第19話 大陸樹幹街道3 夜闇の戦い
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蛇頭のナイト種が両手を打ち下ろした地面から盛大な土埃が舞い上がる。
しかし、ジョンはセイヴァーを操り、構わず飛び込んで斬り懸かった。
呆気ない感触で空を切る剣閃、蛇頭の存在した場所を少年の機体が通り過ぎ、少年はレーダーの反応に意識をやる。
フォモールを表す光点は、ジョンの攻撃前から変わらず、その場を動いていなかった。
上下に視線を巡らすジョン、その間隙を縫い土埃に紛れ身を低くしたナイト種が地面から爪を振るう。
吶喊する少年を見送り、彼がナイト種の居場所に気付いていない事を見て取ったアンディは、ナイトの攻撃へ介入し自機の左下腕の装甲に仕込まれた電磁警棒を伸ばし、蛇頭の攻撃を打ち払い電撃を放った。
『ジョン! 下だ!』
少年は割り込んで来たアンディの機体を避け飛び退きながら、指示のままに自機の手の中の騎剣を地面へと叩きつけた。
蛇頭は身を捩りセイヴァーの剣を避けようと動く、だが、アンディの電撃に身のこなしを鈍らされ、完全な回避は叶わない。
右肘から片腕を断たれ、弾き飛ばされる蛇頭のナイト種、起用に片腕で飛び退き、2機のSFから距離を取った。
ナイト種はジョンとアンディへ威嚇の声を上げ、それと同時にSFのレーダーに幾つかの光点が生まれる。
蛇頭の周囲に幾つもの土埃の塊が巻き上がり、爬虫類の形状をしたフォモール・ポーンの群が形成された。
『おいおい、何なんだ!? 何も無いところからいきなり現れたぞ、あのポーン共!』
アンディは不可解な現象に驚愕の声を上げ、ジョンはそれに構わず、蛇頭へ向かい機体を走らせた。
その間に、ナイト種は傍らのポーン種一頭を頭から丸呑みにし、狼頭と同じように、自らの身体を再生させていく。
ナイト種の壁となり立ち塞がるポーン種、その数体はアンディのSFが振り抜いたハンマーを炸裂させ押し潰され、その数歩先ではセイヴァーの剣に頭を割られ、力無く倒れたポーン達が地面に溶け崩れた。
「完全に再生する前に……!」
少年が必殺の意志を込めセイヴァーを操作したその時、少年の脳裏に雷の様な痛みが走り、その直後、視界の中心にシステムメッセージが表示された。
〔Extra system “Balor's fragment” stand by. - Ex effect “Balor's Shroud” spread over〕
セイヴァーの隠蔽化装置が作動を開始した。
セイヴァーの周囲の地面から靄状のナニカが湧き上がり、稼働中のジョンの機体をオーラのように覆い尽くす。
その瞬間、少年の機体出力が明らかに増大する。その効果は少年の機体が手にする折り畳み式騎剣にもおよび、鈍い切れ味が剃刀より鋭くなった。
ナイト種の前に立ちふさがる数匹のポーン種をセイヴァーの一閃が諸共に切り裂いた。
『こっちもこっちで、何なんだよ、そりゃあ……』
飛び交って来たイグアナ型ポーンの頭を多連装炸薬式ハンマーで叩き潰し、呆れた声でアンディは呟く。
数体のポーン種を代償に、再生をほぼ終えた蛇頭のナイト種が何処からか取り出した槍を手に、残るポーン種を引き連れセイヴァーに駆け寄る。
ジョンは脚部機動装輪を全開に疾走し、機体に剣を振り抜かせる。
セイヴァーの全身にまとわりついた靄が振り抜かれた剣閃に沿って飛び、刃となって斬線上の物体を何の区別なく切り裂いた。
手にした槍ごと蛇頭のナイトを周囲のポーン種諸共に上下二つに切り裂き、それと共に、街道沿い森の木々がかなり奥まで直線的に切り倒される。
その場で踵を返したセイヴァーの振り下ろしの斬閃がナイトを四分割し、ランドローラーで走り戻り、通り過ぎ様に斜めに切り上げ、もう一度向き直り切っ先に全身に纏った靄を収束し放たれた突きに、蛇頭は地上から跡形もなく消え去った。
†
格納庫に戻り、高周波振動大鎌を壁面のウェポンハンガーに戻し、機体を懸架整備台に固定、コクピットを開放し、少女は機体から地面へと降りたった。
「出撃許可を出した覚えはないぞ、07」
唐突に掛けられた男の声に、少女は振り返る。
「私のお出迎えですか、01?」
含み笑いで少女は男へと返す。
「とぼけるな、07! ……我は、命じておらんのだがな」
「私には貴男に従う理由が有りませんわ。私達、“No.”は前後はあれど、“No.”を得た時点から同格の筈。私の指示に貴男、従いますの?」
言い放つと、少女は男をその場に残し、格納庫から居室へとさっさと戻って行った。
「08、奴が誓約の首輪に触れた影響か? ……07の制御が外れるとはな」
†
ジョンとアンディが僅かに残ったポーン種を掃討し終えようとした時、街道の先から森林警備の3機一組のSF部隊が救急車両を連れ、今では戦闘場所となった現場へと押っ取り刀でやってきた。
それぞれ目前の最後のポーンをセイヴァーの剣が切り裂き、ブレイザーがハンマーで打ち潰そうとした戦闘機動中のジョンとアンディへ森林警備の機体の内の一機が外部スピーカー越しに話し掛けてきた。
『こちらはエント森林警備、第3分隊だ。君たちが救急通信を出したのか? 要救助者は何処だ?』
その声を無視して2機はポーン種に止めを刺し、ジョンが折り畳み式騎剣を腰背部に格納する間に、アンディはハンマーを戻しながら壊れた大型車両を示した。
『あんたらを待っている間に、フォモールにやられちまった 』
アンディの言葉に、息を呑み警備隊員は謝罪を告げた。
『申し訳ない、キャンプの街の壊滅で、森林警備の人員が出払ってしまっていてな。これでも急いだのだが……。すまないが君たちには念の為、事情聴取に応じてもらいたい』
『しゃあねえ、良いかジョン?』
アンディに問われ、ジョンは質問を返す。
「アンディさん、もし、受けないと、どうなりますか?」
『無駄に捕まるだけだな』
「じゃ、受けましょうか」
アンディの即答に、少年も条件反射のように答えた。
二人は森林警備の隊員からの簡単な事情聴取に応じ、暗い街道を森林警備の機体と並んでエントの街へと行くことになった。事情聴取中に運転手の遺体は遺体袋に入れられ、救急車両に移されている。
森林警備の隊員の全機体は残骸となった車両を協力し、押して運んでいる。
『そういえば、ジョン、お前どこの所属なんだ?』
数時間後、移動中、手持ち無沙汰なアンディが少年へ訊ねた。ジョンは訊かれた意味が解らずアンディに聞き返す。
「何の話ですか、アンディさん?」
『いや、お前、どっかの狩猟団とか、厄介になった事ねえのか? まさか、軍属じゃねえだろ?』
ジョンはああ、と頷くとアンディに答えた。
「ガードナー私設狩猟団っていう所にお世話になってました。このSFの左腕の修理に技師の人を紹介して貰ったので、そこへ向かっています」
『すげえ綺麗な噂しか聞かねえ所だな、ガードナーっていやあ。俺が前にいた狩猟団は、まるでヤクザみてえな所でなあ、俺がその遣り口に従わねえでいたら、色々とごたついた挙げ句、追い出されちまった』
羨ましそうな声音がアンディから漏れた。
「アンディさんは何処へ向かっているんですか?」
『目的地はねえさ。仕事探しだな、BLAZERが私物じゃなかったら、今頃は死んでたかもだ。元の持ち主の爺に感謝だね』
アンディは口を噤み自分の内に沈んだ。
不意に黙ったアンディに、訝しげに思いながらジョンはSFのレーダーに意識をやる。
特におかしな反応は感知せず、そのまま機体を進ませる。
視界の彼方にキャンプの街のそれに似た街門が映った。
「アンディさん、あれ、エントですか」
街道の先を差し示し、ジョンはアンディに声を掛ける。
『ああ、そうだな。もう、こんな所まで来たのか』
アンディは少年の言葉に、現実に引き戻された心地で現在地を悟る。
『そこの二人、詰め所までついて来てくれ、事情聴取済みのうえ、あんたらがフォモールと戦っていたのは確認している。寝心地の悪い仮眠室のもので悪いがベッドを提供しよう。この時間じゃまず宿は取れんからな』
それまで、黙って車両を運んでいた森林警備の隊員から、二人にそう声を掛けられた。
『そりゃ助かるが、良いのかい?』
『ああ、詰め所までこの車両を運ぶのを手伝ってくれたらな!』
アンディが訊ねると、隊員は笑みを含んだ声で返した。
「わかりました、ありがとうございます」
ジョンは早々にセイヴァーに車両の端を支えさせた。
『しゃあねえ、後ほんの少しか』
アンディもジョンにならい、エントの街門へ近づいて行った。
†
ガードナー私設狩猟団のSF部隊は、樹林都市周辺のポーン種の掃討を行っている。
キャンプでの一件以降、明らかにポーン種の目撃情報が増大していた。
キャンプの時よりもポーン種の出現数は少ないが、それまでの樹林都市周辺での目撃情報より確実に増えていた。
「ジェスタさん、先行して索敵を! レナは周辺警戒、二人とも目標を発見次第、わたしに報告してください! 対処可能でしたらそのまま撃破を!」
エリステラの号令に、レナとジェスタが従い2機のSFが行動する。
今日でもう、今月3回目の三人での部隊出動になる。
数体のポーン種を発見し撃破、この日の出動も大過なく終わった。
団本拠のSF格納庫に戻り、コクピット内部でエリステラは人知れず安堵の溜息を漏らし、機体から降りた。
「なかなか、様になってきたわね! お嬢」
自機を降りた所でエリステラは、背後からジェスタに声を掛けられた。
「そうでしょうか? わたしにはそんな実感がありません」
振り返り答えるエリステラに、ジェスタは手を振り返す。
「ご謙遜だわ、お嬢。まだまだなのは当たり前でしょ。隊長になったばかりなんだから。それでも、よくやってる、そういう話しよ」
「最近は、戻ってきたら、溜息ばかりです。安堵して、なのは救いでしょうけれど。……ジョンさんは今頃何処にいるのかしら」
独り言る様、呟くエリステラにジェスタは茶化すようにエリステラの耳元に囁いた。
「……あらら、お嬢ってば、ジョン君が恋しいのかしら?」
エリステラは顔を真っ赤にして、喚くように反論する。
「ぇ、ぁ、あわわ、ち、違います! ジョンさんはいい子ですが、そういうのは、えと、その、ぇうう……」
挙動不審になったエリステラはふらふらと格納庫を出て行った。
それを微笑ましく眺め、ジェスタはエリステラを見送った。
「元気出れば良いけどねぇ、レナ?」
背後で隠れるようにしていた少女へジェスタは声を掛けた。
おずおずと姿を現したレナがジェスタへ近寄ってくる。
「ジェス姉……」
「良くないわよ? ジョン君の話題になると逃げるのは」
ジェスタはレナへ諭すように言い。レナは沈んだ声で答える。
「だって……」
「だって、じゃないわよ。今度、ジョン君に会ったらレナ、アナタ、取り敢えず謝っちゃいなさい! きっと、それでアナタの気は済むわ。ジョン君はきっと笑って済ますから、そういう子よ、あの子」
ジェスタはそれだけレナへ告げ格納庫を後にした。
その背中を見詰め、レナは小さく頷いた。
07=制作時仮称7子さん




