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第18話 大陸樹幹街道2 隠れ潜むモノ

お読みいただいている皆さんありがとうございます。

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よろしければ感想・ご意見・罵倒などお書き込みくださいm(_ _)m

 団本拠(ハウス)の廊下を、落ち着いた足取りで少女が歩いていく、2階の廊下から階段を降り1階の廊下を通って奥に向かって進む。

 目的の黒檀色をした木製の扉の前に立ち止まりノックを3回、室内へ声を掛けた。


「お爺様、エリステラです。入室してよろしいですか?」


 中からは老いていながらも張りのある、バリトンの声が返ってきた。


「おお、エリス、開いとるよ。入っておいで」


 室内からの声に促されエリステラは、ガードナー私設狩猟団団長の肩書きを持つ、祖父アーヴィング・エルド=ガードナーの執務室兼私室へと入室する。

 入って直ぐは執務室となっており応接室としても使われており、さらに西側奥の扉からアーヴィングの私室へと繋がっている。

 まず目に入ったのは老年の男性の姿、短く刈り込まれた白髪、顔には年相応に皺が刻まれ綺麗に髭を剃り、年より若々しい柔和な笑みを浮かべる大貴族出身とは思えないラフな服装のアーヴィングだ。


「失礼します、お爺様。あら、こんにちは! ジェスタさんとレナもいらしていたの?」


 室内に居た三人掛けのソファに並んで座る二人の先客達へエリステラは声を掛けた。


「ハロー、お嬢。待ってたわ」


「今朝方ぶりです、お待ちしておりました。お嬢様」


 ジェスタは片手をひらひらと振り軽い調子で挨拶を返し、レナは立ち上がり姿勢良くお辞儀して、普段と違って小間使い(メイド)の堅い口調で挨拶する。

 執務机の向こう側でその様子を見て居たアーヴィングがエリステラにも座る事を促した。


「立ち話とはいくまい、エリス、君も空いている所へお座りなさい」


 エリステラは祖父に言われるまま、空いているレナの隣へ腰を下ろし、アーヴィングはローテーブルを挟み、三人の向かい側のソファに座り、三人に向け、口を開いた。


「集まってもらった人員で分かっているかも知れんがな。ダンが亡くなって早一月、そろそろ、我がガードナー私設狩猟団SF部隊の隊長を、君達に新しく選任して貰いたい。対外的にもそろそろ決めんと外聞が悪くなるそうだ。広報のエイナくんが言っておったわ。正直に言うなら私はそんなもんはどうでも良いがねぇ」


 呵々と笑い、アーヴィングは対面に座る三人の顔を見回した。


「やはり、立候補する者は居らんか。ジェスタ、君がやらんかね? キャリアもええ感じじゃないか」


 ジェスタは肩を竦めてアーヴィングへ拒否する。


「止めておくわ、ワタシの柄じゃないし、アーヴィング翁、あなたの伝手には適当な人材は居ないのかしら?」


 問われたアーヴィングは首を横に振る。


「駄目だな。私の伝手の最上がダンだった。ネミディア連邦軍の機械化機甲戦隊上がりだったしの。後はロートルばかりか、あやつ以下には可愛い孫娘は任せられんよ。そうだな、いっその事だ、エリス、君が隊長をやりたまえ」


 唐突に言われ、エリステラは目を円くして慌てて立ち上がり、あわあわとアーヴィングへと反論する。


「あわわ、なぜわたしですか! おじいちゃんっ! ムリ、無理です。わたしじゃ務まりませんよう」


 その様子に目を細め、うちの孫娘可愛いだろうとでも言いたげに、この場にいる他二人に視線をやり、アーヴィングは孫娘に応えた。


「そうは言うが、エリス。ジェスタはやらんと言うし、レナは君の上役など絶対にやらんだろ。実際に部隊行動するのは君達だ。君達が行動しやすい方が良いだろう? 新しく人材は募集するが、今は君達三人だしの。済まんが君しかおらんのだ、エリス。君をガードナー私設狩猟団SF部隊隊長職に任命する!」


 アーヴィングの言葉に分かり易く肩を落としエリステラは渋々、隊長職を受諾した。


「はあい、わかりました。ガードナー私設狩猟団SF部隊隊長職を受諾します」


 沈んでいた筈のエリステラは顔を上げ、此処にいない少年の話題を出した。


「お爺様、ジョンさんの事なのですが……」


 レナが名を聞いて身構え、ジェスタはその少女の頭をあやすようにポンポンと優しく叩き、アーヴィングは少年の顔を思い浮かべ、孫娘の言葉を促す。


「ふむ、あの少年がどうしたかね?」


 エリステラは言い難そうにしていたが、意を決したように口を開いた。


「変則ですが、ジョンさんをわたし達のSF部隊の一員として下さい! ジョンさんはお馬鹿さんです。お金を持ってないのにSFの修理をしに行ってしまったのです」


「エリス、その馬鹿者をなんの為に、隊員にしなければならないのだね? それでは、とてもではないが君の願いは叶えられんよ」


 エリステラはアーヴィングにこう返され、言葉に詰まってしまった。


「あう、その、ジョンさんはいい子なのですが、えっと、そ、そうです! 整備代です! 狩猟団(うち)の施設で整備したのに、部品代をはじめとする整備代をジョンさんから貰っていないのですよ。その支払いの為、ジョンさんを狩猟団の隊員にするのです!」


 微笑ましいものを見る視線をエリステラへやり、アーヴィングはそれならばと頷いた。


「ならばよし、あの少年を借金で雁字搦めにしてやろうか! うちの孫娘から逃げられんようにな! まあ、私も通った道だ。それにSF乗りの身、返済に時間もかからんだろうさ、生きてさえいればな! 少しぐらい戸籍の改ざんしても良いだろ、判らんようにやらんとだがな!」


 エリステラは自身が考えてもいなかった方へ事態が流されていくのを黙って見ているしか出来なくなった。


(あわわ、ジョンさんごめんなさい)


 少女は静かに心の中で合掌した。

 少年は自身の知らない所で、身分証明と共に莫大な借金を背負うこととなった。

 後から、借金の半額は罪悪感からエリステラが負担する事になったが。





 ジョンは引き続き、事故車両の運転席で事故を起こした運転手の介護をしていた。

 そこへ通信を終え、アンディが機体を降り歩み寄って来た。


「坊主、エント森林警備(フォレストガード)への連絡はついたぜ。だが後二,三時間はこっちに来るまでかかるかもしれん。運転手はどうだ、保ちそうか?」


 少年はアンディへ向き直り、運転手の容態を伝える。


「今のところはなんとか、さっきからこの人、目を覚ましそうにうなされていますから」


 ジョンがアンディへ答えると、運転手が呻き声を上げた。


「そうか、それと何だが……、お前、この車両のコンテナの倒れていた面を見たか?」


 ジョンはアンディへ向き直り、不思議そうに首を傾げる。


「何かありましたか? 僕のSF、片腕でしょう。力加減を間違えない様に必死だったので、あまり詳しく見てませんでした」


 少年の返答にアンディは天を仰ぎ、車体のその位置を指差した。


「この事故車両、おかしいぜ。あそこを見ろ」


 ジョンはアンディの示す箇所を注視する。ジョンがセイヴァーの指で付けた疵痕の他、そこには不自然な貫通創が穿たれていた。


「何ですあれは? 分かりますか、アンディさん?」


「分からん、だが、推測はできる。……フォモールの野郎さ」


 アンディは断言し、何台もの車両が走る車線を指差し、ジョンへ機体への搭乗を促した。


「今は良いさ、空は明るいし、そこらを車両やSFが走っているからな。坊主、運転手が大丈夫そうなら、お前は機体に搭乗しておけ、暗くなればいつ奴らが出るか判らん」


 それから一時間程で、運転手は意識を取り戻し、運転席に備え付けの冷蔵庫から水のボトルを渡しじっとしているよう告げた。

 暗み始めた外へ出たジョンはアンディへ自機の通信帯域を伝え、セイヴァーに搭乗する。

 アンディは少年が機体へ搭乗したのを確認すると、自らも自機、BLAZER(ブレイザー)に搭乗した。

 四大国の一つ、クェーサル連合王国で開発された現制式採用機から数えて三世代前のSFだ。

 性能的には現行機とそれ程の差はなく、特に瞬間的な出力では優る程で、装甲が厚く耐久性に優れる。

 全体的にずんぐりした印象の、御伽噺に出てくる鉱山妖精を思わせる形状をしている機体である。

 アンディ機は腰背部にマウントされていた円錐状の打面の多連装炸薬式(リボルビング)ハンマーを右手に構え、動作を確認して腰背部へと戻した。


『よう、少年。パイロット同士だ。ここからはジョンと呼ぶぜ。お互い、レーダーが何か反応したら伝えようぜ!』


「アンディさん、そちらもお願いします!」


 応えつつジョンはセイヴァーの折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を展開準備形態で待機させた。少しずつ、街道を行く車両やSFの姿が減っていく、夜の帳が下りきる頃になっても、2機のSFのレーダーには未だ反応がない。エント森林警備も未だに影も形も見えなかった。


『杞憂ですみゃ、良いんだがね……』


 コクピットに一人、アンディは呟き、それを遮るように少年が通信機越しに叫び、機体を旋回させる。


「アンディさん反応です! っ後ろ、大型の後部コンテナの中です!」


 ジョンが向き直り折り畳み式(フォールディング)騎剣(ソード)を構えるのとほぼ同時に、庇っていた大型車両の後部貨物コンテナが内側から爆発し、蛇頭のナイト種の上半身が姿を現した。


『馬鹿な、ナイト種だと!』


 機体を旋回させたアンディが叫ぶ、コンテナの爆発で乗っていた運転手は既に絶望的な事になっている。

 セイヴァーは踏み込みながら剣を振り抜いた。しかし、少年のSFの一撃は蛇頭が頭を振り吐き出した二又の舌に弾かれた。

 ステップで体をあけ、セイヴァーに続いてアンディの機体が放った多連装炸薬式(リボルビング)ハンマーの打面が下から蛇頭の顎を捉えた。

 円錐状の打面がめり込み、一瞬の後、炸薬が爆発しハンマーが振り抜かれ、蛇頭の身体が宙に打ち上げられた。

 打ち上げられた蛇頭のフォモール・ナイトには下半身が存在しなかった。空中で姿勢を正し、蛇頭は2機のSFから離れた場所へ腕を使って着地した。


「あいつ、あの時の! せりゃぁあああああっ!」


 ジョンは微かに記憶に残る蛇頭のナイト種へ、ランドローラーを起動させ、吶喊(とっかん)した。

 急接近するセイヴァーを見、蛇頭は両手を地面に打ち下ろした。

 


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