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第202話 空の戦いの裏で

「わたし達の“樹林都市ガードナー”に対する援助への迅速な対応、また加えて格別なご配慮をいただきありがとうございます。都市行政を司る市長と市民に代わり、ガードナー家の名代としてわたし、エリステラ・ミランダ=ガードナーが厚く御礼申し上げます」


 “境界都市ゴールウェイ”の都市行政を兼務する国境守備隊基地に併設された中央司令部の一室、行政庁執務室にて、小間使いのお仕着せを纏ったレナと行政部付補佐官が見守る中、フォーマルなスーツ姿のエリステラは軍人上りらしき厳つい顔の行政長と面談していた。先日の謎の機体による壊滅的な被害を被った“樹林都市ガードナー”への食糧の買い付けと資材供給に関しての確約を交わし、立ち上がると深々と頭を下げた。行政部長は少女の謝意を受け取ると鷹揚に頷き、両手を広げて遮るように左右に振ると懐古した口調で話し掛ける。


「いやいや、此方こちらこそガードナー家のお嬢さんにそこまでして戴くわけにはいかない。五〇年前のネミディア解放戦争では私の父もガードナー卿、貴女あなたの祖父であるアーヴィング殿の部隊に従軍し、大いに助けられたと聞いている。何より“樹林都市ガードナー”は大樹林の大陸樹幹街道の要衝であり、それにフォモールではないSFを用いた都市襲撃など、何処どこの手の者が行ったかなど明白なものだ。この人類領域大陸において、明確に我がネミディアと敵対している国など一つしかないのでな。都市再建の目があるならば襲撃を行った者()の鼻を明かせるというもの、ネミディア連邦中枢としても一都市への物資提供程度、躊躇するものではないだろう」


「それでは申し訳ありませんが、直ちに“樹林都市ガードナー”へ戻らせていただきます。こちらでの物資調達の目途が立ったことをなるべく早く伝えなければなりませんもの」


 蜂蜜色の谷和原そうな金髪の少女はその場に立ち上がると小間使いの少女を連れ、その部屋を後にしようとする。その去り際、エリステラの背中に“境界都市ゴールウェイ”行政長からの問い掛けが投げられた。


「その件はそれとして、だ。――国境を突破したくだんのジョン=ドゥという名の雑務傭兵バイプレイヤー、彼は君達、ガードナー私設狩猟団の一員であるという話があるが、まさか君達、ガードナーに連なる者達が親フィル・ボルグ派である、などという事はあるまいね?」


 補佐官は行政長の問い掛けと同時に懐へと手を伸ばし、エリステラ達への警戒を露わにする。エリステラは先に立ったレナが扉のノブに掛けた手を押し留め、顔だけを行政部長の方へと振り返った。


「もちろん、ジョンさんも含めてわたし達は、ネミディア連邦の転覆を願う者ではありません。あの人は、ジョン=ドゥさんは胸に抱いた憤りを、押し留めることができなかった。そうしなければならないと思う出来事がジョンさんの身に降りかかったのだと、わたしは、そう確信しています。だって、ジョンさんはとても優しくて強い人ですのに、悲しいほど脆い所のある方ですもの」


 胸に手を当てて答えるエリステラの表情を目にした行政長は、呆れの混じった溜め息を漏らし、軍帽で顔を隠すと、今にも銃を抜こうとしている補佐官を制止した。


「はあ、ガードナー家のお嬢さんにそこまで慕われているとは、確かにそのジョン何某とやらは大した者のようだ。――君、その手を下ろしたまえ、彼女達は無害なようだ。よかろう、今回の一件に関しては罰金刑で済むように私から手を打っておこう。エリステラ嬢、くだんの輩にあった際には、“境界都市ゴールウェイ”中央司令部に出頭せよと伝言を頼む。もちろん私の名でな。いかんせん、奴の国境突破による“境界都市ゴールウェイ”の被害も馬鹿になっていない。機体込みでこき使うことで罰金を帳消しにさせてやると付け加えておいてくれ。では行ってよし、早々にも君達を待つ“樹林都市ガードナー”に戻りなさい」


 行政部長は少女達を追いやるように投げやりに手を振り、二人に退出を促す。行政長へ会釈してエリステラとレナが室内を辞そうとしたその時、室内へと駆け込んでくる者がいた。軍服の色と徴章からその人物が情報士官であることが分かる。駆け込んだ情報士官は居合わせる少女二人に構わず行政長へと声を放った。


「行政長、南方監視所から緊急連絡。南、フィル・ボルグ帝政国内にて大規模な異変が発生。異変の発生源はフィル・ボルグ帝政国首都“帝城インペリアルパレス”付近である模様です」


「なんだと!? 現状で分かる限りを報告しろ。っと、失礼、お嬢さん方がお帰りだ。君、出口までエスコートして差し上げなさい。お前は此方だ、報告を――」


 行政長は補佐官にエリステラ達の速やかな退出を命じると、奥の執務机の下に腰を下ろし、情報士官に報告を促した。エリステラ達は情報士官の話す報告の内容に興味を惹かれたが、再度、懐の銃へと手を伸ばした補佐官に気圧され、司令部の納まる建物の入口へと戻らざるを得なかった。





「隙だらけです。01(ゼロワン)!」


 空中に赤黒い色をした巨大な粒子光の塊が浮かんでいる。ジェーンの駆る“聖母の盾舟(プリドゥエン)”は分子機械ナノマシン粒子を刃に纏った鎌刃薙刀グレイブサイズを振りかぶり、粒子光の塊へと斬りかかる。


『三下がぁ!! 我が“簒奪者ジ・ユーサーパー”に貴様のなまくらなど通用せんっ!!』


 赤黒い粒子光の塊の内側から突如として五指の鉤爪かぎづめが突き出され、“聖母の盾舟(プリドゥエン)”の振り抜いた刃を掴んで止め、鎌刃を掴み砕きながら“聖母の盾舟(プリドゥエン)”の機体毎、地上へと投げ捨てた。

 自身の意に反した高速の急降下に、ジェーンは機体の各部に配された推進器スラスタの推力を集中し、全身にかかるGに耐えて空中に留まると、刃を砕かれた鎌刃薙刀グレイブサイズを粒子に分解、短砲身粒子砲へと再構成すると胸部装甲のスリットに粒子砲の後端部を接続、分子機械ナノマシン粒子を収束し、上空で変異を遂げていく赤黒い粒子光の塊に向けて発射する。


『ええい! しゃらくさい、そんな物は効かんと言っている!!』


 粒子塊から伸びた金に縁取られた黒の羽毛の翼が粒子塊を覆い尽くし、“聖母の盾舟(プリドゥエン)”の放った反応炉に直結された砲撃は翼を撃ち抜くことなく乱散され、例えばフォモールであれば変異ナイト種といえど一撃で葬り去るであろうその威力を完全に無効化されていた。


「むぅ、気に入りません。とはいえ、斬撃が駄目、砲撃も防がれては打開策が見つかりませんわね。“聖母の盾舟(プリドゥエン)”の攻撃は並みの威力ではないのですけれど」


 “聖母の盾舟(プリドゥエン)”が手をこまねいている内に、赤黒い粒子光の塊に起こった変異はゆっくりと確実に進行していく。五指の鉤爪を備えた両の脚が生え、腕と一体となった翼が生え、羽毛を生やした尾が伸びると、最後に龍頭となった頭部が露わとなり、金に縁取られた黒色の飛竜がその姿を現した。


07(ゼロセヴン)……、貴様は殺す。惨たらしく殺す。来るはずのない救いを求めながら死んで逝け!!』

お読みいただきありがとうございます

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