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第220話 廃墟

 一機のSFスカウト・フレームが朽ち果て打ち壊された都市の警備隊庁舎と思しき廃墟の陰に在った。かつてクェーサル連合王国と呼ばれた国家で製造されたSFの内の一種、PATHFINDERパスファインダーという銘の、その機体の廃墟の壁越しの視界には、そこかしこに数え切れないほどの鋼獣フォモール達がうごめいている。

 操縦者パイロットはこのままこの場にじっとしていることがただの時間の浪費でしかなく、放っておいてもやがては襲いかかって来るであろうフォモール達の只中ただなかへと、自ずから飛び出して行くしか既に活路は見い出せそうにないと悟っていた。

 震える指先で、操縦桿コントロールグリップ脇のコンソールを操作、何度確認しても事態が好転するはずもない機体ステータスを確認する。クェーサル製の軽装甲型SFの関節部には、重度では無いものの整備を要する軽微な故障が無数、両腕の固定式掌盾(バックラー)や全身の装甲は凸凹とへこみが目立ち、装備する武装は弾丸の尽き欠けた突撃銃アサルトライフルが一挺と、今まで籠っていた庁舎廃墟内の探索でなんとか確保できた予備弾倉二本、これに機体に標準装備された近接戦闘武装である電磁警棒スタンロッドや、同じく発見することの出来た超硬化処理陶製騎剣ハードコーティングセラミックソードを含めても、そこかしこにひしめく数限りない鋼獣の群と戦うにはこれでは心許なかった。

 一頭のコヨーテ型ポーン種がSFの隠れる廃墟へと接近を始め、操縦者は意を決してリア・ファル反応炉リアクタを全力稼働、脚部機動装輪ランドローラーを展開し機体の疾走を開始、コヨーテ型フォモールに見つけたばかりの超硬化処理陶製騎剣ハードコーティングセラミックソードを右腕で振り被り斬りかかっていく。

 操縦者が近接攻撃を選択した理由は、残された弾丸数は有限であり、絶望的な現状において、威力はそれなりであろうと遠距離攻撃できる手段は可能な限り、最終手段として留めておきたいという心理からだった。

 機体の反応炉リアクタから届けられた高圧電流により、SF腕部の疑似筋繊維ファルスマッスルアクチュエータが激しく収縮、機体骨格関節に配されたサーボモータが腕部を高速で動作させる。

 大した抵抗感も無く、振り下ろされた刃を受けてコヨーテ型は真っ向から唐竹のように二つに割られ、鋼色の体液を散らしながらくずおれれ、やがては地面に汚泥となって広がった。

 人型兵器の機動音に、廃墟の周囲にひしめいていた鋼獣達がその機動音の発生点を目指し、雪崩をうった様に駆け寄り出す。

 PATHFINDERパスファインダーは地面を蹴り後退すると隠れていた廃墟に舞い戻り、機体の背を廃墟の外壁に押し当てると虎の子の突撃銃アサルトライフルを左腕に掴み前方に向けて構えた。

 まだ距離のある内に押し寄せる鋼獣達へ突撃銃アサルトライフルに残された弾丸を吐き出すと、右腕の騎剣を地面に突き立て自由にすると、装填されていた弾倉を排出イジェクトし予備弾倉の内の一本を叩き付けるように装填、先程、地面に突き立てたばかりの騎剣を逆手に掴み取る。

 自機に向かって突進して来る鋼獣達へ、PATHFINDERパスファインダー操縦者パイロットは狙いも付けずつるべ撃ちに左腕の銃を全力フルオート射撃した。

 目の前に鋼獣達の骸が積み上がり、数秒もせずにPATHFINDERパスファインダー突撃銃アサルトライフルに装填されていた弾丸が尽きる。SFは突撃銃アサルトライフルを自機の腰背部へ懸架すると、右前腕の固定式掌盾(バックラー)から電磁警棒スタンロッドを抜き放ち、右腕の騎剣を構え直した。外壁を背にしていたその場所から展開したままの脚部機動装輪ランドローラーを全開に駆動させ、両手の武器を当たるを幸いに振り回して鋼の獣たちを牽制しながら疾走する。

 都市廃墟内で唯一フォモール群が寄り付かない、都市行政庁舎廃墟まであと数十mという所まで進んだその時、地の底から大きく伸びあがったフォモールと思しき何かにかち上げられ、跳ね飛ばされると大きく体勢を崩して地面に転がされていた。大きく伸びあがったそれは、鋼色の肌を持つ全長数キロにも及びそうな大きさの大ミミズ型のフォモールだった。

 地面に転がったPATHFINDERパスファインダーにそれを追いかけていた鋼獣達が殺到し、SF操縦者パイロットが死を覚悟したその時、宙を舞う五本の騎剣がPATHFINDERパスファインダーを護るように倒れたSFに群がった鋼獣達を薙ぎ払い、両の踵に輝く光輪を履いた左腕の無い隻腕のSFが空から降臨する。

 地に倒れたPATHFINDERパスファインダーを背に、フォモール群の前に立ちはだかった隻腕のSFは肩口から噴き出した銀色の粒子で出来た金属帯で編み込まれた左腕を形成、その腕の先に光の刃を生み出すと振り上げるようにして空に頭を擡げた大ミミズ型を一息に斬り裂き、更には大きく腕を横に振り、都市の地上に蟠る鋼獣達を一掃した。





 “救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の左肩に召喚した“銀色の左腕(アガートラム)”を虚空の彼方へ送還し、機体の下に舞い戻って来た五基の自律機動攻撃兵器アンサラー達が機体各部に接続されるのを確認するとジョンは隻腕のSFの機体制御システムに命じた。


簡易神王機構(イーズィ)、今のでこの場のフォモールは駆逐した筈だけど、一応は周囲の警戒を」


『承りましたご主人様(ミロード)、――背後に倒れたSFより攻撃反応確認、自律機動攻撃兵器アンサラー起動します』


 機体各部で装甲と化していた自律機動攻撃兵器アンサラーが刹那に起動、分離して剣身の根元の掌盾バックラー部で隻腕のSFの背面を防御、起き上がったSFが繰り出した電磁警棒スタンロッドの一撃を受け止め無効化した。


「……ねぇ、僕はこの人の事、助けたんじゃないのかな? まあ、住んでた、あるいは住んでいる都市の内部がこんなんじゃ流石に心も荒むんだろうけど」


『背後の機体、反応炉リアクタが沈黙しました。整備無しでの長期間駆動が原因かと推測されます』


「そうか、まあ、機体に無理させるのも仕方ないか。無理せず整備に時間を取られてたら、都市に入り込んでいたフォモールの物量に圧し潰されていただろうし。そもそも、SFの整備が出来る人材が残っているのかも分からない訳だし」


 少年はため息と共にそう吐き出すと、隻腕のSFを背後のSFに向かって振り返らせ、おもむろに“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”に片膝を着く駐機姿勢を取らせ、操縦席隔壁コクピットハッチを開放、廃墟と化した都市の空の下にその身を曝すと、駐機姿勢により地面に着かせた“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の右腕を滑り降りて行った。

お読みいただきありがとうございます

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