表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/238

第200話 金黒の騎士、その真なる名

 “帝城インペリアルパレス”から目と鼻の先で巻き起こった粒子光の爆発、それにより発生した爆風は金属の外殻といえる街壁に当たり、“帝城インペリアルパレス”という都市そのものを大きく揺るがせた。

 都市北側の門前には、“円卓ラウンズ雪白アラバスタに促される形で一時的に後退した、隻腕のSFに翻弄されながらも全滅を免れた帝室近衛ロイヤルガード所属SFの軍勢が展開している。しかし、僅かな間に全ての機体が速やかな後退が出来る筈も無く、不安定な体勢で浴びせかけられた爆風に抗えたSFの数はあまり多くは無かった。

 より強大な攻撃である天空の巨刃は、黒と銀に色分けられた隻腕の機体、“魔眼王バロール”が右腕に生成した粒子刃での斬撃で斬り払われ、千々に砕かれ墜ちてくるも、最早その威力はまともに振り下ろされた際の片鱗すらも残っていないものとなっている。だが、アルジェントが天を払うついでとばかりに戯れに地上へと返した“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の粒子砲撃は威力を減ずることなく返されており、それ故に、地上への着弾時の威力は保たれたままであり、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”が機体に残る総てを振り絞った一撃は多大なる破壊をもたらす結果となった。

 銀の爆発を突き破り、ネミディア連邦のある北の方角へと高速で飛び去っていく一塊の機影がある。かつて07《ゼロセヴン》と名乗っていた少女、ジェーン=ドゥが自らの為に作り上げた古代兵器の改造機、“聖母の盾舟(プリドゥエン)”と、その両腕に抱えられている隻腕のSF“救世の光神(セイヴァー・ルー)”だ。


「ジョン、生きてますの? 声が出せるなら返事をなさいませ」


『…………ジェ……ンさん、か。はぁ、――助かった。……ありがとう……い…す』 


 ジェーンは機体同士の接触回線を通じて“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の操縦席コクピット内に存在する少年へと語り掛けているが、ジョンからの返答はかんばしいものではなく、億劫おっくうそうなその口振りからは強く疲弊した様子がうかがえる。

 

「御礼など良いですわ。少しばかりGが掛かりますが我慢できまして? このままエリステラ達との合流を、と考えていましたが、あの娘達は今頃、“境界都市ゴールウェイ”に入場しただろうと思います。ジョン、貴方あなた、今“境界都市ゴールウェイ”へおもむくのはまずいのでしょう? “境界都市ゴールウェイ”の北、出来たばかりの衛星都市の跡へ向かいます」


『……えっ!? …………あそこへ……』


 映像の中、そう漏らして片手で顔を覆うジョンの姿に、ジェーンは確信をもって静かに言葉を紡いだ。


「あの場所で、貴方に何かがあったのだろうとは、わたくしも察しています。わたくしだけではなく、勿論、エリステラも。ですが、だからこそ、貴方にこんな風にネミディア出国までさせる出来事のあったその場所で、貴方あなたの口から何があったのか、事のあらましを聞かせて欲しいのです。それに、あの場所でしたら“境界都市ゴールウェイ”方面から引き返してくる狩猟団の一行(あの娘達)との合流もしやすいですし」


『…………分かったよ。僕の中でも、まだ整理がついているわけじゃないけど、それでも良いのなら……』


 自分の中の葛藤を振り払うようにかぶりを振った少年が顔を上げてそう答えると、年嵩としかさの少女は自然な笑みを浮かべ、ジョンへと頷いて返した。


「そう、分かりました。ではその話はまたあとで、私たちはこれから一旦、大樹林の内側に降下します。このまま真直ぐと行きたいところではありますが、わたくしこの機体(プリドゥエン)は、以前の機体(コンフリクト)とは違ってフォモールへの飛翔時隠蔽機能の効果はあまり高くありませんので」


 ジェーンはジョンからの同意を得る事無く、大樹林の木々の内側へ飛び込む急角度で“聖母の盾舟(プリドゥエン)”と、その両腕に抱えられている“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の飛行高度を下げ始めた。


『――自律機動攻撃兵器アンサラー!! “銀腕光輝ルミナスアガートラム”積層展開!!』


 そして、大樹林の巨木にぶつかる事無く、その隙間に突入しようとしたその時、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”を操る少年は叫びを上げ、二機の背後、それも高高度から放たれた赤黒い粒子光が二機の目隠しとなる筈だった巨木を、その周囲の木々ごと消し飛ばす。ジョンのとっさの命令に瞬時に起動した五基の自律機動攻撃兵器アンサラーはそれぞれが一層の粒子防御膜を展開、“救世の光神(セイヴァー・ルー)”自体の発生させたものを含め、六重に展開された粒子防御膜が赤黒い粒子光の威力を遮り、二機の機体を守り切った。それと引き換えに僅かながら復活し始めていた“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の出力が急速に低下、五基の自律機動攻撃兵器アンサラーは粒子光をやり過ごしたのを確認すらせず、粒子充填の為に機体各部の接続部へと舞い戻っている。

 

「ああ、そうですね。ジョン、貴方の戦闘は、まだ終わってはいなかったのですね。満身創痍でしょうに、ありがとうございます」


『だって、……ジェーンさんも、今は仲間だから。でも、ごめん“救世者《セイヴァ―》”はまだ戦闘は無理みたいだ』


 二機の機体を覆う粒子防御膜は既に“救世の光神(セイヴァー・ルー)”のみが展開する一層のみ、少年は隻腕のSFの右腕を持ち上げると簡単に動作確認を行った。


「兎に角、一度、降下します。“聖母の盾舟(プリドゥエン)”は飛行形態へ変形することも出来ますが、貴方の機体を抱えたままではそれも適いません。“救世の光神(セイヴァー・ルー)”が僅かでも動作できるまで回復されれば飛行形態となった“聖母の盾舟(プリドゥエン)”で、上から来る敵機を振り切り、この場から退避することも出来るでしょう」


 ジェーンの言葉に少年は頷きを返し、機体の頭部を巡らせて砲撃の放たれた方向、空の高見へと視線を向ける。そこには大型飛翔(ビショップ)種の背から身を乗り出し、大剣の変形した砲を構える金黒の騎士騎の姿があった。


『何処へ行こうというのだ、08(ゼロエイト)。ふむ、なんと、そちらの機体に搭乗しているのは07(ゼロセヴン)か、貴様に関しては廃棄した筈だが、何故まだ生き恥を晒しているのだ?』


 傲慢さの滲む声音が、二機の機体に向かって天から降り掛かる。ジェーンは少年と同様に機体のセンサーを上方へ向け、その声の主を視認した。


「ああ、その機体、多少の差異は在ろうとわたくしが見間違えるはずも無い、それは、その機体銘は“簒奪者ジ・ユーサーパー”それを扱うことが出来る存在は唯一人、01(ゼロワン)貴方のみです!!」


 ジェーンは“聖母の盾舟(プリドゥエン)”が抱える“救世の光神(セイヴァー・ルー)”の存在を忘れてしまったかのように空中で腕の中から解放、“聖母の盾舟(プリドゥエン)”の分子機械ナノマシン反応炉リアクタを急速全開させ、胸部装甲のスリットの前に機械腕マニュピレータを翳し、放出させた分子機械ナノマシン粒子を物質化マテリアライズ、粒子結晶の薙刀(グレイブ)を形成し機体各部の推進器スラスタを全開に下から上へと斬り上げる。

お読みいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ