高熱の異物でその身を大きく削り取られてしまう。
頭部に口を持たない異形の鋼獣は、逆立った蛇毛の先に開いた顎から幾重にも重なった叫びを上げ、左腕に並んだ瞳を血走らせ、右手の高出力溶断鉈を右腰に戻している“神殿騎士騎改”を睨み付け、四肢で地を蹴りハリスン騎目掛けて駆け出した。
「見た目ほどは、驚異ではないな。では終いだ」
ハリスンは背に戻した戦棍を掴み取ると打撃部を高速回転、左前腕の丸盾で鋼獣の殴りつける拳を打撃して逸らせると、右腕の戦棍を可動式推進器を全開にその横っ面に叩き付け抉り抜いた。インパクトの瞬間、機体の脇を熱源が通り過ぎ、戦棍を叩きつけた後でハリスンは酷く軽い手ごたえを感じた。地面に崩れ落ちたフォモールの骸に目を遣ると、異形の鋼獣はその身を死角に隠していた背後のもう一頭の異形の鋼獣諸共に、高速で貫通した弾丸の痕が穿たれていた。
「ふむ、頼りないと思われてしまったかな? だが、まあ、助けられたか」
ハリスンは苦笑を浮かべて地面に転がった刃状放熱板を回収しつつ、新たに迫っている鋼獣の群を目指して機体を疾走させた。
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