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第216話

 ガードナー私設狩猟団の一団と共に“樹林都市ガードナー”へと帰還したジョンは、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の頭部を稼働させ、焼けた都市街門を見上げていた。隻腕のSFの周囲には後部懸架整備台を荷台替わりに大量の物資を満載したガードナー私設狩猟団のSF搬送車(キャリア)二台を挟み、その左右に二機ずつ狩猟団に所属するSFが展開している。

 少年を内包する狭隘な薄暗がりに刹那、光が瞬いた。


ご主人様(ミロード)、背後より接近する機体を二機感知しました。機体識別コード確認、該当機の内、一機はトゥアハ・ディ・ダナーン主教国所属SF“神殿騎士騎セルティクロス”、併せて“善き神(ダグザ)”の存在も確認、敵性存在と推察しての警戒レベルは下げたままでよろしいかと』


「分かった。そういう事だからエリス、それにみんなはそのまま団本拠ハウスに戻って、今回、“境界都市ゴールウェイ”から持ち帰れた物資を都市住民の皆のところに早く届けて上げて欲しい。“簡易神王機構イーズィ”もこう言ってるから、危険性は少ないと思うけど、僕は一応この場に残ってこれから来る機体を警戒しておくよ」


 背後に接近するSFともう一機の人型兵器の存在を感知し、簡易神王機構(システムイーズィ)が少年には耳慣れた機械音声で告げる。ジョンは隻腕のSFをその場に停止させると開放しっぱなしの部隊間通信を通して狩猟団の面々を都市内へと先行させようとした。


『む、そうか、ではジョン=ドゥ、頼めるか』


『待ってください!』


『は、ガードナー隊長。どうぞ』


 レビンがあっさりとした調子でジョンの提案を受けようとすると、柔らかなソプラノの持ち主がそっと青年の言葉を制し、エリステラは自身の豊かな胸に手を当てジョンに向かって告げる。


『わたしの“妖精の姫君(フェイルノート)”は今回の旅では、大きな負担になるような戦闘を行っていません。わたしがこの場に残ります。この後はジョンさんが言うように荷下ろし作業程度ですし団本拠ハウスにはお爺様も、ダスティンおじ様も居ますからこの後の作業にも困りませんよ』


『それじゃ、二人共残れば? 結局のところ、あたしたちと団本拠ハウスに残っている職員の皆とで荷下ろし自体はするんだし、先に戻ってぼちぼちやってるからなるべく早く来てね! ベル兄、SF搬送車(キャリア)出して、ほらレビンも、まっすぐ団本拠ハウスに帰るよ』


 レナはじれったそうにさっぱりした口調でそう言うと、ジョンとエリステラの機体をその場に残し、SF搬送車(キャリア)とレビン機を促すと狩猟団を伴って都市街門をくぐって行った。“神殿騎士騎セルティクロス”と“善き神(ダグザ)”の姿はもうすぐそこにまで接近している。

 空に舞う“善き神(ダグザ)”とその操縦者に向かい少年が機体の腕を挙げると、返礼するように“神殿騎士騎セルティクロス”も同じように片腕を挙げていた。

 そのSFはジョンが記憶している“神殿騎士騎セルティクロス”とは細かな部分に差異があり、同機を改修した機体である事が少年にも見て取れる。そして、その機体が背部に懸架した見覚えの有る特徴的な戦鎚メイスの存在に気付き、ジョンは思わずあっと声を漏らしていた。


「まさか、ハリスさん!?」


『あら、お知り合いですかジョンさん?』


「エリスもダナ=ハリスンさんは知っているでしょ? あれに乗っているのって、そのダナさんのお父さんだよ。多分」


『まあ、ダナさんの? そういえばわたし、教国におもむいた際の、あれからしばらくダナさんとは連絡を取り合っていたのですけれど、この数か月ほどは、ダナさんからの返信がされないのです。ダナさんのお父様でしたら何かご存知でしょうか』


 エリステラの言葉に引き攣られ、少年の脳裏に人類領域大陸東端で目にした光景が、SFともフォモールともつかぬ異形の鋼獣の体内に鋼色の触手に纏わり付かれていた少女の、ダナの姿が浮かんだ。


「まあ、しばらくはハリスさんも“樹林都市ガードナー”に滞在するだろうし、その間に何があったのかけるといいね」


 ジョンはあれは見間違いのはずだと頭を振って、エリステラへそう返すと、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”に片膝を着いた駐機姿勢を取らせ、操縦席隔壁コクピットハッチを開放、陽光の下にその身を躍らせた。

 “救世の光神(セイヴァー・ルー)”の目と鼻の先、円と十字を組み合わせたケルト十字の意匠を装甲の各所に施されたSFが片膝を着き駐機姿勢を取る。礼をするように機体頭部が前倒しとなり、大柄な中年男性がその姿を現した。その顔に張り付けた仮面のように不自然な笑顔を浮かべ手を振る。


「や、ジョン君。久しぶりだね」


「はい、ハリスンさんも。そういえば神殿騎士団の副団長になったって聞きましたけど、“樹林都市ガードナー”にはどんな用事なんですか?」


「それを話すのは構わないんだ。だけど、どこかに腰を落ち着ける所はないかな? “教国”から“樹林都市ガードナー”までとはいえ、私自身、長旅をするのも随分と久しぶりで、流石に歳には勝てないものでね」


『そんなにもったいぶるものですの? ジョン、そちらの方、ご自分の娘御の捜索の為に教国を出て来たそうですわよ』


 六対十二枚の竜翼を持つ“善き神(ダグザ)”がゆっくりと降下し、宙空に留まると年若い少女の声がその機体から発せられた。


「やあ、ファルアリスさん、ただいま。僕らが留守の間、“樹林都市ガードナー”はどうでした?」


『おかえりなさいませ、ジョン=ドゥ。特別な事は何もありませんでしたわ。少し手ごわくなった鋼獣フォモールが幾らか出没した程度です。それとて、わたくしの“善き神(ダグザ)”が手間取るほどのものでもありませんでしたわ。では、わたくしも一足先に、団本拠ハウスに参りますわね』


 “善き神(ダグザ)”は十二枚の竜翼を大きく広げ、空へと舞い上がると都市街壁を上空から飛び越えて《一直線に去っていった。


「で、さっき彼女が言ってたことって本当なんですか?」


 ハリスは顔に浮かべていた笑みを着けていた仮面を取り落としたように一瞬で消すと、酷く憔悴した表情に変え、その瞳に暗い光をともし、自らの娘と同じ年頃の少年を真直ぐに見詰める。


「……ああ、ダナがね。行方不明なんだ。今、辛うじて分かっていることは、あの娘はフォモールに連れ去られたらしいという事だけでね。ガードナー私設狩猟団といえば、私だって耳にしたことがある大陸有数の狩猟団だ。おかしなフォモールや、そういった習性をもつフォモールに心当たりはないだろうか」


 中年騎士の瞳に見据えられ、少年の脳裏につい先程浮かんだものと同じ光景が再び浮き上がる。ジョンは思わず右手を強く強く握り締め、俯きがちに顔を伏せると意を決して顔を上げた。


「ハリスさん、居なくなったっていうダナさんを僕は見たのかもしれない。他人の空似や、僕の見間違いだという可能性もあるけれど」


「なんでもいい、あの娘の行方が分かるかもしれないなら、尚更だ」


 真剣な表情を浮かべた中年騎士へ、少年はまっすぐに東を指差す。


「この大陸の東端、今はフォモールの跋扈ばっこする土地と化したクェーサルの海岸線で、僕はそれを見た」

お読みいただきありがとうございます

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