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第204話 されど、ただ戻った訳でなく

 スーツを身に纏った少女、エリステラ・ミランダ=ガードナーは、慌てた様子で柔らかそうな髪を揺らして棚引かせ、“境界都市(ゴールウェイ)”の都市入口に併設された駐機場へと向かって大通り沿いの歩道を走っていた。その後ろからは、小間使い(メイド)のお仕着せを身に纏ったレナ=カヤハワが追い駆けている。駐機場まであと数十mといった地点で、エリステラは大通りの枝道から出てきた雑務傭兵バイプレイヤー風の通行人にぶつかりそうになってしまい、その場に倒れ込みかけてしまう。


「エリス!! もう、そんなに急いじゃ危ないわよ」


「ありがとう、レナ、助かりました。――それからそちらの方、いきなり飛び出してしまい、申し訳ありませんでした」


 背後に着いていたレナは声を掛けながらとっさに手を伸ばし、掴んだエリステラの腕を引いて、同い年の親友を転倒の危機から救う。小間使いの姿をした親友に助けられた柔らかな蜂蜜色の金髪の少女は身繕みづくろいを直し姿勢を正すと、ぶつかり掛けた通行人に対して深々と頭を下げ謝罪した。


「ああ、良い良い。こっちも前を確認していなかったしな。今後は気をつけてくれ。すまんが俺も急いでいるし、どちらもけがは無かったんだ。これで失礼する」


 懐から取り出した紙巻き煙草を咥え、雑務傭兵バイプレイヤーはエリステラからの謝罪に手をひらひらと振って返すと煙草に火も着けぬまま足早に立ち去り、雑踏の中に消えていく。


「あたしたちだって急いでるでしょ? ほら、行くよエリス!」


「待ってください、レナ。まぁ、置いて行かないで」


 立ち去って行く雑務傭兵の姿を見送ったエリステラは、先に立って歩を進め始めた小間使いの少女に促され、目的地に向かってきびすを返し駐機場に向かって歩き出した。


「じゃ、あたしの方から皆に連絡しとくね。エリス、一応確認するけど都市を出る為の許可は貰ってたよね」


「はい、行政長官さんから先程。レナにも聞こえていたでしょう?」


「うん、だから、あたしは一応確認するけどって言ったわよ。――こちらレナ、あ、ベル兄? 今から直ぐに都市外に出られるように搬送車キャリアとSFの準備しといて、あたしとエリスは今そっちに向かってるとこ。……うん、そう……、うん、じゃあ、お願いねベル兄。エリス!」


 レナはエリステラの手を取ると駐機場へと向かって駆け出していく。都市の遠景に、銀色の煌きが空を彩っていた。





 総身に銀色の粒子光を纏う“救世の光神(セイヴァー・ルー)”が、天へと昇る流星と化し上空へと舞い上がっていく。赤黒い粒子光を纏う異形のSF“簒奪者ジ・ユーサーパー”はその背に負う、飛竜の身体から変形した双腕の先に備える鉤爪を打ち合せ、少年ジョン=ドゥへと言い放つ。


『来たか、08(ゼロエイト)! ふん、無様な廃棄品(07)如きが手間をかけさせたものだが、貴様が来たのならばそれもつまらぬ余興であったとしておこう。その上に、その銀腕を取り戻して見せたのだ。我がつるぎ、“簒奪者ジ・ユーサーパー”を満足させてみせよ!』


 巨大な五指の鉤爪が、その一本一本が元々の“簒奪者ジ・ユーサーパー”が手にしていた大剣を模して伸長、天に駆けあがって来る銀の流星の質量に十数倍する赤黒い粒子光の塊が彗星と化して天より降り始めた。

 “簒奪者ジ・ユーサーパー”の全身から生やされたハリネズミを思わせる無数の大剣群はその剣身を中心から分割して砲身と化し、幾筋もの赤黒い光条がその砲身から撃ち放たれる。放たれた光条は中途で弧を描いて折れ曲がり、昇り来る銀色の流星へ直撃するコースを描いて収束、都市一つを優に囲み得る太さの粒子光の杭となり、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”とその機体の延長線上に存在する巨木の林立する大地を目掛けて撃ち下ろされた。


神王晃剣クラウソラス光刃解放、自律機動攻撃兵器アンサラー量子刃形成騎剣フラガラッハ、全基機能連結、斬り裂け!」


 “救世の光神(セイヴァー・ルー)”の左肩に装着された“銀色の左腕(アガートラム)”を形成する金属帯が解け、関節部に嵌められていたクリスタル状の球体結晶群が直列、“銀色の左腕(アガートラム)”を中心とした同心円状に切っ先を外周に向け展開した五基の自律機動攻撃兵器アンサラー量子刃形成騎剣フラガラッハは“銀色の左腕(アガートラム)”から放出された量子機械クァンタムマシン粒子のエネルギーを増幅、全長数10㎞の銀に輝く光の刃を延伸させ上空へと真直ぐに振り抜く。大きく弧を描いて銀の晃剣は天から迫る赤黒の威を放つ鎚を斬り裂いて散らした。銀の量子機械クァンタムマシン粒子に斬り裂かれた赤黒の量子機械クァンタムマシン粒子は、裂かれた端から侵蝕しんしょくされ、銀色の粒子光と化し上空の大気の中に乱散していった。


『ふ、小手調べでは終わらぬか! それでこそ“銀色の左腕(アガートラム)”、それでこそ“救世者《セイヴァ―》”よ!!』


「暇なんだね、アンタは……。――もういい、お前はここで砕け散れ、BRIONC(ブリューナク)


 “救世の光神(セイヴァー・ルー)”は左腕の金属帯を解き、穂先に五つの刃を持つ槍へと変じさせる。左肩から離れた五尖槍、BRIONCブリューナクを右手に掴み、天に座す“簒奪者ジ・ユーサーパー”目掛け投げ放った。


 BRIONCブリューナクの周囲を自律機動攻撃兵器アンサラーは等間隔の螺旋を描いて飛翔し、量子機械クァンタムマシン粒子の渦を形成、本来放つ為の弾体を形成できる力を持ちながら、BRIONCブリューナクはそれ自体を弾体と成して加速、そのものを本来放たれる虚数力場に包み、“簒奪者ジ・ユーサーパー”の巨体を下から上へと貫いた。“簒奪者ジ・ユーサーパー”は着弾の寸前に、巨大飛行ビショップ種変異した背部の双腕の一方を犠牲にして、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の放った必殺の一撃を回避、その体積を大きく減じた“簒奪者ジ・ユーサーパー”の操縦席から01(ゼロワン)は“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”を睨み付ける。


『ぐぅ、だが、その一撃は連発出来ぬはず、何よりも、最大の一撃を放った貴様の機体は既に死に体の筈、……何っ!?』


 01(ゼロワン)の見下ろした先、眼下から昇り続ける“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の背には五基の自律機動攻撃兵器アンサラー量子刃形成騎剣フラガラッハが円陣を形成、その中心に発生した歪みの中から宇宙の虚空へと消えたはずのBRIONCブリューナクが出現、“銀色の左腕(アガートラム)”の姿へと変じ、“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の左肩に再接続されていた。


「“銀色の左腕(アガートラム)”の、BRIONCブリューナクの本来の使い方は理解した。この機体の全能力を以ってこれより僕はお前を破砕する!」


 “銀色の左腕(アガートラム)”の関節部に配されたクリスタル状の球体結晶と“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の腹部に納められた量子誘因反応炉クァンタムアトラクトリアクタが相互に共鳴、機体に内包しきれない量子機械クァンタムマシン粒子が“救世の光神(セイヴァ―・ルー)”の各部から迸り星の瞬き始めた天空に銀色の空間を広げ始めた。

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